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EightPrincessOneBoy  作者: ぽちょむ菌
第一部『真一郎と八人の姫』
24/38

22話 『嵐の前の静けさ』

どーもです!

今回はあまり間空けないで投稿できた~



 フォレイティアス王国・闇の軍勢防衛対策基地。

 通称『中央砦』

 東の樹林に向かってそびえる壁のようなこの砦は、南北に1kmもの長さを誇る王国一の建造物だ。

 西側には通称『裏町』と呼ばれるちょっとした町があり、砦勤務の兵の家族や、砦で仕事をする兵以外の者達の住居などがあり、酒場の乱立する歓楽街や多種多様な店が軒をつらねる市場などがあり、それなりの活気に満ちていた。

 そんな中央砦の朝は、拡声魔法具から流れるこの音楽で始まる


「ちゃーんちゃっちゃっらっちゃっちゃっちゃ、ちゃーんちゃっちゃらっちゃちゃっちゃ、ちゃらららちゃらららちゃららららん。ちゃららーん」


「腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動から~」


「はい!1、2、3、4、1、2、3、4、背筋を十分に伸ばしましょう~。手足の運動~1、2、3、4……」


 日本人なら誰でも知っているあの音楽が砦中にこだましていた。


「うちまわーし!そとまわーし!……」


 砦のあちこちでは、屈強な戦士達が音楽と声に合わせて体操をしていた。


「これは、なんとも……」

 昨日、気付いたら滝のそばでゾーイとロロイに目覚めさせられた真一郎。ゾーイ達の話では自分とレイラは光につつまれ滝から現れたと言う。ちなみに、二人とも香織の姿は見ていないらしい。

 そこからみんなで歩き、結局砦についたのは夜になってからだった。

 ジュリエッタに事の全てを話し、疲労のためか、部屋につくなりすぐに深い眠りについた真一郎。翌朝ゾーイが起こしに来てくれて、眠い目をこすりながら連れてこられ見た光景は、まさに夏休みの朝だった。

 真面目にラジオ体操をする兵達をキョロキョロと見回しながら、自分も懐かしい体操を始め、周囲では、ジュリエッタにレイラやゾーイやロロイがそろった動きで真面目に体操を続けていた。


