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EightPrincessOneBoy  作者: ぽちょむ菌
第一部『真一郎と八人の姫』
31/38

29話 『戦いのその先に』

どーもです!

結構時間が空いてしまった今回……

仕事が忙しかったんです。

決してたまってたアニメを消化してた訳じゃありませんよ!




「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 魔力の渦の中心で叫ぶ真一郎。

「真一郎!」

「くそっ!なんちゅー魔力だ!」

 ジュリエッタとレイラは彼の体からあふれる魔力のせいで近づく事が出来ないでいた。

「母様あれ!」

「んなっ!……あれは……」

 レイラの指差す先には、真一郎の魔力が集まり始めていた。

 体からあふれ、頭上に収束してゆく色とりどりの魔力。一箇所に集まる事で、それまでバラバラだった力は次第にその方向性を得始めた。

 六色が混ざり合い、次第にその色を赤く変えてゆく魔力の渦。

 その中心に血文字の様な真っ赤な文字が走り、次第に魔法陣が出来上がりつつあった。



「あれは……」

「母様、あれが何か知ってるんですか?」

 レイラの問いにジュリエッタは緊張したような顔で答える。

「……いいか、どんなのが出てきても決して敵意を見せるなよ。こっちまでとばっちりをくう可能性があるからな」

「それって敵味方関係無いって事じゃ……」

「敵意を見せなければ大丈夫なはずだ」

「はぁ……」

 いまいち納得できない感じのレイラをよそに、真一郎の頭上に形成されていく魔法陣は完成を迎えようとした。


 

 一際輝く魔法陣。



 その時、真一郎の叫びが止まり、彼はそのままその場に倒れてしまった。

「真一郎!」

 それを見て走り出すレイラだったが、その行く手を阻むものが現れた。

「レイラよせ!」

 いち早く気付いたジュリエッタの声が届く間も無く、突如下から湧き上がる青白い炎に弾き飛ばされるレイラ。

「くっ!なんだ?」

「レイラ!戻れ!」

 ジュリエッタの声にレイラは、弾き飛ばされた場所からすぐに飛び退き警戒しながら元居た場所へ戻った。

「母様、あれは!」

「さすが、真一郎。伊達に香織の血は引いてないってとこか・・・」

「母様!私にも教えて下さい」

「まぁ黙って見てろ。神兵なんて滅多に拝める物じゃないぞ」

「神兵?」

 ジュリエッタの発した単語がいまいち理解できないレイラの見つめる先で、先ほど自分を弾き飛ばした青白い炎が四本の炎の柱となり、その姿を人型へと変えていった。

「母様、神兵ってまさか精霊神(セイレイシン)の持つと言われる兵の事じゃないですよね?」

 なぜかおそるおそるたずねるレイラに、当たり前のような顔で「他に神兵なんているか?」と答えるジュリエッタ。


「なっ!」


 ジュリエッタの答えに頬を引きつらせ、今一度炎の柱に視線を戻すと、そこには燃えさかる西洋甲冑を身にまとい巨大な剣を床に刺し、不動の如く立ちすくむ四人の巨漢の兵が居た。

 神々しい炎を宿した兵は、その場に真一郎を囲むように彼に背を向けて立ち、いかなる者も寄せ付けないであろうオーラを放っている。

「真一郎を守ってる?」

「だろうな」

 炎の兵に守られた真一郎は意識を失っているようだが、未だ魔力を放出し続けている。

 その魔力の向かう先、彼の頭上の魔法陣からゆっくりと少女が姿を現した。

 一見するとヒトであろう彼女だが、その艶かしい裸体を取り巻くのは神兵と同じ青白い炎。まるで衣の様に炎をまとう彼女だが、足元まで伸びる黒髪は燃える事なく風になびいていた。冷徹な、それでいて凛とした表情で戦場を見渡し最後に真一郎を見つめた。



