27話 『決戦中央砦 前夜祭その四』
どーもです!
フォレイティアス王国が誇る三人の最強戦力、通称『三戦姫』
前国王グラインの妻でもあった三人には、それぞれ二つ名がある。
真一郎の母で、魔法特化型の香織は『銀翼の魔女』
万能型として知られるシルフォーネは、その美しい金髪と狂気的な戦い方から『金色の狂戦姫』と呼ばれている。
物理攻撃特化のジュリエッタは、自ら先陣を切って戦い、敵の返り血など気にもせず突き進む姿から『鮮血の赤獅子』と呼ばれ、一説では元々赤くは無かった髪色が倒した敵の血で赤くなったとも言われた事があった。
さらに王国には彼女達以外にも『狂犬』や『爆腕』などと言った二つ名を持つ猛者達が少数ながら存在する。
その中で、最も異才を放っているのが通称『業火の英雄』ことレッドママンだろう。度々戦場に現れては敵を焼き尽くし、フォレイティアスの守護神を自称する謎のヒーローだ。
まぁ実際その正体に気づかない者なんていない訳だが、本人が正体を隠しているつもりらしく、誰もそこにはつっこめないでいた。
そんな我らがレッドママンは今、巨大な敵の目の前に浮かんでいた。
「ったく、こんな大きさまで育てやがって……」
巨大なアンテッドロードの前で、自身の魔法で出した炎の翼を羽ばたかせ浮かぶレッドママン。
「こいつの弱点は確かあの顔……」
背中についてる巨体に引けを取らない巨大な白い顔を見据え、ジュリエッタは滑空を開始する。
「とりあえず攻撃あるのみだな!」
ジュリエッタの持つ武器に瓜二つの巨大な日本刀、『大太刀・鬼破』を魔法で呼び出し、背中の顔目がけスピードを上げて突撃する。が、その顔の周囲からは無数の黒く細長い手が伸び、レッドママンの行く手を阻む。
「邪魔だ!」
自慢の鬼破を両手で振り回し、伸びてくる手を次々に斬り捨てるレッドママン。
周囲を気にする事無く迫る手を斬りまくる彼女は、上空から攻撃する事で全く気が付いていなかったが、その様子を下で見る真一郎達にはアンテッドロードの異様な姿が映っていた。
「あれ、死体を喰ってる?」
真一郎達から見えるのは、下に転がるエイプの死体を長い手を使って拾い上げ、次々に自身の体に吸収していくアンテッドロードの姿だ。
「まさか……あれ、食べて強くなる、なんて事ないよね?」
「殿下、あり得ない話ではありませんぞ。実際あの姿になるまでに多くの死体を喰らったと、先ほどショウジョウが申してましたしな」
「食べてるって事は、強くなってるって事だよね……」
「あのぉ殿下。私達まで食べられるなんて事ないですよね?」
アフリィが不安げに聞いてきたが、さすがにそれは勘弁してもらいたい事態だ。
「それはヤダな。でも可能性はあるかも……下手に接近して攻撃するより、魔法で遠くからの方がいいかもね」
「しかし殿下、魔力の残量を考えれば魔法部隊にこれ以上無理をさせるのはまずいですな」
「だよね……」
明日の事を考えれば、これ以上の魔力の消費は押さえたいところだ。
真一郎が手を拱いている最中も、レッドママンの猛攻は続いている。
「真一郎、今のとこは待機でいいと思うぞ、ただ、もしもの時はいつでも出れるようにしとくぞ」
レイラの助け舟的提案に、ホッとしながら「それで行こう」と賛成した真一郎の目線の先では、今まさにレッドママンが特大炎魔法を作り出した所だった。
「これでもくらえぇぇ!」
自身が出せる魔法でも最高火力の物をアンテッドロードに向かい投げつけるレッドママン。しかし、アンテッドロードは思いもよらぬ形でそれを防いだ。
「なにぃっ!」
それまで沈黙を守っていた背中の顔の口が突如開き、ジュリエッタの放った特大火球を飲みこんだ。
「なんなんだ一体……」
目の前の状況に混乱するジュリエッタだったが、魔法を飲みこんだアンテッドロードは明らかに何かおかしくなってきている。
