31話 『運命・使命・決心・誓』
どーもです!
戦から七日後、いつもなら勝利にお祭り騒ぎの王都だが、今回は少々様子が違った。
砦の損壊に、亡くなった兵の数。どれを取ってもここ二十年くらいで一番被害が大きい。
中でも一番被害が大きかったのは北の砦。中央砦同様、夜中の奇襲に始まりゴーレムコアの発射。さすがにアンデッドロードは居なかったが、その代わり陸上魔獣最強と言われているベヒーモスが複数投入されていた。
指揮を取っていたライオネルと同行したキキの活躍により最悪の事態は避けられたものの、死傷者の数は中央砦よりもはるかに多かった。
それでも勝利に変わりはない。何より真一郎の初陣なのだ。通常なら凱旋パレードがあったりしてその後お祭り騒ぎになるのだが、真一郎本人からの希望により、今回はそれらの祭り騒ぎ全般をやらない事になっていた。
「真一郎殿下は兵達の死を、ご自分の家族を失ったかのように悲しんでいる。今はそっとしておこう」
そんな話が王都中に広がり、心優しい真一郎を心配した市民達は、何事もなかったように日常を送りつつ、彼が元気になるのを待っていた。
中には「兵として情けない」という意見もあるが、それでも市民には、前の領主の断罪での正義感に付け加え「殿下は心優しいお方」という印象を強く植え付けた。
真一郎に対する評価がぐんぐん上がっている頃に、事態は急展開する事になるが、王都の住民はまだ誰もその事には気付いてはいなかった。
王宮の廊下を不機嫌そうに歩くレイラ。
W母達に用事を言いつけられ、とある三人を探している最中だった。
「まったく、あんなとこで何やってるんだか……」
あっちこっちで聞き周った結果、件の三人は偶然にも同じ場所に居るらしい。
長い廊下を歩き、付いたところは王宮の端っこの大きな引き戸の部屋。
「おーい、はいるぞ~」
特に気を使うでもなく堂々と中へ入ったレイラを出迎えたのは異様な集団だった。
「なっ……」
「「あ、レイラ姉ぇどしたの?」」
キョトンとこちらを見る双子の妹達。その姿はショートパンツにシャツにエプロンというまぁまだ許せる範囲の服装だ。しかしその隣には絶対的危険人物的な服装のマッチョのオカマが居た。
「……団長、なんですかその恰好……」
「あら~ん。知らないの?男子なら誰でも憧れるっていう裸エプロンよん」
ピンクのひらひらエプロンで、逞しい肉体を包み込んだマッチョなオカマさんはくねくねとしながら料理をしていた。
「どーみても変態ですよ!!」
こらえきれずに上司につっこんでしまったレイラだったが、当のえんじぇるちゃんは人差し指をたて「チッチッチ」としていた。
「いちお下にビキニ履いてるからギリギリセーフよん」
全然セーフじゃないが、本人にはその自覚が無いらしい。
「レイラ様、何か用事があったのでは?」
異様な雰囲気の室内に物怖じし、固まり気味のレイラにどこからかひょっこり出てきたガルルートが聞いてきた。
「ん、ガルルートも居たのか。えっと、ミーとクー、シルフォーネ母様がお呼びだ。それに団長は母様がお呼びですよ」
「あら、やっとお呼びが来たのねん」
「団長、呼ばれる事知ってたんですか?」
「え?ま、まぁね。ささ、二人とも行きましょう」
なぜかいそいそと部屋を後にしようとするえんじぇるちゃん。
「仕方ないなぁ~。がるるん後お願いしてもいい?」
「え?」
「料理自体は出来上がってるから、兄様のトコに届けてもらってもいい?」
「ま、まぁ構いませんが……お二人が届けた方がいいのでは?せっかく上手に作れたんですから」
「でもお母様に呼ばれちゃってるからね」
「だね~」
二人で声を揃え、ガルルートが持って行く事は決定のようだ。
「それじゃ後はお願いねん」
ハートウインクのえんじぇるちゃんと双子が部屋を後にし、レイラもそれに続いた。
「ふぅ……さ、運ぼうかな」
双子に振り回されるのに慣れっこな彼女は四人を見送り、特に愚痴をこぼす訳でもなくテキパキと配膳仕度を整えた。
「それにしても、こんなに食べれるのかな?」
車輪付きの配膳台に並べられた料理は一人分と言うにはかなり多い量だ。