「…………」



 無言で真一郎を見つめ、その冷徹な表情にほんの一瞬だけ微笑みを浮かべ、またすぐに戦場へ視線を向けた彼女は、右腕を高らかに天へ伸ばした。

 宙に浮く彼女の無言の号令に、裸体を包んで居た炎は次第に姿を変えてゆく。

 大気を震わせ炎が炎を鍛え、青白い鎧を作り上げてゆく。ガチャガチャと音をたて上半身に装着さる鎧。その西洋風の鎧に上半身を包み、下半身は炎が覆い青白い炎をそのまま布に変えた様な水色のスカートへと変わった。

「炎の精霊神イフリート……」

「レイラ知ってたのか?」

「本で読んだ事があるくらいですよ。伝説クラスの精霊召喚魔法って事くらいしか知識は無いですよ」

 精霊魔法の中で最強と言われる精霊獣召喚。精霊に己の強力な魔力をそそぎ純粋な自然の力を一番簡単に表現する獣の姿へと変え使役する魔法。

 膨大な量の魔力と、何より精霊の力を必要とするその魔法の上位魔法とも言えるのが精霊神召喚だ。

 桁外れの魔力と、何よりも精霊に愛された者しか使えないと言われる魔法は、香織が使うまでの数百年、存在は知られていても誰も扱えなかったその魔法を真一郎は無意識に呼び出したのである。



 二人の視線の先で、イフリートは静かに両手を広げた。

 魔力の波動が周囲を揺さぶりピリピリした空気を撒き散らす。そこに現れたのは燃えさかる火の玉。真っ赤にドロドロと燃えながら次第に大きくなってゆくそれは、まるで小さな太陽だ。

 周囲に熱波を放ちながら大きくなってゆく小さな太陽を、高らかと頭上に掲げイフリートは敵陣を睨む。

 異変に気付いたゴブリンやらオークがいち早く逃げ始めた。樹林へ逃げようとする者達の姿を見て、邪悪な笑顔を浮かべるイフリート。その顔は精霊と言うより悪魔ようだ。

 静かに放たれる小さな太陽は、敵陣めがけ下降して行く。その質量を無視した様にゆっくりと地面に落下し、大地をえぐり、敵陣深くまで突き進んだ小さな太陽はその場で轟音と共に爆発した。

 とんでもない熱量と爆風が周囲を襲い、強固なドラゴンの骨で出来た投石機ですら一瞬で砕け散る。逃げる事など間に合わず周囲の土砂と共に宙を舞う無数のゴブリンやオークやインセクター達。

 吹き飛ばされながら体を焼かれ、断末魔の叫びと共に、総勢二万の闇の軍勢は瞬く間に崩れ去る。

 爆発の場から離れた位置にある中央砦にも、その爆風は届き砦をギシギシと揺らしながら屋上に立つ兵たちを吹き飛ばす。


「レイラ!大丈夫か!?」

「な、なんとか……」

 屋上を襲った爆風にそのばに伏せて難を逃れたレイラ。

「ひどいなこりゃ……」

 砦の前に広がる光景はまさに地獄絵図。

 その光景を満足気に見つめるイフリート。巨大なクレーターと、その周囲の焼け野原と化した平原ではあちこちで草木が吹き飛ばされ、辛うじて地面に根を残す木も全て炭化している。

 先ほどまで辺りに聞こえていた敵の声もなくなり、ただパチパチと草が燃える音だけが響く戦場。死屍累々、地獄絵図。どれだけ表現しても無残としか言いようのない現実だった。


 

 異様な静けさに支配された戦場で、異変は突然起きた。



「母様、あれ……」

「ん?」

 レイラに言われ空を見るジュリエッタの目に映ったのは、突如上空高くに現れた黒い魔方陣。

「何だあれ……あの紋章は闇属性?」

 ジュリエッタの言葉通りその魔法陣には闇属性の紋章が描かれていた。

 一瞬の光と共にそこから現れたのは真っ黒で巨大な槍。

 魔法陣からもの凄いスピードで射出されたそれは正確にイフリートの体を射抜いた。


「……!!」


 無言の悲鳴をあげ上空でもがくイフリート。体の鎧は砕け、最初の裸体に炎の姿に変わった彼女。体に穴を開け突き刺さった槍からは無数の触手が伸び手足に絡みつきながら彼女の体を黒く染めてゆく。


