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EightPrincessOneBoy  作者: ぽちょむ菌
第一部『真一郎と八人の姫』
30/38

28話 『決戦!中央砦』

どーもです!





「ウキキキ、ウキキ」

「キューン……」

「キキ?ウッキキキキ」

「キャキャキューン」

「ウッキキキウキキ!」

「キューン」



 中央砦内にある隊長格専用の部屋が並ぶ廊下、その一角にある部屋のベットに、二匹の子猿が居た。

 一匹は黒い短毛、尻尾が三本あり、そのうちの一本はまるでサソリの様な尻尾だ。

 もう一匹は、黒い猿よりさらに小さい白い子猿。同じように短毛だが、こちらは普通の猿にあるような細長い尻尾が一本あるだけだ。


 ベットの上でうずくまり、悲しげな声を上げる白い子猿を黒い子猿が必死に慰めているような光景。 部屋には彼ら以外にも、その光景を部屋の隅からキラキラした目で見つめる三人の犬耳少女が居る。

「そろそろ行かないと怒られますよ?」

 三人の中で一番真面目そうな黒髪ロングの少女が他の二人を急がせてはいるが、彼女達は目の前の子猿劇場にくいついたままだ。

「もうちょっとだけ!ね、いいでしょ~」

 白いもふもふ耳の外人風少女が、目線を子猿から離さずごねている。

「そうそう、こんなに可愛ひのにもうしゅこしだけみてよ~よ」

 若干滑舌の悪い黒髪ショートの少女も尻尾をパタパタしながらごねる。

「もぅ、どーなっても知らないからね」

 真面目風な犬耳少女メルの心配をよそに、子猿観察真っ最中の二人。彼女達の至福の時は突然のノックの音でかき消された。

「失礼しまーす」

 ノックをし入ってきたのは、丸い耳に太めの茶色い尻尾の狸少女だ。

「あー!やっぱりまだここに居た!」

「あ、チョリさん」

 メルにチョリと呼ばれた狸少女は自分に無反応の二人の前に立ちはだかった。

「二人とも!召集命令が出てるのに何しとっと!早く行かんと隊長に怒られるよ!」

「んも~せっかく可愛い子猿劇場みてたのに!」

「チョリ、他のみんなはもう集まっひゃってるの?」

「うん、後はあんた達だけだよ。ほらほら行くよ!」

「あぁ~」

 チョリに引っ張られて行くアーニャ。

「ほれじゃ、クワルガ君その子の事、よろひくお願いね」

 クワルガの頭を人なでなでし、そんな二人を負うハルピ。

「それじゃバイバイ」

 さらにそれを追って、子猿に手を振ったメルが部屋を去っって行った。


「ウキキキ」

 クワルガはそんな三人の出て行った扉に軽く敬礼をし、いまだうずくまる白い子猿に、自分のお気に入りのお菓子を分けてあげた。

「キキ」

「キューン」

 いらないそぶりを見せる白い子猿に根気よく菓子を進め、なんとか一口食べさせることに成功した。

「キャキャ!」

「キキキ。ウッキキ~」

 食べた瞬間驚きの表情を見せる白い子猿に、自慢げに菓子を広げて見せ、残りもいくつか分けてあげるクワルガ。

「キャキャキ~」

「キキ。ウキキ」

 二匹の秘密の午前のおやつは、部屋の外で起こっている砦の非常事態などまったく気にする事もなく平和に過ぎて行った。








「ゾーイ状況は?」

「はっ!殿下のご命令通り大門の方は何とかなりそうです」

「うん、間に合いそう?」

「間もなく作業が終了すると報告がありましたので大丈夫かと」

「そっか、ありがと」

「いえ、皆張り切ってますのでご心配なくお待ちください」

「うん、わかった」

 砦の屋上部分に立つ真一郎達。その場にいるのは今報告に戻ったゾーイ以外には、レイラに、ベッベグはじめフロッグル数人と魔法が得意な兵達、さらにロロイやアフリィや他の百人隊長など、主だった指揮官が勢ぞろいしていた。

