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EightPrincessOneBoy  作者: ぽちょむ菌
第一部『真一郎と八人の姫』
32/38

30話 『今再びの戦へ』

どーもです!

今回も間あいちゃいました。

そしてその割に短めになってます。




 中央砦の戦から七日後。



 傷跡深い中央砦では、王都からの支援部隊も到着し、急ピッチで復旧作業が進められていた。

 あちこちでトンカチの音や大工達の騒がしい声が響いている。

「お前ら!もっと腰入れてやらんか!」

 騒がしい中でもひときわ大きな声であたりの弟子達を指導しているのは、王国では有名な大工の棟梁クラシキさん。ちなみに彼はドワーフだったりする。

 低めな身長に筋肉質な体つき。髭もじゃの顔はどこか愛嬌があるものの、鬼大工のクラシキと呼ばれているだけあって、鬼瓦みたいな目つきで睨まれると大抵の子供は大泣きするくらい迫力がある。

「棟梁どんな感じだ?」

「ああん!」

 不意に呼ばれ、それまで弟子を怒鳴ってたのと同じような声で振り返ると、袴姿の女性が立っていた。

「なんでぇ姫様かい」

 自国の姫に対してあまりに無礼な感じではあるが、これでも彼なりに礼儀良くしてるつもりらしい。

「邪魔してすまないな。どうだ?」

 そんな態度を気にするでもなく普通に会話を続けるキキ。

「どうもこうもないわい。ここまで派手に壊れてちゃ作り直すほかないわな」

「そうか……」

 先の戦で夜襲をうけた大門は閉門不能になった。それを無理矢理壊しとりあえず閉じてしまった。ジュリエッタの言葉通り、後のことを何も考えなかった結果が今の状況を生み出していた。

「ったく。だいたい壊すにしてももう少しやり方があっただろうに。歯車だけ壊わしゃいいもんを軸から何から全部ぶっ壊しやがって」

 しかめっ面の棟梁の指摘通りなのだが、残念ながらあの非常時にそれを思いつく者はいなかった。

「すまんな。母上にはよく言っておこう。で、予定通り出来そうか?」

「ああ、五日以内になんとかしてみせるわい」

「頼むぞ」

 砦戦から七日。今まで闇の軍勢は、一度戦をすると最短でも一ヶ月は新たに攻めて来る事は無かった。

 今回は夜襲があったりなどで、今までとは一味違う雰囲気を見せた奴らだが、南北中央合わせて六万もの大群を投入している。いくらヒトより成長が早いゴブリンやインセクターでもそんな数揃えるのにかなりかかったはずだ。よって、次に攻めてくるのはだいぶ先なのでは?との意見が多く出ていた。

 しかし、前線で戦った兵達は今回の敵が今までとは明らかに違うと自覚していた。騎士団の最高責任者であるジュリエッタももちろんその考えで、だからこそ王国でも最高の大工達をよこし早急な対応を頼んでいた。



「キキさま~」

 クラシキと会話しながら工事を見学していたキキの元に、アフリィがパタパタと走って来た。

「キキ様、シャールイ様がお呼びです」

「ん?何かあったか?」

「いえ、治療がひと段落したのでお茶のお誘いだそうです」

「そうか、分かったすぐ行くよ。それじゃ棟梁、頼んだぞ」

「あいよっ」

 素っ気ない返事のクラシキと別れシャールイの元へ向うキキだった。






 今回の支援部隊の指揮官は第一師団師団長のキキだ。

 総勢三百人ほどの支援部隊は、そのうち百人が大工などの砦復旧用の技術者達で、残りニ百人が予備導入された兵達だ。

 現在砦には常駐兵と合わせて四百人程度の兵が居る。少し少ない気もするが、南北に送る兵もあるため、影からの連絡を受け王都からすぐに送り出せるのはこれが精一杯だった。 ちなみにキキは北の砦で事後処理を済ませ、王都に戻らずこちらに直行し、今朝ついたばかりだった。