「母様あれは一体?……母様?」

 レイラの問いに無言のジュリエッタ。彼女にしては珍しくその表情には焦りと困惑が見えた。

「……まさか……」

「母様?何か知ってるんですか?」

「……イヤそんなはずは……ヤツは確かにタミコが……」

「え?」

 ジュリエッタのつぶやく言葉に、予想外の人の名が出た事に驚くレイラ。


(あれとタミコ母様に何の関係が?)


 レイラの疑問をよそに、黒い槍に全身を侵食されたイフリートは真っ黒な影の様な姿になり、こちらへ降りてきた。

 その姿を目にし、真っ先に飛び出したのは真一郎を守っていた神兵達だった。四体が一斉に黒い影みたいなイフリートへ切りかかったが、その姿は煙の如くかすみ剣を空振りさせた。

 消えたその姿が次に現れたのは横たわる真一郎のすぐそば。寝ている彼を見つめニヤリと笑う姿は影そのものだ。

 先ほど空振りした神兵達は、真一郎に近付けまいと必死に切りかかってはいるものの、その攻撃の効果は皆無だ。切りかかる神兵を見る事もなく真一郎の前で両手を掲げる影。それに答える様にその場に静かに浮遊する真一郎。

 真一郎を奪われまいと抵抗をする神兵、その抵抗がうっとうしくなったのか、片手で虫をはらうかのように振る影。その一振りだけで神兵たちは炎が消える様に消えてしまった。

 

 邪魔者が消え、満足げに真一郎を浮かべ歩みを進める影。


「待て!真一郎をどうする気だ!!」

 レイラの声にその場でゆっくりと振り返る影。その姿を目にし困惑するジュリエッタ。

「やはり……シェイド!なぜ貴様が!タミコに封じられたはずだぞ!」

 ジュリエッタの声に答える様にニタァと笑顔を見せる影。

「くそっ!まて!」

 ジュリエッタの静止も聞かず、真一郎と共に上空へ昇って行く影。

「くそっ!こんな時に!」

 炎の翼を出そうにも、魔力の制御が効かずうまく出せない。


「我は求める!汝は答えよ!」

 上空目がけ思いっきり魔法を放つレイラだったが、影は真一郎を盾にその魔法を打ち消す。

「くそっ!なんて奴だ!」

 こちらを見下ろし、笑いながら片手を上げる影。その手の先には小さな魔法陣が現れ、そこから黒い球体が現れた。バチバチと電気を帯びたような球体を軽く投げる影。

「レイラ!」

 とっさにレイラを庇いながら球体を受け止めたジュリエッタだったが、魔法をうまく使えず防御魔法も出せない現状では、球体魔法の威力をもろにくらう事になってしまう。

「ぐっっ!こんなもん!!」

 力まかせに押し返してみたものの、魔法を受け止めていた両手はヤケドをしたようにただれている。

「母様、回復を!」

「すまんな。普段だったらあんなもん撃ちかえしてやるのに……」

 母の負傷した手に回復魔法をかけるレイラ。しかし、その眼は上空の真一郎をしっかりととらえていた。



「…………」


 その様子を上空から見つめる影。

 自身の魔法を素手で防がれた事が癇に障ったようで、先ほどとは違い両手を使い魔方陣を出現させた。

「あれはさすがにキツイぞ……」

 上空で魔法陣を展開し、今にもこちらに魔法を撃とうとする影を見上げジュリエッタはなす術が無かった。

「レイラ、真一郎は私が何としても取り返す。最悪の場合はお前に全権をまかせるからな。いいな?」

「母様!そんな事できるはずないでしょ!」

「いう事を聞け。正直アレとまともに戦えるのなんて香織くらいだ、魔法特化でもなく、こんな状態の私では勝算なんぞ無いようなもんだ。それでも、何としても真一郎は助ける。私に何かあったらお前が兵の指揮をとり王都へ戻るんだ。いいな!」