自分も手伝って作ったので、出来れば完食してもらいたいが、王都に帰ってから真一郎はまともに食事を食べてないと聞く。この料理もそんな真一郎を元気付けるためだと双子から言われ手伝ったのだ。
「ちゃんと召し上がってくれればいいけど……」
ゾーイの事があったせいか、王都に帰ってきてから真一郎はガルルートを避けていた。何となくそれが分かったガルルートも無理に近付こうとはして無かった。
しかし、もう一週間だ。いい加減前を見なければどんどん自分を追い込む事になる。大切な人を失った喪失感は痛いほど分かる。ゾーイが居なくなってもちろん自分も悲しんだ。だが、この戦が日常の王国で騎士を生業とする限り、仲間の死なんてよくある事だ。悲しむのは当たり前だが、そこからいかに立ち直るかが大きな問題となる。
「結局、私達は死に慣れすぎてるのかな……」
真一郎の育った日本という国は何十年も戦が無い事は知っている。自分だってそんな所で育てば今とは違う死に対する価値観を持っていたかもしれない。
「戦の無い世界か……」
ガルルートを始め、リザードマンのほとんどが兵として王国に貢献している。魔法が使えない代わりに、身体能力がヒトよりも高く、人口も多いリザードマンは昔から戦の様々な場面で活躍してきた。そんな彼女からすれば戦いの無い世界など自分が必要のない世界のようにも思える。
「そんな世界になればいいけど、そしたら私達何したらいいのかな……」
ガラガラと配膳台を押し歩くガルルート、色々考えながら歩き、気が付けば、真一郎の部屋の前まで来ていた。
コンコン
「……」
ドアをノックしても応答が無い。
コンコン
「殿下、ガルルートです。お邪魔してもよろしいですか?」
「……どうぞ」
静かな声で入室を許可されたガルルートはゆっくりと部屋のドアを開けた。
「失礼します」
ガルルートが部屋に入ると真一郎は窓辺の揺り椅子にジャージ姿で座っていた。
「殿下、お食事をお持ちしました。今日はミー様クー様とえんじぇる団長が作ってくれましたよ」
「うん、ありがと」
ガルルートと目を合わせる事なく、窓の外を見ながら答える真一郎。
(殿下……)
真一郎の様子は他から聞いていたが、実際に目の当たりにしたら思ってたよりひどかった。
「ガルルート……ごめん」
「え?」
小さな声でつぶやく真一郎。
「ゾーイの事、ごめんね」
真一郎が王都に帰ってきて、何処となく会いずらかったガルルート。
「殿下、あまりご自分を責めないで下さい」
「でも、ゾーイが死んだのは俺のせいだ……」
ふさぎ込む真一郎に、ガルルートは静かに昔話を始めた。
「ふぅ……殿下。私には十以上離れた兄が居ました」
「お兄さん?」
「ええ、リザードマンはほとんどが兵として生きます。兄もその道に進み、私の物心つく頃にはそこそこな地位まで出世してたんですよ」
「優秀な方だったんだね」
「自慢の兄でした。でも、私が十二の時戦に行って仲間をかばって亡くなりました」
「……」
ガルルートの話に無言で聞き入る真一郎。
「兄が亡くなって、私も今の殿下みたいにずっとふさぎ込んでました。でも、何日かして母に無理やりベットから引っ張りだされたんですよ」
少し笑いながら話すガルルート。
「私は何もしたくないと言ったんですけどね、母が言うんです。あんたがそんなふさぎ込んでたら、兄さんは安心して天国に行けないって」
「……天国に行けない?」
「ええ、我々リザードマンにはそんな迷信的な物があるんです。故人を惜しみ悲しむのはいいんです。しかし、あまり長い事悲しんでいると、故人は心配で天国に行けずこの世をさまよい続けると言われているんです」
兵として生きるリザードマン達の、精一杯の強がりの様な話だ。戦いに仲間の死はよくある事だ、その都度悲しんでいたら兵としてなんてやって行けない。
「殿下、泣きたいときは泣いてもいいんです。でもずっと泣いてるなんて事はダメです。前を向いて歩きましょう、それがゾーイ殿の為でもあります」
「分かってる、けど……」
自分では分かってるつもりなのだ。しかし、どう納得しようにも中々気持ちの整理がつかないでいた。
「……殿下、これを」