 砦から見える敵陣は数百m先にある。その敵陣の前には、白い骨組みだけの大きな装置ある。

「あれが投石機ですかな……思ったより大きいですな」

「だね……」

 屋上からでもハッキリと見えるそれは、真一郎が想像していた物とは形こそにてはいるが、明らかに別物に見える。そもそもどう見ても木製ではなさそうだ。

「あれって骨だよね?」

 白い棒状の物を組み合わせて作られている巨大投石機。大きさこそ巨大だが、その白い棒は骨にしか見えない。

「まずいケロ。あれたぶんドラゴンの骨ケロよ。まだ微かに魔力が残ってるケロ」

「ドラゴンの骨って、まさかアンチマジック能力あるの?」

「流石に生きてる時ほどの力は無いケロ。でも、下手な防御魔法とかよりよっぽど強い耐性があるケロ」

 ドラゴンの骨は魔法耐性の高さと丈夫さから、高ランクの魔道具の貴重な材料となる事で知られている。ドラゴンの数が減った現在では市場に出回ることも少なく、その価格は指先の骨だけでもとんでもないものになると言う。

「あんな量の骨どうやって……」

 ドラゴンの骨の貴重さを知る者なら当然の疑問をつぶやくレイラ。

「あの骨、やっぱ貴重なの?」

「骨の一部でも相当な額になんだぞ。あれはどう見ても一台につき一体丸々使ってる。ドラゴン一体分の骨なんて、市場に出れば王国の国家予算並の金額が動いてもおかしくない代物だ」

「マジか……」

 ドラゴンの骨製の投石機は全部で三台。どうやってそれほどまでの骨を手にいれたかは分からないが、あちらの本気具合はバンバン感じられる。

「ねぇゾーイ、偵察から始めて投石機の報告があった時、ドラゴンの骨使ってるって言ってた?」

「いえ、最初の報告書では確か木製と報告されてたはずですが」

 最初からドラゴンの骨で造られてると知っていれば、何か対策もできたはずだ。

「多分、最初の報告にあったのはあれじゃないか?」

 双眼鏡を覗きながらレイラが指差した方向を真一郎も双眼鏡で覗いてみると、ドラゴン骨の投石機の後ろの方に小さめな木製投石機が見えた。

「確かに、報告にあったのはあれか……骨製のをわざと隠してたのかな?すぐに対策考えないと」

 双眼鏡を起き、対策を考えようとした真一郎だったが、未だ投石機見ているベッベグから声がかかった。

「殿下、あれ動いてるケロ」

「え?」

 言われて急いで双眼鏡をのぞくと、確かに中央の投石機がゆっくりと動いている。

「まさか、あの距離から撃つ気かな?さすがに届かないんじゃ……」

 砦と敵陣の距離はざっと見て数百m以上。通常の投石機ならまず届かない距離だ。

 ゆっくりと装填された何かを乗せ、反って行く投石機。最大まで反ったそれは、近くにいたインセクターっぽい者の手により解き放たれた。

 ビュンという音と共に何かをこちらに投げつける投石機。それから発射されたのは、無数の赤く光る石だった。パッと見、宝石の原石のようにも見えるそれは砦の前の地面にパラパラと落下していった。

