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EightPrincessOneBoy  作者: ぽちょむ菌
第一部『真一郎と八人の姫』
25/38

23話 『闇夜からくる訪問者』

どーもです!

今回はちっと長いかも




 中央砦正面大門

 樹林側にある出入り口であるこの大門は進軍時以外は硬く閉ざされている。

 今夜この門の外側で見張りを担当しているのはハリーとローの二人だ。


「あー暇だなー。どうせ夜なんて敵は来ないんだし、見張りなんいらないよな?」

「だよなー。今まで夜に攻めてきた事なんてないもんなー」


 闇の軍勢の最大勢力のゴブリンとオークは、ヒト以上に闇に目が弱い。他の亜人も似たようなもので、そのため夜襲などの策はあまりしてこないのだ。


「ところでハリー、ミントちゃんとのデートどうだったんだ?」

 ハリーは前日の非番を使って、酒場の猫耳ウエイトレスミントちゃんとデートをしたのだ。

 貢物に次ぐ貢物でやっとここぎつけたデートでもあった。

「……まぁまぁだったかな……」

「なんだよその間は。もちろん次のデートの約束もしたんだよな?」

 ローの問いにハリーはため息交じりに答えた。

「……殿下だ」

「へ?殿下って真一郎様か?何が?」

「殿下に会わせてくれれば、次のデートの約束してくれるんだとさ」

「お前、それって……」

「何も言うな!俺だって分かってるんだ……」

 その場にしゃがみ込み地面をいじいじするハリー。その低い視線の先に不意に何かが現れた。


「ん!誰だ!」

 とっさに武器を構えるハリー。異変に気付いたローも武器を手に横に立つ。

 二人の前に暗闇から何かが現れた。

「……子供?」

 そこに居たのは十人ほどの子供だった。みな同じようなボロ布をまとい薄汚れた浮浪者の様な姿だ。

「助けて……」

 子供の一人が消え入るような声を発した。

「助けてって……お嬢ちゃんどこから来たんだ?」

 相手が子供という事もあり、緊張の糸がほどけたハリーはしゃがみながら目の前の少女に尋ねる。

「私達、捕まってたの。逃げてきたけどどうすればいいか分からないの。ねえお兄ちゃん兵隊さんでしょ?私達を助けてくれる?」

 見れば少女の裸足の足はボロボロで、ここまでの道のりの険しさを物語っていた。


「捕まってたって……まさか、報告で聞いた殿下が見たっていう施設か?」

「どうだろな、とりあえず俺たちじゃ入れていいかも分からないからな。中に聞いてみる」

 そう言ってローは砦の中と連絡をするために、門の横にある見張り兵用の小さな連絡通路に消えた。


「少し待っててな。すぐに中に入れてやるから」

 子供達を目の前にし、ハリーは優しい声をかけ励ましていた。

「寒いよ……」

「お腹減ったよ……」

 子供達から次々に上がる悲痛な叫びにハリーの心は揺れる。

「大丈夫、すぐ入れてやるからな。中に入れば飯も食えるからな。……それにしても遅いな」

 中に入れば他の兵もいる。上官に報告し、問題なければすぐにでも戻ってくるはずのローはなかなか戻ってこない。

「お兄ちゃんまだ入っちゃだめ?」

 子供達の視線に耐えられなくなったハリーはローを待つことをやめた。