「ねえレイラ、砦の朝って毎朝こうなの?」

「ん?そうだぞ。真一郎だって『らじお体操知』ってるだろ?もともと日本の文化だって聞いたぞ」

「いやまぁそうなんだけどさ。まさかここでやるとは思ってなくてさ……」

「そういえば言ってなかったな。ここ以外の南北の砦も朝は必ず、らじお体操から始まるんだ」

「へ、へぇそうなんだ~」

 ちなみに、このラジオ体操を砦の朝に義務付けたのはシノさんらしい。と、後で知った真一郎だった。




「真一郎、朝食が済んだら会議があるからな。遅れずに来いよ」

 ラジオ体操を終え、その場を後にする前にジュリエッタにそう言われた。

「うん、大丈夫、分かってるから。俺、食堂に朝食食べに行くけど、誰か一緒に行かない?」

 周囲に聞いてみた真一郎だったが

「私は部屋に用意させてるから無理だ」

「私も母様と食べるから」

 まずはジュリエッタ&レイラに振られた。

「ワタシは部隊の引き継ぎなどがあるため、先に済ませてしまいましたので」

 申し訳なさそうなゾーイ。

「私もキューちゃんのとこに様子見にいくので」

 ロロイにも振られた真一郎は「じゃあ一人で行こうかな」と寂しくつぶやいた。

「一人で行くのは良いが、迷うなよ」

 ジュリエッタの一言で不安になった真一郎。なんたってこの砦、中がだだっ広いのだ。更に、各所に案内がある親切なテーマパークと違って、砦内地図がないのだ。

 防犯のため当たり前と言えば当たり前だが。そのため新しくこの砦に着任すると、まず初日は砦内の散策、および自分なりの地図作成の時間にあてられるらしい。


「ん~正直迷うかも……」

「だったら私がご一緒しましょか?」

 困っている真一郎に助け舟を出したのはゾーイの後ろにいた、青いリザードマン娘だった。

「おーありがと。えっと君は……」

「はいっ!第三師団所属アフリィ・コレットです!」

 綺麗な敬礼が決まり、内心ホッとしているアフリィ。彼女の見た目はイグアナ風のゾーイと違い、青一色のつるっとした、いかにもトカゲ風。

「第三師団か。ゾーイの部下?」

「ハイ。これでもアフリィは百人隊長ですぞ。それに正確には殿下の部下ですな」

「俺の部下ねぇ……」

 真一郎はいちお第三師団の千人隊長になっているらしい。

 なぜ『いちお、らしい』なのかと言うと、その能力のせいで危なっかしくて戦場になど出せないため、そんな戦闘もできない隊長なんて何の役にも立たないことを考慮し、けっこうあやふやになっているためだ。現在の実質の千人隊長はゾーイのままだ。

「丁度私も食堂で朝食をとりますし、殿下がよろしければご案内しますよ!」

「そっか、だったらアフリィにたのもうかな」

「はいっ!」

 もう一度綺麗に敬礼するアフリィ。

「そー固くならないでさ。それじゃ行こうか」

「アフィリ、殿下に粗相のないようにな」

「大丈夫ですよ。しっかり殿下をエスコートしますからね。ささ、殿下行きましょう」

 真一郎の腕をつかみとことこ駆けていくアフリィだった。



「私は何で母様と朝食にしたのだろう……」

「ん?何か言ったかレイラ?ほら、置いてくぞ」

 ブツブツ言うレイラを放置して、朝食の待つ部屋へさっさと戻るジュリエッタだった。







 砦の食堂はだだっ広かった。

 真一郎の高校にもあったように、長いテーブルに簡単な作りの椅子があるだけだが、高校の学食とわちがい、様々な見た目の兵が所狭しと座り朝食をがっついていた。

 入り口近くのカウンターで朝食の乗ったプレートを受け取り広いホールを見渡した真一郎。

「さて、どこで食べようかな~アフリィ友達とか見当たる?」

「殿下、私これでもけっこー友達多いんですよ。そうですね~」

 そう言って辺りを見回すアフリィだったが

「……い、今は居ないみたいですね。おかしいなぁあははは……」


 真一郎とアフリィが座る場所を求めテーブルの間をさまよっていると見覚えがあってとっても目立つ集団を見つけた。

「お、あそこにしよっか」

 真一郎が目を向ける先にはカエルの集団。

「えー彼らと食べるんですかー?」

「アフリィ、フロッグル達苦手なの?」

 あからさまに嫌そうな顔のアフリィ。真一郎的には、見た目はともかく中身はよさそうなフロッグル達なのでアフリィが嫌う理由が気になった。

「いや、正確にはカエルが苦手で……」

(トカゲがカエル苦手って……)

 真一郎のちょっと苦笑いの表情を見て、アフリィは続ける

「私の故郷の村の近くに、大きな沼がありまして。そこはガマゴート種っていう大きなカエルの巣にもなってるんです。小さい時にそこに落ちて、そのガマゴートに飲み込まれた事がありまして……」

「え!食べられたの!?」

「まぁ軽く……あ、でも幸いすぐに大人に助けてもらったので、事なきを得たんですけどね」

「そ、そりゃあ苦手になって当然だね。それじゃ違うテーブルにしよっか」

 フロッグル達には悪いが、せっかく案内を買って出てくれたアフリィに精神攻撃を仕掛ける訳にもいかず、他のテーブルを探す真一郎。

 そんな彼に後ろから声がかかった。


「殿下、よろしければ私達とご一緒しませんか?」

「んー?」

 呼ばれて後ろを振り返った真一郎の目に呼び込んできたのは、水着の美女軍団だった。


「えーっと……どちら様でしょうか?」

 目の前の水着美女軍団は八人。

 皆デザインは様々だが、ビキニにブーツ姿、腰の辺りに鎖をじゃらっじゃつけるというかなり刺激的なファッションをしている。


「これは失礼しました。私は『(ファング)』の副隊長をしております、ミラと申します」

 ぱいんぱいんしながらお辞儀をする茶髪ロングのヒト

「ファング?」

 聞きなれない単語に疑問を持ったが、すぐにアフリィが答えてくれた。

「殿下、ファングはジュリエッタ様直属の獣人部隊ですよ」

「へ~ジュリエッタ母さん直属ね~。じゃあエリート部隊って事?」

 目の前の美女軍団は、あまり戦闘にはむかなそうだが、さすがにそろそろ見た目で判断するべきじゃ無いと学習した真一郎、騎士団の最高責任者であるジュリエッタ直属という肩書きを考えれば、彼女達は相当な強さの持ち主なのだろう。