「今のって宝石?」

 屋上の皆が顔を出し下を確認すると、先ほどの赤い石がズブズブと自分で地面に埋まってゆく所だった。

「何だあれ?」

 真一郎の疑問をよそに、その光景を見ていた全ての兵が瞬時に戦闘体制に入った。周囲の兵たちの行動で、非常事態を感じた真一郎はもう一度下を覗いた。

「うお……何じゃあれ」

 下を覗いた真一郎の目に映ったのは、先ほど赤い石が落ちたあたりの地面から、次々に這い出す様に立ち上がる土人形集団。

 見た目は逞しく、土で出来てるであろう体躯。その上に目も口もないのっぺらぼうの顔がちょこんと乗っかてる。

「アレはゴーレムです」

 隣のゾーイの簡単すぎる説明。

 しかし、ゲームや漫画でゴーレムという単語を知っていれば、それだけで十分な説明だ。

「あれがゴーレムって事は、さっきの赤い石が心臓部?」

「さすが殿下、ご理解が早くて助かります。我々はあれをゴーレムコアと呼んでいます。ゴーレムはコアに触れたあらゆる物から己の体を作り出すのです」

「あらゆる物って生き物もアリ?」

「はい、動植物の中では植物の方が一般的ですが、ヒトにとりついた例もあると聞いた事があります」

「それは、俺のゴーレムのイメージとかなり違うなぁ。なんか寄生虫みたい」

「寄生虫ですか、確かにそれに近いところはありますな」

 真一郎の知るゴーレムのイメージとはかなり違うが、それでも主人の命令でのみ動くという点は同じだ。ゴーレムコアに込められた魔力によって動く彼らは、その魔力を込めた者を主人とし、その主人の命令で行動している。

「真一郎、いい加減指示をしろ」

 レイラの怒った様な声、その周りにはすぐにでも攻撃を開始できると言わんばかりの顔で兵たちが指示を待っていた。

「レイラ、あれって砦に取り付くとかあるのかな?」

 下ではゴーレム達が砦に群がり、ガンガンと砦の壁を叩いている。

「いや、一度コアが触れ体を造ると、他の物に取り付きなおす事はできないはずだ。それに、万が一砦に当たっても砦自体がゴーレムになる事は無いな。せいぜいその辺の壁や床がゴーレムになるくらいだ」

 砦のあちこちには魔法攻撃に対する防御魔法が施されている。

 魔力で周囲の物を体とし操るゴーレムは、操る魔力が攻撃とみなされ、その防御魔法がかかった場所は体にできないらしい。

「砦がゴーレムになっちゃう心配はないか。じゃあまず下のを何とかしないとね」

 真一郎が指示を飛ばすべくもう一度下を覗いた時、敵陣を監視していた兵が大声で叫んだ。



「第二射きます!!」



「なっ!?」

 兵の声に上空を見れば、綺麗な放物線を描き、無数の赤い石がこちらめがけ飛んできていた。先ほどは中心の一台が撃ってきたが、今度は両端が一斉に撃ったらしく、先ほどよりも大量のコアが降り注ごうとしていた。

「まずい!あれここに届くよ!皆!魔法でもなんでもいいから撃ち落として!!」

 真一郎の言葉通り、先ほどよりも高めのコースをとったゴーレムコアは、このまま来れば砦の屋上にドンピシャだろう。

 何かに取り付いて体を得てしまえば、その体に隠れたコアを探し、破壊する以外に倒す術は無いが、コア自体は結構簡単に壊せるのだ。

 数々の魔法を浴び、弓矢などで撃ち落とされるはずのコア。しかし、実際コアを落とせたのは弓矢だけだった。

「まさか、コアに防御魔法だと!」

 ゾーイが驚くのも無理はない。見える限りのコアは、魔法が当たる寸前に魔方陣が現れ、攻撃魔法から自分を守っていたのだ。

「くそっ!皆、あれに当たらないように!とにかく砦には入れないで!」

 真一郎の声に、再度魔法を撃つ兵達。破壊がダメでも魔法で軌道修正さえすれば砦には届かないはずだ。

「数が多すぎるケロ!」

 ベッベグが言う通り、大量のコアはその半数近くが軌道がそれ、下に落っこちたり、違う方向へ飛んでいったりしたものの、残りの半数は全て、真一郎達が居る砦の屋上へ落ちて行った。