先ほどまでの黒と灰の体は、ところどころが光り、その流動する表面も今は沈黙している。
「うへへへへ!はーっはっはっは!はいはい!来ましたよ!遂に完成しますよ!!」
ジュリエッタの攻撃を受け、それを飲みこんだ背中の顔。その顔の周りを飛び回るショウジョウ。その声に答えるように、閉じられていた瞳がゆっくりと開き始めた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」
一際大きな声で叫び、その声と共に開眼したその瞳は、暗闇の如く真っ黒。さらにその瞳からは真っ赤な涙が流れ落ちた。
「うへへ。産みの苦しみとでも言いましょうかね。はいはい赤獅子殿には感謝しなきゃですね。あんな上質な魔力をこの子に下さるなんてねぇ。さぁ!真なる姿を皆さんにお披露目するのです!」
ショウジョウの歓喜の声に答える様に、背中の顔の口を内側からこじ開けるように、赤い指先が見えた。
「させるか!」
事態を察したレッドママンが、顔に向け火球を放ったが、顔に当たる前に何かに当たりはじけ消えた。
「くそ!防御魔法だと!」
「うへへ、その程度ではこの子には無意味ですよ」
「だったら!」
鬼破を振り上げ顔に向かって下降する。
しかし、彼女に向けて口の中から細い青白い光線が放たれた。
「なっ!」
とっさに防御魔法を展開したが、青白い光線を真っ正面から受けその勢いで落下して行くレッドママン。
「母さん!」
「母様!」
「ジュリ!」
声と共に走るジュウベイだったが、彼が受け止めようとしたレッドママンは空中で回転し、その炎の翼をバサッと広げた。
「ててて、イキナリ撃つなんて卑怯だぞ!」
対したダメージも無いようで、空中で手足をバタつかせ抗議するレッドママン。
しかし、彼女の声になど物怖じせず、攻撃をした赤い指先が顔の口を大きく裂き、その姿を彼らの前にゆっくりと現した。
それは、パッと見はヒトの肢体。
しかしその全身は、皮膚を剥ぎ、筋肉組織が丸見えの人体標本の様である。あちこちから真っ赤な血がにじみ出ている痛々しい姿だが、その顔についた瞼の無いギョロつく目からは痛みよりも怒りのこもる何かが感じられた。
「……………………」
ゆっくりと辺りを見回し、静かに両手を広げる真なる姿のアンテッドロード。
その前に魔法陣を造りだし、詠唱も声もなくそこから放たれる青白い光線。先ほどの細い物とは明らかに違うその姿に真一郎は走った。
「ヤバい!みんな防御を!!」
周囲の兵の中から飛び出し、両手を前に光線を一人で受け止めようとする真一郎。
「総員防御魔法だ!」
ジュウベイの声に各々防御のための魔法を詠唱した兵達。
彼らに向かって放たれた光線は、かろうじて真一郎が受け止める事が出来た。
「ぐわぁぁ!」
「殿下!」
「真一郎!」
魔法は打ち消したが、その威力によって吹き飛ばされた真一郎。
「だ、大丈夫。それよりもまだ来るよ!」
真一郎に駆け寄った皆が振り返ると、先ほどの魔法陣が今度は三個出現していた。
「クッ……」
吹き飛ばされ、全身を地面に打ち付けられた。が、まだ立てる。真一郎は痛む体を起こし放たれる光線に向かった。
「……みんな俺の後ろに!」
「殿下、今度はワタシが支えます」
真一郎の肩をもち支えるゾーイ。
「……ありがと」
「私もいるぞ」
ゾーイとは反対側の肩を支えるレイラ。二人に連れられ兵達の前に出た真一郎は、飛んでくる光線に向け手を掲げる。しかし、放たれた光線は三本、真一郎が受け止める事が出来るのはそのうち一本だけだ。
「来るよ!」
二人に体を支えれらながら両手を前にだし、光線を受け止める真一郎。
「このぉぉ!」
爆風に襲われながら、二人に支えられて、今度は吹き飛ぶ事なくなんとか魔法を消す事ができた。
