34話 『出会いはいつも突然で』
2話連続!
でも話短め。。
フォレイティアス王国
北部パラミア領
二ヶ月前、真一郎によって当時の最悪な領主が裁かれてから、この地はだんだんと平和を取り戻していた。
現在は、真一郎の代役としてライオネルの祖父でもあるジェダイル・ファスコという老人が領主代行をしている。
息子夫婦に家督を譲り、故郷でのんびりと畑いじったり子供たちに読み書きを教える日々だったが、真一郎が領主の代理を探している事を知ったライオネルが推薦し現在に至っている。
トントン
「開いてるぞい」
部屋をノックする音に、書斎で何かを書いていたジェダイルは机から目を離すことなく答えた。
「失礼します」
声と共に部屋に入って来たのは、まだあどけなさが残る茶髪で眼鏡の少年だ。
健康的とは言い難い白い肌に大きな瞳。身長もさほど大きくなく、体つきも細身のため、黙っていれば女と間違えられてもおかしくなさそうだ。
「おお、まっておったぞ」
「父様お呼びでしたか?」
親子にしては年が離れすぎているような二人。事実、血の繋がりは無く目の前の青年ヒューイは養子だ。
「ヒューイよ、お主にこれが届いておる」
そう言って差し出された紙には、でかでかとフォレイティアス王家の紋章が輝いていた。
「これって王家からの手紙ですよね?父様にじゃなくてボクになんですか?」
「まぁ、とりあえず見てみぃ」
何だか意味あり気な笑顔のジェダイル
「えっと……招待状?」
手紙を開けて出てきたの招待状と書かれた紙。
「なんでボクに?」
不思議がりながら読み進めるとその理由はすぐにわかった。
「……つきましては、貴殿の案を採用したく王都まで……って!えぇ!!」
驚きのあまり何度も手紙を読み返すヒューイ。
「父様!これは一体!?」
「ふっふっふ。お主の書いた北の砦奪還作戦を王都へ送っておいたのじゃよ」
「そ、そんな……あれは別に王都に送るつもりで作った訳じゃないって言ったじゃないですか!」
北の砦が敵の手に落ち二ヶ月。
敵に落とされたとはいえ、王国の技術を尽くした砦はそう簡単に奪還できるはずもなく、かと言って敵が砦を拠点に侵攻を始める訳でもなく、お互い睨み合っての膠着状態が続いていた。
もちろん王国側もただ手をこまねいて見ていた訳では無い。北の砦を囲む様に臨時の駐屯地を幾つか作り、万一に備え敵の最有力侵攻ルートと思われるマザシェイプの森へ特使を派遣。その地を治めるエルフ達への協力をあおいでいた。
そんな状態を打破するために真一郎が考え出したのが〈策士募集〉。
簡単に言えば、北の砦の奪還作戦を一般公募するというとんでもない物だった。ちなみにキャッチコピーは「君も今日から諸葛孔明!」
王国国民なら誰でも応募できるこれは、名を上げたい下っ端兵や王族に取り入りたい下級貴族、一攫千金を目論む一般市民など数多くの応募があったらしい。まぁほとんどの物は問題外な作戦ばかりだったらしいが、中にはまともな物も多少なり存在し、さらにそこから吟味し、優秀な作戦を練った者を直接王都へご招待しますとの事だ。
「ヒューイよく聞け。お主はこんな田舎に居るよりも、王国のためになる仕事をするんじゃ。お主の頭脳はきっと殿下の、ひいてはフォレイティアス王国の役にたつはずじゃ」
「父様、お話は有難いんですが、学校もやっと起動に乗り、子供達もだいぶ明るくなりました。彼らを置いて今ここを離れる訳には……」
「心配せんでも子供達の面倒はワシが見る。師が国の策士にでもなれば、やつらも鼻が高いじゃろ」
ヒューイは領主邸の片隅で子供達に読み書きを教えている。
元々はジェダイルが故郷でやっていた事だが、パラミアに来てからはヒューイに任されていた。
「いやぁでも、ボクなんかじゃとても……」
王都へ行きたいのか行きたくないのか。そんなもん行きたいに決まってる。日本の若者が東京での生活に憧れる様に、フォレイティアス国民にとって王都は憧れの街なのだ。