そう言って彼女が出したのは緑色の鱗の様な物が一つついたネックレスだった。飾り気のない、ただの紐でくくられたその鱗に真一郎は見覚えがある。
「これって……」
「これはゾーイ殿の鱗です」
緑色の中にかすかに青いところがある。ゾーイのマダラ模様そのまんまの色だ。
困惑しながらそれを見つめる真一郎にガルルートはゆっくりと教えてくれた。
「我々リザードマンは遺品として鱗を貰うんです。中でも背中にある一番大きい鱗、我々は真鱗と呼んでますが、これは故人に最も近い者に送られるんです」
そう言ってガルルートは自分が貰ったゾーイの鱗を見せてくれた。真一郎の手にある物よりも小さい物だ。
「ゾーイ殿の姉上が、もし殿下がご迷惑でなければ、これを差し上げたいとお話がありましたので。どおされますか?」
「…………」
無言でゾーイの鱗を見つめる真一郎の目に涙があふれてくる。
「殿下……」
声を押し殺し泣く真一郎を、ゆくり抱きしめるガルルート。
「ぅっぅ……俺……」
見た目よりも暖かいガルルートの肌は、真一郎を優しく包む。
「殿下、泣いて下さい。これ以上涙が出ないくらいに。それがすんだら二人でゾーイ殿の思い出話でもしましょう。第三師団の面々や、その家族の方々と酒を飲み、亡くなった者達が安心して天国に逝けるように皆で笑うんです」
「…………っぐす、俺、まだ酒は飲めないよ」
「大丈夫ですよ、そんな時くらい飲んだって誰も怒りませんよ。ぐでんぐでんにつぶれるまで飲みましょう」
「……そうだね、そんなのもいいかもね……」
微笑むガルルートに、少しだけ気が楽になった様な真一郎だった。
「やっぱガルルートを行かせて正解だったかな」
真一郎の部屋を覗く六人。
「そうね、しんちゃんもちょっと気が楽になったかしらね」
「あぁん!でもやっぱり私が慰めてあげたかったわぁん」
会話するジュリエッタとシルフォーネの周りには、くねくねするえんじぇるちゃんとレイラに双子も居た。
「まったく、そーゆー話なら先に言って下さいよ」
事情を知らず巻き込まれたレイラ。後の面々は最初から真一郎とガルルートを会わせるのが目的だったらしい。
「そうふて腐れるな。大体お前は演技なんて出来ないだろ?」
「ま、まぁ……と言うより知っってたら、こんなめんどくさい話、拒否しますよ」
一応レイラのも騎士団として色々と仕事があるのだ。
王国内をあっちこっち走り回ってる副団長に代わり、第三師団の事務仕事のほとんどが副団長補佐のレイラにまわってくるのだ。
「んもぅ~そんなこと言って!殿下の事一番心配してんのレイラじゃないのよぉ」
「わ、私は別に心配なんて!」
くねくね団長に指摘され、赤くなった顔を隠すようにそっぽを向くレイラ。
「レイラ姉、分かりやす過ぎ」
「だね」
「うるさい!お前達だって心配してただろうに!」
「私たちは心配してるの隠してないもんね~」
「そうそう、レイラ姉みたいにコソコソしてないもんね~」
「私は別にコソコソなんて!」
双子にからかわれ更に顔を赤くし、拳を上げて怒るレイラ。
その拳をひらひらかわしながら「やーいツンデレ~」などと言って笑いながら逃げ回る双子達を見ながら笑っている母達プラスえんじぇるちゃんだったが、突如ジュリエッタの影から現れた黒装束に顔をしかめた。
「影か、何かあったか?」
「御報告イタシマス。中央砦ヨリノ報告デ、大樹林ニ敵大部隊ヲ発見トノ事デス。数ハ少ナクトモ四万以上、目標ハ中央砦ト見テ間違イ無イソウデス。敵ノ予想侵攻開始ハ明朝トノ事デス」
淡々と告げる影。
「もう来たのか、しかもこないだの倍の兵数、奴ら一体どんだけの数を用意してたんだ……」
ジュリエッタは自分でも驚くほど冷静だった。心の何処かでは敵はすぐ来ると思っていたからなのだろう。
(それにしても早すぎる……)
「南北の砦は大丈夫そう?」
無口になったジュリエッタの隣でシルフォーネが尋ねた。
「今ノトコロ目標ハ中央砦ノミノ様デス。シカシ主は南北ニモ敵ガクルト見テイマス」
「そう……」
今確認されているだけが全部では無いのだろう。
「中央砦ヨリ至急増援ヲトノ事デス」
「ああ、もちろんそうする。お前は中央砦に戻り、私達が行くまで踏ん張れと伝えてくれ」