「そんなエリートだなんて。本当の事を言われると照れますわ~」

 美女軍団はそれぞれエヘヘと照れていた。


「ところで、ミラさんも獣人なんだよね?」

「ええ、もちろんですわ。ファングは獣人の部隊ですからね。何か気になる事でも?」

「うーん、聞いていいのかわからないんだけどさ、他のみんなは角とか耳で分かるけど、ミラさんには無いからさ。何でかなーって」

 真一郎がこれまで出会った獣人達は皆、耳や角などがあり、一発で獣人だと分かった。無い者も居るとは聞いていたが、なぜ無い者がいるのかなどは聞いたことが無かった。

「あら、私にもちゃんと獣人ポイとこはありますわよ」

 そう言ってくるっと回ってお尻を見せたミラ。そのお尻には、キツネの尻尾みたいな小さく太めの黄色い尻尾がピョコピョコしていた。

「おお、キツネかな?」

 尻尾の見た目から、彼女の獣化形態がキツネかな?と、予想した真一郎。

「正解ですわ。さ、殿下。何でしたら触ってもいいんですよ?」

 そう言いながらお尻をプリプリさせるミラ。

「え?いいよいいよ!分かった、分かったよ!」

 ビキニのプリッケツが迫ってくるのに耐えられなくなった真一郎は思わず後ずさりしていた。


「あはっ照れちゃって、殿下かわいぃ~」

「ね、かわゆいねぇ~」 

 他のファング達は、クスクスと笑いながらその光景を眺めていた。


「ほらほら殿下。触ってくださいよ~」

 なおも迫りくるプリッケツに、真一郎の横から青いの手が伸び、その尻尾を思いっきり握りしめた。


「いったーい!何すんのよこのトカゲ娘!尻尾千切れるじゃない!」

「トカゲ娘言うな!殿下に尻を突き出して迫る変態痴女の尻尾なんて千切れればいいのよ!」


 ミラの尻尾を握りしめたのはアフリィだ。さすが騎士団だけあって相当な握力で握った様で、一部の毛が不自然にへこみに跡がついていた。


「誰が変態痴女よ!アンタなんて見せる男も居ないくせに!私のお尻に殿下が釘付けだからって、ひがむんじゃないわよこのモジョトカゲ!」

「ひがんでなんか無いわよ!大体モジョトカゲって何よ!」

「あ~ら、そんな事も知らないの?モジョって言うのは日本の言葉でモテない女って意味よ!ですよね殿下?」

 

「え?あー、確か一部でそんな言葉があったような……」

(誰がモジョなんて教えたんだ……)真一郎の疑問なんてそっちのけで二人はヒートアップしていく。


「ほーらごらんなさい。売れ残りのモジョトカゲはひっこんでなさい。オホホホ」

「くー!何が売れ残りよ!アンタだってそんなに年変わらないくせに!自分だって貰い手ないじゃない!」

「な!私はお相手が多すぎて、選ぶのに苦労してるだけですわ!」

「私だって相手がいないわけじゃないわよ!」

 睨み合い、今にも殴り合いそうになりそうな二人を見かねた真一郎は「まぁまぁ」と止めに入ったが「じゃあ殿下が決めてください!」と思ってもいなかった展開に発展してしまった。