「あ~もう!遅いな!どうせ入れてもいいに決まってるしな。よし、皆先に入ろうか。今鍵開けるからな」

 腰のあたりから鍵を取り出し出入り口へ差し込む。

 カチッと言う音と共に開く小さな出入り口。

「よし、さ、中に入って」

 扉を開き子供達を中に誘うハリー。


「お兄ちゃん、ありがとう」

「ありがとう」

「ありがとう」


 感謝の言葉を述べ、次々に砦の中へ入って行く子供達。そこへローが血相変えて数人の兵と走ってきた。

「ハリー!何勝手に入れてるんだ!」

「そんな怒るなよ。どうせ入れてやるんだろ?」

 一番小さな男の子を抱きかかえ、ハリーは続ける。

「大体、こんな子供が寒いだ腹減っただ言ってるんだ。入れてやるくらいいいじゃないか。なぁ坊主」

 ハリーに言葉を振られた少年は満面の笑みで答える。

「うん!ありがとうお兄ちゃん。でも、ごめんね……」

「ん?何がだ?」

「僕たち実は、砦には任務で来たんだ。だからお兄ちゃんを殺さないといけないんだ」

 少年は大したことでも無いように答えた。

「え?殺す?」

 自分の耳を疑い、聞き返したハリーだったが、彼の意識はそこで途切れた……





「な……」

 目の前の光景に絶句するロー。今、彼の目の前で、先ほどまで喋っていたハリーの首がぼとっと落ちた。

「さ、みんな。そろそろ始めようか」

 ハリーが抱いていた少年は、首が落ち、その場に直立するハリーの体から抜け出しこちらに笑いかけてきた。

「お兄ちゃん達はどーするの?戦う?逃げる?どっちでもいいよ」

 楽しげな笑みを浮かべ、くるくると回る少年。

「ふ、ふざけるな!お前等みたいな化けモン砦に入れられるか!」

「アハっ。おかしい事言うね。もう入っちゃてるよ?」

「くっ、揚げ足とるなガキが!とにかくここから先へは行かせないからな!」

 武器を構えるローと数人の兵。

「戦うの?さすが兵隊さんだね!楽しませてよ!」

 その場から一気に跳躍し、すこし離れていたはずのローの元まで一気に飛んできた少年。

「な!」

「ふふ、遅い遅い!」

 とっさに後方に飛んだローだが、少年は一度地面に足をつけすぐさまローの懐へ飛び込んだ。

「まずい!」

「まずは一人!」

 その瞬間真っ二つになるローの体。何をどうしたのかは見えなかったが、人体を両断できるバカみたいな切れ味の武器を持つことは明らかだった。

「さ、みんなも遊んでよ」


「ひぃ!」

 少年の態度に思わず後ずさりする兵だったが、彼らは他にも子供が居る事を忘れていたようだ。


 ぐしゃ!

 ぐしゃ!

 ぐしゃ!


 その場に、鈍く響く肉がつぶれる音。その音と共に次々とつぶされていく兵。


「んもう!まだ遊んでる最中だったのに~!」

 少年はおもちゃを取られた子供の様に、兵達の後ろにいた少女に怒った。

「あまり遊んでる時間ない。さっさとすませないとダメ……」

「うー、分かってるよ!もう少しだけ遊びたかったのになぁ……まぁいいや、さ、今度こそ始めようか」

 少年の言葉と共に、砦の闇に消えていく子供達。しかし、大門前には二人の少年が残ったままだった。


「みんなは行ったから。僕たちは僕たちの仕事をしよっか」

「そうだね、そうだね。」

 子供達は、自分たちの目的のために行動を開始するのだった。





 カーン!

 カーン!

 カーン!