 砦の屋上の石畳の上に落下し、すぐにその石へと同化し沈んでいくコア達。

「これってかなりまずいんじゃ……」

 その光景を見た真一郎が周囲に目をやれば、皆臨戦態勢をとっている。

「殿下、ワタシのそばを離れないでくださいね」

 周囲を警戒しながらのゾーイの声と、周りの兵の雰囲気に圧倒され何も言えない真一郎。

 皆がキョロキョロと周囲を警戒していると、あっちこっちから石が動くようなゴゴゴゴゴゴという音が聞こえてきた。

「来るぞ!」

 レイラの警告に周囲の兵の緊張がピークをむかえる。

 ガラガラと崩れる塀。石畳の石も音を立てて移動し、その姿を床からあらわした。

「うわ……ゴーレムっぽい……」

 真一郎の前に次々に現れたソレは、石でできた大きい人形だ。どうやってつながってるのか謎だらけの体に、土人形ゴーレムと同様ののっぺらぼうの顔が乗っかっている。

 いくつもいくつも現れるゴーレム達。その目の無い顔で、しっかりと兵達を見据えるヤツらはその見た目に反したスピードで騎士団に襲いかかった。

「全員戦闘開始!ここで押さえろ!」

 真一郎の大声が響き、それぞれがゴーレムに向かってゆく騎士団。

「真一郎、私も行く。お前はゴーレムに抱きつけ。いいな?」

 剣を抜き走り出そうとするレイラ。

「え?抱きつくって?」

「あれは魔力で動いてる。お前が抱き着けばその能力でなんとかできるはずだろ!」

 そう言うとレイラは、戦いの中へ消えて行った。

「なるほど、抱き着くだけでいいのか……」

 かなり間抜けな恰好ではあるが、それが有効なのだから仕方ない。

「ゾーイ、行こう!」

「ハッ!」

 ゾーイを引き連れ、一番身近で暴れているゴーレムの元へ走り、思いっきりタックルするように抱き着く真一郎。


「…………」


 言葉無く体を揺らし、真一郎を振り落とそうとするゴーレムだが、その体の石がバラバラと始め、あっという間にただの石へと戻って行った。

「おお、結構使えるじゃん、俺の力!」

 今まで防御方面でしか使えなかった力。こんなに積極的に敵に向かって行くのは初めてだ。

「よし!行こうゾーイ!」

「ハッ!」

 声をかけられたゾーイは、真一郎より先回りし、ゴーレムの注意を引く事にした。

 ゾーイが戦ってるスキを突き、真一郎が抱き着く。その効果的な撃退法で、次々とゴーレムを石やら土やらにかえしていった。


「よし!次!」

 次々にゴーレムを倒す真一郎。ゾーイが先に行き、敵を引き寄せながら戦っているのを見ながら、その敵に抱き着くため走り出そうとした時、真一郎の隣の壁が崩れ、そこから現れたゴーレムにぶつかり、跳ね飛ばされた真一郎。

「いって~」

 しりもち状態の真一郎の前に、先ほど壁から現れたゴーレムが襲いかかった。

「くそっ!」

 間一髪で避けた真一郎だが、ゴーレムは片手を剣の姿に変え、それを振り回しながら、またも真一郎へ迫る。

「この!」

 重たい石の剣を刀で受け、何とか抱き着こうとする真一郎だったが、明らかな体格差は同時に力の差でもある。

「ぐあっ!」

 石の剣の重みに耐えられず、下からの斬撃で飛ばされる真一郎。そんな真一郎へ容赦なく攻撃は続く。

「まずい!」

 飛ばされ転んだ真一郎。その場所に剣をかざし走ってくるゴーレム。かろうじてその突きは避けたが、転げて回避するのがやっとの真一郎に、次々に振りかざされる石の剣。

「ヤバい!!」

 回避しながら後ずさりする真一郎は、次第に壁に追い詰められた。

 再度振り上げられた剣を刀で受け止めるものの、衝撃でその剣を弾き飛ばされてしまった。

「くっ!」

 壁によりかかり、ゴーレムを睨みつける真一郎。そこに振り下ろされる石の剣。


(ダメかっ!)


