2話 『人間だって動物です』
さっそく主人公旅立ちます。
フォレイティアス王国のある世界には人間と同じような、それでいて人間ではない亜人や獣人と呼ばれる存在が人間(種族名はヒトらしい)とが普通に生活している。
ちなみに亜人と獣人の違いは簡単に言えば、ヒトっぽいかどうか。亜人は直立2足歩行だがヒトとはあまり似てない外見をしている。皆さんが知っているモノでいえばファンタジーのザコキャラの王道のゴブリンやオークなどが分類されるらしい。対して獣人は、普段はヒトと変わらぬ姿をしているが(一部は耳があったりツノがあったりらしい)戦闘時や感情が高ぶった時などに獣化と呼ばれる状態になり姿が獣の様になり、身体能力が飛躍的に上がるらしい。
目の前の二人で言うと、猫耳メイド(正確にはトラ耳らしい)のミミットさんが獣人で、スーツを着たトカゲ(リザードマン)のゾーイが亜人らしい。
同じリザードマンにも見た目や体色が色々あるらしく、ゾーイは見た目は青と緑のマダラ模様のイグアナ系だ。全身は鱗で覆われている。最初はニセモノかと思いゾーイの肌を触ったり、口の中を見せてもらったりでやっとホンモノだと理解した。が、いくら理解したとはいえ、スーツ着たイグアナがお茶を飲む姿はそうそう慣れるものでは無い気がした。大体よく見たらスーツの背中はやぶけてトゲみたいなモノが見えている。
(別にスーツ着なくてもいいんじゃないかな?)
言いたくてもなんかタイミングを逃したせいか目の前の客人達の会話に耳を傾ける方を優先する事にした。
「しかしグレー様もお人が悪い。これでは殿下を驚かせるために、ワタシを連れて来た様ではありませんか」
結構楽しそうにお茶をすすりながらグレーに問いかけた。ゾーイは声的には中年のおっさんだ。渋いいい声してるなぁなどと真一郎は思った。
「ハハハ、すまんなゾーイ。しかしだ、王国が異世界にあるなどと突拍子もない話を信じてもらうためには君ほどの適任者はいないと思ってな」
「今回の訪問団で亜人はゾーイ君だけだからね。亜人のいないニホンでのリザードマンのインパクトは絶大よ」
ミミットさんは楽しそうに答えた。虎柄の耳がぴょこぴょこしている。ちなみにミミットさん、俺と対して変わらない年齢に見えるが、ゾーイより年上らしい。
獣人は基本ヒトより長生きらしく肉体のピークをむかえる頃で見た目が固定されるらしい。亜人は基本ヒトとあまり寿命は変わらない。ゾーイは今三十九歳らしい。それより年上って一体いくつだ?と思ったが女性に年齢を聞くほどデリカシーが無い訳でわ無いのでやんわり聞き流した。
「むぅ。まあワタシを見て殿下が理解して頂けるならばよいのだがな。殿下、王国にはワタシよりも派手なみてくれのモノも沢山おりますのでお楽しみを」
多分笑っているゾーイ。正直ちょっと怖い。
「えっと、リザードマン以外にはどんな種族があるの?」
「そうですな、闇の軍勢に属する種族以外ですと魚に似ているサハギンや犬の様なコボルト、猫の様なケットシーなど数えきれないほどの種族があります。コボルトやケットシーは比較的数も多くヒトと共に暮らしているモノも多いですが、他の種族の中には自分達の集落から出てこなかったり、極端にヒトを嫌うものもおりますな」
ちなみに闇の軍勢に属する種族とはゴブリンやオーク、猿に似たエイプなどヒトと敵対している種族達の総称だ。
真一郎は(RPGで言うと魔王軍みたいなもんかな?)程度の認識だが、王国と闇の軍勢は長きに渡って戦争を繰り返してきている。現在は王国の東側にひろがる大樹林、ザンブルード大樹林が闇の軍勢の主な拠点だ。この大樹林から定期的に軍勢が王国に攻めてくるらしい。王国側は大樹林に接する所に3ヶ所の防衛要塞を有しており、有事以外も常に五百人以上の王国騎士団が警備に当たっているらしい。
「ちなみに、しんちゃんは覚えて無いでしょうけど、私達が王国にいた頃はミミットちゃんやヴィラント君がお世話してくれていたのよ」
「え?そーなの?」
「ええ。私とミミットは香織様と真一郎様専属でしたので。十二年ぶりにお会いした真一郎様のご成長ぶりにこのヴィラント、正直涙が出そうでございます」
