7話 『力と代償』
こんばんわ!夢中になってたら夜中だよ!
今回は魔法関係の説明と団長達登場のはずだったのですが、予想以上に魔法関係の話が長くなったのでとりあえず団長登場は次回です!
「うげぇぇぇ、にっげー」
緑色の謎の飲み物を飲み干した真一郎だったが、その苦さは想像以上だった。
「良薬口に苦しです」
飲み物を作った本人であるシノがもう一杯ついできた。
「さ、後少しですよ全部飲まないとダメですよ」
「シノさん特製の薬はよく効くぞ。二日酔いなんてすぐに治るさ」
隣で食事するキキはすでにご飯六杯目だ。この細い体のドコにそんなに入るのかと不思議でたまらない真一郎だった。
木彫りのクマの襲撃後なんとか意識をもどした真一郎はジュリエッタに「とりあえず朝飯食ってこい」と言われ食堂まで来た。来たはいいが、頭痛と気持ち悪さとでとても朝食を食べる気にはなれなかった。
「二日酔いならシノさんに薬を煎じてもらえばいいぞ」
真一郎より先にいて大量の朝飯を食べながらキキが教えてくれたので食堂のメイドさんにお願いしてシノさんを呼んできてもらった。
「はぁまったく、相変わらずあの二人はろくな事をしないんだから……」
どこかお母さんみたいな口調でシノさんは呆れながら自慢の薬を煎じてくれたが、これがまたとんでもなく苦かった。
「そういえばキキ姉さんていつもこんなに遅く朝食食べるの?」
現在時刻は八時過ぎ、しっかり者の姉はもっと早く起きているイメージだったが以外にお寝坊なのかもしれない。
「そうだな、起きるのは早いが、朝の修練をこなしてから朝食にするのでいつもだいたいこの時間だな」
なんか朝靄の中で木刀を振るイメージがぱっと出てきた。
「朝の修練かぁ、ご苦労様です。やっぱ木刀振ったりしてるの?」
「む。何故分かった?}
「いや、なんかそんな姿イメージできたからさ」
「そうなのか?後は他にも走り込みや筋力のトレーニングもかかさずやっているぞ。どうだ真一郎も今度一緒にやるか?」
正直体を鍛えたいとは思っているが、朝早いのはなんとも苦手なのだ。
「俺、朝弱いからなぁ」
「そうなのか?だったら騎士団の訓練に参加させてもらえばいいさ、あれだったら一日中誰かしらやってるからいつでも混ぜてもらえるぞ」
昨日お墓参りに行くときに見た光景を思いだした。(そうか、あれに参加させてもらえばこっちの戦闘がどんなもんかも解るかもなぁ)
「騎士団の訓練て勝手に参加してもいいの?」
「お前は第三師団に入団するからな、同じ師団の連中と一緒に訓練すればいいさ、今日の午後に団長達と会うんだったな?団長のジルドルジュに頼めばすぐに手配してくれるさ」
「ジルドルジュ?えんじぇるさんじゃなっくって?」
キキは「あぁそっちの名前で憶えさせられたか」などと笑っていた。
「まぁ呼び方はいいとして、奴はかなりの手練れだ、新人教育などにも力を入れているから真一郎には丁度いい教官になるだろうさ」
「へぇ~。じゃあ後で会ったときにでも頼んでみるよ」
「そうするといい。じゃあ私は騎士団の方で仕事があるのでな。魔力測定の結果はまた夕食の時にでも聞くとするよ」
そう言ってキキは食堂を後にしていった。
「真一郎様、後で食べれるようにサンドイッチでも作っておきましょうか?」
いつのまにか席の近くに立っていたミミットさんの嬉しい提案に「あぁ、じゃあお願いしようかな」と頼んで真一郎も食堂を後にした。
食堂を出たところでヴィランがむかえに来たので「なんで昨日部屋まで連れてってくれなかったのさ」と聞いたところ、「お二人に今日は一緒に寝るからいいと言われましてね、さすがにあの二人にそんな事言われたらただの執事の私にはどうすることもできません」などと絶対心の中で笑ってるだろう笑顔でかえされた。
そのごヴィラントに「魔法測定に先立ちまして、専門家より魔法の説明があるそうです」などと言われて、案内されて来た部屋は扉を開けるまでは普通だった。
「失礼しまーす」
と真一郎は中を覗いた。
「そーきたか……」
さすがに毎度毎度驚いてばかりじゃいられない。今回は何があっても驚かないと心に決めたが早々に打ち砕かれた。