「え、決めるって……?」


「どっちが女として魅力的か選んでください!」

「そーですわ!殿下が選んで下さればトカゲ娘だって諦めるでしょうしね!」

「ふんっ!アンタみたいなひねくれた女、いくらお優しい殿下でも選ぶのんですか!」

「なんですって!このトカゲ女!」

「トカゲトカゲって!アンタそれしか言えないの!大体獣化したらアンタなんてただの化け狐じゃない!」

「な!なんですって!私の高貴な姿を愚弄するなんて!」

「何度でも言ってあげるわよ!この化け狐!」

「うるさいわよこの唯のトカゲ!」

「化け狐!!」

「トカゲ!!」

 真一郎なんてそっちのけでますますヒートアップしていく二人。

 気が付けば食堂中の注目を浴びていた。



「殿下、大変そうだケロね」

 食事を終えたフロッグル達が、真一郎の横を通りながら憐みの目線をおくってきた。

「助けて……」

 思わず出た真一郎の本心。

「わ、私達は無関係ケロ。モテる男はつらいケロ、頑張ってケロ~」

 そう言って、さっさとその場を離れていくカエル軍団だった。




 ヒートアップした二人が、今にも戦闘に入ろうとした時、突如大声が、食堂に響いた

「いい加減にせんか!」

 その怒鳴り声に聞き覚えがあり、完全に固まる二人。

 ゆっくりと声の方を向いた彼女達はどんどん青ざめていった。

「「ジュ、ジュウベイ先生……」」

 二人の前には、腕を組み、仁王立ちで、怒りまくりの和装のドーベルマンが立っていた。



「お主ら、若殿の御前でなんたる醜態。それでも騎士団か!恥を知れ!!」

 二人を正座させ、その場でお説教を開始した和風ドーベルマンのジュウベイ先生。

 その迫力に食堂内の空気が氷ついていた。

「大体お主らは、訓練所にいるころから喧嘩ばかりしおって!騎士団に入って部下を持ち、多少はまともになったと聞いていたが、何だこのざまは!」

 公衆の面前できつーいお説教を受け、二人はどんど小さくなっていくように見えた。


「まあまあ、ジュウベイ。二人も反省してるみたいだしそろそろ許してあげようよ」

 見かねた真一郎が助け舟を出した。ジュウベイとは騎士団との顔合わせの時に、挨拶を交わしたくらいだ。

「若殿、甘やかしてはなりませんぞ!こやつらは何かしら理由をつけてすぐ喧嘩をするんです。訓練所の時など二人の喧嘩で宿舎の一部を損壊させたのですぞ」

「そ、それはちょっとやりすぎだね。でも、二人とも今回の事はもう反省したでしょ?」

 真一郎の問いに、ブンブンと首を縦にふり答える二人。

「本当か?」

「はい!十分反省してます」

「私も十分に反省しておりますわ」

「ね、だから今日はこの辺でさ。大事な戦も近いんだしね」

 真一郎のお願いフェイスにジュウベイも折れずにはいられなかった。

「仕方ありませんな。若殿がそこまでおっしゃるのなら、二人とも以後気を付けて、精進するのだぞ!」

「「はい!」」

 綺麗にそろって返事をする二人。

「でわ若殿、拙者は食事も済んでますのでお先に。後程会議でお会いしましょう」

「うん、じゃあまた後でね」

 真一郎に軽く一礼してその場を後にするジュウベイ


「は~……相変わらず怖いな先生」

 ジュウベエが去ったとたんへなへなと正座をとき地面にへばるアフリィ。

「本当ですわね。って!そもそも、アナタが私の尻尾を掴むからこんな事になったんですわよ!反省しなさい!」

 そんなアフリィに文句を言いながらも、同じようにへばるミラだった。

「アンタだって悪いんでしょーが!」

「なんですって!」

 さっぱり懲りてないらしくまたも喧嘩を始めそうな二人。


「はぁ、また喧嘩するならジュウベイ呼んでくるよ?」

「いや、殿下それはちょっと……」

 あからさまに嫌そうなアフリィ。

「そうですわ!私達喧嘩なんてしてないですもの。ね!」

「そうそう!実はけっこう仲いいもんね!」

 ぎこちなく肩を組み、アピールしてくる二人に真一郎は思わず笑ってしまった。

「あははは、ごめんごめん。呼ばないよ。二人ともそんな仲良くできるなら普段からそうしててね。今度喧嘩してたらまたジュウベイに言いつけるからね」

 真一郎の珍しくサドってる笑顔に、「「は、はい」」とシュンとしながら答える二人だった。



「さ、ごはん食べようか」

 食堂に来た目的をようやく思い出した真一郎は、アフリィとファング達と一緒にテーブルについた。