 思わず目をつぶった真一郎の顔に、予想とは反し、生暖かい何かがかかった。

「え?」

 恐る恐る、目を開ける真一郎。

「な!!」

 ゆっくりと開けた目に映ったのは、自分をかばい、背後から胸部を石の剣で貫かれたゾーイの姿だった。

「ゾーイ!」

「ッグ……殿下、お早く!」

「このぉぉ!」

 急いで立ち上がり、ゾーイに剣を突き刺すゴーレムに抱きつく真一郎。

 ゴーレムの方は振り払おうともがくが、必死にしがみつく真一郎の能力により、間も無くただの石へと姿を変えた。

「ゾーイ!!」

 ゴーレムが石にかえり、その場に倒れるゾーイに駆け寄った真一郎は、彼の上体を抱き起こし必死に呼びかける。

「ゾーイ!ゾーイ!」

「……で、殿下……」

「ゾーイ!くそっ!誰か!!回復魔法を!!」

 真一郎の叫びは、周囲の戦いの音にかき消される。

「……お、お怪我は?」

「俺の事なんていいから!誰か!!誰か来てよ!」

 涙を浮かべ必死に叫ぶ真一郎を、ゾーイの手が力なく止めた。

「殿下……この傷です、シャールイ様でさえ、治せませんよ」

ゾーイの胸部には穴が空いている。かろうじて心臓は外れているが、誰がどう見たって重傷だ。

「そんな!諦めちゃダメだよ!」

「……私は騎士団員です。いつかはこうなる運命です」

「そんな事言うなよ!」

「殿下……どうやらお別れの様です……」

「ダメだ!俺の背中守ってくれるんじゃなかったのかよ!俺を守って死ぬなんて絶対許さないからな!」

「ぐ……はは、それは手厳しいお言葉ですな……しかし、殿下が……ぐっ、ぉ、お造りになる平和な国を見れないのは、ざ、残念ですな……」

 力なく笑うゾーイ。見慣れた笑顔の目はすでに光を失いつつある。

「だったら死ぬな!一緒に見ててくれよ!」

「……申し訳ありません、そうもいかない様です……」

「待って!逝くなゾーイ!逝かないでよ!」

「……殿下……どうか……ご、ご自分の信じる道を……」

「ゾーイ!ゾーイ!」

「…………」

 真一郎の声は届く事なく、ゾーイは静かに眠りにつく。

「くそっ!何でだよ!ゾーイ!何でなんだよ!!」

 力なく横たわるゾーイを抱きしめる真一郎。その目に自分の手首のブレスレットが映った。

「そうだ!母さんなら!」

 ブレスレットに向かい叫ぶ真一郎。

「母さん!聞こえてるんだろ!出てきてくれよ!助けてよ!!」

 真一郎の声も虚しく、ブレスレットはピクリともしない。

「何でだよ!何で出てきてくれないんだよ!」

 ブレスレットごと腕を地面に叩きつけても、何も起こらない。

「なんでだよ……」

 腕をかかえうずくまる真一郎。

 彼の周りの喧騒が、まるでスローモーションになったかの様にゆっくりと進んで行く。周囲の声が耳に入らなくなり、真一郎の感じる場所では静寂に包まれていた。





「シンイチロ、シンイチロ。泣いてるのか?」



「え?」

 全てが無音、そんな中、どこからか聞こえてきたのは子供の声だ。無邪気で明るいその声は、幾人もの声が重なったようにも聞こえる。



「シンイチロ、シンイチロ。悲しいのか?悔しいのか?」



「誰だ、何なんだこの声」

 真一郎の頭に響く声は次第にハッキリとした物になってゆく。



「シンイチロ、シンイチロ。我らのチカラ使え。敵たおせ」



「チカラって……」

 不思議な声は何度も真一郎の名を呼びながら、自分の周りを回っているように感じる。



「シンイチロ、シンイチロ。我らのチカラはシンイチロの物だ。シンイチロが求めれば我らは答える」



「求めれば答える?」

 まるで魔法を使う時の様な言葉。