「そんな、母様……」

 レイラの肩をたたき、上空を睨みつけるジュリエッタ。空に展開された魔法陣からは、先ほどとは桁違いの大きさの黒い球体が現れた。


(こんな時、香織が居ればな…………まったく何年たっても頼ってしまうのは悪いくせか……大丈夫だ、真一郎は必ず助けるから)


 十年以上会っていない親友の顔を思い浮かべ、球体魔法と対自するジュリエッタ。

「さーて、いっちょやるか!」

 回復したものの、まだ傷が残る手で愛刀の鬼破を構え、魔法に向かて思いっきりジャンプするジュリエッタ。それに答える様に放たれた球体魔法はまっすぐにジュリエッタ目がけ下降してくる。

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 普段なら魔力を刀に込めるとこだが、今回はそういかない。自身の生身で渾身の一撃を魔法にたたきこむのみだ。

「王国最強を舐めるなぁぁ!」

 魔法に斬りかかるジュリエッタ。バチバチと電気を放出する球体に刀が当たり、その電流が刀を伝い体に走る。

「なんのぉぉぉ!」

 うまくコントロールできな魔力がその気合に何とか答え、いつもより若干小さめな翼がバサバサと音を立てて出現し、刀に若干だが魔力がそそがれた。

「よしっ!これで!!」

 空中でぶつかり勢いを無くしたジュリエッタだったが、小さいながらも翼を得た事でもう一度球体を押し戻すほどの力を出す。突き進もうとする球体に、少しづつ刀がめりこんでいった。

「わーれーろー!!」

 少しでもめりこんでしまえば、後は全力で押し込むだけだ。残った魔力をほとんど使う勢いで、球体に向かいめりこんだ刀を押しそのまま一気に斬り捨てる。


 バチバチバチバチ……ドガーン!


 真っ二つに切られ、球体はその場で大爆発を起こした。


「母様!!」

 先ほどのイフリートの攻撃にも匹敵するほどの大爆発。爆風に目を細めながら必死に母の姿を探すレイラだったが、爆風にも負けないくらいの勢いで砦に何かが降ってきた。

「いててて」

 もの凄い音を立て砦の屋上に落下したジュリエッタ。自分にかぶさる瓦礫をよけながら現れた彼女はパッと見は大丈夫そうだ。

「母様!大丈夫ですか」

「あ、ああ。なんとかな……」

 体につく瓦礫をはらうジュリエッタだったが、ダメージは見た目以上に負っていた。


(くそ、魔力がほとんどなくなったし、骨も何本かいったなこりゃ)