黒髪メガネのイケメン執事がハンカチで目尻を押さえてる。
「ん?ミミットさんは分かるけどヴィラントさんていくつなの?見た目結構若く見えるんだけど」
自分の世話をしていたのは17年前とかのはずだ。見た目二十代前半のヴィラントさんは一体いくつから働いていたのか?それともこの見た目でもっと年いってるのか?考えるより聞いた方が早いので聞いてみた。
「真一郎様、どうかヴィラントとお呼びください。私の年齢は詳しくは内緒ですが、ここにいる中でわ最年長とだけ答えさせて頂きます」
「え?伯父さんよりも?」
確か伯父さんは五十代後半だったはずだ。
「はっはっはヴィラントは私よりも年上さ。三十年ほどの付き合いになるが、ほとんど見た目は変わっていないね。まぁ獣人もあまり外見は変わらないから気にならないがんね」
「私はヒトの中でも少々年をとりにくい部族ですのでこんななりをしているのです」
ひとくくりにヒトと言っても様々な部族がいる。ファンタジーでお馴染みのエルフやドワーフはヒト種族の中のドワーフ部族やエルフの民と呼ばれている。
人間側から見れば全然違う種類に見えるが、亜人などからすれば、多少耳が尖って長寿だったり、身長が低くて筋肉質などは個人の特徴くらいにしか見えず、はっきり言って違いが分からないらしいのでヒトの中の部族でくくるのが一番らしい。
「しんちゃん、年齢や見た目なんて気にしてたらあっちでやってけないわよ」
「そーいうもんなの?」
「ええ。母さんが向こうで仲良かったお友達に、見た目は十歳くらいなのに、中身は百歳越えてるロリババァが居たくらいなのよ」
「へ~なんかすごいね」
母さんロリババァなんて単語どこで知ったんだ?
「それは第二師団の団長マリステア嬢の事ですな」
何故かゾーイが一番反応して言った。
「そうそうマリちゃん。懐かしいわ~よく一緒に模擬戦やったりしてたもの」
実際のところ、香織は模擬戦のつもりだったらしいが、マリステア本人は本気で香織を殺しにいっていたと、それくらいムカついてたと真一郎は後にマリステア本人から聞く事になる。
「さすがカオリ様。師団長クラスと模擬戦などワタシなんぞは命がいくつあっても足りませんわ」
「あら、ゾーイ君だって千人隊長なんでしょ?リザードマンで師団長になった娘がいるって聞いたわ、精進あるのみよ」ウインクしてる香織を見て|(母さんそんな強いのか?)
「第五師団長ガルルート嬢はリザードマンの中でも特別です。彼女に追いつくにはちょっとやそっとの鍛錬でわ足りません。魔法が使えないリザードマンであって魔法戦士が一般的な王国で師団長を務める力量は計り知れません。それにあの夕日のごとく鮮やかで艶やかな鱗、彼女こそリザードマンの至宝の存在と言っていいでしょう」
何かそのガルルートさんについて熱く語りはじめた。
「ゾーイ君ってガルルートさんの事が好きなんですよ」
いたずらっぽくミミットさんが笑いながら教えてくれた。
「いや、別にワタシは好きとかそういう物ではなくてだな、ただ同じ種族として尊敬をしていると言いたいのだよ、だいたいガルルート嬢はまだ三十にもなっていないのだ、ワタシみたいなおじさんとは釣り合わないさ」
ゾーイ十分好きってわかるんだけど……
「いーえ、恋愛に年齢なんて関係ないわよ。ねぇ?お義兄様だってそう思うでしょ?なんたって今の奥様は二十近く年下なのだし」
「いや私にふられてもだな、まぁガルルートはまだ若く将来有望だ、たよりになる伴侶ができればもっと活躍できるかもしれないしな。どうだ?ゾーイ、君にその気があるのならば一度場を設けてもかまわないぞ」
「え、あ、っと、グ、グレー様ワタシは別にそのような場などもったいなくて、それにワタシなんかでは役者不足でございますよ」
あからさまに動揺しているゾーイ。なんか目がめっちゃ泳いでいる。
「ゾーイ殿、せっかくグレゴリウス様が進めてくださると言うのですよ。千人隊長ともなれば役不足にはならないかと。ここは潔くお受けした方が今後のためかと。それにガルルート嬢ほどの高物件、他にも狙っている殿方は多いかと」
