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EightPrincessOneBoy  作者: ぽちょむ菌
第一部『真一郎と八人の姫』
23/38

21話 『中央砦への道 その五』

どーもです!

今回も若干短めです。





「か、母さん!?」


 目の前に現れた母の姿に、体の痛みも忘れ素っ頓狂な声をあげる真一郎。


「ふふ。しんちゃん、久しぶりね。元気だった?」

「え?あ、ああ元気だよ。って!どーしてここに!?」


「ふふ。色々あるのよ。そっちはレイラちゃんね大きくなったわねぇ。すっかり美人さんになっちゃって」

 久しぶりに会う親戚みたなノリで、レイラを確認する香織。当のレイラは「え?あ、はい!」などと未だ驚きの中にいるようだ。


「ふむふむ。状況は分かったわ。じゃぁ、まずはあの子を何とかしないとね」

 真一郎の状況説明を求める声を完全に無視し、周りをぐるっと見ただけで、何となく状況を掴んだ香織は、おそらく自分が呼び出される原因を作ったであろう怪物と対自した。




 怪物は怯えていた。

 今自分の目の前に居る、どう見ても自分よりも小さく、か弱いであろうヒトの女に。

 今の体になって久しく、目覚めるのはいつもこの場所。目覚めては何度も戦わされ、また眠りにつく日々。そんな日々の中でも感じた事のない感情。

 怪物は唐突にこれが恐怖だと理解した。理解はしたが、自分に逃げ場などない。今までがそうであったように、今回もこの部屋に入って来たものを殺して喰らう。それが怪物の仕事であり生活であり生きると言う事なのだから。

(怯えなど自分には無い。あってはならない……)そう体に、心に言い聞かせ、精一杯の咆哮を上げた。


「グォォォォォォォォォ!!」

 

 己の声で、己を鼓舞し、怪物は女を睨みつけた。


「そんなに怖がらなくていいのよ」

 にっこりとほほ笑み、怪物に向かって歩き始める香織。

「母さん危ないよ!」

 その無防備な姿を見て、真一郎は思わず叫んだ。が、香織は振り返ると、人差し指を口にあて「しー」っとウインクした。

「え?ちょ!母さん!」

「しんちゃん。少し静かにしててね。あの子が怖がっちゃうからね」

「あの子って……」

 香織があの子と言っているのは、おそらくあの怪物だ。しかし、真一郎には母が何をしようとしているのかさっぱり理解できなかった。

「しんちゃん、よく覚えておきなさい。傷つけ合うだけが戦いじゃないのよ」

 そういって怪物に歩み寄る香織。怪物の方はと言うと、その場を動かず、いや、その場から動けないように見えた。

「グゥルゥゥゥゥ」

「さぁ、怖がらないで。貴方もひどい目に合ったんでしょ?もう戦う必要なんてないのよ」

「グゥルゥゥゥゥ」

 怪物は理解に苦しんだ。

 先ほどまで感じていた恐怖はすでになく、目の前の女からはどこか懐かしい匂いがしてきていたのだ。

「大丈夫よ、私は敵じゃないから。そうね、まずは自己紹介しましょうか。私はカオリって言うの。あなたは?」


「グゥゥゥゥグォォォォォォ!」

 目の前の女の行動に理解できず、思わず上げた咆哮。次の瞬間、怪物は、自分の中の困惑を必死にふりはらい、その獣の腕で香織に襲いかかった。


「母さん!!」「香織母様!!」

 真一郎とレイラは痛む体で走り出そうとしたが、当の本人から待ったがかかった。

「二人とも、私は大丈夫だから。もうちょっと待っててね」

 にっこりとこちらに笑いかける香織に、振り下ろされた獣の腕。



「な……」

「え……」




 絶句する真一郎とレイラ。

 二人の目に映ったのは、怪物の振り下ろされた獣の腕を、まるで力など入れてない風に、片手でおさえる香織の姿だった。

「さ、お話の続きをしましょう。貴方のお名前は?」

 獣の腕を片手でおさえ、そのままにっこりと微笑む女を目の前にし、怪物の額からは、汗が流れ落ちた。


「……グゥワルガァ」

 微笑みの重圧に耐えきれず、思わず自分の名を明かす怪物。

「そう、クワルガ君って言うのね。貴方、元々はサイクロプス族でしょ?彼らの言葉でクワルガは……確か『勇猛』って意味だったかしら?強い男の子にはぴったりの名前ね」

 怪物は絶句した。こんな姿になり、もはや忘れかけた自分の名を、その意味を理解するヒトなど始めてだった。


「……グルァグィガラル、ギルガィァ」

「え?なんで言葉を知ってるかって?ふふ、昔サイクロプスの友達が居たの。その人にいくつか言葉を教えてもらったのよ」

「……ラガイテ……」

「そう、友達。私、友達が多いのが自慢なのよ。貴方ももちろん友達になってくれるわよね?」

 ふふっと笑い、怪物に手を出す香織。

 怪物はキョトンとしてそのその細い手を見つめた。

「ほら、握手しましょ」

 香織は自分から怪物の手を握りに行った。ご丁寧な事に、それぞれの腕に握手を交わすと満足気な笑顔になる香織。

「……ウガロイ、クゥルサイビア」

「そんなに醜くなんて無いわよ。腕がそんなにいっぱいあった便利でいいじゃない」

「ベガルェ?」

「そうよ、便利よ~。たとえばね、お鍋をかきまぜながらお米をとげたり、お洗濯ものだって、いっぺんにハンガーにかけれるし、あ!掃除機をした後すぐにクイックルもできるわね!ほら、便利な事ばっかでしょ?」