扉の中にあった部屋には勉強机とイス、前方の壁には巨大な黒板とその前に教壇。それはまさに学校の教室だった。
「まぁ教室はいいとして、皆何やってんの?」
教室の中に居たクラスメート達はある者は気まずそうに、ある者は満面の笑みでこちらをうかがっていた。
「はぁまぁ大体誰が発案者かわ分かるけどさ……」
そこにいたのは真一郎の高校の制服に身をつつんだ義母や姉やリザードマンだった。
「ふふふふ。どーおしんちゃん、ママたち似合ってるでしょ?一人でお勉強じゃ寂しいだろうと思ってわざわざ制服まで作ったのよ」
女子高生スタイルに身をつつんだシルフォーネが満面の笑みで手を振っていた。
「シルフォーネ母さん似合ってますよ。えっとゾーイとそちらはガルルートさん?」
制服(男子用)を来た二人のリザードマンに視線を送った。
「ハイ!真一郎殿下、お初にお目にかかります第五師団で団長を務めさせていただいていますガルルート・リークルでございます。今回は殿下のお勉強会に私めの様な者も参加させていただきまして、まこにありがとうございます!」
どんな説明されてここに来たんのか分からないが、なんかめっちゃワクワクしてるガルルート、確かリザードマンて魔法使えないって言ってなかってたのに、今から魔法の話聞くのにいいのかな?などと考えてみたが、まぁたぶん人数合わせで強制召集されたんだろうなぁなどと義母の行動をピタリと当てた真一郎だった。
「ガルルートさんよろしくね、ゾーイもわざわざありがとう」
「いえいえ、殿下の学友になれるなど今後ありえない状況ですからな、楽しむつもりで来いとシルフォーネ様に言われましたので、今回は楽しませてもらいますぞ」
そんな楽しい話聞けるのかなぁ
「でもさゾーイ、リザードマンて魔法使えないんじゃなかった?聞いてて退屈かもよ?」
「確かに魔法は使えませんが、だから余計に今回のお話は聞いておきたいですな。正直使えないので今まで学んだ事もなく知識もろくにないので」
照れながら頭をかいてわらうゾーイ。
「なるほど。いやーゾーイは勉強熱心で真面目だね」
ガルルートの前なのでなんとなく(褒めといたほうがいいかな?)などと双子の影響をうけてゾーイを褒めてみた。
「殿下にそう言っていただけるとワタクシも励みになります」
がはは笑うゾーイ。前の席のガルルートに目を向けるとキラキラした目でこっちを見ていた。(お、結構いい効果でてるかも)などとまたもや双子脳で勝手にガルルートにおけるゾーイ株をあげてるつもりでいた。
「あれ?クレイル姉さんまで生徒なの?」
ゾーイの席の後ろには制服の上からケープをはおり前髪をおろしたクレイルがいた。
「……この授業は私の助手がやってくれるの。測定の準備してたら母様達が私もこっちにこいって……」
あぁ、要するに被害者なわけだ。
「あはは、それはご愁傷様」
心の中で合掌する真一郎。そしてクレイルの隣にはなぜか男子の制服姿のジュリエッタが居た。
「なんでジュリエッタ母さん男子の制服なの?」
「男女それぞれ五着づつしかないんだとさ」
ちょっとムスっとしてそう答えてくれた。まあ体格的に男子の方を割り当てられたんだろうけど、こんがり日焼けした肌に赤髪で学生服ってめっちゃチャラ男だなーなんて言わないほうがいいんだろうな。
「あれ?キキ姉さん騎士団の仕事に行ったんじゃないの?」
ジュリエッタの前に座るキキ。背中から黒いオーラがにじみ出ていた。
「……何も聞くな」
「え?あ、はい。なんかゴメンたぶん俺のせいで」
「お前が謝ることじゃない。私の修行不足のせいさ……」
あっちもこっちもご愁傷様です。と心の中でまたもや合掌した。
「しんちゃんの席は一番前の真ん中よ」
窓際の後ろの席にすわるシルフォーネ母さんにうながされた。ちなみにその前にはシャールイ姉さんで、その前の先頭にレイラがいた。年齢的にはドンピシャ高校生だけあって、この中で一番制服がしっくりきていた。まだ怒ってるらしく、一度すんごい睨まれてあっちむいちゃったけどね。
真一郎が席につくと待ってましたとばかりに教室の前のドアが開いた。入ってきたのは長い銀髪を後ろでポニーテールにしている耳のとがった長身の男性だった。
