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図書室の机。

作・篠宮。担当・読書

恋愛・高校生

すみません、書き直したら糖度が微糖になりました^^;

活報には糖度増しとか書きましたが、めっさコメディになりました(笑

小さな頃から、本を読むのが大好きだった。

それは、高校生になった今でも変わらない。



生まれつき気管支の弱い私は、皆と一緒になって駆け回る事が出来なかった。

幼い頃はそれを悲しいと思ったこともあったけれど、そんな私を見る両親の申し訳なさそうな表情に気付いた時、無いものねだりはやめようと思った。


そんな時に出会ったのが、本、だった。

やはり私と同じようにあまり体の強くなかった父親が部屋にずらりと並べていた本棚にはいろんな本があふれていて、一気に私の興味を攫った。

外で遊びまわれない事も、悲しくなくなった。

知らなかったことを知る楽しさ、蓄積されていく知識。


――かんっぜんにふりきれた。










「生涯どれだけの本を読むことができるか、それが私の生きていく意味よ!」


「うん、何その寂しい十七歳」


思わず拳を振り上げて宣言した私を、すっごい冷静な声が遮った。

勢いを削がれた私は、拳をそのままに視線を横に向ける。

そこには、二つおさげの黒縁眼鏡、きっちりかっちりの制服を身に纏う図書委員長箱崎の姿。

放課後の図書室に、なんて似合う、適材適所。


箱崎は読んでいたページに指を挟んでそれを閉じ、呆れたような表情を浮かべたまま私を見た。


「箱崎、何かこう、寂しいとか、その口から出てくるとは思えない言葉が聞こえたんだけど」

「寂しい十七歳を過ごしている北見さん。貴方の耳は正常に動いてると思うけど」

「箱崎だって本の虫じないか!」

「図書室大好きだし本も大好きだけど、生きていく意味ではない。今現在、うら若き女子高生やってる途中」


……いいもん別に。

読書のみが趣味で何が悪い。



思わず口をつぐんだ私に少し罪悪感を感じたのか、箱崎が少し柔らかい声音ででもね……と続けた。

「私はあんたを尊敬してるよ。それだけのめりこめるのは、本当に凄い。もうそんなに人もいないし、いいよ? お気に入りの場所に行っても」

「あ、ホントー?」

すぐに笑顔で歩き出した私を、呆れたような溜息をつかれたのは言うまでもない。


読んでいたハードカバーを持って、お気に入りの場所に行く。




図書室の一番奥。

校庭に面した南向きの図書室の、一番陽の降り注ぐ閲覧席。

机一つに椅子二つのその場所は、本来の閲覧席からは離れている。

ただ陽光があまりにもあたるので、本棚を置くのに適さないという理由でぽっかり空いていたその場所に私が勝手に余剰備品の机と椅子を置いただけ。

一応司書教諭に了承は取ったし、私だけのものとか独占してるわけじゃないから!


がたりと音をさせて椅子に腰かけると、いつものように本を……


「ん?」


読もうとして、動きを止めた。

机の上。本を置いたそのすぐそばに、うっすらと……でも座れば確実に読み取れるくらいの濃さで一言、何か書いてあった。

「何、これ」


それはたった一言、シンプルに。



――オススメの本を教えてください――



「お勧めの本?」

しおりを外そうとしていた手を止めて、本を閉じる。

そしてゆっくりとその文を指でなぞった。


「昨日は、無かったよね……こんな書き込み」

そう首を傾げつつ、頬杖をつく。



自慢じゃないが、性格とは真逆に私の体は弱い。

駆ければ息が切れ、咳が出たらアウト。

治まるまでが、結構な苦しさだ。

吸入器は持ってるけれど、治まるまでは数分かかる。

故に、体育はほぼ図書室定住。

両親と学校側が話し合った結果らしい。


本来なら体育を見学するのが当たり前なんだろうけれど、もし体調が悪くなってしまった時、校庭にいると処置が遅れるとかなんとか。

まー要するに責任取りたくないよーってな判断だよね。

なので、図書室には結構な頻度で出没しているわけで。

今日のお昼休みにはまだ、この文字は書かれてなかった。


「午後、誰か来てわざわざ書いたって事か?」


ぽつりと独りごちれば、何かリアルに感じられた。

こう、秘密のやり取りみたいで面白いよね。

本好きが増えるのはいいことだ!