「承知シマシタ」
そう言って影の中に消えて行く影。
「さて、忙しくなるぞ!」
そう言ってジュリエッタは思いっきり真一郎の部屋のドアをけり破り中の二人を呼んだ。
「二人共、緊急事態だ!中央砦に敵が迫ってる!緊急会議をするから来い!」
「ジュリエッタ様、本当ですか!?」
驚きを隠せないガルルートはジュリエッタに駆け寄る。
「ああ、たった今影から連絡があった。中央砦に向かう四万の敵兵を確認したそうだ。皆を集める、行くぞガルルート!」
ガルルートを掴みさっさと行ってしまうジュリエッタ。その後ろ姿を見送りシルフォーネは真一郎に振り返った。
「しんちゃんはどうするの?」
「俺は……無理だよ。足手まといにしかならないから……」
「足手まといなんかじゃ無いわよ。でも、そんな顔で戦場に出す訳にはいかないものね。今回はお留守番ね。大丈夫、シャールイやキキちゃんが居るんですもの心配ないわ」
沈みきった表情の真一郎を見て、まだ無理だと判断したシルフォーネ。
「それじゃ私も行かないと」と、ジュリエッタの後を追いかけ部屋を後にした。
「真一郎、シルフ母様はあんな事言ってたが、正直今回はキツイと思うぞ……」
子供達だけになりレイラは本音を打ち明けた。
「敵の数はこないだの倍、おまけに砦は修復中、更に砦には今四百程度の兵しか居ない。増援だって今から出ても着くまでに二日はかかる。誰が見たって絶望的だ・・・」
「そんな……」
真一郎が聞く限り勝てる要素なんて無い気がする。
「そんな!姉様達どーなっちゃうの!?」
「やだよ!レイラ姉何とかしてよ!」
半泣きですがりつく双子の頭をなでるレイラ。自分だって姉達が心配に決まってる。しかし、妹の前で同じ様に泣ける訳が無い。
「私だって何とか出来るならしてるさ……今は姉様達を信じるしか無いんだ」
どう頑張ったって時間が命取りになる。しかし、行軍速度には限界があるため、姉達の踏ん張りを願うしかないのだ。
(また戦か……)
真一郎は、姉達なら大丈夫な気がしていた。キキは強いし、シャールイだって本気出すと強いと聞いた事があった。
(俺もまた行くのかな……やだなぁ……)
何よりも自分がまた戦に行くことが嫌だった。行けば皆が傷つく姿を見なければいけない。
(もう誰の死ぬとこも見たくないよ……)
うろたえる姉妹と現場を受け入れたくない真一郎。
そんな三人の居る部屋のドアが小さくノックされた。
「失礼いたします」
もはや絶望的だと思われる状況。
それを打破できる唯一の手段の知らせを持って、シノさんが現れた。
「真一郎様、ドレイク様からの使者の方がお見えです」
その言葉を聞き、真っ先に反応したのはレイラだった。
「シノさん!ドレイクが動いてくれるんですか!?」
「ええ、あの方は決して王国を見捨てたりはしませんよ」
シノさんの笑顔に、肩の力が抜けたようにうなだれるレイラ。
「よかった、これで何とかなる……」
「では真一郎様。参りましょうか」
「え……」
「使者の方とお話するだけですよ。真一郎ご指名なので」
真一郎の反応を見てシノさんは全てを理解している様に真一郎に笑いかける。
「まぁ、話すだけなら……」
「はい、では参りましょうか」
シノさんに連れられ、中庭に向かう一同だった。
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中庭に着くとすぐに目に入ったのは桜色のドラゴンだった。
「真一郎、来たか」
ドラゴンの前にはジゼルが立っており、真一郎の到着を待っていた。
「ジゼル姉さん。そちらの方が?」
「ああ、ドレイクの娘でリューセニア嬢だ」
「お初にお目にかかります若様。リューセニアでございます」
若い女性の様な声で挨拶をするリューセニア。桜色の巨体はドレイクよりは小さいものの、ドラゴンの名に恥ぬ立派なものだ。
「あ、始めまして真一郎です」
頭を下げるリューセニアに合わせ、自分も頭を下げる真一郎。
「これはご丁寧に。さて、若様。我々一族いつでも戦に赴く準備が整っております。若様のお声で皆動き出します。私、ご指示を伺うようにと父から言われてまいりました。いかがいたしますか?」