「えーい、ウジウジしおって!素直に喜ばんか!」
いきなりヒューイの頭を捕まえグシャグシャするジェダイル。
「ちょっ父様やめて下さいよ~」
「うるさいっ!親の言う事聞かんヤツはこうじゃ!」
グシャグシャグシャグシャグシャグシャ
「ぁぅー」
「のぉ、ヒューイ、お前はワシの自慢の息子じゃ。胸をはって王都に行ってこい」
「父様……」
「ふっ。しっかり働いて、がっぽり稼いでさっさと親孝行せい」
「別に稼ぎに行く訳じゃないんですけど」
自分の頭をつかむ父から伝わるぬくもり。自分をここまで育ててくれた父には感謝の言葉なんかじゃ足りないくらい感謝している。
「そうじゃ、ついでに嫁の一人も探して来いよ。男ってのは嫁がいてなんぼじゃ」
「それ、がっぽり稼ぐより難しいと思いますよ……」
「はっはっは。お前はもう少し自分に自信を持て!顔だって悪くないんだ、その気弱な性格をなおせば自然と女の方から近付いてくるわい」
実際、メイドさんや領民の女性陣にはヒューイのファンが結構居る。たとえその理由が〈守ってあげたい男子No,1〉だとしても、人気がある事に変わりはない。
「父様、ありがとうございます」
「礼ならシンゲンに言え。アレがお前の策を気に入り王都に送れと言ってきたのだからな」
「シンゲンさんが?」
「ああ、まがりなりにも元騎士団だ。策を見て最初は驚いていたが、子供の様にはしゃいでこれはいい!って言っておったぞ」
パラミアに来てからジェダイル達の部下になったシンゲンと言う男は、元王国騎士らしい。なんだか訳ありのようで、騎士団から抜けてからはパラミアの山の中でひっそりと暮らして居たらしいが、先の領主の悪行を訴えるために王都へ出向き、そこで真一郎に出会い、えらく感動しパラミアに戻ってからも機会があれば王都へ戻り真一郎の元で老い先短い残りの命を尽くしたいと願っていた。
「で、そのシンゲンも一緒に行くらしいからの。頼りにするんじゃな」
「そうですか、シンゲンさんが一緒なら心強いですよ」
ヒューイはひげもじゃの大男を思い笑った。
(見た目はちょっと怖いけど、すごい良い人なんだよね)
でっかい熊みたいな彼はよく子供達とあそんでいる光景を見かける。大きな体を折り曲げて女の子たちのおままごとに付き合っていた姿は実に微笑ましかった。
「さて、そうと決まれば支度を急げよ。数日中にジゼル様も戻られるじゃろうから、お前も特使隊と共に王都に行くんじゃぞ」
「……はい。分かりました」
現在、パラミア領と隣のエディオーン領の境目あたりにあるマザシェイプの森に訪れている特使は、ここパラミアから出発した。
今回彼らが使った超極秘移動用船は、パラミアから流れ王都のすぐそばを通り、海へと流れる大河を逆走して進んできた。今までパラミアから王都へは船を使っての移動があったが、流れがそこそこあるため逆走して走行できる船など無かったのだが、その逆走を実現させたのがクレイル筆頭に造られた研究チームだ。
元々あった魔力を使った船の構想に、真一郎のちょっとしたアイディアで一気に実現されたそれは〈魔導船〉と呼ばれ、魔力を動力にしたまったく新しい船で、今回はその試験走行もかねてのパラミア行きとなったのだ。
「では父様、片付けておかないといけない仕事とか、引き継ぎとかもあるので失礼しますね」
「うむ」
ヒューイは何も子供に勉強を教えているだけではない。パラミア領の財政関係の仕切りもやっているのだ。もちろん彼以外にも父がどこかから引き抜いてきた優秀な部下達がいるため、彼らに今後の事を頼まなくてはいけない。
(えーと、誰にどの仕事をお願いしようかなぁ……)
部下の顔を思い浮かべながら部屋を後のしようとしたヒューイだったが、彼が扉に手をかけようとしたのとほぼ同時に扉がノックされた。
ドンドン!
