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EightPrincessOneBoy  作者: ぽちょむ菌
第二部『お転婆姫と気弱な策士』
38/38

35話 『ちょっとだけ昔話 その一』

どーもです!

今回もちょっち時間あいちゃったや。





 魔導式蒸気船。

 通称〈魔導船〉は全長二十メートル にもなる巨大船だ。

 甲板の中央には巨大な煙突が一つあり、船体の両側には巨大な歯車型の水かきがついている。古い映画や某夢の国好きな方々にはすぐにピンとくるその船は、見た目通りの蒸気船だ。

 現在、魔導船はパラミア領主邸から徒歩で三十分ほど歩いた所にある川沿いの小さな村に停留している。

 急遽作られた波止場に横付けされた船の上では、王都から同行してきた技術者達が忙しそうに船の整備作業に追われていた。



「うげ、これもダメかい……」

 甲板の上で布を広げ、何やら部品を掃除しているのは、魔導船技術者長のリンコさん。

 ドワーフである彼女は、子供くらいの背丈に、こんがり日焼けした肌。茶色い髪を両サイドでしめ縄の様なぶっとい三つ編みにまとめた姿は大変愛嬌があるが、あの鬼のクラシキも頭が上がらないと噂されるほどの猛者で、一部では王国最強のドワーフとまで言われているらしい。


「まったく、一回使っただけでこんなんなっちまうなんてね。予備を多めに持ってきて正解だったけど、耐久性に問題あり過ぎだねこりゃ」

 ぐちぐち愚痴を言いながら、手際良く機械をバラし、拭いたり油をさしたりしていると、ふと背後から声がかかった。

「リンコさんご苦労様です」

「あぁん?」

 リンコさんが振り返るとそこに居たのは、女の子みたいな少年と、見慣れぬエルフ娘だった。

「なんだい坊っちゃんか。どした?」

「お仕事中すみません。クレイル様にお客様なんですけど、いらっしゃいますか?」

 パラミアに来てから、何かと世話をしてくれるこの女の子みたいな少年ヒューイは感じのいいヤツだ。

 王宮に使えるようになってから、それなりの数の貴族達と会ったリンコさん。大体どいつも偉ぶってるヤツらばっかだったが、ここパラミアの領主とその息子は少し違った。

 元々ライオネルを知っているリンコさんはその祖父なら立派な方なんだろう、程度に考えてこの地に来た。

 しかし、ジェダイルという人物は、会ってみたら予想以上に好感の持てる人物だった。気さくでおおらか、船が到着した夜なんて、特使隊にくっついてきた技術者達までも夕食に招待し、みんなで大宴会を開いたくらいだ。

 その息子であるヒューイは、養子ではあるものの、ジェダイルによく似た気のいい少年だ。

 女の子みたいだとからかえば顔を真っ赤にして講義する彼には、とても好感が持てていた。



「姫様ならエンジン室に居るよ」

 ぶっきらぼうに答えるのはいつもの事だ。これでも結構愛想良くしてるつもりのリンコさん。

「そうですか、ありがとうございました」

 軽く会釈するヒューイ、その後ろで、見慣れぬエルフ娘がこちらを

 チラチラ見ていた。



「……」

「……」

 

 無言で視線を交わすリンコさんとエル。


「そっちのお嬢ちゃんなんか言いたい事でもあんのかい?」

「え!?私ですか?」

「他に誰がいるんだい。ジロジロ見てんじゃないよ」

 ぱっと見不機嫌そうなリンコさんに「ごめんなさい!」とあ謝るエル。

「ドワーフ見るの始めてだったんでつい……」

「そうなのかい?パラミアにだってドワーフくらい居るだろ?」

 王国に住むドワーフはエルフよりも数も多いし広範囲に散らばっている。

 エルフ達とは違い、ドワーフだけの集落などは持たない彼らは、好き勝手にあっちこっちに散らばって生きている。そのため、王国中あちこちで出会う機会もあり、王国民にとってはエルフなんかよりはよっぽど見慣れた存在のはずなのだ。