「んん~……何の騒ぎだ?」

 砦中に響くけたたましい鐘の音で、真一郎は夢から引きずり起こされた。

「殿下!失礼します!」

 鐘の音とともに、ゾーイがノックもせず血相変えて真一郎の部屋のドアを開けた。

「ゾーイ、何事?」

 寝ぼけ眼の真一郎。

「敵が、砦内に敵が侵入しました!」

「ええ!どうやって!?」

 砦へ侵入するためには樹林側の大門からか、裏町との通路の門を通るしかない。上空や地面を掘ってでもこない限り簡単に侵入なんてできないはずだ。

「そ、それが……」

「ゾーイ?分かってるなら教えてよ」

 真一郎に何か遠慮するようにゾーイは自分の聞いた情報を明かした。

「それが……どうやら子供らしいのです」

「子供?侵入者が?」

「はい、平原側から助けを求めきて、門番が中へ入れたようなんです……」

「なっ……それってまさか……」

「はい、おそらく殿下が昨日訪れた施設の者かと。子供をいれた後殺された門番の死体はとても子供がやったものとは思えない有様だそうで」

「くそっ!だからあそこに居たのは子供ばっかりだったのか!」

 昨日の施設には子供しかいなかった。てっきり置き去りにされたのが子供だけだったのかと思っていたが、元々あそこでは子供を使った実験ばかりだったのだろう。

「子供なら兵が油断する、それにつけこんでの攻撃……悪趣味すぎるだろ」

 真一郎は吐き捨てるように言い、すぐに着替えを始めた。



「ゾーイ行こう」

「なりません」

 着替えをすぐにすませ、部屋を出ようとした真一郎だったが、ドアの前にゾーイが立ちはだかり針路をふさいだ。

「ゾーイ?」

「ジュリエッタ様からの命です。殿下は騒ぎが収まるまで部屋に居て下さい」

「そんな!俺だって何か手伝えるよ!」

「なりません。奴等の狙いが分からない状態で殿下が行くのは危険過ぎます 」

「狙いが分からないって?」

「ここにくる前に受けた報告では、あっちこっちに現れては派手に暴れてすぐ消える。を繰り返しているそうです。殿下、お願いですからここでおとなしくしててください」

「現れては派手に暴れて消える……陽動作戦って事か?でも何で……何を狙ってるんだろ……」

 真一郎の耳にはすでにゾーイの言葉は届いておらず、ブツブツと何かを言う真一郎。


(子供だから油断して入れた……だから大人は居ない……でも、大門の横の連絡通路なら大人も通れるし、なんで来ないんだ……なんで子供だけで陽動なんて……目的はなんだ……)


 思考の海へダイブする真一郎だったが、一向に彼らの目的が何なのかにはたどり着かない。

(大体、この砦には、はっきり言って何もない。母さんとか隊長格の暗殺とかなら派手になんかしないはず……何か、何かあるはずなんだ……)


 真一郎が考え続けていると、彼が座るベットから黒い子ザルがのそのそと出てきた。

「ウキキキ」

「クワルガ、ごめん起こしちゃった?」

 子ザルに目をやることなく、考えながら真一郎は言葉だけをかけた。

「ウッキキ」

 真一郎の態度をあまり気にする事無く、クワルガはベットから机に飛び移り、自分のおやつ入っている箱を開けようとしていた。しかし、鍵がかかっているようで全然開かない。

「クワルガ、おやつならさっき食べたでしょ?食べ過ぎもよくないからカギしちゃったよ」

「ウキキ~」

 悲しそうにうなだれるクワルガは、そのままとぼとぼと真一郎の所に来ると、その膝にちょこんと座った。


「随分慣れましたな」

 ゾーイは真一郎の膝の上のサルをまじまじと見た。

「うん、結構可愛いし、それにかしこい奴だよ。あのおやつの箱も、鍵かかってなくても、開けるのはサルには難しいと思ったんだけど、すぐに開けられるようになったしね。でもほっとくと、全部食べちゃうからさ。鍵付けといて正解だったかも」

 昼ごろにおやつを上げた所、大変気に入ったらしく、すぐにぺろりとたいらげてしまった。それ以外にご飯もちゃんとあげてるので、健康を考えおやつを食べすぎないように箱に鍵をかけ開けれないようにしたのだ。器用に箱を開けておやつを食べてる姿を思いだし、膝の上のクワルガをなでながら、真一郎は何かに気付いた。


「そうか!開けるんだ!」

 いきなりの大声に、クワルガは驚きベットの中へ隠れてしまった。

「殿下、開けるとは?」

「開けるんだよ!確か砦の大門って中からじゃないと開かないんだよね?」

「はぁ、そうですが……まさか!目的は大門を開けるためと!」

「あくまで可能性だけどね。大門を開けるには、中の歯車を大人数人で回して開けるって聞いたけど、もし昨日の子達みたいな改造受けてるなら、難なく開けられるかも。派手に暴れてるのは注意を引くためじゃないかな?」

 大門はいわば樹林側へ向かう大きな玄関口だ。普段の進軍時はそれを開け、兵が進む。しかし逆に、そこからなら砦内部に簡単に大人数が侵入できる。連絡通路から子供を入れ、混乱にまぎれ大門を開け、そこからの強襲。待ち構えでもしない限りこっちにはかなりの被害が出るはずだ。更に、砦には外からの攻撃には強いが、中からだったら簡単に壊せる場所もある。そう言った場所を事前に壊しておけば、その後の戦におおいに役立つ。

「つまり敵の夜襲と……奴らがそこまで大胆な行動を取るとわ……」

 ゾーイの経験でも、闇の軍勢が夜襲をしたなんて、見た事も聞いたことも無かった。

「やっぱり今までとは違うんだよ。行こうゾーイ!俺たちだけでもすぐに大門へ!」

「なりません!直ぐに誰かジュリエッタ様の元へ走らせますので、殿下はここに」

「でも!もし予想通りなら早くしないと取り返しのつかない事になるよ!ここからなら大門はすぐでしょ?見てくるだけだから、何も起こってなければ直ぐに部屋に帰ってくるからさ。行こうゾーイ!」