「ハァハァ、残りはどうなった!?」
真一郎が見ると一本はレッドママンが何とかしてくれそうだ。しかし、残りの一本は確実に砦に命中するだろう。
「まずい!」
真一郎が走っても時すでに遅し。残りの一本の光線が見事に砦に命中した。
「まったく!今日はふんだりけったりだな!」
叫びながら一本の光線の前に立ちはだかったのはレッドママン。体の前に幾重にも防御魔法を重ね光線と向き合った。
「ぐぉぉぉぉ!こなくそぉぉぉ!」
防御魔法を次々と打消し、一直線にレッドママンに向かう光線。
「こんなモンに私が負けるかぁぁぁ!」
気合と根性を魔力に乗せ、自身の出せる限りの防御魔法を打ち消された数だけ出すレッドママン。何十にも重ねた防御魔法により次第に威力を無くしていった光線はレッドママンに到達する寸前で、かろうじてその威力を無に帰した。
「なんちゅーモンを……」
自身の魔力の残量を考えれば、こんな攻撃何度も受けれない。痛む体を押さえ真一郎達の方を見るとゾーイとレイラに支えられ、魔法を消す姿が目に入った。
「あっちは何とかなったが……」
真一郎とレッドママンが受け止めることが出来たのは二本の光線。残りの一本が今まさに砦に命中する所だった。
ドガーーーーーン!!!
轟音と共に砦に命中する光線魔法。
崩れる城壁、立ち込める土埃。過去に何度も敵の猛攻を防いできた中央砦に命中した初めての魔法は、その威力をもって砦に綺麗な円形の穴を開けた。
「砦をこんな姿にしたのは初めてだな……グラインが居たら怒られるな」
よろよろと下降する彼女の元に、駆け寄る影が見えた。
「ジュリ!無事か!」
地面に着地し、膝に手を置き敵を睨みつけるジュリエッタの元へ走ってきたのはジュウベイ。
「ああ、なんとか。しかし次は受け止める自信がないな。真一郎だって限界はあるだろう……」
「だったらその前に奴をかたずけるぞ」
ジュリエッタに向かい手をだすジュウベイ。その後ろからはスキーリングもやって来ていた。
「微力ながらお手伝いしますよ」
「すまんな。それじゃ一気に行くぞ!」
全身を奮い立たせ今一度炎の翼をだすジュリエッタ。その声にこたえる様に刀を抜くジュウベイとスキーリング。
ゆっくりとこちらへ歩みを進めるアンテッドロードに向かい、勢いよく飛び出したジュリエッタと走り出す二人。
「あれもアンテッドなら首を落とせば何とかなるはずだ!ジュリは首を!我々は足を狙い気をそらすぞ!」
「あいよ!」
アンテッドロードの今の身長は7~8mくらいだろうか、先ほどまでのドロドロよりは今のヒト型の方が小さくは見えるものの、大きい事に変わりはない。空を飛べない二人はアイコンタクトを交わしながら、敵の右足目がけ斬撃を繰り出した。
まっすぐ前方しか見ていないアンテッドロードは足元の攻撃などお構いなしに歩みを進めている。
「なんちゅー硬さだ!」
「スキーリング!地面をえぐれ、こいつを転ばせるぞ!」
「了解!」
ジュウベイの声に一度後退し、アンテッドロードの少し前に穴を出現させたスキーリング。足元など気にもとめていないアンテッドロードは片足を穴にはめ見事にその巨体を転ばせた。
何の感情もないような表情で無言で倒れたが、その瞳はたしかにジュウベイとスキーリングを確認していた。
「……………………」
無言で魔法陣を出現させ、そこから放たれたのは先ほどよりも小規模な光線。しかし当たればひとたまりもないはずだ。
「こんな直線攻撃当たるかよ!」
光線の特性を、先ほどの攻撃をみて見抜いたスキーリングは素早くよけ、そのまま倒れているアンテッドロード目がけ疾走する。
「スキーリングよけろ!」
「へ?」
ジュウベイの声で後ろを振り返ると、先ほどよけたはずの光線がぐにゃりと曲がり自分を追尾していた。
「なんだと!」