 いちお五日後には王都からさらなる兵が送り込まれる予定になっているので、それまでの予備的な布陣となっている。

 さらに負傷者が多く、砦から動かせない重傷者なども多数いたため、シャールイが自身の部下達と同行し、あちこちで治療をして周っている。元々戦の後には様々な雑用、例えば炊き出しなどを教会の者がかって出る事がいつもだった。今回はそれに大司教であるシャールイがくっついて来たため、裏町などからも信者が色々お供えを持ってきたりで軽い混乱が起こったりした。




 シャールイに呼ばれたキキは、砦内にある教会に来ていた。

 長椅子が並ぶホールを抜け、レイズ教の主神レイズの石像の横にある扉を叩いた。

「姉上、キキです」

「開いてるわよ。どーぞ」

 教会の神父やシスターの詰所となっている部屋は、大きな窓から日の光が差し込みステンドグラスが輝いていた。

「おや、姉上お一人ですか?」

 普段は神父やシスターが数人必ずいるはずだが、今は室内にはシャールイ一人だけだった。

「ええ、皆にはお部屋で休んでもらってるわ。ここ数日まともに寝てなかった方ばかりだから」

 戦死者の葬儀に、けが人の看病。治癒魔法に特化した者が多い教会では当たり前の事だが、神父とシスター合わせて五人では手が足りなすぎる。裏町住人の助けもあったが結局、治癒魔法を使えるのは教会の者だけなので彼らの負担が大きい事に変わりはなかった。

 おとといシャールイ達が到着するまで働き続けた彼らは、その後の引継ぎやら手伝いやらでついさっきまで働き続け、今は泥のように眠っている。

「大門の方はどお?」

 お茶を注ぎながらシャールイがキキに尋ねた。

「やはり作り直すことになりました。壊し方が悪いと怒られましたよ」

 冗談交じりのキキの発言に、笑顔で答えるシャールイ。

「ふふふ、後で冷静になってみればそれが正しい事なんでしょうけど、戦の最中にそれを思いつけるのは中々難しいわね」

 大群が迫る中で、大門が閉まらないという状況を考えれば、多少強引でもすぐに大門を閉めたくなるのは分かる。そもそも後の事なんて考えないで無理矢理閉めたのだから。

「新しい大門が出来るまで、何事もなければいいけど……」

「そうですね。まああの大工達ならきっちり予定に間に合わせてくれると思うので、少しは安心していられるかと思いますよ。ところで姉上……」

 それまでと違い、緊張が解けたような表情でシャールイを見るキキ。

「ん?なぁに?」

「真一郎にはお会いになりましたか?」

 七日前の戦で色々とあった真一郎。キキは王都に戻らずこの中央砦に来てしまったため、会っておらず、人から話は聞いていたが正直どれもあいまいな情報ばかりだった。

「しんちゃんが帰って来た時と、私が出発する時に少し話した程度ね。正直かなり落ち込んでいる様だったわ。ゾーイが亡くなったのだもの、無理もないわ……」

 真一郎がゾーイを頼りにしていたのは皆が知っている。腹心とも言える彼を目の前で失った真一郎のショックは相当な物だろう。

「仲間の死は兵として最初の試練になります。真一郎が無事乗り越えてくれるといいんですが……」

「しんちゃんなら大丈夫だと思うわ」

 何の根拠もなさそうなシャールイの言葉。

「そうでしょうか?」

「ええ、あの子はとっても強いもの。大丈夫、きっと乗り越えるわ」

 笑顔で答える姉の顔を見たら、何故か不安が消えていくキキ。

「はぁ、姉上がそうおっしゃるなら大丈夫なのかも知れないですね」

 昔からシャールイは間違った事は言わない。キキの中でそんな確信があったため、弟は大丈夫と言う姉の言葉を素直に信じられる気がした。


 