「あ、私パラミアの住人じゃないんです。生まれも育ちもマザシェイプの森ですよ」

 にっこり笑顔のエル。

「へぇー、ま、それじゃドワーフに会った事無いのも分かる気がするね。森から出たのは初めてかい?」

「んと、小さい頃にあるらしいけど、覚えてないから、私的には今回が初めてですね」

 王国民ならエルフの事情はなんとなく知っている。

「話にゃ聞いた事あるけど、エルフってのはずいぶん窮屈な生活してんだねぇ」

 ドワーフからすれば、ほぼ一生を同じ場所で生きるなんて窮屈以外の何ものでもない。

「でしょでしょ!そう思うでしょ!」

 手をバタつかせリンコさんに詰め寄るエル。そんな彼女は初めて自分と同じ考えを持つ者に出会ったせいか、目がめっちゃキラキラしている。

「あ、ああ思うよ」

 その迫力に思わず後ずさるリンコさん。

「伝統とか仕来たりとかうるさいのよホント!もぅ息がつまっちゃうんだ!皆は私がハーフだからこんなだって言うけどさ、ずーっと森に引きこもってるより、外を冒険する方が絶対楽しいに決まってるじゃんね!!」

 溜まってたモノを吐き出すように喋りまくるエル。

「大体お兄様や長老たちは古いのよ!今の時代エルフだからって森にいたって意味無いもの。これからの時代はどんどん今まで以上に外に出て、色々な世界を知らないとエルフだけ置いてけぼりくっちゃうわ。お母様はまぁまぁ話分かってくれるけど、ホント頭の固い大人ってやんなっちゃうんだから!」




「こりゃ相当溜まってたね」

「ですね。なんかすみません」

「ふっ、アンタが謝る必要ないだろさ」

 エルの話を聞き流しながらヒソヒソ会話する二人。


「ちょっと二人とも!聞いてるの!」

「は、はいっ!聞いてますよ」

 ヒューイをジロリとにらむエル。

「えーっと、あ!エルさんはハーフなんですね!見た目じゃ全然分からなかったですよ」

 にらみつけに困り、ヒューイはとりあえず聞いてみた。

 ハーフとは、その名の通りエルフと他種族の間に生まれた者の事だ。

 耳のとんがりが無かったり、髪が黒だったりと、結構見た目で分かる者も居るが、エルのように見た目はまんまエルフな者も別に珍しくはない。


「私、お母様のエルフの血の方が濃いみたいで、お父様から受け継いだのって、このお気楽な性格くらいなんだってさ~」

「ははは、そりゃ親父さんもえらい言われ様だね」

「しょーがないのよ。実際お気楽野郎だったってよく聞くし。それに、お父様はお母様以外にもかなりの数の人と子供作ってたらしいからね~。あっ!似てるって言っても、私はそんなんじゃないからね!」


(それは父親としてはかなり問題あるのでは?)