 体のあちこちがきしむ様な感覚。逆に感覚が無い部分もある。


「……ヒヒヒ……」

 ジュリエッタの状態を見ながら上空で笑う影。かすかに漏れた声はかすれた老人の様だった。

 楽しげに笑う彼は、小さ目な魔法陣を次々に出す。自分を囲むように作った魔法陣からは先ほどの黒い球体が次々に現れる。

「ったく。次から次によくもまぁ」

 呆れたように上空を見つめ、痛む体にムチを打ち刀を頼りに立つジュリエッタ。その彼女に背後から声がかかった。


「まったく、一人でカッコつけないで下さいよ」

「スキーリング……遅いぞ」

「はいはい、申し訳ありませんね。これでも急いだんですよ、こっちだってけが人なんですから」

 包帯を巻いた両手を見せるスキーリング。彼を始め、いつの間にかジュリエッタの周りには兵たちが集まってきていた。

「まったく、無茶するなら呼んで欲しいケロ」

「お前達、逃げろと言ったはずだが……」

 ジュリエッタの周りに集まってきた兵たちは、口々に同じ様な事を言いながら彼女へ戦いの意思を伝える。

「大体、ジュリエッタ様だけに任せて逃げるほど臆病じゃないケロよ」

 ベッベグを先頭にフロッグル隊は勢ぞろいだ。

「殿下を助けるのお手伝いさせて下さいよ!」

 アフリィの部隊も欠ける事なくその場に集合している。

「母様、やはり私も戦います。一人だけ逃げるなんてカッコつきませんからね」

「レイラ……」

 兵達にかこまれたレイラ。その横にはロロイも来ていた。

「レイラちゃんが戦うなら私も頑張るよ」

 両手をグーにし気合を入れるロロイ。

「……まったく、揃いも揃ってバカばっかだな……どーなっても知らんぞ!」

 恥ずかしそうに笑い、娘達と部下を見渡すジュリエッタ。

 そんな彼らを上空から冷ややかに見守る影はご丁寧に魔法を撃つのを待っていた。

「ふぅ。さーて、シェイド待たせたな!こいっ!」

 ビシッと影を指差したジュリエッタの言葉を聞き笑顔を見せた影は自分の周りに出した複数の球体魔法を一斉に放った。

 バチバチと周囲に放電しながら砦に落下するそれを騎士団が意地で受け止める。


「「「騎士団なめるなぁぁ!」」」


 皆、前夜からの戦いで残り少ない魔力を精一杯使い、防御魔法を展開する。

 魔法が出せない者も、落ちてくる魔法を各々武器で攻撃し防ぐなどジュリエッタばりの無茶苦茶な防御のオンパレードだ。

 騎士団の必死の防御により、次第にその数を減らして行く球体魔法。防がれては消え、武器によって破壊され爆発し、一見すれば騎士団の圧勝の様にも見えた。しかし、その全てが防がれた時、影は新たな魔法陣を作り出していた。


「マジか、まだあんなに……」

「こりゃちょっちキツイケロ」


 上空に現れたのは先ほどの倍はありそうな数の魔法陣。その数はまだ増え続けている。

「あいつの魔力はどうなってるんだ」

 レイラの疑問にジュリエッタは過去の経験から語る。

「たぶんあの魔力は真一郎のだ。あいつは他人の魔力を使えるんだ」

「そんな事が……」

「普通は無理だ。だがあいつは……シェイドはあの姿になる事でそれを可能にしたんだ……」

 母とあの影との間に何があったのか。気になるところではあるが、今はそれより上空の魔法を何とかしなければならない。

「さて、どーします?皆もう魔力ほとんど無いヤツばっかですよ」

 スキーリングの言う通り、全力でさっきの攻撃を防いだ兵達はすでに満身創痍だ。

「どーしたもんかな……」

 はっきり言って策なんて思い浮かばない。

 影が魔法を放つその瞬間、騎士団の皆が最後を覚悟しつつあった。


「あーせめてミントちゃんと一回くらいデートしたかなたな……」

 スキーリングのボヤキに周囲からは小さく笑いがもれる。


 そんな緊張感の無い兵達の中、レイラはじっと真一郎を見つめていた。

「真一郎……」

 アンチマジック能力のある彼を浮かべているのは、おそらく魔法以外の力だろう。レイラにとって未知の力、そんな力を使うあのシェイドと呼ばれる影がなぜ真一郎を求めるのか。先ほどの母の話を信じるなら真一郎の魔力が目的なのかもしれない。しかし、それ以上の何かがあるように思えて仕方なかった。

 レイラの思考を遮るように無数の魔法が放たれる。

 空を覆う無数の黒い球体。電気を帯びたそれらが中央砦に無数にふりそそぐ。

「さて、最後まであがいてみるか!」

 ぼろぼろの体で魔法に向かって行くジュリエッタ。同じように満身創痍の兵達も彼女に続いた。各々が持てる力を振り絞り、立ってる事もやっとの状況で迫りくる球体魔法へ最後の抵抗を試みる。