 その後も他愛無い話を続けながらお茶をしていた二人だったが、その平穏な空気は扉をドンドンと叩く大きな音で消え去ることになった。

「失礼します!」

 部屋のドアを叩き、中からの返事も聞かず飛び込んできたのは若い兵。ふたりの前にひざまずき、息つく暇も無く報告を始めた。


「報告します!大樹林へ偵察に出ていた部隊が戻りました!重傷を負ってますので至急シャールイ様のお力を!」

「場所は!?」

 兵が言い終わる前に椅子から立ち上がり、上着を着ながら尋ねるシャールイ。

「大門前です!」

「キキちゃん先に行くわよ!」

 普段のおっとりした姿からは想像出来ないスピードで、部屋を後にするシャールイ。それに続きキキも急いで部屋を出た。

「戻って来たのは何人だ?」

 走りながら報告に来た兵へ状況を聞くキキ。

「一人です」

「くそっ!確か偵察に向かったのは十八人だったはずだが。残りは全部やられたのか……」

 偵察任務とは敵地に侵入して情報を集めてくる事だ。一人が怪我を負って帰って来たという事は、残りの人員はやられたと見るのが普通だ。

「帰って来た者の身元は分かってるのか?」

「はい。第三師団の百人隊長、アフリィ殿の弟のラルフです」

「アフリィの弟か!?」

 キキは弟とはあまり面識がないが、アフリィならよく知っている。

「アフリィに連絡は?」

「自分と同時に連絡に走った者がいます。おそらく今頃は大門に来ているかと」

「そうか……よし、少し急ぐぞ!」

 そう言うと加速するキキ。

「はっ!」

 キキのスピードに付いていけない若い兵は、それを見送りながら、自分なりの精一杯のスピードで追いかけるのだった。






 キキが大門前に到着すると、すでにシャールイが治癒魔法による治療を施している最中で、周囲には人だかりが出来ており、その中に涙で顔をぐちゃぐちゃにしたアフリィがミラに支えられ何とか立っていた。

「姉上、いかがですか?」

 人混みをかき分けシャールイに近付いたキキ。近くで見れば全身傷だらけの彼は、アフリィに似たツルっとしたトカゲだ。全身を黒い装束で包んでいるが、破れたそれから綺麗な翡翠の色の肌が見える。

 淡い光を放つシャールイの癒しの力。その光が彼を包み小さな傷をみるみる直してゆく。

「これは……」

 光を当て続けるシャールイの顔には、明らかな動揺が見えた。

「姉上?」

「……ヴィラントと、同じ毒に侵されてるわ」

「なっ!」

「身体中の深くまで毒がまわってしまってる……生きてるのが不思議なくらいよ」

 ヴィラントが受けた毒は普通の者なら少量でも死にいたる毒だった。

 わずかでもそれを受け、しかも全身傷だらけになり、それでも砦まで戻って来たラルフ。その命は正に風前の灯だ。

「残念だけど、苦しみを和らげてあげる事しかできないわ……」

「そんなっ!ラルフ!ラルフ!」

「……うぅ……」


 涙でぐちゃぐちゃになりながら、意識が朦朧とするラルフにすがりつくアフリィ。

 そんな彼女の肩をたたく者がいた。


「ぐすっ……キキ様」

 アフリィを強い眼差しで見つめるキキ。その様子に何か納得したように弟から離れ、キキにその場を譲った。


「ラルフ、聞こえるか?」


「……うぅ……」

 キキの呼びかけにも答えられず、

 ただ苦しむ彼を前に、キキは何かを決心した様に、右手を高く上げた。




 パチーン!




 ラルフの頬を叩く音が響き、それに続きキキの怒鳴り声が、静まり返った周囲に響く。

「ラルフ!お前はそれでもフォレイティアス騎士団か!」

 今にも死にそうな重傷患者をガシガシ揺らしキキは続ける。


「騎士団なら、己の任務を全うしてから死ね!お前の仲間はどおした!?お前に何を託した!」


 彼と彼の仲間に何があったのか、それが分かるのは他ならぬラルフだけなのだ。


「……ぅぁぅぅ……」


 キキの呼びかけに微かに瞼を開けたラルフ。


「我らの使命は、民を守り、仲間を守る事だ。お前が樹林で何を見たかに、この砦の仲間や、その家族の命がかかっているかもしれない。頼む!答えてくれ!最後の根性を見せろ!」