 などと考えるヒューイを他所に、リンコさんはだんだん楽しそうな顔になってきた。



「ははははっ!なんだかグライン様みたいな親父さんだね」

 冗談で言ってみるリンコさん。

 王国で女ったらしの代表と言えばグラインなのだ。

「うん、だって私のお父様ってグライン様だもん」

「へーそうなんですか……って!えぇぇぇぇぇぇ!エルさんのお父さんってグライン様なんですか!!」

「うん、そーだよ。あれ?言ってなかったっけ?」

「聞いてませんよっ!」

 ジタバタするヒューイ。

「ちょいと待ちな。って事はお嬢ちゃんまさかミシュリアの娘かい?」

「そうだよ。あれ?リンコさんお母様とお知り合いなの?」

 いくら自分が仕える王ではなくても、エルフの女王であるミシュリアを、それも娘の前で呼び捨てにする者など早々いないはずだ。

「あぁ、若い頃にちょっとね。そーかいお嬢ちゃんがねぇ」

 自分が知る若い頃のミシュリアと見比べる様にエルを見つめるリンコさん。

「まぁ聞いてから言うのもなんだけど、若い頃のミシュリアによく似てるよ」

「えへへ、ありがと」

 母と似ていると言われ、素直に喜ぶエルはほんのり頬を赤くした。

「ま、性格は全然似てなさそうだけどね。お嬢ちゃんの方があの天然エルフよりよっぽどしっかりしてそうだよ」

実に楽しそうに笑うリンコさん。

 何十年たってもあの天然エルフの事は忘れるはずが無かった。

「ねぇリンコさん。お母様って若い頃どんなだったの?てゆーかどうやって出会ったの?何か面白エピソードとかないの?」

 母の昔話に興味しんしんな様子のエル。隣ではヒューイまで話を聞きたそうな顔で見つめていた。

「まぁ、ミシュリアについてなら面白い話の一つや二つあるけどね。でもアタシは仕事中なんだよ、話しこんでるヒマなんて無いよ」

「えーっ!お願いリンコさん。聞かせてよ~」

「こらひっつくんじゃないよっ!甘えりゃいいと思ってんのは母親と一緒だね!」

 腕にしがみつくエルを振り払おうとするが、これが全然離れない。

「やーだっ!話聞かせてくれるまで離れないよ!」

「えーい鬱陶しい!坊ちゃんも見てないでこのお嬢ちゃん離しておくてよ!」

「いやぁボクもちょっと聞いてみたかったりして。あははは」

 申し訳なさそうに笑うヒューイ。でもその目はしっかり期待している。

「お願いお願いリンコさ~ん」

「えーい!分かった話しゃいいんだろ!」

「え!いいの!?」

「ああ、だからどいとくれ」

「ハイッ!」

 元気良く後ろへ飛び退き、その場に座るエル。ヒューイもつられ隣に座った。

「ふぅ、まったく……まぁどうせだから、とっておきの話でも聞かせてやるよ」

「うんうん。早く早く~」


(親子ってのはこんなに似るもんかね……)

 少々呆れながら、リンコさんは話し始めた。









「そもそもの出会いはアタシの母と、ミシュリアの母さんのシェリルレイン様が友達だったって事からなんだよ」

「お祖母様と!」

 驚くエル。彼女が今は亡き祖母について覚えている事はほとんどない。しかし、自分が幼い頃亡くなってしまったのでしょうがないのだ。

「二人が知り合ったきっかけはよく知らないんだけどね。アタシが生まれる前かららしくて、アタシも小さい頃はよく母さんに連れられて森へ行ったもんさ。

「当時の女王様と友達とはいえよく森に入れましたね」

 ヒューイの感想は当たり前で、マザシェイプの森は基本的にエルフ以外お断りだ。国の特使でもない限り早々に追い出されるはずだ。


「森に行ったって言っても入り口だよ。シェリルレイン様は元々お体がそんなに丈夫じゃなくてね。森の入り口辺りに屋敷を構えてそこで静養している事が多かったのさ」

「それ私も聞いた事あるよ。エルフだけど森の毒はにあんまり強くなかったって。だから静養できるお屋敷を森の入り口に作ったって」

 ミシュリアの母シェリルレインは、エルフなら問題ない森の毒に対する耐性が他のエルフよりも低かったらしい。そのため体調を崩すことが多く、静養屋敷に行くことも多かった。

 そんな彼女は女王としての仕事を果たせない事も多かったのだが、彼女の二人の妹(姉大好き)の献身的な貢献により事なきを得ていた。

「子供の頃は本当よく行ってたんだけどね、アタシも大きくなると段々と行く機会も少なくなってさ、さらに仕事も出来たもんで尚更行かなくなってさ、そんなこんなで森に行かなくなってニ年くらいした頃の話さ」

「ちなみに、お仕事って何です?」

「騎士団さ」

「リンコさんって騎士団員だったんですか!?」

「ああ。と言っても四十年も前の話だよ。それに、今とやってる事はあんまり変わらなかったさ。当時の騎士団には技術者が集められた部隊があってね。ふだんは魔導具の研究やら武器作ったりが仕事だったんだよ」

「へーそんな部隊があったんですか……」

 ヒューイが知らないのも無理はない。当時の騎士団は今よりも様々な部隊があり、歴史の中に埋れた英雄達も大勢居たらしい。

 闇の軍勢との戦いは現在よりも激しく、研究が主な仕事だった若きリンコさん達、第六師団所属特別戦具研究部隊も前線への派遣が決定された。

 研究が主とはいえ、曲がりなりにも騎士団員。それなりに鍛錬は積んでいるし、魔導具研究のせいか、魔法が得意な研究員もそこそこな数がいた。

 せっかくの有能な戦力を訳の分からない研究に使うより前線への投入をと騒ぎ始めた者たちが居た事からリンコさん達の部隊から、特に戦闘に向いている者が北の砦に向かうことになったのだ。



 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



 話は四十年前へとさかのぼる。







 ドンドンドン!