このヴィラントの言葉が効いたのか「そ、そうか?そうだな、伯爵閣下の意思を無下にはできないものな」などとつぶやくと帰国後ぜひに話を進めてもらうようにグレーに頼み込んでいた。ガルルートさんの方の意思は関係ないのか?などと考えているのは真一郎だけのようだった。
その後も他愛もない世間話から王国にいる姉妹たちの話、モンスターや魔法などの話を聞きながら夜はふけていった。最初はちょっと怖いと思ったゾーイも時間がたつにつれて見慣れてきて、なんか愛嬌あるイグアナだなぁと思えてきた。
時間がたつにつれ母とミミットがいじってゾーイがドギマギっていう構図が出来上がっていた。最初はどうなる事かと思っていた彼らとの関係もそんな心配などいらないほど良好なものとなっていた。
(この調子で王国のみんなとも仲良くできればいいんだがな)
まだ見ぬ祖国への期待と不安を胸に日本ですごす最後の夜はふけていった。
4人が帰ったので部屋にもどり荷造りなどをしていた真一郎の部屋にノックの音が響いた
「しんちゃん、まだ起きてる?」
「ああ、まだ起きてるよ、どうしたん?」
部屋に入ってきた母は真一郎にあるものを手渡した。
「これは、ブレスレット?」
母が渡してくれたのはシルバーのブレスレットだった。特に模様などはないが1つだけついている宝石みたいなものがかすかに光っている。
「あなたのお父さんが、昔私にくれたものなの。これといって特別な効果なんてないけど、私のお守りみたいなものね。明日からあなたは今までとはまったく違う世界に旅立つわ、危険な事もある。ぜひこれをお守りに持って行って」
「でもこれって父さんの思い出の品とかじゃないの?悪いよ」
「いいのよ。これをつけていればお父さんがきっとあなたを守ってくれるわ。お母さんのためにも持って行ってちょうだい」
「母さんがそう言うなら借りていくよ。じゃあ、次に帰ってくるときには何か違うお守りを俺が持ってくるよ」
「ええ。そうしてちょうだい」
笑いかける母の目にはかすかに光るものが見えた。真一郎がブレスレットを手首にはめるとブレスレットは青白い光をはなち真一郎の手首にぴったりはまった。魔法の力がこめられた品は使用者にあった形になるらしい。
「うん、ぴったりだ。母さんありがとね。これがあればなんか大丈夫な気がするわ」
母を安心させるように笑って見せたがうまく笑えているか不安だった。
「あんまり無茶をしないように、姉妹達と仲良くね。あちらにいけば彼女たちのお母さん、あなたの義母にあたる人たちがいるわ。私にとって最高の友人達よ、何かあれば彼女達にすぐ相談する事。それとメイド長のシノさん、あの人は日本人でこっちからあっちに行った人達の代表みたいな方よ。あの方もあなたの力になってくれるはず。あとえんじゃるちゃんは見た目は変だけどとても頼りになるわ。それから……」
「母さんそんなに覚えられないよ。大丈夫、俺は大丈夫だからさ」
「そお?でも異世界よ?しんちゃんが思っているより大変よ。モンスターとの戦闘は武器に慣れるまでダメよ。魔法使うときは周りに気をつけてね。きっと私に似て魔法適正高いはずだから。そうそう、あっちは今春のはず。こっちは夏だから温度差とかあるから、風邪ひかないようにね。お腹だして寝ちゃだめよ」
「もう子供じゃないんだからさ。まぁ立派な王族になれるように頑張るわ」
なんか途中かなり気になる事言ってたがうまく聞き流そう。母はこんなに心配性だったのか、やはり知ってる場所でも息子一人行かせるのは心配なのかな。母の心配話が終わる気がしないので切のいいとこで寝ようかなー、まあ、とりあえず心配かけないように頑張ろうと心に誓った真一郎だった。
翌日の朝、ヴィラントが佐山邸を訪れたのは朝八時だった。昨日の夜は荷造りや母との話で結局寝たのは深夜だったためかなり寝不足だ。おはようと挨拶をすませた真一郎が外に出ると黒塗りの外車が停まっていた。
「え?何この高級外車?」
「こちらはニホン側から借り受けているものですよ。あちらでは車はなく基本馬車ですが、ニホンではさすがに馬車での移動はできないのでこれを使わせてもらってます」
ヴィラントが説明してくれたので納得したがここで少し疑問が。