 ふりそそぐ球体魔法。しかし、兵達の予想外の出来事が砦を襲った。


「なっ!!これは……」


 ジュリエッタの目の前で砦に降り注ぐ魔法を、まるでバリアの様な物が防いでいた。


「これは……防御魔法?こんな巨大なものを誰が……」


 砦を覆うように張られた防御魔法。次々にそこへ降り注ぐ魔法はバリアに当たり消失してゆく。更に、眩い光が砦にいる兵達を包み、その傷を癒してゆく。


「回復魔法?何が起こってるケロ」

「なんかあったか~い」



 皆を包む光が消えた時、どこからともなく声が響いた。それはレイラにもジュリエッタにも聞き覚えのある温かい声。


「まったく、皆無茶しすぎよ」



 声と共に光を放つ真一郎の体。正確には腕にはめたブレスレットの放つ光に顔を覆うようにして思わず離れるシェイド。

 光は集まり次第に人形へと変わる。


「な……」

「あれは……」



 そこに現れたのは、ジュリエッタにとっては十二年ぶりの、レイラにとっては最近再会したばかりのヒト。



「遅れてごめんなさい。ジュリちゃん、元気だった?」


「か、香織!!」


 フォレイティアス王国に再び現れた王国最強戦力。

 銀翼の魔女の二つ名にふさわしい銀色の翼を背に、上空へ出現したその姿に砦からは驚きと喜びの声が聞こえてきた。


「シェイド君、久しぶりね」

 周囲の歓声を背に、息子をはさみ影と対自する香織。


「……カ、カオリ……ナゼオマエガ……」

 表情は分からないが、おそらく驚いているであろうシェイド。

「母親ですもの。息子を助けに来て当然でしょ?悪いけど、しんちゃん返してもらうわよ」

 体の前に突き出した手。その先に現れた魔法陣からは眩い光があふれ出す。


「……!!」


 顔を覆い光を嫌がるシェイド。空中でもがく彼を魔法陣からあふれる光が包み込む。


「……ガハッ……ヤメロ!!」


 苦しみのあまり無差別に魔法陣をだし、手当たり次第魔法を連発する。が、その全てを香織が出す光が消し去ってしまう。


「悪い子にはお仕置きが必要よ」

 光は集い巨大な手の形へと。その手がシェイドを握る。

「……コレハ……ツクヨミ!」

 自分を握る巨大な手に見覚えのあるシェイド、その身をよじらせ必死に脱出を試みる。しかし、光る手は断固として彼を離そうとはしない。

「…………チッ」

 あるのかどうか微妙だが、舌打ちをして何かをつぶやくシェイド。瞬く間にその姿は霞となり消えてしまった。

「あら、逃がしちゃった……」

 あっという間の事に対応できず空になった手を見つめる香織。

「仕方ないわね、ツクヨミちゃんありがとう」

 光るてに挨拶を交わし、魔法陣を消す香織。それに応え光る手も消えてしまった。


「しんちゃん……ごめんね、もっと早く来れなくて……」

 宙に浮き眠る息子の頭をなで、その顔を優しくのぞく香織。ただ眠っている彼の表情には、今だけは平穏に包まれていた。

 ゆっくりと息子と共に砦に降りる香織、砦の屋上には懐かしい顔や、初めて見る顔などたくさんの兵が待ち構えていた。



「ふぅ。誰かしんちゃんを頼める?」

 砦まで下りてきた香織を遠巻きに見守る兵達。そんな彼らに真一郎を託そうと、香織は声をかける。

「あ、はい!私達が!」

 真っ先に名乗りを上げたアフリィが、ベフさんを連れて香織に駆け寄ってきた。小さな声で「ほ、本物の香織様ですよね?」と尋ねると

「ふふ、本物よ」

 ウインクしながら返す香織になぜか頬を赤くするアフリィ。そんな彼女を無視し、ベフさんは真一郎を受け取った。

「若様、今休めるとこに運ぶだよ」

 真一郎をお姫様抱っこし、砦に消えて行くベフさん。それを追ってアフリィやレイラも砦内に戻って行った






「さて、どうゆう事だ?」

 兵達を屋上から追っ払って、現在はジュリエッタと香織、それにロロイとスキーリングが残っていた。皆が居なくなると同時に詰め寄るジュリエッタ。嬉しいような怒ってるような顔で迫る彼女を「まぁまぁ」となだめ香織は答える。