 ドンドンドン!


「うるさいなぁ~せっかく寝れそうだったのに!」

 ベットからモゾモゾと起き出したのは小柄な少女。

 大量の髪の毛をまるでしめ縄みたいな三つ編みにしている彼女は、第六師団所属のドワーフ族のリンコさん。

 翌日に始めての戦場へ向かうことになり、寝不足じゃマズイと思い夕方からベットに入った彼女は数時間後やっとこ睡魔に体を任せられそうになったところだった。



 ドンドンドン!

 ドンドンドン!


「はいはい今開けますってば!」

 鳴り止まないノックの音にイライラを募らせながら、寝間着の上に薄手の長そでを羽織り自分の部屋のドアへと向かった。

 

 今彼女が居るのは王国騎士団員に与えられた宿舎の自室だ。長い廊下にいくつもの部屋が並ぶその姿は木造のホテルの様だ。

 基本的に騎士団以外は入れないはずのこの敷地。さらにはこんな夜中(本人は夜中のつもりでもそんなに遅い時間ではない)に部屋に押しかけてくるのなんて、大体がいたずら目的の同僚とかそのへんなのだ。

 

「まったくもう。誰なのさ~。って!ぐおっ!」

 ドアを開けたリンコさんを何かがギュっと捕まえた。

「リンコちゃぁぁぁぁん!」

「ぐほっ!く、苦しい!」

 リンコさんを苦しめる謎のやわらかい物体は、彼女の視界を完全に遮り離そうとはしなかった。

「会いたかったよぉぉぉ!リンコちゃん!」

「ぐっ、ちょっまっ!誰だか分からないけどとりあえず離して!」

 必死に抵抗しそのやわらかい物体から逃れたリンコさん。ゲホゲホむせる彼女が顔を上げると、二年ぶりとはいえ一発で分かる顔の、だからと言ってこの場所には絶対に居ないであろう少女が立っていた。

「もしかしてミシュリア?」

「うえぇぇぇん!そうだよミシュリアだよ!」

 またもリンコに抱き着くミシュリア。今度は膝をおり、リンコのあんまりやわらかくないところへと顔をうずめて泣き始めた。

「なんで貴方が!ってかよく見ればドロドロじゃない!どうしたの?」

「うぇぇぇん!」

 リンコさんがいくら聞いても泣いてばかりのミシュリアさん。



「ほっほーリンコ嬢のお友達ってのは本当だったんですね」

「あれ?若旦那?」

 ミシュリアに気を取られて気付かなかったが、部屋の外にはもう一人、オーバーオールを来たぽよんぽよんの三毛猫が立っていた。

「どうもどうも。夜分に申し訳ないですね。さっき王都に着いたもんで」

「もしかして若旦那がミシュリアをここへ?」

「ええそうですよ。王都へ帰って来る途中の街道で朽ち果てそうになってましてね。とりあえず保護してみたが、我々も仕事があるので王都に一緒に来てもらいましてね。んでもって王都に知り合いはいないかと尋ねたらリンコ嬢のお名前が出たので連れてきたのですよ」

 この饒舌な三毛猫ケットシーは王都でも指折りの商人一家の次期当主だ。普段から騎士団に物品搬入などで顔を合わせる事も多く、その人柄もいいため騎士団からの信頼は厚かった。