「し、しかし……」

 真一郎の真剣な眼差しにゾーイは悩む。

「頼む!俺後で後悔したくないんだ!お願い!」

「殿下…………」

 ゾーイに手を合わせ懇願する真一郎。

「……分かりました。その代わり見に行くだけですよ。敵がいても手は出さず援軍を待ちます。いいですか?」

「もちろん!よし!それじゃあ行こう!」

 真一郎はゾーイを連れて部屋を後にするのだった。








 部屋を出た真一郎だが、廊下はすでに非常事態であると、分かりやすいくらいに兵があわてて走り回っていた。

「殿下、ゾーイさんも、部屋に居なくていいんですか?」

 真一郎の部屋の前は、丁度廊下が交差し広くなっている。その廊下でてきぱきと部下に指示を出していたアフリィ。部屋から出てきた二人に気付き駆け寄ってきた。

「アフリィ丁度いいとこに!一緒に来て!」

「え?あ、はい!」

 部屋から出るなり、猛ダッシュで走り出す真一郎にそう言われ、慌てて後を追いかけながら部下に「後はまかせたよー」と言って自分も勢いよく走り出した。


「で、殿下!どこに行くんですか~!?」

「大門が危ないかもしれないんだ!」

「ええ!?」

 真一郎の言葉に驚いたアフリィだったが、事の重大さにすぐに気付いた。

「それってかなりヤバいんじゃないですか!?」

「ああ、だから急いで大門へ!」

「は、はい!」

 三人はさらにスピードを上げ、大門までの廊下を走った。途中フロッグル部隊とばったり会ったので彼らを吸収し、さらに足を進める真一郎。部屋からさほど離れてないという事もあり、大門にはすぐに到着する事ができた。


「なんだあれ……」

 物陰から大門をうかがう一行の眼に映ったのは、不思議な歌を歌いながら、大門開閉用の歯車をギチギチと回す二人の少年だ。



「ぼっくたちはつよい~、つよくってすごい~」

「とってもつよい~、それにちっからもちぃ~」


 そもそも彼らは少年なのか?

 確かに彼らの顔は少年だ。ただ、まだあどけなさが残るその顔とは対照的に、体は筋骨隆々の巨漢。まるでミノタウロスの体に子供の顔を乗っけたようなアンバランスで不気味な見た目だ。


「あれが殿下が仰っていた改造ですか?」

 ヒソヒソと物陰で真一郎に聞いてくるゾーイ。

「たぶん間違いない。俺が見たのは体の一部とかだったけど、あの悪趣味な感じ、同じ施設で改造された子じゃないかな?」

「で、どーするんですか?」

 真一郎とゾーイの間に無理やり顔をつっこんで、アフリィが聞いてきた。

「とりあえず、アフリィ、この事母さんや他の隊長達に伝えて。もし門が開いちゃったら俺たちだけじゃどうしようもないから」

「わかりました」

 小さく敬礼し、アフリィは腰を低くしその場を去った。


「ゾーイ。あれほっとくと開けられちゃうよね?」

「ですな。でも、殿下はここに居てください。ワタシとフロッグル隊で行ってきますから」

「任せろケロ。あんなみょうちくりんなお子さんなんて瞬殺だケロ」

「ベッベグ、出来れば殺さないで捕まえて」

「む。殿下がそうおっしゃるなら、なんとかやってみるケロ」 

 相手は無理に体をいじられた子供だ。できれば捕まえてなんとかしてやりたかった。

「よし、行くぞ!」

「まかせろケロ!」 

 掛け声とともに飛び出すゾーイとフロッグル達。




「うわ~!トカゲとカエルだ!」

 こちらに気付いた巨漢少年達は、物珍しそうにゾーイとフロッグル達を眺めた。


「君たち、ここで何をしてるのかな?」

 ゾーイは冷静に子供達に聞く。


「僕たちね、今この門を開けてるとこなんだ~。僕たちみたいに力持ちじゃないと開かないんだってさ~」

「そうそう。僕たちしかできないんだよね~」

 口々に力自慢をする彼らからは敵意などみじんも感じなかった。


「その門は開けちゃいけないんだが、それを知ってやってるのか?」

 ゾーイは子供たちに話しかけながら腰の剣に手をかざしていた。


「うん知ってるよ。でも僕たちが開けないと外のみんなは入れないからね。みんなを入れるためには仕方ないのさ」

「だね。それにご褒美ももらえる約束だからね」


「旦那、埒があかないと思うケロ。あのお子さん達、自分が悪いとかそんなの考えてもいないケロ。他人の意見を聞かない一番やっかいなタイプケロ」

「仕方ない、多少痛めつけてやめさせるぞ」

「分かったケロ。みんなやるケロ!」

 ベッベグの合図と共に他のフロッグル達から少年に向かって魔法が飛んだ。手始めに飛ばした数個の火球は少年達へ命中したものの、本人達は全く気にして無いように歯車を回し続けていた。