「……エルフ?」
その姿は物語で聞くエルフそのものだった。
「遅れて申し訳ありません。今回講師を務めさせていただく王立魔道研究所のツェルドニクスです」
教壇にたって深々とお辞儀をするツェルドニクス
「殿下、今回は講師の大役、私ではいたらぬ点もあるかもしれませんが何卒よろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。失礼ですけどツェルドニクスさんてエルフです?」
「ええ、そうですよ。王都にいる数少ないエルフの一人です。それと殿下、どうかツェルドとお呼び下さい」
顔をあげて微笑んでからツェルドは真一郎をまじまじと見た。その体からみえるかすかな彼の魔力の色は七色。本来ならあり得ない色である。(やはり、彼は本物か)何か思い当たる節でもあるようにもう一度真一郎に微笑んだ。
「でわ殿下、そして皆様。これより魔法抗議を始めます」
「きりーつ!」
急にジュリエッタが発した言葉で皆が起立した。「え?え?」真一郎が一瞬遅れたのは言うまでもない。
「れーい!」
皆合わせて綺麗なお辞儀。
「ちゃくせーき」
(これもしかして練習したのか……?)全員のドヤ顔をうけながら真一郎は一際深いため息をついた。
「でわまず殿下の魔力の量を調べたいと思います、殿下前へ出てきていただいていいですか?」
そういってツェルドが用意してきたのは見た感じ肺活量を測るあの機械。息をふーっといれてメモリが上がる仕組みになっている物だ。
「え?これではかるの?」
「はい、我々は体の中の魔力結晶で魔力を造ります。息をすると少しですがその体内の魔力が外に出てくるんです。その量を測れば体内の魔力も分かるという寸法です」
「はぁ理屈はなんとなく分かるけど、魔力結晶ってどこにあるの?体の中にそんなのあったらすぐ分かると思うんだけど」
医学が進歩した元の世界であればそんなものが体内にあればすぐ分かるはずだ。
「魔力結晶は結晶と言っても、実際に形があるわけでわありません。エネルギーの集合体のようなものなので実際は見る事もつかむこともできないんですよ」
「へーそんなのが体内にあるのか」
「お分かりですか?でわこちらに息を吹き込んでください」
真一郎は言われた通りホースに口をつけて思いっきり息を吹きかけた。計測器のメモリがどんどん上がっていき数字が無くなるところギリギリで止まった。
「素晴らしい!魔力値298!今までの最高値ですよ!!」
興奮ぎみのツェルド。教室からは大喝采。
「さすが殿下。かの銀翼の魔女香織様の上をいくとは」
「え?母さんより多いの?」
「ええ、香織様は確か250くらいだったと記憶しております。ちなみに一般人ですと1桁ですね、2桁行けば王国騎士団に無条件で入団できます。3桁いけば師団長クラスですね。現在の王国での最高値は第二師団の団長マリステア嬢の240だったと記憶しています」
「え?王国で一番て事!?」
「はい!」
満面の笑みで答えるツェルド。
「さすが真一郎だ!いやー母さんはうれしいぞ!」
「しんちゃんすごいわ!」
いつの間にかW義母が前まで出てきて真一郎を抱きしめていた。
「く、くるしい」
「さすが殿下。この場に同席できた事部隊の皆へ自慢できます!」
ガルルートがキラキラこっちを見ていた。(た、助けて、窒息する)手足をバタバタもがかせるが全然脱出できなさそうだ。
「はぁ、母様達、そのままでわ真一郎が窒息してしまいますよ」
キキの助けによりなんとか解放された
「はぁはぁはぁ死ぬかと思った」
「ごめんなさいねしんちゃん。ママうれしくって」
「はっはっは!そんくらいで死ぬわけないだろう」
笑ってるW義母(いやいや、あなたたちの体は凶器になるんですよ)何で窒息しそうになったかつっこんだらまたレイラに何かなげつけられそうなのでぐっと我慢した。
「さてさて、皆さん授業を続けますよ」
ツェルドの号令で皆席に戻っていった
「でわ、殿下、魔法を使うに当たって重要な物があります。なんだか分かりますか?」
「えっと、魔力?」