「しかしよくここまで入ってこれましたね」

「ふふふ、商人は顔が広くてナンボですよ。ここらの騎士団さんは顔なじみばかりですからね。案外簡単でしたよ」

 得意げに笑うコーラル。はらがたぷたぷ揺れている。

「んでわ、確かにお届けしたましたからね。私はまだ仕事があるのでこれで」

「あ、どうもありがとうございました。ほら、ミシュリアも泣いてないでお礼言って」

「うっぐ、ありがとございました」

「いえいえ、美しいお嬢さんのお役に立てて光栄ですよ。何か御用がありましたらお店の方にでもぜひどうぞ」

 にっこり笑い綺麗にお辞儀したぽよぽよケットシーは、尻尾をふりふりしながら去って行った。




「で、何でこんな所に?」

「うっぐえっぐ」

「泣いてても分からないよ?とりあえず話してみて」

 リンコが知るミシュリアはいつもにこにこしている少女だった。多少天然なところもありぬけてはいたが、この王都へ一人で来るなんて大それた事を、そう簡単にしてしまうほど大胆ではなかったはずだ。

「……実はお見合いの話があったの」

「お見合いってミシュリアが?」

「うん。私は嫌だって言ったのに、叔母様達が次期女王なんだからさっさと旦那を決めないとって言って……」

「ちょっと待って、まさかそれが嫌でここまで逃げて来たなんて言わないよね?」

「うっ、だって、嫌だったんだもん……」

 リンコに図星をくらってへこむミシュリア。その様子は可愛いが、その行動は結構な大問題になりかねない行為だった。

「その相手ってまさかどっかの集落の長の息子とか?」

「うん、確かセルツォーネの集落の長さんの息子さんだって。私会った事もないのに嫌だったんだもん……」

「セリツォーネか……」

 エルフの森を訪れるようになり、母からなんとなくエルフ達の勢力図みたいのを聞いたことがあった。ミシュリアが言ったその集落はもっとも古い三つの集落の一つで、そこの長の息子ともなれば家計的には王族の次くらい、王国で言えば貴族クラスのいい家なのだ。

「それ、問題にならなきゃいいけど……」

「え?問題になるの?」

「はぁ、ミシュリア、貴方次期女王なんだから自分のとこの勢力図くらい覚えておいてよ。セリツォーネは最古の三集落の一つでマザシェイプの次に大きいとこでしょ?そんな集落の長の息子を見合いもする前にふっちゃったら文句言われるに決まってるじゃない。下手したらシェリルレイン様にまで迷惑かける事になるわよ」

「お母様に……それはダメよ。お母様にこれ以上ご苦労かけたらダメなのよ」

「でしょ、まったく後先考えず行動するのは全然変わってないのね」

「リンコちゃん、どうしよう……」

 リンコに指摘され、初めて自分がやっちゃった事に気付いたミシュリア。

 勢いとは怖い物で、ここまで来る間ひたすらにお見合いが嫌だと思うあまり、周りの事なんて全然考えていなかったのだ。どんどん顔が青くなるミシュリアを見てさすがにかわいそうになったリンコさんは、尽かさずフォローを入れといた。


「まぁあっちは叔母様達がうまくやってると思うから、そこまで心配する必要ないと思うけど。なるべく早く帰った方がいいよ。私も明日北の砦に発つからそんなに一緒にいてあげられないし」