「気になってたんだけどさ、ニホンと王国の関係ってどうなの?王国の存在が明かされてないってことは政府の極秘事業とかなのかな?」
実はニホンと王国の関係はかれこれ150年ほども続いている。その間主にニホン側からは食糧品や家畜、野菜などの種などの輸入が主で、王国側からは宝石や、近年レアメタルと呼ばれる特殊金属などを輸出していた。そこまでの貿易ならば政府がからんでいるはずだと思った真一郎だったが答えは真一郎の予想を超えていた。
「私も詳しい話はわかりませんが、たしかニホン側の皇族や一部の商人と直接交渉などをしているはずですよ」
「え?皇族って、皇族?」
「はい。確かニホンでは皇族は国民の象徴でしたね。実際はそれなりに政府に口出しできるようですよ。昨日もグレー様は皇族の方との謁見してからこちらに来たのですよ」
やんわりと真一郎の知らない日本を教えてくれたヴィラント。なんかそれ聞いてよかったのか悪かったのか不安なんだけど。まあ俺もいちお王国側の皇族なわけだからいいのか?でももしかしたら日本の皇族とも会う機会あるのかな?なんか無駄にテンション上がるなそれ。などと思っていた真一郎だった。
「でわ、真一郎様まいりますか」
ヴィラントに促されて車までむかう。途中ふりかえりしばらく見ることがない我が家を目に焼き付けた。
「しんちゃん、いってらっしゃい」
なんか母さん目真っ赤だな。
「うん、いってきます母さん」
車にのって後ろを振り返るといつまでの母が手を振っていた。
車で走る事2時間、すでに住宅街だった景色は山道に変わってしばらくたつ。
途中まではどこを走っているか分かっていたが、今ははっきり言って自分がどこにいるのか分からない。
「結構遠いね」
外の緑を見ながらつぶやくように車内の同乗者に話しかけた。
「もう2時間ほど走っているのでもうすぐですよ。車酔いは大丈夫ですか?」
「大丈夫。あっちの門も街から遠いところにあるの?」
「いえ、あちらは王宮の庭にありますので門まで行けばもうあちらに付いたも同然です」
「ヴィラントって色々知ってるね。すごいわ。そういえば他の3人は?もう行ってるの?」
「ええ、グレー様達は先に立ち門にて色々と準備をしてます。今回は総勢30人ほどの人数でこちらに来ているので最終調整にはやはり指揮官たるグレー様が現場にて指示をださないとなりませんので」
「そんなに人数来てたんだー。他の人見るの楽しみだわ」
そんな会話をしながらも、ふかふかのシートと程よい振動のせいで真一郎はいつの間にか眠りについていた。
「真一郎様、起きてください。門に到着いたしましたよ」
「ん?あぁ寝ちゃったのか」
伸びをしながら車からでる真一郎は目の前の光景で一気に目が覚めた。
「なんじゃこりゃ……」
そこには巨大なトンネルがあった。
見た感じもう使われていないトンネルで上のふちの方は草がしげっていた。トンネルの周りは広場のようになっていて、その広場には大小様々な馬車があり、もちろん馬がひいている。その馬車に荷物をつみこむのは屈強な体躯の男達。その周り少し離れた広場と木々の境目辺りに、周りを警戒する様に日本ではありえないマシンガンのようなもので武装した迷彩服の集団。
その集団の中にはあちらこちらに黒いスーツにサングラスのあからさまに怪しい人達もまざっていた。ぱっと見どう見ても日本ではありえない光景だった。
「あの方々はニホン側からこちらの護衛のために配属されている方々です。まあこちらの世界ではそうそう危険な事にはならないと思いますが、いちお形式的なものですね」
「ってか日本国内であんな武装してるこの集団の方が十分危険だろ……」
「あのマシンガンというのはすごいですね。魔法を使えなくても下級魔法並みの威力を持っていますからね」
「え?あれ使ってるの見た事あるの?日本で?」
「ええ、前回こちらに来た時に少々ゴタゴタがおこりまして、その時はあちらの方々が対処されたのですが、その時威嚇にマシンガンを使っていましたがあれが実際当たれば相当な威力でしょうね」
なんかヴィラントすごい事言ってないか?日本で銃撃戦てどこのドラマだよ!