「正解です。でわその魔力ともう一つ必要な物があります。それは分かりますか?」
「えー?何だろ分からないや」
「わかる方いらっしゃいますか?」
あくまで学校スタイルを貫くらしい。
「ハイ!」と元気よく手を挙げたのはザ・優等生キキ
「キキ様どうぞ」
「それは精霊との契約です」
「結構、正解です。でわ殿下にも分かりやすくご説明いたしますね。この世界には六精霊と呼ばれる存在があります。それぞれ、火・水・風・土・光・闇となります。この精霊と契約を結ぶ事で、その精霊の属性の魔法を使えるわけです。しかし、個人により契約できる数や種類はバラバラです。しかも自分で選ぶのではわなく、精霊がこちらを選ぶので実際に契約の儀をするまでは自分がどの属性を扱えるのかは分からないんです」
しかし最近では個人の魔力の色をみれば大体契約できる精霊がわかってしまう。そのため精霊との契約ができる12歳までにある程度どの魔法を使うかなど絞って鍛錬するのが一般的だ。
「先生いいですか?」
「はい、どうぞ殿下」
「その属性以外の属性の魔法はどうなります?たとえば雷とか氷属性なんてのはないんですかね?」
ゲームや小説でファンタジーを知る皆は分かると思うが、雷や氷の魔法なんて結構当たり前にある気がるすが、この世界においては少々事情が違う。
「いい質問ですね。それら六属性にない属性は、上位属性などと言います。それらは六属性の組み合わせなどで新たな属性に変化するのです。たとえば殿下がおっしゃった「雷」
これは、火・風・光の属性の組み合わせで発動することができます。「氷」の場合は水と闇ですね。この様に様々な組み合わせで魔法は無限の可能性を我々に与えてくれるのです」
「へー、てことは雷を使うにはその元になる火と風と光を使えないとダメって事?」
「その通りです!いやぁーさすが殿下呑み込みが早くて助かります」
「いやいやそれほどでも。じゃあ先生、自分で新しい組み合わせを考えて新しい魔法を造れるなんてありますかね?」
「んーそれはちょっと難しいですね。精霊契約で魔法を行使するようになってから千年以上経ちますので、ほとんどの属性は見つかってしまってます。もともとが六つしかない属性の組み合わせなので時間と共に全部の組み合わせが試されていまっていますからね」
「ふむ。じゃあそのいくつもある組み合わせ、覚えるのが大変そうですね」
「普通は扱える属性が限られてますので、自分のできる物だけ覚えればいいんですけどね、殿下が香織様みたいに六属性全部使えるとなると、組み合わせはとんでもない数になるのでご自分で使いたい魔法などを集中的に覚えるのが効率的だと思いますよ」
「なるほど」
(ってか母さん全部使えるのか!?)
「さて、では続けますね。精霊と契約を済ませたら後は精霊に呼びかけて自分の使いたい魔法を「イメージ」します。そしてその魔法に見合った魔力をそそぎこめば魔法の完成となるわけです」
「魔法のイメージ?」
「はい、たとえば火の一般的な攻撃魔法のファイヤーボールなどを発動させる場合は、その大きさや数を心のなかでイメージして精霊に伝えるのです。さらにそこに魔力をこめる。分かりやすく表現すると、自分の魔力をイメージと一緒に精霊に渡す感覚ですね。魔力は原料、イメージは設計図、精霊はそれを元に魔法を造る職人といったところですかね」
「ふーん、なんか聞いてるだけだと結構難しそうだなぁ」
「ははは、習うより慣れろですよ。実際使ってみれば結構簡単にいくものですよ。あとちょっとしたアドバイスとしては、その魔法に自分なりの名前を付けちゃうのがいいですよ」
「名前?もうあるんじゃないの?」
「それぞれどの属性の、どれくらいの魔力を使ったときにこんな魔法が出る程度での名前はありますが、自分で名前を付けて発動させる方がイメージしやすいんです。それに使い続ければ精霊の方が覚えてくれて名前を唱えるだけで発動できるようにもなりますよ」
「おぉー精霊って頭いいんだね。なんか早く魔法使いたくなってきちゃった。先生、他に注意点とかってあるんですか?」