「なんとまぁ……随分魔法に耐性があるみたいケロ。あんまデカイ魔法だと歯車を傷つけちゃうし、こっちは打つ手無いかもケロ……旦那行けるケロ?」

「あぁ、次は私が行こう」

 フロッグル達の魔法が当たってもびくともしない体。いくら威力を押さえた火球と言えど、当たればもう少し反応があってもいいはずだ。

 ゾーイは自分の剣を手に少年へ向かって走り出した。 歯車は動き、もう少し門が開けば、人が通れそうなくらいの高さまでになる。猶予はほぼ無いに等しい。


「悪いがそれ以上、開けさせるわけにはいかない!」

 振り下ろされるゾーイの剣。こちらを完全に無視する少年の腕を完璧にとらえた剣は、その少年の腕に当たり見事に弾かれた。

「なっ!!!」

 その光景に絶句すゾーイ。

「ふふん。僕たちは強くて硬いんだ。そんな剣じゃ傷ひとつつけられないさ」

 ゾーイに攻撃されたなんて無かったように、ひたすら歯車をまわす少年。

「だったら!」

 ゾーイは剣を納め、巨漢の少年をその場から引き離そうと体を引っ張り始めた。


「もう!邪魔だな!」

 ゾーイに引っ張られるのがうっとうしかったのか、少年は一瞬だけ片手を離し、ゾーイをはらいのけるように手を振った。

「よしっ!」

 その手をよけ、逆に自分がその手を掴むゾーイ。

「何するのさ!離せよ~」

 腕をブンブン振り回すが、ゾーイはがっちりとつかまっている。

「悪いが離すつもりはない!」

 振り回される腕に必死にしがみつくゾーイ。


「みんな!俺たちも行こう!」

 それを見ていた真一郎はフロッグル達とゾーイの元へ駆けた。

「殿下!危ないです!」

「ゾーイ!今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!」

 フロッグル達と一斉に少年に飛びかった真一郎。見た目重そうなベッベグも加わり、結構な重量で少年につかまっているはずだ。

「あーもう!弱っちいのにうるさいよ!143君ちょっと離すよ」

 もう一人の少年にそう言って歯車を離した少年。

「ちょっと151君!いきなり離さないでよ~。一人だと大変だから早く済ませちゃってよね」

 一人が離れた事で歯車を止めるかと思ったが、それでもゆっくりと少しずつ歯車を回す143君。


「さーて!さっさと終わらせるよ!」

 腕をブンブン回し、その場でジャンプなどして纏わりつくカエルやらトカゲやらヒトを振り払う151君。その衝撃で真一郎達は手を離し壁の方に飛ばされてしまった。


「いって~……」

「殿下、大丈夫ですか?」

「うん、なんとか。でもどうしよう……」

 魔法が効きにくい、剣でも傷つかない。そんなのどうやって静めればいいのか、真一郎にはさっぱりだ。

「殿下、安心して欲しいケロ。歯車から離れたから、心置きなくさっきより強い魔法を打てるケロ」

 すでに魔法の準備に入ったベッベグは真一郎に言うと、自分の部下たちと共に魔法を発動させた。


「ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ」


 先ほどの火球とは明らかに違う詠唱。全員で「ゲロゲロ」言いながら杖を構えるフロッグル達。

「こいケロ!」

 ベッベグの掛け声とともに、地面から氷の柱が現れ、それが自分で勝手に削れ、カエルの氷像に姿を変えた。

「凍っちゃうケロ!」

 カエルの氷像はその口をギチギチと開け、そこから凍てつくような冷気を放つ。地面を凍らせながら進む冷気は151君の元まで進むと彼を足元から凍らせていった。


「冷たい!何すんのさ!これじゃ動けないじゃないか~!