着弾寸前に防御魔法を唱えなんとかその威力を抑えたものの、相殺するまでには至らなかった光線は容赦なくスキーリングを襲う。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされながらも、何とか体制を立て直し地面に着地したが、光線をもろに受けた腕は無残にも焼け焦げていた。
「こりゃまいったね……」
感覚の無い腕に自身で治癒魔法をかけ、なんとか最悪の事態は脱する事は出来たが、しばらくは腕が使えなそうだ。
「大丈夫か!?」
駆け寄るジュウベイになんとか笑いを造り答えるスキーリング。
「なんとか……それより奴を!」
魔法が命中したことで興味を無くしたのか、アンテッドロードはゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「もらったぁぁ!」
起き上がろうとするアンテッドロードの首を目がけ斬りかかるジュリエッタ。しかしそれまで下を向いていた顔がぐるりと回転し、ジュリエッタの目の前でその口を開けた。
「なっ!!」
攻撃が来るかと思い身構えたジュリエッタだったが、口から伸びて来たのは無数の黒い手だった。彼女の腕や足をつかみ体の自由を奪おうとする手を懸命に振り払うが、次から次へと押し寄せる手はキリがなかった。
「ジュリ!左近、右近行くぞ!」
「はいな」「わーってるって!」
腰の刀に声を掛け、走りながらその二本の刀を抜き魔法を詠唱するジュウベイ。
「我は求める汝は答えよ!紫電双竜武装!」
自らの刀に唱えた魔法によりその刀身に紫の雷を宿らせた。
「シビれるねぇ!行くぜぇ!」
「はいはい!行きますえ!」
紫の雷と魔力を込めて放たれる十字の斬撃は、ジュリエッタを捕まえている手に命中し見事に切断した。
「ジュリ!」
「ジュウベイすまないな」
空中でジュリエッタをキャッチしたジュウベイは、そのまま地面へ着地する体制に入ったが、またも無数の黒い手が襲いかかる。
「しつこいな!」
またも掴みかかるのだろうと、ジュウベイが刀で応戦しようとした。が、直ぐに襲ってこず少し離れた所で掌を広げ魔法陣を作りだす手。
「くそっ!」
瞬時に状況を判断したジュウベイは、力一杯ジュリエッタを地面に向かって蹴り飛ばした。
「なっ!ジュウベイ!」
「お前にはまだやるべき事があるだろう!」
落下するジュリエッタは炎の翼を出そうともがくが、魔力の残量はあるはずなのに魔法が上手く出せない。そのジュリエッタの前で無数の青白い光線がジュウベイの体を貫く。
「ぐあぁぁぁ!」
幾つか刀で防いだが、その数より多くの光線がジュウベイの意識を飛ばした。
「ジュウベイ!!くそっ!なんで魔法が出ないんだ!!」
意識を失い落下してくるジュウベイだったが、それを無数の黒い手が受け止めた。
「まて!何する!」
ジュリエッタの声も届かずジュウベイを受け止めた手はそのまま、顎を外し大口を開けたアンテッドロードのその口へと戻って行った。
「ジュウベーイ!!」
叫びながら手足をバタつかせ落下するジュリエッタを駆けつけたレイラが地面すれすれで受け止めた。
「母様!大丈夫ですか!?」
「レイラ!ジュウベイが!」
「分かってます。あっちは真一郎達が何とかします!」
レイラに言われアンテッドロードを見ると真一郎を中心にその足元へ駆けてゆく兵が見えた。
「レイラお前も行け!」
「しかし母様……」
「いいから行け!」
「……はいっ」
母の迫力に渋々その場を離れるレイラ。
娘の背中を見送りジュリエッタはゆっくりと立ち上がった。
「くそ、こりゃ毒かなにか盛られたな……」
地面に降り冷静に自分の状態を確認するジュリエッタ。魔法が使えないと言うあちこちの傷以上に深刻な問題に向き合ってみたが、どうやら魔力のコントロールを何かに妨害されていうようだ。