「キ、キキさ、ま……」

 既に光が失われつつある瞳でキキを見つめるラルフ。


「ご、ご報告、いたします……大樹林の、奥地にて、て、敵のぐんぜいの集結を、確認し、しました……さ、先のいくさの倍以上居ます……」


 ラルフの言葉を聞き、周囲にざわめきが広がった。


「仲間は、じ、自分を逃がす囮となりました……それと、敵の中に、大型魔獣を確認……ベ、ベヒーモスが複数来ます」


「どれくらいで来る?」


「みょ、明朝には、じゅりんを出ます!」


「分かった。よく知らせてくれた、お前は騎士団の誇りだぞ」

 それまでと違い、穏やかな表情で優しくラルフの顔をなでるキキ。

「……ぅぅ……っぐ!がぁ!」

 自分の使命を全うし、気が楽になった彼の全身を痛みが襲う。すぐさま駆け寄るシャールイの光で多少は和らいだ痛みだが、体力はすでに限界を超えていた。

「ラルフ!」

 アフリィが駆け寄り、その手を握るが、既に握り返す力など残されていない。

「……ね、姉ちゃん……わりぃ……」

 虚ろな目で姉を見つめるラルフ。

「バカ!謝るんだったら、悪いと思ってるんだったら死なないでよ!」

 アフリィの必死の叫びに、力なく笑顔になり、彼は静かに眠りについた。

「ラルフ!ラルフ!!」

 もはや返事をする事は無い弟の名を、何度も呼び、泣き崩れるアフリィ。その姿に、普段は皮肉を言い合っているミラがそっと彼女に寄り添った。




「シンゼ!」

「はっ!」

 キキに呼ばれ人混みをかき分け現れたのは、巨体のおっさん。毛もじゃな顔はドワーフみたいだが、身長の低いドワーフに比べ、やけにでかいし、頭に太く短いツノが付いている。

「すぐに裏町の皆を避難させろ。戦う意思がある者以外は砦から逃がすんだ」

「承知しやした!おい、お前らも来い!」

 でかい図体に似合う大きな声で数人の部下を引き連れ、シンゼは裏町へ向かった。



「姉上も一度王都へお戻り下さい。ここは酷い戦場になると思います」

「あら、私はここに残るわよ?」

 何を馬鹿な事を。みたいな顔で見つめてくるシャールイ。

「しかし、敵の数が多すぎます。姉上にもしもの事があったら……」

 国民の九割が信仰しているレイズ教。今やその顔とも言えるシャールイは、国民に絶対的な人気がある。その彼女に何かあっては、国民に与えるショックが大きすぎる。

 そもそもシャールイは幼い頃から争い事を嫌っていた。そんな姉に戦場に立てなどと言えるはずがないのだ。


「キキ、私はフォレイティアス王国第一皇女よ。妹や兵を置いて逃げるなんて、できるわけないでしょ」

「し、しかし……」

「それに私、結構強いのよ」

 確かにシャールイは強い。

 母親ゆずりの魔力で国内最高と言われる癒し手だ。治癒魔法が凄いという事は、それに必要な水と光属性の魔法が秀でている事にもなる。

 実際シャールイは過去に戦場に立った経験もあるが、色んな意味で後が大変なので、最近では戦に参戦する事をシルフォーネに禁じられていた。


「お願いキキちゃん。私にも手伝わせて。何もできないまま終わりたくないのよ……」

「姉上……」

 目の前の姉の瞳は正に戦いに赴く戦士のそれだ。キキとしても、貴重な戦力であるシャールイが前線に立ってくれれば戦況を大きく左右する事態になるだろう。


「姉上の決断を、私がどうこう言えるはず無いじゃないですか。分かりました、姉上の力を貸して下さい」

「ええ、喜んで」

 いつものほんわか笑顔で答えるシャールイ。


(戦闘が始まって、姉上が暴走しなきゃいいが……)


 以前シャールイが戦に参加した時の事をしるキキは、若干の不安を残しつつも今は目の前に迫る敵に集中する事にした。


「皆、聞いた通りだ!明朝には敵の大群が来るぞ!ただ今より中央砦は厳戒態勢に入る!各自与えられた任をしっかりとこなすように!」

 周囲の兵へ大声で指示を飛ばすキキ。

 まだ見ぬ大群を迎え撃つべく、行動を開始する兵達。

 目の前で逝った仲間の為に、そして彼に全てを託した仲間達の為にも、この戦は負けるわけにはいかない。

 ざわざわと動き始めた兵達の中で、アフリィのすすり泣く声が、皆の決意を硬くしていくのだった。







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