「今までの話をきっちり理解して頂いているのであれば問題ないですよ。後は殿下のお持ちの力との相性次第ですね、それについては後程説明いたしますよ、さてすでに説明に飽きて寝てしまってる方もいるのでそろそろ契約の儀をするため移動しますか」
真一郎が振り返るとキキとリザードマン×2以外皆寝ていた。(早くないか!まだ10分もたってないぞ!?)こんなんが国のトップでいいのかと心配する真一郎だった。
寝ているメンツを起こして精霊と契約の儀とやらをするため王宮の中にある契約の間とやらにきた。途中でガルルートとゾーイ、それにシャールイはなんとか逃がしてあげたけど、他のメンツはW義母にがっちり腕をつかまれて連行されてきた。
「じゃあ今度は私が、しんちゃんこの魔方陣の中にきて」
制服を脱いでいつもの前身真っ黒の姿にもどったクレイルが床に書かれた魔方陣に真一郎を呼び込んだ。魔方陣は中心に大きなものがあり、そこから六方向に何やら呪文が書いてある線が伸びていてその先にはそれぞれ紋章の様なものが書かれた中心より少し小さい魔方陣があった。
「しんちゃん私の後に続いて呪文いってね」
「あ、はーい」
「行くね。我は求める」
「我は求める」
「汝は答えよ」
「汝は答えよ」
「我が力を糧とし、我が心の声に耳を傾けよ」
「我が力を糧とし、我が心の声に耳を傾けよ」
「偉大なる精霊王マクスウェルの名の下に我が前に姿を示せ」
「偉大なる精霊王マクスウェルの名の下に我が前に姿を示せ」
呪文が終わると同時に中心の魔方陣が煌びやかな六色の光を放った。その六色の光はそれぞれの魔方陣へと流れていきその光がそそがれた魔方陣は激しく光輝いた。
「綺麗だなぁ」
真一郎の率直な感想だ。人口の光では決して出す事のできない自然の光はそれぞれの魔方陣で輝きながらその中心に小さなクリスタルの様な物を形造った。灼熱のごとく真っ赤な火のクリスタル。南海の海の様なコバルトブルーの水のクリスタル。風にたなびく木々の様な緑の風のクリスタル。ずっしりとした大地から産まれたような茶色く輝く土のクリスタル、白く真夏の太陽の様な輝きを見せる白い光のクリスタル。どこまでも深くそれでいて決して輝きを失わない闇のクリスタル。魔方陣の上に浮かびながら光を吸収してできたそれらは一際大きな光を出すとそのまま真一郎の元まで集まってきた。
「おぉぉ。すげー」
自身の周りを回りながら輝くクリスタル達、精霊の力の結晶たるそれらは何度か真一郎の周りを回った後に静かに真一郎の体へと姿を消していった。
「終わり?」
「ええ、これで精霊との契約は終わった。おめでとうしんちゃん、やっぱり全部出てきたね」
前髪を下げているので微笑んでくれているのが若干怖いクレイル姉さん。まあ喜んでくれてるみたいだからいいか。
「おめでとうしんちゃん」
「よくやったな真一郎!」
「しんちゃんすごいわー」
「やはり全部きたか、さすがだ真一郎」
「ふん。まぁおめでとう」
姉や義母達もそれぞれ祝いの言葉をかけてきてくれた。ちなみに最後のはレイラだった。
「さて、契約もすんだのでさっそく魔法使ってみますか?」
ツェルドがそう言いながら近づいてきた。真一郎は「もちろん!」などとやる気満々の笑顔を見せた。
「でわ、所長どうします?やっぱ最初は火球とかですかね?」
「……そうね、イメージしやすいだろうし。しんちゃん手のひらを上にして手を出して」
「こう?」
「そう、そしたら心を静めてこう言うの、我は求める汝は答えよって。言いながら手のひらの上に火の玉が出来るのをイメージするのよ」
「わかったやってみるよ」
一度姿勢を正してゆっくりと言葉を紡いだ。
「我は求める汝は答えよ」
その瞬間真一郎の手のひらに赤い光が集まりだした。光が群をなして渦巻き次第に野球ボールくらいの火球を形造っていった。
「おぉぉぉすげぇぇぇぇ」
今まさに自分の手のひらで魔法が行使されている瞬間だ。真一郎はただただ興奮していた。しかし、収束する光が最後に見せたのは思いもよらぬ物だった。
「え?……あれ?」
火球が出来上がる今まさにその時、その火球は音もなく消え去ってしまったのだ。
「え…?失敗?」