「まああちらでの戦闘はもっと激しいですからね。魔法戦を見てしまえばあの程度の武器のインパクトは大したことありませんね」
「そ、そんなに凄いの?」
「そうですね、超級魔法あたりをつかえば地形が変わりますからね。ちなみに香織様は以前超級魔法を使って王国の地図に一つ湖を付け足す事態になりました」
なんか楽しそうに笑っている。ってか何やってんだ母さん!地形変えて湖って!
「真一郎様も香織様の血をひいています。間違いなく魔法の才能はあるはずなので、あちらに付いたら特訓いたしましょう」
メガネをくいっと上げてほほえむヴィラント。
「はあ、よろしくお願いします」
魔法を使う事はもちろん楽しみだがどうやら才能がかなり左右するらしい。血筋的には大丈夫と言われても実際適正検査するまでは不安だ。魔法についてはあちら側で専門家から説明があるらしいので詳しくはまだ聞かされていない。どうやら人によって使える魔法の適正などがあるらしい程度の知識しか今は持っていなかった。
「殿下、車酔いは大丈夫ですか?」
ゾーイがこちらに気づき駆け寄ってきてまずそう聞かれた。
「なんかヴィラントも聞いてきたけど、みんな車酔いひどいの?」
「我々はあのクルマに慣れていませんので、どうもあれに乗ると車酔いになってしまうものが多いのです。殿下は普段から乗られているのでしたな。あの気持ち悪さにあわないとは羨ましい限りです」
馬車の方が揺れて酔いそうなんだけどなぁ。などと真一郎が考えていたら屈強な男達をつれたグレーもやってきた。
「どうだ、真一郎昨日はよく眠れたか?」
「ええ、なんとか」
本当は全然寝てないが心配されるのも嫌なので適当に答えておいた。
「ほうこちらがシンイチロウ殿下ですか!」
なんかやたらデカイ髭面の人がデカイ声でこちらを覗き込んできた。
「あ、真一郎です。よろしくお願いします」
「え?あっ、と、とんでもない!頭を上げてください!俺みたいのに殿下がそんな丁寧にしてくていいんですよ!」
デカイ人はかなり動揺している。気づくと周囲の男たちがほとんど真一郎たちを囲んでいた。
「まあいちお挨拶は大事かなと。皆さんもこれからよろしくお願いしますね」
周囲の男達にかるく会釈をするとどよめきがおこりその後すぐに「よろしくお願いします!」ととてもいい返事が返ってきた。「はっはっはさすが真一郎、確かに挨拶は大事だな。ここに居るのは王国に帰ってからお前の下につく兵達だ。ゾーイの部下の中でも優秀なものを選んである、指揮官として立派に務めるのだぞ。皆も王国に帰ってからも真一郎の事よろしく頼むぞ」
「もちろんで!」「まかせてください!」などと頼もしい返事があちこちから返ってきた。
内心(え?俺の部下って?こんな傭兵みたいな人達まとめられんぞ)などとかなりビビっていた真一郎だった。
「さて、皆準備はととのったようだな。時間も無い事だ、そろそろ出発しようか」
グレーの合図とともに周囲の人間は忙しく最終確認をすませていった。門の前に馬車の列が整列し先頭から順々にトンネルの中に消えていった。
「さすがにちょっと緊張するわ」
隣に控えるヴィラントに声をかけながら、真一郎は列の最後尾に並んだ。隣のヴィラントはというとスーツ姿に両手にスーツケース、背中には巨大なリュックサックをしょうという変な恰好をしていた。
「体感的には特に何もありませんから大丈夫ですよ。トンネルを抜ければもうあちらについていますからそのまま歩いて行けばいいだけですよ」
もっと時空を越えるというか某ネコ型ロボットのタイムマシンの様な光景を期待していた真一郎は少し残念がった。
「そーなんだ。なんか正直異世界に行くって実感が全くないんだけど」
「ははは、あちらにつけば少しづつ実感が沸いてくるかと思いますよ。さ、列が動きました。まいりましょうか」
真一郎は歩き出した。これから起こるであろう王国での毎日へ期待と不安を胸に。