「ふふ、そのまま全身凍っちゃえケロ!」

 足元からどんどん凍っていく151君。

「うーん、仕方ないなぁ。疲れるからあんま使いたくなかったけど」

 そう言って右手を上に伸ばし魔法詠唱を始めた151君。


「まさか、魔法だと!」

「あんな魔力でどうやってケロ!」

 驚くゾーイとベッベグ。

 ベッベグには151君の魔力が見えていた。しかし彼の魔力はかすかな色しか発しておらず、とても魔法が撃てるような物ではないはずだ。


「ふふん!僕たちは強いんだ!ファイヤーボール!」

 右手から放たれた火球はすぐに降下し151君に命中。彼の足や周りの氷を溶かしてしまった。

「んな!氷が溶かされるなんてケロ……」

「ついでに君達にもあげるよ!」

 左手も上げて両手を天にかざす151君。先ほどフロッグル達が彼に放ったものより大きい火球を次々に造りだし、こちらへ放ち始めた。

「まずい!皆、俺の後ろに!」

 火球が迫るのを見てとっさに皆の前に出る真一郎。

「殿下!」

「大丈夫!魔法なら俺が何とかできるから!ゾーイも下がって!」

「し、しかし」

「いいから下がれ!」

 ゾーイの肩を掴み、後ろにはらう真一郎は、そのまま振り返り火球を全身に浴びるべく両手を広げた。

 真一郎の元へ吸い込まれるように着弾し、そのまま消えて行く火球。

「すごいや!お兄ちゃん魔法が効かないんだね!」

 その様子を見て、151君はその場でピョンピョンしながらはしゃいでいた。


「はぁはぁ、なんとか……」

 火球を全て受けきった真一郎。ダメージは無いが迫りくる火球ってのは精神的に結構きつい。


「おーい、151君!こんなもんでどうかな?」

 全員が声の方を見て絶句した。

 真一郎達が苦戦している最中もゆっくりと門を開けていた143君。彼のお陰で大門はすでに半分以上開いていた。

「おー、頑張ったね。そんなもんでいいんじゃないかな?」

「えへへへ」

 照れ笑いを浮かべる143はごそごそとポケットから小瓶を取り出した。

「さ、最後の仕上げをしよう」

 小瓶の蓋を口で開け、そのまま飲み干す143君。

「151君、先に行くね」

「うん。僕もすぐ行くから大丈夫だよ」

 151君に別れを告げ、そのまま自分の体を歯車と歯車の間に滑り込ませる143君。ギチギチと歯車が体に食い込み、次第にその姿をただの肉塊へ変えていく。


「ダメだ!何するんだ!」

 真一郎は叫び走ったが、151君が立ちはだかる。

「せっかく開けても閉められたらダメなんだ。だから僕たちが歯車をとめるのさ」

「バカ!死ぬんだぞ!」

「うん、でも死んだら天国ってとこに行ってお父さんやお母さんに会えるんだ。だから平気だよ」

「な……」

 何の迷いもない笑顔で答える151君。

「誰がそんな事を……」

「リヴ先生が言ってたよ。僕たちは天国に行って。他のみんなはご褒美がもらえるんだ。だから僕も歯車を止めないとね」

「ダメだ!やめろ!ゾーイ、ベッベグ!止めて!!」

 真一郎の叫びと共に走るゾーイとフロッグル達。

「ごめんね、もっと遊びたいけど。そろそろみんな来ちゃうからさ。また今度ね~」

 巨漢に似合わぬスピードで走り、143君と同じように小瓶を取り出し飲み干す151君。


「お母さん、やっと会えるね」

 

 小さくつぶやき勢いよく跳躍し、歯車の間にその体を滑り込ませた。


「くそ!