「いやーおいしそうだね」

 両サイドにアフリィとミラ。さらに正面やその周りには残りのファングメンバーがこちらをジロジロと眺めていた。

「殿下は三番セットですか。よろしければ私のおかずも少し食べてみます?」

「え?いいの?じゃあどれかおすすめある?」

 横に座るミラからの嬉しい提案を心よく飲み、注文の時、気になっていたものを少し食べてみようと思う真一郎。

 砦の食堂には毎日一番から五番セットまでがある。真一郎が取ったのは三番セット。ミラは四番でアフリィは一番を取っていた。

「このフライ美味しいですわよ。お一つどうぞ」

 ミラが進めたのはパッと見魚系フライ。

「いいの、じゃあ遠慮なく」

 そう言って箸で取ろうとした真一郎だったが

「殿下、はいアーン」

 真一郎より先に、自分で進めたフライを取って、アーンを無理強いさせようとするミラ。

「え……それはちょっと……」

「んもう。遠慮なさらずに。ささ、アーン」

「えーっと……」

 困ってアフリィを見た真一郎だったが、当の本人は先ほどの事もあるため何か言いたそうにしているものの、必死に口を閉じていた。


「さ、殿下」

「ま、食べるだけだし、いっか」

 そう軽い気持ちでアーンを口にした真一郎。

「うん、ホントだうまいやこれ」

 食べたフライはサクサクでとっても美味しかった。

「殿下、こっちも食べます?」

 そう言って、向かいに座っていた他のファング部隊達も次々に真一郎にアーンを迫ってきた。

「あはは、一気に全部は無理だって。ちょっとずつね」

 そう言って端から順に食べていく真一郎。彼は食堂中の目線を集めていることにまったく気付いていなかった。




「まったくあのバカはちょっと目を離すとこれだ……」

 食堂の入り口で真一郎のハーレムっぷりを見つけたレイラ。

「はぁ。お父様譲りか……男ってやつは……」 

 露出度の高い美女軍団にあーん攻撃されてる真一郎。困ってるようで困ってない真一郎を救うべく、彼らのテーブルにむかって歩き始めた。




「さ、殿下こっちもどーぞ」

「ん。おぉこれも美味しいね」

「でしょでしょ」

 まるでハーレムをかこう王様の様な真一郎達の前に、突然レイラが現れた。

「レ、レイラ。どーしたの?」

 状況的にレイラにどつかれるんじゃないかと、反射的に身構えてしまった真一郎。

「お前達、すまんがコレは私のだ。もらって行くからな」

 そう言って真一郎の手を握り無理やり立たせるレイラ。

「うわっ。レイラ、待って待って自分で立つからさ」

 急な事で、バランスを崩した真一郎は転びそうになりながら椅子から立ち上がった。

「え~殿下行っちゃうんですか~?」

「レイラ様独り占めずるい~」

 ファング隊からのブーイングに「なんか文句あるか?」と抵抗できない一言を残し、手を繋ぎ食堂を後にする二人だった。



 二人が去った後の食堂で

「きゃー!何、今のレイラ様!」

「私のだって!」

「きゃー!」

「レイラ様がデレた!」

 きゃっきゃきゃっきゃと騒ぎまくる食堂の声がいつまでも続いていた。







「さて、それでは会議を始めるぞ」

 会議室に座りながら会議開始をうながすジュリエッタ。

 先ほど食堂を後にした真一郎達は、多少寄り道をしながら会議の時間にはしっかり会議室にいた二人。

 見渡せば、今回の中央砦組の主だった部隊長が全て集まっていた。

「よし、それじゃスキーリングよろしくな」

 自分の仕事は終わったとばかりに、さっさとスキーリングに進行役を押し付けてしまったジュリエッタだった。

「はいはい。いつもの事ですからね。さてみなさんまずは簡単にご報告を。偵察部隊の話では、敵は今日の夕方ごろには森を抜けるそうです」

「ほぉ。随分予定より早いですな」

 ジュウベイの発言の通り、当初の報告では敵が森から出るまで後二日ほどあったはずだ。

「どーやら敵さんもやる気まんまんらしいですよ。予定よりだいぶ早足で行軍してきたようです」

「で、インセクターのハイクラスは確認できたのか?」

 ジュリエッタの問いにスキーリングは首をふって答えた。

「残念ながら、確認できたのはノーマルのインセクターばかりだそうで。まぁ戦闘が始まれば出て来るとは思いますがね。ハイクラス達がどんな動きをするかでだいぶ戦況が変わるでしょうね」