それを見ていたクレイルとツェルドは「やはり、ダメみたいね」「そうですね、しかし一度出来上がりつつあるって事は朗報ですよ」などと話していた。
「しんちゃん、他の属性も試してみて」
クレイルに言われるがまま、他の属性の魔法も試してみたが、どれも結果は同じく、いざ完成というときに消えてしまうのだった。
「えぇぇぇ?なにこれ?俺って才能ないってこと?」
「クレイルこれってまさか?」
真一郎の困惑を見ながらジュリエッタがクレイルに話しかけた。
「ええ、予想通りと言えば予想通りの結果。これが昨日言ったしんちゃんとお父様の力の違いの一番の要因。しんちゃん丁度いいから色々試させて」
そう言うとクレイルは真一郎に色々な属性の魔法をあびせ始めた。
「ちょ!待って待ってクレイル姉さん!危ない!」
「大丈夫、あなたの力があれば問題ない」
その光景を見ながらジュリエッタとシルフォーネは語る。
「グラインは魔法は普通に使えたのに、なんで真一郎はダメなんだろうな」
「さぁ?それを確かめるためにクレイルちゃんが今魔法うちまくってるみたいだけど、でも困ったわね、せっかく魔力も多いのに魔法が使えないんじゃ」
「きっと姉様が何とかしてくれるでしょう」
二人の会話に入ってきたキキは叫びながら魔法から逃げ惑う弟を見て少し笑っていた。
「結果を発表します」
しばらく真一郎へ魔法をあびせまくった後にクレイルは皆を集めて説明し始めた。
「まず、現状でわしんちゃんは魔法が使えない」
「え!?」
「しんちゃんの力はお父様に似ているアンチマジックの力。でもお父様のと違ってしんちゃんの力、これからは盾って言うね、この盾は魔法を見つけると手当たり次第に消しちゃう感じなの」
「それってまさか、自分の魔法も消しちゃうってこと?」
「たしかグラインは自分から離れた場所に魔法を造ってなんとかしてたがそれもダメなのか?」
グラインの魔法を知っているジュリエッタの質問だった。
「まず根本的にお父様としんちゃんの力は全然性質が違うの。お父様の力は体の周りに魔力の膜をつくってその膜で自分にきた魔法の中の魔力を跳ね返したり吸収したりしてたの。魔力がなくなれば魔法は消えるからね。でもしんちゃんの盾は魔力じゃなくて魔法そのものを消しちゃってるの。魔力をどうこうなら離して発動もできるけど魔法そのものを消してる場合いくら体から離れていても、自分が魔法を発動させて時点で盾が反応しちゃうの」
「魔法を消すって、どうやって?」
ジュリエッタは頭を抱えながら質問を続けた。
「それはまだ詳しく分からない。でもさっきの感じだと、魔法を魔力と精霊にバラバラにしているみたい、さらに使われてた魔力を大気中に拡散させていた。つまり魔力自体もバラバラにしてた。」
「なんだそりゃそんな力聞いた事ないぞ」
ますます頭を抱えるジュリエッタ
「えーと、結局俺は魔法が使えないと?」
「心配しなくても大丈夫よ。力のコントロールを学んで自分のモノにできれば、自分の意思で盾をしまう事もできるはず。きっと魔法は発動する」
「おぉ!そうか、盾がなければ魔法が使えるから、盾をしまっちゃえばいいんだ」
「その通り。これから私も協力してその盾の使い方を考えていくから一緒に頑張りましょうね」
「魔道研究所所長のクレイルちゃんがついてるなら安心よ。しんちゃんも頑張って修行するのよ」
なぜかシルフォーネ母さんに頭をなでられた。
「あー、まあこっちで魔法使えないと不便そうだし、頑張って練習するよ」
「ふふふ、いい子いい子」
頭をなで続ける義母に悪い気はしない真一郎だった。
一連の説明が終わり疲れ切っていた真一郎に皆が戻って休めと言ったので真一郎は部屋に帰る事にした。午後は隊長達との顔合わせがあるのでそれまで休むつもりだった。
「そうだしんちゃん、ヴィラントに用事があるから来るように伝えてくれる?たぶんその辺でしんちゃんの事待ってると思うから」
なんか普通に喋るクレイル姉さんにも慣れたななどと思いながら「わかったー」と部屋を後にした。
「レイラ、悪いんだけどしんちゃんを部屋まで送ってくるれる?」
いつになく喋る姉の発言にあからさまに嫌そうな顔をしたレイラ。