「本当はもっと早く来たかったのよ。でもこの魔法結構めんどくさいのよ。しんちゃんのピンチじゃないと使えないし、かといって魔力が貯まってないと召喚失敗しちゃうし」

「そう言う事を聞いてるんじゃないんだが……あのブレスレットって確かグラインのだろ?そんな機能ついてたか?」

 ジュリエッタにも見覚えのある、真一郎がつけていたブレスレット。グラインが何となく買って気に入ってつけていた、何の変哲もないブレスレットのはずだった。

「ふふふ、母の愛の成せる技とだけ教えておくわ。アンチマジック能力のあるしんちゃんが付けても壊れないように工夫するの大変だったのよ~」

 普通の魔道具を造るだけでも大変な事なのだ、香織だからできる独特の製法で生まれ変わったブレスレッドは、魔法技術と科学技術と、その他もろもろの呪いやら陰陽的な技術やらの集大成らしい。

「でもね、欠点もあるの。こっち来るのに膨大な魔力を使うから、ちょっとづつしんちゃんからもらって貯めてたんだけどね、さすがに連続して使いすぎて魔力の貯蔵量がからっぽなのよ。この分じゃしばらくはこっちに来れそうにないわ……」

 残念そうに頬にてをやる香織。彼女を見てジュリエッタは深いため息をついた。


(そーいえば、昔からこんな感じだったな……不可能を可能にしまくるか、グラインにそっくりだ)


 思い出し笑いをこぼすジュリエッタに香織は静かに顔を寄せる。

「ジュリちゃんゴメンね。もっと早く来てれば助かった兵もいたのに……」

「お前のせいじゃない。私の判断が甘かったんだ。もっとあらかじめ色々策をねっていればここまでの事にはならなかったかもしれないのに……」

 王国の戦いの歴史の中で敗戦なんて珍しくもない。しかし、香織やジュリエッタの世代になってからは勝利が続いていた。今回は真一郎の力で敗戦は免れたが、それにしても被害が大きすぎる。砦をこんなボロボロの姿にしてしまったのも珍しい事なのだ。