「ご隠居さんいますか?」
でっかい音と共に中の返事も聞かず入ってきたのは、ひげもじゃの大男。
「うわっ!」
「ぬわぁ、なんだ若旦那もいたんかい」
いきなり入ってきたシンゲンとぶつかってしまい、ヒューイは尻もちをついてしまった。対するシンゲンは何事も無かったかのようにその場に立っている。
「いてて、シンゲンさんどうしたんです?」
「わりぃわりぃ急いでたもんでな」
そう言ってヒューイの手をひょいとつかみ一気に起き上がらせるシンゲン。
「どうも。そうだシンゲンさん、ありがとうございました」
立ち上がると同時に礼を言うヒューイ。シンゲンはきょとんとしたが、すぐに何の事か理解したらしい。
「作戦の事か?なーに気にする必要ないさ。実際ありゃぁ殿下の気に入りそうな作戦だしな。それを日の目を見ないままにしとくのはもったいないって事さ」
真一郎についてシンゲンはそこまで詳しくはない。しかし、実際会った感じやそれ以降聞く噂によれば彼もきっと気に入る作戦だと思い、ジェダイルに賭けあって王都へ送らせたのだ。
「なんたって被害人数を敵も味方も最低限に抑えられるんだ。殿下ならきっと採用すると思ってたが、まさかこんなうまく行くとわな」
ガハガハ笑うシンゲン。正直ヒューイが王都に呼ばれれば、それにくっついて自分も行くつもりだったので、作戦がうまく行きこの上なく上機嫌なのだ。
「で、何か用だったんじゃないのかい?」
二人の会話を聞いていたジェダイルだが、シンゲンが中々本題に入らないので催促してみた。
「おっといけねぇ。ご隠居さんにお客人だよ。エルフのお嬢さんでなんでもジゼル様のお友達だとかなんとか」
「ほう、エルフかい」
今まさにジゼル達はエルフの里であちらの要人と会っているはずだ。そんな時に自分を訪ねるエルフとは何用なのかジェダイルは余りいい予感はしなかった。
「なんでもご隠居さんにお願いがあるとか言ってたぞ。通していいですかい?」
「ふむ、とりあえず会ってみるか」
「んじゃ呼んできますよ」
そう言ってシンゲンは部屋の外で待たせてあった彼女を呼んだ。
「おーい、ご隠居さん会ってくれるってよ」
「ホント!」
元気な声と共に部屋に入ってきたのは、金髪の美しい髪をポニーテールにしたエルフの少女だった。
(綺麗な人だなぁ)
ヒューイもいちお普通の男子だ。彼の第一印象は当たり前で、彼以外が彼女を見てもだれもがそう思うだろう。
「突然すみません!私エルって言います。こちらの領主様にお願いがあってきました!」
元気ハツラツ!と全身が主張している彼女は典型的なエルフなのだろう。金髪にとがった耳、白い肌に目鼻立ちのはっきりとした顔。皆が知っているザ・エルフの姿の少女は軽くお辞儀をして話を続ける。
「ジゼルちゃんに聞いたんだけど、ここには魔導船っていう乗り物があるんですよね?私もそれに乗せてもらいたいんです!」
自分の要件だけさっさと伝え、キラキラした目でジェダイルを見つめるエル。
「うむ。まず初めにワシは領主代理のジェダイルじゃ。よろしくな」
「え?あっ!よろしくお願いします!」
ジェダイルにつられお辞儀をするエル。
「で、王都へ行って何をなさるんじゃ?」
「えっと、真一郎殿下に会ってみたいんです!」
「ほう殿下に……」
ニコニコ笑顔のエルは嘘なんてついて無いように見える。
「殿下に会ってどうなさるんじゃ?」
「うーん、色々言いたい事あるけど。まずは噂通りの人なのか知りたいかな。私が昔会ったときは普通の男の子だったし」
過去に会ったことのある幼い少年を思い出すエル。
「なんじゃ殿下にもお会いした事があるのかい?」
「うん。でもまだ彼が日本に行く前だから小さい時ね」
「ほう……うむうむ。ちなみに聞くが噂ってのはどんな話じゃ?」
「え?えっと、確か姫様姉妹を始め城中のメイドや騎士団にまで手を出してる色魔で、ついでに戦場では恐ろしい魔法を使って敵を殲滅するとかなんとか」
「ププ、お嬢ちゃんそれ信じてるのかい?」
シンゲンが笑いをこらえながらエルに聞いてきた。
「いや、さすがにそこまでひどいとは思ってないけど……」