「レイラ、お前朝の事まだあやまってないんだろ?私達も悪かったが真一郎は悪くない。ちゃんと謝ってこい」
実母に真面目な顔でそう言われたら何も文句は言えないレイラは「わかりました」と部屋を後にした。
レイラと入れ違いに入ってきたヴィラントを確認するとジュリエッタはクレイルに問いかけた。
「で、あの二人を出してヴィラントを呼んだって事は何か裏があるのか?」
「さすがお母様、察しが早くて助かる」
今部屋に残っているのはW義母にキキとツェルドそれに入ってきたヴィラントだった。
「しんちゃんの力には問題が二つある」
先にヴィラントに分かった事を報告してクレイルが続けた。
「問題?魔法が使えない以外にもあるの?」
「うん。正直こっちの問題の方が本題」
「もったいぶってないで話せ。まあ大体予想はつくがな」
「一つ目、今のしんちゃんには治癒魔法が使えない」
治癒魔法とは水と光の精霊の力により体の傷を癒すものだ。他に土や風属性などを合わせれば体内の毒を治癒したり病原菌を追い出す事もできる。王国には日本から輸入された薬などもあるが、基本的に怪我や病気は治癒魔法での治療なのだ。
「やっぱりか、グラインもそうだったもんな」
「あの人は自分で治癒魔法が使えたから、体内で魔法を発動させて中から治してたけど、しんちゃんにはそれすらできないのね」
「その通り。さっきいちお試してみたけどやっぱりダメだった」
「となると、力を使えるようになるまで戦場はおろか城からも出せないかもな」
王国の王族として生きる限り戦場へ出ることは必須だ。それができづなおかつ普通は治癒魔法で癒せるような怪我が命取りになりかねない現状城の外へ連れ出すのは自殺行為だ。「戦場はともかく城から出るときはヴィランがはりつくべきね」
母親たちはさっきまでのおふざけが嘘のように真剣な眼差しになってきた。
「ただ、しんちゃんがしっかり力をコントロールできれば、治癒魔法を使うときに盾をしまえばいい話だからこの問題はそのうち解決する可能性が高い」
「ふむ。まあ真一郎次第ってとこか、で、もう一つの問題ってなんだ?」
「それについては私が」
クレイルの後ろに控えていたツェルドが出てきた。それを見ただけでその場の全員が事を理解したようだった。
「そうか、エルフ……」
「この問題はジュリエッタ様のお考え通りだと思います。我々エルフを始め一部の亜人や獣人、それに魔獣などは生命活動を維持するために体内で魔力を使う者がいます」
これにはドラゴンも入る。
「我々からすると殿下の盾はまさに脅威でしかありません。おそらく力をコントロールできるようになれば手をふれずにそれらの者を葬る事が出来るようになるでしょう」
魔力で生命活動を維持している者たちの共通点は、魔力結晶でできた魔力を血液と一緒に体中にめぐらせている事だ。その機能がないヒトなどはいいが、真一郎の力はいわば血液と同じくらい大切な物を体から消し去る可能性があるということだ。
「しんちゃんはそんな事しないと思うけど」
「確かにシルフォーネ様のおっしゃる通り殿下はその様な事はしないと思います。が、それでもその力がある事に変わりはないのです。我々エルフならまだ理性的に受け止められる事実でも、他の亜人や獣人にすればあった事もない殿下の事など信じられないでしょうしね」
「確かに、力を持てばそれだけ敵も増えるな」
考え深げにつぶやくキキ
「最悪なのは殿下の力を悪用しようとする輩が現れた場合です。魔法はだめでも催眠などで殿下を操り力を使えばどんな戦場でも優位にたてるでしょうしね」
「確かにそうだな。さっきの説明だと盾は大きくできるのだろう?戦場でめいっぱい盾を広げれば敵は魔法を使えない。こっちはそれ用にあらかじめ準備しておけば、そんな戦闘あっというまに勝ってしまうな」
「ジュリちゃん、しんちゃんを使うのだけは私は反対しますからね」
「シルフ、私だってそんな事考えてないさ、あいつを戦場で道具のように扱うなどありえない。だが、そう扱おうとする者もいるはずだ」