「ハイクラスの動向次第か……まぁ今考えても仕方ないな。よし!報告はこんなもんだな?だったら会議は終了するぞ」

 ジュリエッタの声に皆帰り支度を始めてしまった。



「え、もう終わり?」

 予想以上にサッパリした会議に、拍子抜けな真一郎。

「なんだ真一郎、まだ話あるのか?」

「あ、いや、やけに短い会議だったからさ。もっと作戦立てたり対応考えたりするんだと思ってたから……」

「いつもこんな感じだぞ?報告は済んだしな。それに、作戦だなんだなんて戦闘が始まらんと分からないからな。戦は生き物だ、何が起こるか分からないから、対策なんて考えようがないもんだ」

(それは行き当たりばったりって言うんじゃ……やっぱゾーイに聞いた通り力押しが主流なんだ)

 騎士団最高責任者のざっくりすぎる戦論。しかし幸か不幸か今までそれで勝ってきてしまっているのだ。個人の対応能力高さを武器に、迫りくる敵を倒すだけ、それこそがフォレイティアスの戦い方なのだ。

「若殿はなにか心配な事でもおありですか?」

 真一郎の困惑を察知して、ジュウベイ先生が聞いてくれた。

「うん、たぶん今回の戦は皆が知ってる今までとは違うと思う」

「ほう、何故そのように?」

「まずはハイクラスが複数いるっかもって事。しかもスキーリングの話だと『アゲハ様』てのを頭に組織的に動いてるって事」


 スキーリングの報告で、カブラギの存在と彼が『アゲハ様の四本刀』と言った事を考えれば、彼の様なハイクラスが四人とそれを統べる存在がいることが分かる。


「次にイミナス。たぶんあいつは闇の軍勢と別の勢力だと思う。それと、俺とレイラが昨日会った研究者みたいな女のヒトもイミナスの仲間だと思うんだ。彼らを仮に第三勢力って呼ぶとして、彼らの目的が何で、どーして闇の軍勢の味方についていたるのか、謎が多すぎるんだ。彼らが何か企んでるのは確かだし、今回の戦でどう出てくるか、それによって戦況も結構変わると思うんだ」


 一気に喋った真一郎は、一呼吸おいて続ける。


「王国が今まで勝ってきたのも知ってるし、皆が強いのも分かってる。でも敵を少し甘く見すぎてない?今回は不確定要素が多すぎて何が起こるかわからない。もう少し気を引き締めて油断しない方がいいと思うよ」


