3話 『故郷の肉球』
できれば2-3日に1話は投稿したいです。
トンネルを抜けると、そこは美しい庭園でした。
王国側の門は日本と違い半円形の金属でできたアーチがあるのみだった。銀色に淡い光を放ち輝いていたそれは、真一郎達が出て来るとその姿を確認するように、ひときわ大きく輝き、その後は光を無くしただの金属のオブジェとなった。
門の周りには馬車がいくつも停まっており、日本側から輸入した品を下ろしてるところだった。
その横を荷物をほどく男達に挨拶を交わしながら、真一郎とヴィラントは庭園のベンチまで歩き真一郎は腰掛けた。どうやら迎えが来るらしいのでこの場で待機らしい。
「真一郎様、故郷の空気はいかがですか?」
「ん~~!はっ!いやーなんか日本より空気がおいしい気がするよ」
思いっきりのびをしながら吸い込んだ空気は確かに日本では味わえないものだった。
「あちらと違って空気を汚す物が無いですからね。逆にこちらから行くとニホンの空気はお世辞にもいいものとは言えませんね」
「まー日本は空気悪いしね~」
春の日差しをあびながら周りの喧騒がどこか心地よかった。真一郎が周囲の活気ある景色に目をやっていると、ふと、不思議な物が目に入った。
「ねえヴィラント、気になってたんだけどさ、あの猫なに?」
真一郎の視線の先には、ほどかれた荷を見ながら手に持ったボードに何かを記入している三毛猫が居た。
2本足で器用に立つ三毛猫は後ろから見る限りではオーバーオールを着ており、時折周囲の男達に何か話していた。
「あちらは交易の管理をされていらっしゃるケラ殿ですね」
「猫だよね?」
「あ、真一郎様はケットシー族は初めてでしたね、確かに日本の猫を知っていれば驚かれるはずです。丁度いい機会ですしケラ殿にご紹介いたしますよ。少々お待ちを」
そう言うとヴィラントはケラの元に行った。
ヴィラントに話かけられたケラは一瞬驚いたように飛び上がり、ヴィラントに気付くと今度はペコペコとお辞儀をくり返していた。イケメンにお辞儀しまくるオーバーオールを着た猫。ってか執事にお辞儀しまくるってどーなんだろ?ヴィラントって、実はただの執事じゃないとか?(ん?何かこっち見てるぞ)見た感じヴィラントがケラに自分の事を言っているっぽい。(とりあえず手でもふっとこうかな)2人に向かって微笑みながら手をふってみた。
「っ!!!!」
ケラがめっちゃ驚いた表情をし、すぐにこちらに向かって全力疾走でかけてきた。(猫が2本足で走るって……あ、こけた)あまりに慌て走ってくるので真一郎の下に来るまでに2回転んだ。目の前に着たケラは思ったより大きく幼稚園児くらいの背丈があった。
「ししししししし、しんいちろうででででんかっ!ほ、ほほほんじつはおひがらもよろしくて、わわわわわわわたくしわケケケラともうします!」
少年のような声の猫の言葉はめっちゃ慌てて言葉になってなかった。なんか面白いねこの猫。
「えーっと、とりあえず落ち着こうか?ほら深呼吸して」
吸って~吐いて~を繰り返させてケラの呼吸が整うのを待った。「落ち着いた?」
「ハイ。ありがとうございます。はっ!わたくしめは何という失態を!真一郎殿下を前にこんなお見苦しい姿をお見せしてしまうとわ!この失態はこの命を持って償わせていただきます!」
そういうと短剣を取り出し自分の首につきたてようとしていた。
「え?ちょまっ!」
真一郎が止めるより早くケラに追いついたヴィラントが後ろから短剣を取り上げた。
「ヴィ、ヴィラント殿!後生です死なせて下さい!」
ヴィラントの周りをピョンピョンしながら短剣を取り返そうとしていた。
「ケラ殿、まずは落ち着いて下さい。殿下はお心の広いお方です、あの程度の失態など失態にはならないと言って下さるはずですよ」
それに王宮の庭園を血で汚すのはご法度ですよ。ニコッと笑ってヴィラントはそう付け加えると真一郎の横についた。
「でわ、真一郎様、改めてましてこちらは王国交易管理部部長でケットシー族のケラ殿です」
ヴィラントに紹介されて一瞬ポカーんとしたケラは、ハッ!と直ぐに背筋を正し、その場に片膝をついて頭を下げた。