「え……リンコちゃん研究者なのに戦場に行くの?」

「うん。研究ばっかしてないでたまには前線で敵倒してこいってさ。そんなに長い間じゃないみたいだけど、まぁ息抜きのつもりで行って来いって言われてさ」

「そんなぁ……」

 息抜きで戦場に行って来いと言うのもどうかと思うが、それをすんなり受け入れたリンコさんにもだいぶ問題はありそうだ。

「うぅどうしよう……」

「どうしようって言われても」

 リンコさんはこの困ったミシュリアにめっぽう弱い。泣きそうな彼女を見てるとほっとけなくなるのだ。

「はぁ……しょうがないなぁ。明日出発する前に王宮に連れてくから、シノ様に事情説明して森まで送ってもらえるように頼んであげるよ」

 国王の第二王妃のシノ・ヤマシタは、元々が日本の一般人だったせいか王族のくせにやたらと街に出てくる事が多い。

 そのせいか兵達からも好かれ、彼女自身も兵達とのコミュニケーションを大切にしているため「何かあったらシノ様に」というのが当たり前になっていた。


「で、でも王族の人に迷惑かけるわけにわ……」

「ミシュリアだって一応エルフの王族なんだからいいんじゃない?」

「うん……でもね、エルフと王国って微妙な関係なのよ。借りを作っちゃダメって言われてるし」

「勝手に飛び出して来といてよく言うわ」

「うぅぅ。でもやっぱり王族さんには頼めないわ……あっ!」

「ん?なんか思いついた?」

「ねぇリンコちゃんって北の砦に行くんだよね?」

「うんそうだけど……あっダメだよ!絶対ダメだよ!」

 ミシュリアの考えが分かったリンコは全力で拒んだ。

「うぅ、まだ何も言ってないのに……」

「言わなくても分かるよ!どーせ一緒に連れてけって言うんでしょ」

「ぅ……」

「やっぱり。ダメダメ!遊びに行くんじゃないんだからね」

「うぅ……で、でも、砦まで行けばそこから森までは一人で帰れるからさ、一緒にくっついてっちゃダメ?」

 うるうるした瞳ですがりつくミシュリア。

「ダメ!大体私一人で行くんじゃ無いんだから!隊長に怒られるって!」

「うぅ。リンコちゃんの意地悪」

「何て言われてもダメなもんはダメなの!」

 ミシュリアの視線から逃れる様に彼女に背中を向けたリンコさん。しかしその行為が仇となるなんて自分で気付くはずなかった。

「今回ばかりは泣いたってダメだからね」

 

 背中を向け、心を鬼にしてキツ目に言ったリンコさんだったが、ミシュリアからは返事などなかった。

 

 (ちょっと言い過ぎたかな……)


 若干の罪悪感にさいなまれ、振り返ろうとした彼女に背後からおもいっきりミシュリアが抱きついてきた。

「のわっ!ちょミシュリア!」

「ふふふふふ、リンコちゃんがダメって言うなら最終手段よ」

 ちょっぴり声を低くし、変な笑いをするミシュリア。

「なっまさか!」

 過去にも受けた最終手段を思い出し必死に逃れようとするリンコさんだが、時すでに遅し。

「リンコちゃん覚悟!」

 声と共にリンコさんの体(主に脇と脇腹)をくすぐりまくるミシュリア。



 こちょこちょこちょこちょ

「ははははははちょっやめ、ぐっへへへはははは、こ、こら!」


 こちょこちょこちょこちょ

「んふふふふんふふや、こらっんふふははは」

 

 こちょこちょこちょこちょ

「ちょへっへへはん、い、息がははははへへへへ」


 こちょこちょこちょこちょ

「ねぇリンコちゃんいいでしょ?」


 こちょこちょこちょこちょ」

「うへへへへへ、わかっは!わかっははらひひひひひひ」


 こちょこちょこちょこちょ

「分かったって事は一緒に行ってもいいの?」

 

 こちょこちょこちょこちょ」

「いい!いいからやめへ!っふふふへへはははは」


 涙を浮かべて笑い転げるリンコさん。ミシュリアの最終手段は効果絶大だったようだ。

「ありがとリンコちゃん!持つべきものは友達ね!」

 にっこり笑顔でぴょんぴょん跳ねるミシュリアの足元で、ピクピクしているリンコさん。

「はぁはぁはぁ……な、なんでアタシがこんな目に……」

 神様の理不尽さを恨みながらプルプルと生まれたての子鹿みたいな姿で立ち上がるとゆっくりとベットに腰掛けた。

「はぁぁ……」

 先の事を思えば不安でしかないリンコさん。

「隊長になんて説明しよう……」

 これ以上の抵抗は出来ないとあきらめ、砦に一緒に連れて行くための口実を、夜通し考える事になるリンコさんだった。




毎度ありがとございます。


今回のお話はいくつかあった案から、一番自分でも先が予想できないものを選びました。

いくつか書いてからだったので投稿に時間かかっちゃった。。


過去話は前から入れたかったけど、まさかここで!みたいな。

いちお今回の昔話は短めの予定です。

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