「お勧めねー、お勧め」


私は大好きな読書そっちのけで、最近読んだ本の中からいくつかの本をジャンルごとに書いておいた。
















「お、返事来てる」


私は椅子に座るなり、ほくそ笑んだ。


あの机にメモが書いてあった日から、すでに一か月。

奇妙な文通? 感想文? は、なぜか続いている。

数冊のおすすめ本を書いた二日後、その中の一冊を読み終えましたという報告が来て。

その後、お勧めを読み終わったので他にもお願いしますという言葉と共に、本ごとに一言感想が添えてあった。


俄然、張り切る(笑)。


私はその場で前回よりも多い冊数、お勧めを書いておいた。

翌日、おおい(笑)という言葉と共に、ありがとうと返事が来た。

それがそのまま、一か月も続いてるのだ。


その間、図書室在住の私の生活はほぼ変わることなく、昼休みと放課後と体育の時はこの場所にいるけれど、その人に会う事はなく。

お勧め本とか感想とかそんなのに興味を持っていた私だったけれど。

最近は、この文字の持ち主が……



「気になる」



「何が?」



独り言に返事が返ってきて、びくりと肩を震わせた。

慌てて振り向くと、そこには箱崎の姿。


「ちょ、びっくりするし、いきなり話しかけないでよ」

脱力して机の上に突っ伏すと、箱崎はごめんごめんと全く思ってないだろう謝罪を繰り返しながらもう一つの椅子に座った。

……って。

「なんで箱崎がここに来てるの? カウンターは?」

今日の担当は私と箱崎だ。

二人ともここにいるなら、誰がカウンター業務をしているのだろう。

箱崎は持っていた文庫本を開くと、さっさと視線を向ける。

「一年男子の図書委員が来たから、押し付けてきた」

「三年女子の箱崎さん、図書委員長としてそれはどうでしょう」

そんな大見得きってサボリ発言とか。


箱崎はちらりと視線を横に流すと、ふたたび本に戻す。

「一年は一年同士で対決した方がいいと思う」

「……あぁ、なるほど。また加納くんを迎えに来たんだ。オレンジくん」

私は言い返そうとしていた言葉を素直に引っ込めて、口をつぐんだ。




そしてカウンターの方に目を向ければ、本棚の隙間からちらりと見えるオレンジ頭。



今年入学してきた一年生の、一番目立ってる子。

いい意味じゃなく。

綺麗なオレンジ頭は、校則の緩いうちの高校でもさすがに悪目立ちする。

なぜオレンジなのか、それは好きだから。

教師に聞かれて、そう答えたつわものらしい。

名前は忘れた、オレンジというだけで伝わるから。


まぁ、ちょっと怖い人のおうちとか、反対にめっさ大企業のご子息やらいろんな噂は飛んでるけれど本当のところは分からない。

けれど、目つきの鋭さと若干の無表情さが前者を肯定しているようで好き好んで近づく人もいない。


「箱崎、鬼畜だね」

そんな子の相手を、一年生にさせるとは。

「獅子は子を谷底に落とすのよ」

……獅子が可哀想だ。



「でもまー、いろんな一年生がいるよねー。私、も一人の有名人なら親近感沸くわー」

背もたれに体重をかけて両手を上に伸ばすと、ばきぼきと骨の軋む音が小さく響く。

箱崎は、おばさん……と呟いてから本を閉じた。

「加納くん? あの子は、あんたと違って中身も外見も違わない病弱な子だよね」

「口悪すぎだ。私だって美人薄命」

「阿呆じゃないの」


一刀両断されてしまいました。


加納くんは、オレンジくんと同じく今年入学の一年生。

私と同じく……私と同じく(←ここ重要)体が弱いので、図書室や厚生室で見かける事が多い。

しかもこの子は外見がもう、儚い美少年! 日本酒もびっくり美少年!

何だろうね、神は私にもいい所をくれないもんかね。


残念な病弱、これが私の通り名。

これ残念な美少女とかさ、素敵なのに惜しいって言う意味で使うのにさ。

残念も病弱も、どっちも悪いやんかー!




まぁ、でも。

机に書いてある、感想を指でなぞる。

多分、これを書いているのは加納くんじゃないのかなーと思う。

この席の側でニアミスするのも多いし、何よりも彼も図書室常連。

いつか顔見て話せたらなぁとか思うのは、おかしいかなぁ。

お勧めの本を読んでちゃんと律儀に感想を返してくれる彼と、読書トークで盛り上がりたいのに。













「おぉ、珍しい」


またしばらくして。

初めて、相手からお勧めの本のタイトルが机に書いてあった。

今までは、私のお勧め本の紹介と相手からの感想だけだったのに。

書いてある本のタイトルは、まだ私が読んだことのないもの。

けれど、タイトルだけ見ても興味をそそられるもの。

ご丁寧に、大分類や管理コードまで書いてあったので、難なく探す事が出来た。

「ふふふ、私に対する挑戦かね」

よく分からない厨二病セリフを吐きながら、私は椅子に腰かけた。

「……」

ばっと、立ち上がる。

微妙に、生暖かいぞ椅子が! 座面が!