「ジュリちゃんはしっかりやってるじゃない……」

 ジュリエッタをそっと抱き寄せ香織は彼女の頭をなでる。自分の方が身長は低いが、なんとか頭に手は届く。

「今回だってお前が来てくれなけりゃ負けてたかもしれん……指揮官失格だよ」

「私の知ってるジュリちゃんは、失敗なんか気にしないでしょ?失敗をバネに頑張る天才じゃない」

「……香織」

 自分の頭をなでながらこちらを見上げる香織の顔がにこにこと眩しい。

「仕方ないわね。元気のでるおまじないよ」

 軽くウインクし、ジュリエッタの唇に自分の唇をかさねる香織。

「ん……」

 絡みつく舌に、嫌がるそぶりも見せずその行為に答えるジュリエッタ。



「え……!?」

「うひゃぁ~これいいのかね……」



 その予想外のスキンシップにロロイとスキーリングは驚き固まっていた。



「んふ。元気でた?」

「バカ……」

 自分の髪の色にも負けないくらい顔を真っ赤にしたジュリエッタだが、後ろの二人に気付き赤くなりすぎ爆発しそうだ。

「随分とお熱い事で」

「母様達そんな関係だったのですか……」


「なっ!ま、待て!変な誤解するなよ!」

 しどろもどろなジュリエッタだが、香織は楽しげに二人に話す。

「私達はとーっても仲良しなのよ。愛さえあれば性別なんて関係ないわ」

 語尾にハートを付けるその言葉にジュリエッタの頭からは煙が上がり、ロロイは頬を赤くし照れている。

「なんでロロイが照れるんだ」

「あら!もしかしてと思ってたけどやっぱりロロイちゃんだったのね!全然変わってないわねぇ」

 香織が最後にロロイを見たのは十二年前だ。その頃からまったく変わっていない彼女の外見に最初は別人だと思ったくらいだ。

「なんか成長とまっちゃったみたいで。香織母様まお元気そうでよかったです」

 笑顔であいさつするロロイの頭をなで、香織は彼女の母を思い出した。

「お母さんは元気?」

「はい、今は副メイド長をやってます」

「そう、それはよかったわ」

 懐かしい友の顔を思い浮かべ、微笑む香織。その足元がかすかな光りを発していた。

「あらら、もう時間みたいね」

「もう行くのか?」

「ええ、今の本体はあっちにあるからあんまり離れてるとお化けになっちゃうのよ」

 冗談ぽく笑う香織。今の彼女は魂をこちらの世界に飛ばし、魔力とその他もろもろで体を無理やり作っているのだ。

「そうか……もうお前を呼ばなくても大丈夫なようにするから、安心しろ」

「ええ、ちょっと寂しいけどそれがいいわね」

 香織の召喚の絶対条件は真一郎のピンチだ。香織がこちらに呼ばれないという事は、真一郎がピンチになってないという事だ。

「ジュリちゃん、シルフちゃんにもよろしくね」

「ああ、分かってる。よろしく言っとくよ」

「ロロイちゃんにスキーリング君も、しんちゃんをよろしくね」


「はい、任せて下さい!」

「自分も精一杯務めさせてもらいますよ」


「二人ともありがと」

 終始笑顔を絶やさない香織は一瞬だけ寂しげな表情を浮かべ、またすぐ笑顔に戻った。


「それじゃ、またね」

「ああ、またな」

「香織母様、今度はお茶して色々お話しましょう!」

「お疲れさまでした」


 それぞれのあいさつに笑顔で答え、香織は光に包まれ消えていった。



「ふぅ……まったく」

 香織がさっきまで立ってた場所を見つめるジュリエッタ。

「さ、母様。私達も行きましょう」

「そうそう、これから後処理が山の様に待ってるますよ」

 あちこち傷だらけの砦、そこそこな数の負傷兵も居る。これからの後処理が指揮官としての戦の後の戦だ。

「はいはい、分かってるって」

 すたすたと歩く二人にだるそうに付いて行くジュリエッタ。

 中央砦の戦いはとりあえず、終結をむかえるのだった。




















「はい、予定通りです。ええ、それは見事な覚醒でしたよ。はい、シェイド殿もこちらに出てこれたのでとりあえずは大丈夫かと」

 死屍累々の地獄絵図の様な戦場後で、イミナスは主と会話していた。周囲には生き物の気配は皆無で彼の声だけがこだまする。

「分かりました。では、虫達に次なる作戦を実行させましょう」

 包帯の上からでも分かる残忍な笑顔を浮かべ、実に楽しそうなイミナス。

「はい、それでわまた」

 主との会話を、携帯でも切るように終わらせたイミナスはあたりを見渡す。

「ふぅ。ずいぶんと派手にやられましたね……」

 あたり一面、死体死体死体。焼け焦げ判別不能に近い悲惨な物ばかりだ。

「総勢二万……これが全部自分の力を覚醒させるためと知ったら、あのお優しい殿下はどう思うのやら」

 楽しげに死体をまたぎ歩くイミナスは、数日前にあった真一郎を思い出す。

「殿下……貴方のせいですよ。貴方が帰ってきたから、全てはそこからなのですから……」

 少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうにイミナスはつぶやいた。

「この責任は、きっちり取ってもらいますからね……」

 真一郎に対する感情が憎しみでは無い事は分かる。しかし、決して好意的な物でもない気がする。真一郎にどうして欲しいか、答えは出てるが、その答えを声高らかに叫ぶほど自分はバカでは無い。

「はぁ……結局私は、私の道を進むのみですか……」

 イミナスの声は、誰も聞くことなく消えていくのだった。







 中央砦決戦。

 闇の軍勢二万全滅

 王国側の戦死者三十四人・負傷兵百人程度・行方不明一人。





 後の文献で、真の王として名を残す真一郎の初陣は、こうして幕を閉じた。



戦いは何も生まない。

分かってても簡単にはやめられない。

現実って難しいね。

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