古くから王国と盟約を交わしてきたドラゴン達だが、彼らも勝手に戦場にやって来る訳ではない。
フォレイティアス王国の王たる者の言葉があって始めて戦に参戦するのだ。
「俺なんかよりも、ジゼル姉さんが指示を出した方がいいよ。国王代理なんだし」
「私の言葉ではドラゴン達は動かんよ」
「え、どうして?」
「私の肩書きはあくまで政治的な物だ。ドラゴン達が求める王国の王とは、生まれ持っての素質と器と力を兼ね備えた存在だ。私などでは無理なんだよ」
笑いながら答えるジゼル。
「でも俺だって王になった訳じゃないし……」
「そこは問題無いぞ。私は国王代理を辞めるから」
「え!?」
ジゼルの言葉に驚く真一郎。周りのレイラ達も驚くかと思ったが、自分以外は大して驚いてはいない様だった。
「私が辞めれば、王位継承権第一位であるお前が王となるからな。いずれそうするつもりだったが、それが少し早くなったと思えば問題無いさ」
「そんな無茶苦茶な……」
「無茶苦茶でも何でも、それしか方法が無いならそこにかけるしか無いだろ。真一郎、お前は王になって砦を救ってくれ」
「無理だよ……俺、母さん達や姉さん達みたいに強くないし、もう誰かが近くで死ぬのなんて見たくないんだよ!……みんなみたいにはなれないよ」
「お前はまだそんな事をぐちぐちと!」
真一郎に怒鳴りながら掴みかかろうとしたレイラだったが、それを以外な人物が止めた。
「グレー叔父様?」
レイラを無言で止め、真一郎の前に現れたグレー。
「グレー叔父さん……」
「真一郎、お前は皆の様になる必要は無いんだよ」
グレーは諭すように優しい口調で語り始めた。
「グラインだって完璧な王とは程遠いヤツだったんだ。真一郎も自分のやりたい様にやればいいんだよ」
「でも、父さんは立派だったって皆が」
「まぁ、確かに戦場でのあいつは立派だったさ。強さだけなら嫁たちに負けるくせに、常に最前線に出て指揮をしてたしな」
最強戦力と言われる嫁達と比べる事自体が酷な気もするが、グラインははっきり言ってそんなに強くなかった。アンチマジックボディと魔力量の大さで無理矢理戦っていた彼は、 魔法では香織やシルフォーネに、剣ではジュリエッタに負けてばかりだったのだ。
「大体、立派な王があっちこっちに女作らんだろ?」
笑いながら言うグレーに、微妙な顔で笑うグラインの娘達。
「あいつがちゃんと王をやってられたのは、周りの者たちの助けがあったからだ。支えられて始めて王として成り立ってたんだよ。しかし、あいつにはっきりとした信念があった。この国を良くする為だけに生きていただよ。だから皆が慕って支えてくれたんだ。真一郎、お前はどうだ?この国をどうすれば良くできると思う?」
「俺は……できるなら戦いの無い国になって欲しいよ。戦で命を落とすなんて事が無い、平和な国になって欲しい」
真一郎の言葉に頷き、グレーはさらに聞き返す。
「そうか、ではどうする?闇の軍勢を根絶やしにでもしない限り無理な話だぞ?」
王国民の感覚として、闇の軍勢が攻めてくるから戦うというのが当たり前になっている。真一郎の考えを現実の物とするなら、闇の軍勢を葬り去るしか方法は無いだろう。
しかし、真一郎の理想とする物はそれとは少し違う。
「それじゃダメだよ。誰かを傷つけて得た平和なんて、いつか他の誰かに壊される。戦じゃなくて、話し合いとかで解決しないとダメなんだ・・・・闇の軍勢との和解を探らないと、永遠に本当の平和なんてこないよ……」
真一郎の言葉に満面の笑みを浮かべるグレー。
周囲では、騒ぎを聞きつけやって来た兵やメイド達から驚きの声が上がっていた。
「それだよ、それなんだよ真一郎。戦が当たり前の我々には出来ない考え、それこそが今の王国には必要なんだ。真一郎が真一郎のまま、自分の考える理想に近づくために皆と共に歩む事こそ、お前に与えられた運命であり、使命だと私は思うのだよ」
「運命で使命……」
「だからな、真一郎、敵を倒しに行くでもシャールイやキキを救いに行くでもなく、これから起こる戦を止めに行ってくれないか?