「お初にお目にかかります!王国交易管理部でお世話になっておりますケットシーのケラともうします!」
「よろしくケラさん。知ってるみたいだけど、俺は佐山真一郎です。よろしくね」
そう言うと真一郎はケラに握手を求めた。その姿に頭を上げたケラは呆気にとられ、ヴィラントは微かに笑ってケラにむかって説明した。
「これは握手と言って、日本での一般的な挨拶ですよ。互いに手を握りあい相手に敵意がない事を伝えるものです」
ケラはヴィラントと真一郎を交互に見て「お手に触れるなんて恐れおおいです」とブツブツつぶやいていたが、いっこうに下げない真一郎の手を見て観念したように手を差し出した。
「ハイ。それじゃよろしくね」
(に、肉球・・・・・・)ケラの手の肉球は予想以上にぷにぷにだった。
その後しばらくの間ケラから王国に住むケットシー族の話などを聞いていた。どうやらケットシー達は商人気質らしく、王都に住む殆どが商人として暮らしているらしい。ケラの実家も王国各地で店舗をひらいている大商家らしい。家の方は父や兄が取り仕切っており、ケラは父親の根回しにより王国交易管理部に配属になった。しかし入ったのはコネであったが、ケラのもともとの実力もあり、今の地位まで上り詰めたらしい。ちなみにもう二十代後半らしい。はっきり言って外見でわさっぱり年齢がわからないさすがケットシーだ。
「「ふふふ。お兄様発見!」」
真一郎がケラと握手をかわし、ケットシー族の事などを聞きながら談笑している姿を観察する二つの影があった。二人そろって木箱の後ろから頭だけ出して、双眼鏡の様な物で真一郎達を観察する二人は、お揃いの服にお揃いの金髪ショートカットをそれぞれ左右を一ヶ所ずつゴムでとめており、まだ幼さが残るものの目鼻立ちのしっかりとした元気系美少女な双子だ。
「さてクーニャ隊員。我らがお兄様のご感想わ?」
双眼鏡を見ながら右側で髪を縛っている方が聞いた。
「まだまだ未知数でありますミー隊員。ここから観察するに顔面Lvはギリギリ合格点をあげれるくらいですねぇ」
左縛りのクーニャが答えた。
「確かに。お父様にどことなく似てる辺り得点高いですね」
かけてもないメガネをクイっと上げる仕草をしながら右縛りのミーニャが答えた。
「しかし、到着早々ケラっちに目をつけるとは侮れないお兄様ですよ」
「お父様の血を引いてるだけあってさすがってトコかなぁ。あ、でもお父様亜人には手出して無かったよね?」
「ミーが知ってる限りでわ無いかな。でもお父様の事だからどっかに亜人の隠し子が居てもおかしく無いかもね」
かなり複雑な家庭環境と思われそうだが本人達は全然気にせず笑いあっていた。
真一郎や双子達の父である前国王グラインは恋多き男だった。正式な妃は4人だったがそれ以外にもあっちこっちに愛人がおり隠し子も居るらしい。が、やはり男は真一郎だけで、全てが娘なのだ。 正妻と愛人達の娘同士は多少交流があり関係も良好であるものの、宮廷に住むのは正妻組だけで愛人組はそれぞれ特に不自由なく思い思いの人生を歩んでいる。妻が4人もいる時点で愛人で差別するのもどーかと思うが、その辺区別するとこはしないと国として跡目争いなどで面倒事が起きるらしく、国の政治に関わるのは正妻の子供のみとされている。
ちなみに真一郎は気付いて無いが、双子の会話から分かるとおりケラは雌である。二人にあらぬ誤解を受けているとも知らず真一郎はまだケラと話していた。
そんな兄達を観察している双子に後ろから声がかかった。
「クーニャ様にミーニャ様。いつまでもそんな間者みたいな真似なさってないでそろそろ参りますよ」
和装の老婆は双子の首根っこをつかんでズルズルと引っ張っていった。
「ちょ!シノさんタンマタンマ!」
「はなしてよぉ~」
「問答無用です。真一郎様をいつまでもお待たせする訳にはまいりませんし、お姉様方もお待ちしていますよ。ささまいりましょう」
見た目からは想像できない力で双子を引っ張って行くシノが、遠くに見える十二年ぶりの義理の孫の姿に、双子以上にワクワクしていたのは内緒である。
書くのが楽しいのでがんばるのん