「シンイチロ、シンイチロ。敵たおせ、全部たおせ、全部消しちゃえ」



「……敵を、倒せって……」

 憎しみは何も生まない。戦の無い国を目指すなら、なおさら憎しみなど抱いてはいけない。

「……ゾーイ……」

 しかし、自分の目の前に横たわるゾーイを見つめ、敵への感情が、憎悪と言う形で加速する。

 憎しみは、憎しみを増大させ、まともな感情を侵食し、次第に心を蝕んでゆく。

 真一郎の口からは、自然に言葉があふれてきた。




「我は……求める」

 静かに紡がれる、最古の魔法起動呪文。純粋な願いだけが、純粋な精霊を呼び魔法を形作る。真一郎は静かに言葉を続ける。

「汝は……答えよ」





「……我等、古の盟約に従い、汝の声に答えよう」





 それまでと違う、はっきりとした大人の声が響いた。

 瞬間真一郎の全身を走る痛み。


「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 どこが痛むのか分からないほどの激痛が全身を走り、真一郎をその場にのたうち回らせる。

「がぁぁぁ!な、何だこれ!!!」

 真一郎を中心に、どんどんあふれ出る彼の魔力。様々な色に変わり辺りを照らしている。



「真一郎!」

 異常を察知したレイラがやっと真一郎の元へたどり着き見た光景は、力なく横たわるゾーイの横で苦しみながら魔力を放出する真一郎の姿だった。

「おい!真一郎!!」

 レイラの声も届かず、ただただ、叫びを上げる真一郎。レイラが彼の元へ駆け寄ろうとした時、すさまじい衝撃波が彼を中心に起こり、周囲のすべての物をなぎ倒した。

「ぐっ!なんだこれ!!」

 その場で、吹き飛ばされないように必死に耐えたレイラ。戦の喧騒渦巻く中央砦を駆け抜けた衝撃波はあらゆる魔道具を破壊した。

「ゴーレムが……」

 先ほどまで砦内で暴れていたゴーレム達が衝撃波にやられ、次々とその姿を唯の無機物へと変えて行った。

「これは、一体……」

「レイラ、真一郎!無事か!」

 何とか倒れずに立っていたレイラの元へやって来たジュリエッタは、その異様な光景に目を見張る。崩れ去るゴーレム達、衝撃波であちこちに飛ばされた兵、その中心で未だ魔力を放出し続ける真一郎の姿。

「母様!真一郎が!」

「まさか魔力暴走か?」

「分かりません、しかしゾーイがあの姿です。おそらくそのせいかと」

 レイラに言われて見ると、真一郎の横でゾーイが横たわっていた。真一郎の様に魔力が多い者は、その魔力を制御しきれず暴走する事があると言う。主に精神的な要因で引き起こさるることが多い暴走は、敵味方関係なく甚大な被害を与えるものなのだ。

「くそっ!ゾーイがやられたか……」

 この状況を見た限りでは、ゾーイの死により、真一郎が暴走した様に見える。



「うあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 未だ苦しみに叫び続ける真一郎。



「まずいな、またさっきのが来たら危険だぞ。獣人始め魔力無くなったら困るものはすぐに撤退だ!屋上からおりろ!」

 生命活動に魔力が必要不可欠な種族は、真一郎の力が脅威でしかない。

「母様さっきのって……」

「おそらく、アンチマジックフィールドだ。瞬間的に広げられるだけ広げた感じだが、あんなの何発もやられたらこっちも危ないぞ。レイラ、あのバカ息子を止めに行くぞ!」

「はい!」




 ジュリエッタとレイラは、魔力渦巻く嵐中心部の真一郎の元へ走った。





ゾーイは大好きなキャラです。

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