「体は何とか大丈夫か……」
よろよろと立ち上がりレイラの後を追おうとしたジュリエッタ。
「ジュリ母様は行ってはダメですよ」
「何だロロイか」
自分を呼ぶ声に振り返るとうさ耳少女が心配そうに近付いてきた。
「そんな体で行っても足手まといになるだけでしょ。さ、砦に戻って治療を」
「しかし……」
「あっちはしんちゃんやレイラちゃんに任せましょ。それに戦はまだまだ続くんだから、早く治療して前線で暴れてもらわないと。でしょ?」
ロロイの意見も一理ある。おそらく日が昇れば敵の本隊が来るはずだ。それまでに魔法を何とかしないとマズイ事くらいジュリエッタにも分かる。
「だがジュウベイが……」
自分をかばい敵の手に落ちたのは身近な兵の中では最も付き合いの長い戦友だ。
彼を見捨てる事など出来るはずが無い。
「しんちゃん達を信じましょ。きっと大丈夫だから!」
力強い義娘の言葉を聞きアンテッドロードに目を向ければその巨体に必死に挑む兵たちが見えた。
(真一郎には悪いが、あれじゃおそらく助けられん……)
遠目で見ても明らかに真一郎達の方が劣勢だ。
(しかし、明日の事を考えれば……)
ロロイの言う通り戦は日が昇ってからが本番だろう。今のままでは自分がまともに戦えないのは明白だ。
ジュリエッタは心を鬼にし静かに決断した。
「……分かった。砦に戻ろう」
「良かった。さ、行きましょ」
ロロイに手を取られ歩くジュリエッタは今一度敵を睨みつける。
(ジュウベイ、真一郎が助けられなくても、私が必ずお前を取り戻してみせるからな……)
真一郎を信じてない訳ではないが、そこまで楽観的にもなれない。
密かな決意を胸に、ジュリエッタは砦に戻って行った。
「ぬぅ。なんて硬いんだべ!」
アンテッドロードに何度目かの攻撃を当てたベフさんだが、敵のその見た目に反した防御力に全く歯が立たなかった。
「殿下!私たちじゃ歯が立ちませんよ!」
自分達に向け放たれる光線魔法をかわしながら、明らかな戦力差を抗議するアフリィ。
「分かってる、でも!」
真一郎達の戦力では、たとえ敵に傷を負わす事ができても倒すことは出来ないだろう。
攻撃を避けながら、あまり効果のない攻撃を繰り返す兵達。インセクター達やエイプ達との戦闘をした彼らには、少しずつだが疲労の色が見えてきている。
(皆も疲れてきている、このままじゃ危ない。でもジュウベイが……)
現状をなんとか打開できないものかと、思考を巡らせる真一郎に不意に上空から声がかかった。
「うへへ、殿下、生憎ですが我々はそろそろ退場の時間のようです」
上空からパタパタと降りて来たのは、相変わらずな笑顔を浮かべたショウジョウだ。
「ショウジョウ!ジュウベイをどーしたんだ!」
「うへへ、ご安心を。はいはい、丁重に扱わせて頂きますよ。我々の新しい戦力としてですがね」
パタパタと真一郎の周りを飛びながらショウジョウは続ける。
「うへへ、出来れば赤獅子殿が欲しかったのですが、まぁ仕方ありませんね。はいはい、狂犬殿でも十分と言えば十分ですかね」
「お前、一体何をしようとしてる!」
ショウジョウの態度に嫌気がさしたレイラは飛びかかる勢いで怒鳴り散らす。
「姫様、それは内緒ですね。後々分かるとおもいますよ。はいはい、日のでも近付いてますのでそろそろ我々は失礼させて頂きますね」
ショウジョウが手をかざす先ではゆっくりと日の光が昇って来ていた。
「アンテッドロードも所詮アンテッド、日の光の下ではその能力は十分に発揮されないんだな」
ゾーイの言葉通り、アンテッド系は基本的に日光に弱い。夜間と日中ではその能力は格段に違うため、アンテッドは夜の活動が基本だ。そのせいか戦場に現れるのも夕方からが多い。