部屋には沈黙が訪れた。皆真一郎のおかれた現状を理解したのだ。王国内にも色々と派閥がある、ジゼルを王代理と認めない貴族もいる。もちろんそういった輩はたいてい口だけなのであまり相手にしていないが、もし真一郎の力をしれば悪用しようとするのは目に見えている。さらに闇の軍勢や、隣国の存在もある。この世界において真一郎の力は核爆弾なみの扱いなのだ。
「とにかく今はしんちゃんに力のコントロールを学んでもらうのが先、そのためにヴィラント、あなたがしんちゃんに教えてくれる?」
「しかし、その場合私がなぜアンチマジック能力を使えるのかという話にもなりますがいかがいたしましょう?」
「そこは貴方に任せる。事実を言うのも嘘を教えるのもどちらでも。でもアンチマジックの鎧を出したり消したりできる貴方ならしんちゃんの力になれるはず」
ヴィラントはドラゴンの力としてアンチマジック能力を得ていた。しかしだしっぱなしのグラインと違って彼は自分の意思でその鎧を出したりしまったりできるのだ。
「わかりました。グラインとの約束を守るためにも真一郎様には力を学んでもらわなければなりません。私もできる限りの事をさせていただきます」
「ありがとうヴィラント」
「ヴィラント、私達からもお願いするわね」
「かしこまりました」
その場にいる全員からの願いをヴィラントはしっかりと受け止めた。
「姉上、その話真一郎にはどう説明するので?」
「それを悩んでるの、全部を話すかどこか隠すか」
「隠してもどーせすぐ見つかるさ、あいつは賢そうだしな。最初から全部話して自分で受け止めさせるのが一番だ」
「私もジュリちゃんに賛成よ。しんちゃんはきっと乗り越えてみせるわよ。クレイルちゃんがしずらいなら私達がしましょうか?」
「母様達がそう言うならば私もしんちゃんを信じます。それに最後まで面倒みると決めたので本人には私が話します」
「そうか、たのむぞクレイル」
「はい」
「さて、そうと決まればすぐ行動しましょ。クレイルちゃんはしんちゃんの所に、キキちゃんは午後の予定を団長たちに確認してきて頂戴。ジュリちゃんと私はシャールイにこの事を話に行くわ」
「わかりました、団長達に確認したら私もそちらにむかいますので」
「わかったわ、じゃあクレイルちゃんよろしくね」
「また何かあったら報告してくれよ」
そういって母達は部屋を後にした。
「でわ姉上、私もいきます」
「うん、また後でね」
キキが去った事で部屋にはクレイルとツェルドだけになった。
「ツェルド、里には報告するの?」
「ええ、いちお報告させてもらいます。ダメですか?」
「いいえ、ただ長老達や女王にはちゃんとしんちゃんなら大丈夫って伝えてね」
「もちろんですよ。むやみに混乱を招きたくないですからね。でわ所長私も仕事に戻ります」
「うん。今日はありがとうね」
「いえいえ、なかなかよい経験をさせてもらいましたよ」
ツェルドが出て行った部屋でクレイルは一人つぶやく。
「お父様が生きていればもっと良い知恵を貸して下さったかもしれないな……」
仕事に戻るといったツェルドだったが向かったのはまったく別の場所だった。城を後にして彼がむかったのは王都でもそこしかないエルフの経営する店だった。
「これわこれわ監察官殿、今日はどのようば御用で?」
カウンターにいたのはツェルドと同じ様な銀髪を短くカットした耳のとがった青年だった。
「ウェルドナ、里に連絡を頼む」
「定期連絡にはまだ早いぞ、何かまずい事でもあったか?」
「いや、現状では何とも。ただ将来的にかなり危ない橋を渡る事になるかもしれん」
「アンタがそんな事言うってことはよっぽどだな。わかったすぐい使いをだすよ、で長老達には何て伝言すればいいんだ?」
「『神殺しの雛が孵った』と、それだけ伝えればわかる」
「……神殺しか、そりゃまたずいぶんおだやかじゃないね」
「まだまだ雛だ、今すぐどうこうという問題でわない。でわ伝言をたのんだぞ」
そう言うとツェルドは店を後にした。
真一郎の知らないところで少しずつ何かが動き始めていた。
クレイル姉さんよくしゃべるようになったなぁ
さて次回の「はちぷり」は!
団長軍団登場!お待たせしましたえんじぇるちゃんの登場です!
今回ちょっとシリアスぎみになてきたので次回は思いっきりはじけます!