「間に合わないケロ!」

 ゾーイ達が追いつく間もなく、歯車に押しつぶされる151君。そのつぶされた体は次第に黒く変色し、まるで鉄の塊の様に歯車にからまっていた。


「さっき飲んだ薬のせいだケロ。これじゃ鉄を歯車が噛んでるのと同じケロ……」

 先に逝った143君も同じように鉄の塊と化していた。


「何で……何でこんな事ができる!!」

 その場の地面を殴り、怒りをぶつける真一郎。

「殿下……」

 地面を殴り続ける拳には血がにじんでいた。

「殿下、怒るのも悲しむのも今はそんなヒマはないケロ。よく聞くケロ」

 ベッベグに言われ耳をすます真一郎。

 ドドドドドドと何かが地響きの様な音を立てていた。

「……これは……」

「敵の足音だケロ。もうすぐここに敵が来るケロ。大門がこうなってしまった以上ここで迎え撃たないと砦に大損害を与えるケロ」

「敵が来る……」

 立ち上がり、夜の暗がりを睨みつける真一郎。その闇の先には確かに何かがうごめいていた。


「ベッベグ、明かりで照らせる?」

「お安い御用ケロ」

 フロッグル達は大門の外まで行くと魔法を詠唱し、輝く光球を敵に放った。

「結構な数がいるケロ」

 フロッグル達が明かりを照らした事で、敵影がハッキリと見えた。

 先頭を走るのは青い色のアリの様な姿の亜人。

「あれがインセクター?」

「アレはインセクターの中でも一番数が多いと言われるアントマと呼ばれるヤツらですな」

 ゾーイの説明によれば、インセクターにも色々な部族がいる。その中でアントマは兵蟲とも言われ、魔法耐性の高さと、闘争心の高さ、更に繁殖力の強さも重なり戦場で見る機会が最も高い部族だ。

「魔法耐性が高いのが先頭か、やっぱこっちの魔法警戒されてる」

 以前真一郎が予想した通り、インセクター達は、自分達のその防御力を盾に突撃してきたのだ。



「殿下!ご無事ですか!?」

 光球で照らされる敵を確認していると、ミラ達ファングが兵を引き連れやってきた。

「ミラ、俺は大丈夫。それより大門が締められなくなっちゃったんだ……」

 そう言われ大門を見れば、開閉用の歯車に何か鉄の塊のような物がはさまっていた。

「殿下、私達は貴方の指示に従うようにとジュリエッタ様から言われて来ました」

「え?母さんに?母さんは来ないの?」

「はい、いまだ砦内で逃げ回ってる子供が居ますし、すでに彼らによって手傷を負わされた兵が百をこえてるそうです。この場は私達で何とかするようにとの事です」

「そうか……」

 迫りくる敵を見据え、考え込む真一郎。

「殿下いかがなさいますか?増援も来るとは思いますが、待つ時間もなさそうですし、私達はいつでも戦えますわよ」

 そう言いながらミラを始めとするファング部隊は準備運動をしていた。


(ミラの言うとおり。増援を待つ時間なんてないな。今いるメンバーでなんとかしないと……)


 現在真一郎の周りにはゾーイと、フロッグル達がベッベグを入れて八人。更にミラ達ファング部隊が五人。それとミラ達が連れてきたのと、騒ぎを聞きつけ集まった兵が合わせて三十人ほどだ。


(相手の数が分からない限り、こっちが何人居ても足りるか分からない。でも、ファングは獣化して戦うって聞いたし、インセクターには効かなくても、その後ろに他の亜人がいればフロッグルの魔法も効く……)


「早く方針決めないと敵がきちゃうケロ」

「うん、分かってる……」

 自分が目指すと決めたのは戦いのない国。それを考えれば戦を避ける方法を模索するべきかもしれない。しかし、先ほどの子供達を思えば、憎しみで敵を殴りたくもなる。その感情が正しいのか、間違ってるのか真一郎には分からない。


「殿下、ご決断を。ここでヤツらを止めねば砦の中で戦をする事になります。多くの兵が傷つき、裏町に行かれたら兵以外の民が傷つきます」

「ゾーイ……分かってる。今の俺には戦うしか道はないんだ。それしか選べないんだ……」

 自分に道を選ぶ力はほとんど無い。だけど、ここで終わるつもりも、楽な道を選ぶ気も無い。


 ふと、脳裏にある詩が浮かんだ。




 この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ。

 危ぶめば道はなし。

 踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。

 迷わず行けよ。

 行けばわかるさ。




「ふふっ」

 真一郎は浮かんだ詩を思い、笑った。

「殿下?」

 不思議そうに真一郎を覗き込むゾーイ。

「いや、何でもない。『迷わず行けよ、行けばわかるさ』か……今はこれしか選べない。だったら迷う必要なんて無いよね。先の道は、進みながら自分で作ればいいんだ。あの子達みたいな子を、これ以上増やしちゃいけない……まずは第一歩……今夜を生き抜こう」


 真一郎は深く深呼吸をし、周囲の兵を見渡し叫んだ。


「総員、戦闘準備!!」


「「「ハッ!!!」」」

 真一郎の声に、その場にいる全員が答えた。




 真一郎達の長い夜が始まる。




1・2・3・ダ---!

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