「うへへ、ご名答ですよ。この子もアンテッドですからね。はいはい、積もる話も沢山ありますが、この続きはまたの機会にいたしましょう」
そう言いながらアンテッドロードの肩に止まるショウジョウ。彼が指をパチンと鳴らすと、アンテッドロードの足元に黒い影が広がった。
「待て!ショウジョウ!」
「ダメだ真一郎!お前まで巻き込まれるぞ!」
走り出す真一郎を止めたレイラ。
「それでは皆様ごきげんよう!」
次第に影に沈むアンテッドロードの肩でお辞儀をするショウジョウは、何かに気付いたように言葉を付け足した。
「そうだ、まもなくうちの本隊が到着すると思います。はいはい、せいぜい頑張ってくださいね」
お得意の笑顔で手を振り、ショウジョウは影へと消えて行った。
「行っちゃった……」
先ほどまで戦闘があった地面を見つめる真一郎は深くため息をついた。
「はぁー……ジュウベイ……」
自分の力では救えなかった部下を思いその場に座り込む真一郎だったが、隣のレイラが手を差し伸べた。
「立て、真一郎。これからが本番だぞ」
少しずつ昇る朝日。その朝日を歓迎するかの様に遠くから太鼓の音が聞こえてきた。
「敵が来る……」
レイラの手を握り立った真一郎は、東の平原を見つめた。その先にぽつぽつと何かの影が現れ、次第にその数を増やしている。
「ぐずぐずしてられないね……レイラ、ゾーイ、皆に指示を。とりあえず全員砦に戻ろう」
この場で迎え撃つほど無策ではない。真一郎の指示を受けた兵達は、足早に砦へ向かい始めた。
「ゾーイ、皆が帰ったら大門を閉じて」
「大門ですか?それは少々難題ですな」
歯車を回さなければ門は閉じない。しかし現在歯車は子供達の策により動くことが出来なくなっている。
「壊すでも、門を閉じないで何かで塞ぐでも、なんでもいいからとにかくあの出入り口を封鎖して」
「開ける事は考えなくてよいと?」
「ああ、少なくとも今回は開ける必要はないかも。とにかく急いで」
「かしこまりました」
真一郎の命を実行すべく走り去るゾーイ。
「レイラ、あの穴なんとかなるかな?」
真一郎が見つめるのは、先ほどの攻撃で大きな穴が開いた砦。平原側から見て右側下方にあるその穴は、敵からすれば絶好の攻撃目標か、もしくは突入地点だ。
「さすがにあれは埋められないぞ……」
「それは俺が何とかしますよ」
真一郎とレイラの会話に割って入ったのはスキーリング。
「スキーリング、傷は大丈夫?」
みれば彼は両腕をだらんと下げている。
「こんなもん大丈夫ですよ。応急処置は済ませたんで、見た目よりひどくないです。それより殿下、あの穴は俺が何とかするんでご安心を」
「出来る?」
「木の魔法使えば何とかなりますって。俺は穴のとこに向かうんで、何人か手伝いをよこしてください」
「うん、わかった。あんま無理しないでね」
「ええ、大丈夫ですよ。じゃあ殿下、俺は先に行きますね」
そう言うと走り去るスキーリング。
「大丈夫かな?」
「スキーリングならうまくやるだろ。それより真一郎、私達はいったん母様の元へ行こう」
「そうだね、報告もしないといけないし」
真一郎達は聞こえてくる太鼓の音に背を向け、砦へ歩き始める。
(これからが本番だ……)
現在の戦力を見れば正直不安にはなる。
(でも、やるしか無いんだ……)
真一郎は心に静かな闘志を燃やし、足を進める。
これから待ち受ける戦場に、夜襲以上の困難が待ち受けている事を、彼はまだ知らない。
昇る朝日、聞こえてくる太鼓の音と雄叫び。
闇の軍勢、中央砦進行部隊、総勢二万が、すぐそこまで迫って来ていた……。
戦闘シーンは難しいです。
なんだかうまく書けたと自分で思えるときとそうでない時の差が激しいですね。
さて次回の「はちぷり」は!
砦に迫る闇の軍勢!ついに幕を開ける本隊との決戦!
次回もよろしくお願いします!