「プププ、がはははは!もう我慢できん!あんなでたらめな噂信じるヤツがいるとはな!がははははは」
笑いを堪えられずに腹を抱えるシンゲン。つられてジェダイルやヒューイも笑っていた。
「え?でたらめなの?」
「ははは、お嬢さん殿下はそれとはまったく正反対なお人じゃよ。確かに言い寄る女は多いらしいが、実に紳士的に皆をあしらっておいでじゃ。姉妹様達にだってまだ手は出してないらしいしの。それに殿下はろくに魔法が使えないんじゃぞ」
「そうなの!」
ジェダイルの言葉を素直に信じ、驚くエル。
「ああ、本当じゃ。なんでも、先の戦で一気に真一郎様の人気が上がってな、言い寄ってくる女を少しでも減らす為に、わざとそんな噂を流したと聞いたぞ」
ちなみにこの真一郎のイメージを一部だけかなり落とす噂の大元はW義母達だ。あっちこっちから真一郎への嫁(愛人でも可)の話が出始めたため、それらを断るために、父親ゆずりで女癖が悪く、そっち方面にはだらしないから嫁に来ても泣くだけだと言いたかったらしい。しかし、実際はそんな彼ならすぐに落とせるとふんだ一部の貴族やら豪商やらが、一族でも一番の美女を次々に王宮へ送ってくる事態に陥ってしまった。
結局、王都におふれを出して、真一郎の嫁や愛人はすでに定員オーバーだと言って無理矢理納得させたのだが、だったら最初からそうすればよかったじゃんと言った真一郎が、W義母にたっぷりしぼられたのは言うまでもない。
「そうなんだ、噂はやっぱ嘘だったんだぁ」
ジェダイルの話を聞き、なぜか安心したような顔をしたエル。
「でもやっぱ王都に行って直接話したいなぁ」
昔を思いだすエルだったが今の自分の立場では、今回の様に無理しない限り王都へなんか行けそうにないのだ。
「ふむ、訳ありじゃな。しかしだ、問題の魔導船についてじゃが、ありゃワシらの管轄じゃないのじゃよ。ジゼル様が戻られてから聞いてみてはどうじゃ?」
「えっと……ジゼルちゃんが戻ってこないと出発しないって事ですか?」
「そうじゃ。そもそもありゃジゼル様達、特使隊が乗ってきたのじゃからな。彼らがまた乗って王都へ帰るんじゃよ。聞いてなかったのかい?」
「う……そ、そう言えばそんな事言ってたかも……」
ジゼルの話もろくに聞かずに、ただ王都へ行きたいがために突っ走ってきたエルは自分の都合のいいように話を解釈していた。
「ジゼルちゃんが戻ってからか……まさか兄様達も一緒に来るなんてないよね……」
「ん?何か言ったかい?」
「あ、いえいえ!何も。じゃぁ、ジゼルちゃんが帰ってくるまでここで待たせてもらってもいいですか?」
「それは構わんが、何か身分を証明できるもんはないかい?さすがにジゼル様と友達ってだけで、置いておく訳にはいかんからな」
ジェダイルとしては、彼女の言葉を信じない訳ではないが、証拠もなく信じるほどお人よしでも無警戒でもない。
「うーん……身分をねぇ……あ!これじゃダメです?」
そう言って彼女が見せたのは首から下げたペンダントだ。美し細工で出来たそれは花と鷲の様な鳥がえがかれた物だった。
「ほう、こりゃまた見事な細工じゃな……うむ。この紋章は……」
ペンダントの花の中心にはジェダイルが見た事がある紋章が書かれていた。
「そうかいそうかい。お嬢さんがね。分かった、ジゼル様が戻られるまでここに居るといい」
「ホントに!」
「ああ、好きに過ごすといいさ。ヒューイ、彼女に部屋をあてがってやってくれ」
「え?いいんですか?」
「ああ、問題ない。そうじゃクレイル様のとこに連れてって差し上げろ。ジゼル様のお友達ならクレイル様ともお知り合いじゃろ?」
いたずらっぽく笑うジェダイル。
「え!クレイルちゃんも来てるの!?」
「ええ、魔導船の調整の為に。ただ、こちらに来てからずっと魔導船で寝起きして色々いじっているのであまりお会いしてませんね」
丁寧に説明するヒューイ。そんな彼を見て驚いたようなエルはとんでもなく失礼な事を口にした。
「君って……ひょっとして男の子?」
「なっ!」
「いや、可愛い顔してるからてっきり女の子だと思ってたよ」
にっこりするその笑顔には悪気なんてひとかけらも無い事を物語っていた。しかし、天然ほどタチが悪い物は他には無いだろう。