「戦を止めに……」
グレーの言葉で真一郎は自分が決心した事を思い出した。
(俺、もう迷わないって決めたのに……ゾーイにも信じた道を行けって言われたのに……なのに……)
真一郎の魂の抜けた様な瞳に、はっきりと生気が戻って来た。
「グレー叔父さん、俺行くよ」
小さい声で短く告げた真一郎。
「そうか、行ってくれるか」
「何が出来るか分からないけど、進まなきゃ何も始まらない。俺、分かってたハズなのに……はぁ、ゾーイに笑われちゃうよ」
「笑はしないさ。きっと彼も真一郎を見守ってるはずさ」
「うん、そうだね……」
首から下げた青い鱗のペンダントを触り、真一郎は決意を新たにする。
「よし!リューセニアさん、俺をドレイクの所に連れてって!」
「もちろんですわ若様。でも、その前にお着替えした方がよろしいのでは?」
「え?」
そう言われ自分の姿を見た真一郎。特に気にして無かった服装はジャージのままだ。
「えーっと、ちょっと待ってて!すぐ着替えて来るから!」
そう言って自室に走る真一郎。
「「あー、私達も手伝うよー」」
その後を追いかけて双子も走って行ってしまった。
三人が走り去る様子を見てリューセニアはクスクス笑っていた。
「ふふ、先が楽しみですね」
「リューセニア、あの子の事お願いしますよ」
シノさんの言葉にリューセニアは笑顔で答える。
「ええ、任せて下さい」
「ドラゴンと一緒なんだ。大丈夫でしょう」
「だと良いんだけど。あ、グレーもお疲れ様でしたね」
それまで存在を忘れてた様に急いで付け加えたシノさん。
「お安いご用意ですよ義母上。若者を導く事も年長者の務めですからね」
得意げに答えるグレー叔父さん。普段ナイスミドルな彼も義理の母から見れば、まだまだ子供に思える。
「叔父様、普段存在感無いのに今回はさすがでした」
レイラの言葉にガクッとなりながら「存在感無いは余計だろ!」と抗議するグレー。
「ふふふ、グレーちゃんて相変わらずそんな扱いなのね」
リューセニアはクスクスと笑っていた。
「リュー、笑うなって」
昔馴染みのドラゴンにまで笑われては恥ずかしくてたまらない。
「ふふ、ごめんなさいね。あら、もう来たみたいよ」
そう言って廊下を見るリューセニア。視線の先には走りながら上着のボタンを留める真一郎と、その後ろを刀を持って走る双子の姿があった。
「ハァハァ、お待たせハァハァ」
息を切らせながら全力で走って来た真一郎。
「いえいえ、では参りましょうか」
リューセニアはその背中の翼を広げ、肩の辺りに乗るように指示した。
「それじゃ、行ってきます」
双子から刀を受け取り、リューセニアに乗った真一郎。
「気をつけてな、姉上キキを頼むぞ」
「はい」
ジゼル言葉にハッキリと応える真一郎。
「でわ、飛びますよ!」
翼をバサバサと羽ばたかせ、ゆっくりと上昇するリューセニア。
「兄さまぁ~行ってらっしゃ~い!」
「頑張ってね~!」
双子の声に手をふって応える真一郎。
「若様、しっかりつかまってて下さいね!」
「うん、よろしく!」
真一郎を乗せたリューセニアは、父の待つ丘へ飛んで行くのだった。
桜色ドラゴンのモデルはもちろん某雌竜です。