 少し強めの口調になった真一郎。

 が、しーんと静まり返り、部屋中の視線が全て自分に向いている事に気付き、思わずたじろいでしまった。

「な、なんてちょっと生意気だったかな、ゴメン」

 その場にいるメンツは皆騎士団の隊長格達だ、自分よりも実戦経験豊富な彼らに向かって自分は何を偉そうに、と、とたんに恥ずかしくなった。


「真一郎……」

「はい……」


「よく言った!!」


 生意気言うなと怒られるかと思った真一郎だったが、ジュリエッタから出た言葉は正反対のものだった。


「勝利にむけて部下に活を入れる!それでこそ上に立つ者だぞ!」

「そ、そうかな?」


「ああ、そうだとも。しかしだ、真一郎。私達とて油断してる訳じゃないんだぞ。その証拠にしっかりと秘策も用意してあるんだ」

「え、そうなの?」


「ああ!今は明かせないが、とびきりの秘策があるんだ。楽しみにしておけよ!」

「なーんだそうだったのか。だったら先に言ってよ~。俺てっきり力押ししか考えてないのかと思ったよ」


 ギクッ

「バ、バカ言うな。いくら何でもそんな無策で戦は出来ないさ。ちゃーんと考えてるさ。だからお前は余分な心配しなくていいぞ」

「ならよかった。生意気いってごめんねみんな」

 真一郎が謝ると、全員微妙な表情で「とんでもない」と口々に言ってきた。


「さて、みんな真一郎もこう言ってることだし、しっかりと気を引き締めて戦に臨んでくれ!」


「「「はっ!」」」


「で、もう話はないかな?だったら終わりにするが……」

 真一郎をちらっと見ながらジュリエッタは会議の終了を提案した。

「ない……ようだな。よし、では今度こそ会議終了、解散!」

 ジュリエッタの号令で会議は終了し、皆それぞれ自分の持ち場へと戻って行った。






「で、あんな事言ってどーする気だ?」

 皆が出て行き、残ってるのはジュリッタとジュウベイだけだ。

「分かってる。何も言うな……」

「まったくお主は……どーせ若殿があまりに痛いとこついたもんで強がっただけだろ?」

「う……」

 ジュリエッタとジュウベイは新兵訓練所の同期生だ。昔なじみだからこそ分かる事もあるらしい。

「息子にあそこまで言われたら、親のメンツってもんがあるだろ。作戦なんて無いなんて言えるか……」

 真一郎の予想通り、騎士団にはそれといって作戦なんてないのだ。

「はぁ……とりあえず出来る事はやっておくが、お主も秘策とやらしっかり考えておけよ。何もないなんて若殿に知られたら、それこそ親のメンツ丸つぶれだぞ」

 ニヤリとするジュウベイ。

「う……ま、まあその辺はスキーリングにでもまかせるさ。とりあえず樹林の偵察部隊を増員して、あいつらの動きを完全に把握しておけば問題ないだろしな。他に何か案あるか?」

「そーだな……いっそ若殿に聞いてみたらどうだ?案外いい作戦を思いつくかもしれんぞ?」

「心配するななんて言った後にそんな事聞けるか!あーやっぱキキをこっちに連れてくれば良かったな……」

 真一郎に見栄をきってしまったため、無駄に悩みが増えてしまったジュリエッタだった。

「若殿に聞けないなら自分で考えるしかないな。なに、無理に考えなくても、いざ戦が始まってしまえば誰もきにしないさ。勝てばいいのだからな」

「そうだな。勝てばいいんだからな。よし!うじうじ悩んでも仕方ない。とりあえず行動だな、行くぞジュウベイ!」

 そう言って部屋を後にし、偵察増員の話をしにスキーリングの元へ向かう二人。

 結局力押しの発想に戻る事になってる気がするが、そこに突っ込める者は誰も居ないのだった。














「綺麗な夕焼けだな……」

 砦の上から見る夕日は正に絶景だった。空をオレンジ色に染め、太陽が地平線に沈むのをじっと眺めるのも悪くないもんだ。

「来たな……」

 隣にいるジュリエッタの声に真一郎は樹林の方を見た。

 先ほどまで生い茂る木々しか見えなかったその場に、一つ、また一つと小さな影が現れていた。

 



 ドンドンドッド

 ドンドンドッド

 ドンドンドッド




 遠くから聞こえる太鼓の音。

 ヒトと獣の声が混ざったような、叫びとも咆哮とも思える声。

 小さな影は増え続け、やがて樹林と草原の境目は黒い影で覆われて行った。

 

「すごいな……あれが全部……」


 あの場から離れた砦の上からでも分かる大軍勢。

 望遠鏡を覗き込み、その姿にさらに驚く真一郎。

「うぉ。ゴブリンだ……あっちはオークに、あの鬼みたいのがオーガか……」

 映画やゲームの悪役達の見事な共演。亜人を見るのには慣れたが、それでも彼らの醜悪な見た目は好きになれそうになかった。


「戦が始まるんだ……」

 分かっていたはずの事が、戦う敵を目にした瞬間、強烈なリアルになって真一郎を襲う。

「怖いか?」

 敵を見据えながらジュリエッタが聞いてきた。

「正直、怖くはないかな。あるとしたら不安かな、みんなが怪我とかするのは嫌だしね。でも俺はこの戦を見届けないといけないんだ。これから自分がやりたい事のためにも」

 真一郎の言葉に迷いは無かった。

「……そうか。だったらしっかり見ておけ。これが、戦こそがフォレイティアス王国だからな」

「うん、分かってる……分かってるよ……」

 真一郎にとって初めての戦が、すぐそこまで迫っていた……。





新キャラはしばらくでないハズだったのに……

ちなみにジュウベイ先生にはお兄さんが9人いるそうです。


さて次回の「はちぷり」は!

今度こそ戦が始まります!……のはず。



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