「ップ!あははははは!ほれヒューイお前も言い返せ」
「がはははは!まぁ確かに若旦那はかわいいな」
大爆笑の爺さん二人にどんどん顔が熱くなり、真っ赤になるヒューイ。
「ボクは男です!」
ちょっとぷんぷんしてる様が余計に可愛く見えるのは本人には分かっていない。
「ごめんごめん。あやまるよ。ヒューイ君だっけ?機嫌なおしてよぉ」
自分より身長の高いエルに頭を撫でられ余計に赤くなるヒューイ。
「ちょ!子供扱いしないで下さい!」
バタバタと手を振って彼女の手を払いのけたヒューイは一歩後退し彼女を恨めしそうに半泣きで見つめた。
「ふふ、ヒューイ君は可愛いね!可愛いのは良い事なんだから、もっと自信を持って!」
「イヤですよ!」
なだかよく分からない持論を持ってヒューイをなでなでするため迫るエル。
「なっ!」
そんなエルから逃げ部屋を逃げ回るヒューイ。
「がははは、若旦那負けてぞ~!頑張れ!」
「はっはっは!こりゃいいわ」
相変わらず他人事みたいに笑う爺さん達。
「エルさん!ほら、クレイル様の所に案内しますから行きましょ!」
逃げながらなんとか突破口を考えるヒューイ。
「そうだったね。クレイルちゃん久しぶりだなぁ。よし行こう!」
そう言ってそれまでと比べ物にならないくらいのスピードでヒューイに追いつき、彼の手を掴んでさっさと部屋を後にするエル。
「領主様!ありがとうございます!」
エルは大声で礼を叫び廊下を走り去っていった。
「がははは!いやぁ笑った笑った。あんな困った若旦那初めてですな」
「はははは、確かに、いいもん見たわ」
二人が走り去り、部屋に残った爺さん達はまだ笑っている。
「でもよかったんですかい?」
「ん?あの娘の事か?」
「ええ、まぁクレイル様に会わせりゃすぐに分かるとは思いますが、エルフってのがタイミン的に……」
ジゼル達特使をよく思わないエルフも居るはずだ。行く前から分かっていたその事がどうにも気になるシンゲン。
「大丈夫じゃよ。彼女が見せてくれたあのペンダント、あれに付いてたのはエルフ王家の紋章じゃよ」
「エルフ王家の?って事はあのエルって娘エルフの王族ですかい?」
「たぶんな。確か今の女王ミシュリア殿には三人の男子と一人娘がいたはずじゃ。それがあのお嬢さんじゃろう」
「へぇ……」
エルフは王国にいればごくまれに出会う機会がある種族だ。シンゲンも王都でツェルドに会ったし、彼の元同僚にもエルフが居た。しかしエルフの王族となると話は別で、彼らは森からは決して出てこないのが一般的だ。王族なのに王都に住んでいるツェルドはかなり珍しいケースなのだ。
「ん?ちょっと待てよ、ミシュリア様の一人娘って言やぁ確か……」
「お、さすが年の功。知っておるか?」
「年はお互い様でしょ。なるほど、どおりで王都へ行きたい訳だ」
なんだか妙に納得したシンゲン。
「まぁ、ジゼル様が戻られたらなんとかして下さるじゃろ。ワシらはそれまであの娘の面倒を見てればいいだけじゃ」
ある意味丸投げなジェダイルの発言にまたも笑うシンゲン。
「がははは、ご隠居さんらしいよ」
「はは、人任せは長生きの秘訣じゃよ。さて、仕事の続きでもするかの」
そう言って仕事机に戻るジェダイル。
「んじゃ俺も戻るかね」
そういって部屋を後にしようとしたシンゲンだったが、それをジェダイルが呼び止めた。
「シンゲン、ヒューイの事よろしく頼むぞ」
「ええ、大丈夫ですよ。殿下に仕えたいってのはあるが、若旦那が王都でどこまで出来るかってのも楽しみですからね。しっかり見守りますよ」
「すまんの。くれぐれも甘やかさんでくれよ」
「はは、分かってますって。それじゃ俺はこれで」
今度こそ部屋を後にしたシンゲン。
「子の旅立ちってのは何度経験しても寂しいもんじゃな……」
ジェダイルにはヒューイ以外に二人の息子と二人の娘が居る。息子達は一時的に騎士団に入隊し、娘たちは次々嫁いでいった。四人がそれぞれ家を出たのははるか昔の事だったが、今でも鮮明に覚えている。
「いかんな……年はとりたくないもんじゃ」
すこしだけうるんだ瞳をごしごしこすり、書類整理の仕事にもどるジェダイルだった。