気持ちわるーとか失礼な事を考えたすぐ後、私は周囲を見回した。

生暖かいという事は、直前まで座っていた奴がいるという事で、それはこの机文通(箱崎命名・byネーミングセンスゼロ)の相手に他ならないのでは!



図書室は学校にしては珍しく、一階にある。

体育の時に私がここにいるのは、見ようと思えばここから体育の授業を見る事が出来るからだ。

故に、図書室から出られちゃったら人がいっぱいいる下駄箱エリアが近いので、誰だかわからなくなる。


よく分からない強迫観念に駆り立てられ慌てて辺りを見回しながら図書室を歩けば、目の端に映るカラー。

思わず動かした視線を戻して、二度見した。


それはひょこっと窓からこちらを覗いて、目があうかどうかの瞬間、走り去ってしまわれました。






「――マジか」
















今日も今日とて病弱北見さんは、図書室へ行くのですー。

放課後より早い時間。

LHRが終わった瞬間、咳が出ない程度に早足で図書室に向う。

それはなぜか、それは奴を捕まえる為である。


こっそりと図書準備室から図書室に入り込み、音のなりやすい上履きを脱いで靴下だけになって準備万端。

本棚を盾に、ゆっくりゆっくりその場所へと近づく。

案の定。

私のふぇいばりっとすぺーすには、オレンジ頭。

どこか焦ったように時計とにらめっこしながら、懸命に机に何か書いている。

私はくの一のように気配を消して、オレンジ頭の真後ろに立った。



彼は、全く気付かない。

覗き込んでみれば、数日前に私が勧めた本の感想を書いていた。

消しては書いてを繰り返す。

そのたびに、オレンジ髪の毛がふわふわとなびく。

――うん。


「読書、好きなんだね」

「……!!!」


がたっと大きな音を立てて、オレンジくんが椅子から飛び上がった。

ブラボー、漫画みたいな反応!

オレンジくんは慌てふためいて椅子から転げ落ちると、尻餅をついたまま私を見上げた。


「あ、あう……え、まだ、時間……!!」


呻くような言葉を発しながら、私を見上げるオレンジくんは、あれ?


「おやおや、可愛いじゃないか」


可愛い顔をしてた。

いつもの無表情で無愛想で目つきの悪い強面が、目をまん丸くして口をパクパクさせてる可愛いお顔に大変身。

しかしオレンジくんは私の言葉に、むぅっと目湯を顰めた。

「嬉しくない」

「まぁまぁ、残念な病弱よりいいだろう。して、オレンジくんだったんだね。机文通の相手」

さらりと核心を突けば、一瞬にして、それはもう瞬間湯沸かし器の様に顔を真っ赤にさせた。

「う、え、あ……」

「どうしたの、しゃっくり?」

「い、そうじゃなくっ」

あうあうと右手を床にたたきつける姿が可愛くなくて、何が可愛いというのだろう。


思わずしゃがみこんで観察していたら、少し落ち着いてきたのかがくりと肩を落とした。

「……似合わないって、思うだろ」

「うん、思う」

即答したら、むすっと視線を逸らされた。


とりあえずその態度まで可愛いので観察を続行していたら、オレンジくんは恥ずかしそうに立ち上がった。

「その、迷惑だったら、あの……」

私はつられるように立ち上がると、今までオレンジくんが机に書いていた感想に視線を落とした。

それは今までと同じように、とても端的でちゃんと読み込んだ人にしか書けないもの。

私は持っていた本を、オレンジくんに差し出した。


「私の今一番のお勧めはこれだ。そこで読んで、感想を言い合おうじゃないか」

いつもの定位置の目の前にある、もう一つの椅子。

そこを指さして、私はいつもの席に腰かけた。

勢いで受け取ったものの、どうしたらいいのか分からないといった風体で私を見ているオレンジくんが異様に可愛い。


「座るといいよ、そして読んで。そして感想を言い合おう」

「言いあう?」


私はとんとんと指先で机に書いてある文字を叩くと、にんまりと笑った。


「いつかこの人に会えたら、顔つき合せて読書トークをすると決めてたんだー」

それが加納くんじゃなかったことは、若干の誤算だが。

もう一人の有名人を釣りあげていたよ。

醸し出す読書ダイスキーな私の雰囲気に釣られたか、読書スキーなオレンジくん。


呆けたような顔をしていたオレンジくんは、見る間に嬉しそうな表情を浮かべて私を見下ろした。


「俺、あんたと話してみたかったんだ」



ずきゅーんっ



「……あれ?」




――嬉しそうに笑うオレンジくんは、まさしく王道ギャップ萌えでした。

次話、狂風師さんです。

よろしくお願いします(*´∇`*)

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