「…………」

 香織の言葉の意味がさっぱり理解できず、困惑したクワルガだが、彼女が自分を元気づけようとしている事は理解できた。

「ふふ、後はね……」

 香織の腕がいっぱいだと便利話は終わりそうもなかった。






 母と怪物の会話を聞いていた真一郎は、隣で同じように呆けているレイラに聞いてみた。 

「……レイラ、サイクロプスの言葉って分かる?」

「バカか!分かるわけないだろ!香織母様が特別なんだ。大体、普通あいつと友達にななんて発想わかないだろ!」

 目の前の光景に、何とも言えない感情がこみ上げる真一郎達。

「そっか、あいつも、あの子達みたいに無理やり体をいじられて、こんな所に入れられた被害者なのか……」

 母と握手をかわす怪物を目にし、先ほどまで相手に感じていた敵対という感情が間違ったものだと思えてきた。

「真一郎、間違えるなよ。あれは香織母様が特別なんだ。私達だったら、あいつを倒すか自分が死ぬかの二択しかないはずだ」

「そう……かもね。なんか母さんて本当にすごいんだね……」

「当たり前だ。王国の最強戦力だぞ!たった一人で万を超す軍勢を滅ぼした、とまで言われてる方なんだ。結局、強者の余裕があってこそなんだ」

 強いという事は、それだけ多くの選択肢を選べるという事だ。香織ほどの強さの者ならば、戦わずして、相手を静めるなんて事も可能なのだ。



「俺、強くなりたい……」

「ああ、私もだ……」

 目の前に絶望がふりかかり、その絶望を難なく消し去った母の様に、強くなりたいと。二人は純粋に香織に憧れたのだった。






 真一郎が素直に母に関心している最中も、クワルガと香織の会話は続いていた。が、異変は突然起きた。

「グゥゥゥゥゥ!」

 香織と会話をしていたクワルガが、急に頭を押さえ苦しみだしたのだ。

「どうしたの!?大丈夫!?」

「グワァアァァァ!」

 頭をかきむしりながらその場でのた打ち回るクワルガ。その首にある首輪がドス黒い魔力を放っているのを香織は見逃さなかった。

「あの首輪のせいね……」

 おそらく状況的に、あの首輪が何かしらの呪を放つ代物で、その呪いの力で彼を苦しめているのだろう。

「クワルガ君、落ち着いて!今その首輪を取ってあげるから!」

 首輪に手を伸ばそうとしたが、クワルガはいきなり立ち上がり苦しみのあまり、地面を殴り続けた。

「ギャァグワァァァァァァ!!」

 むき出しの眼球はどれも血走り、真っ赤になっていた。

「誰がこんなむごいことを……」

 地面を殴り続けるクワルガの方へ手をかざし、目をつぶりブツブツと独り言を言う香織。

「……ダメね、呪いが魂まで縛りつけてるのね……待ってて、今楽にしてあげるから」

 目の前で苦しむクワルガ。目を開けた香織は、何かを決心したかのように後ろにいる子供たちに叫んだ。

「二人とも下がってて!」

 そう言った母の背中には銀色に輝く翼が現れていた。



「母さん一体何を……」

「なんにせよ、私達が邪魔してはまずい。もう少し下がるぞ」

 二人は肩を貸しあい、よろよろと後ろの壁まで後退した。


 銀翼をはばたかせ、フワッと宙に浮いた香織は、その場で詠唱を始めた。


「我は求める、汝は答えよ」

 光輝く銀翼を背に香織は続ける。

「みんな、お願い、力を貸して」

 


 香織が小さく声を発し、右手を高らかに掲げた。

 次の瞬間、クワルガを眩い光が包み込んだ。

「グゥォォォォォォ!」

 光につつまれ、暴れるクワルガだが、自分をつつむ光がやがて光る壁となり、その巨体を囲んだ。そのまま頂点がくっつき、変形し、ピラミッドの様な形になった壁。その壁に暴れながらの闇雲な攻撃は、全て吸収されていた。

「あんまり暴れないでね。すぐすむからね」

 香織は先ほど掲げた右手そのままの位置で、パチリと指を鳴らした。

 クワルガの周りの壁は、より一層の光を放ち、段々と小さく縮小し始めた。

 

「グゥワ!グルワァァァ!」


 しだいに小さくなっていく光のピラミッド。物理的に考えればクワルガは中で圧死される事だろう。いつの間にかクワルガの声も聞こえないくなり、どんどんと縮小を続けたピラミッドはサッカーボールくらいの大きさにまで小さくなってしまっていた。




「どーなったの?」

「私に聞くな!」

 目の前で起きた事がさっぱり理解できない真一郎とレイラだ。

「二人とも、これを見て」

 そう言って香織が見せてくれたのは、光る小さなピラミッド。その頂上部分を香織が指で触ると、ピラミッドは光の粒子となって空中に飛散していった。

 香織が差し出した手を見た真一郎だったが、思ってもいなかったモノがそこに居た。


「……サル?」


 ピラミッドが消え、香織の手の中に居たのは、一匹の黒い子ザルの様な生き物。

「クルワガ君を再構築したの。元の彼とはまったく別の存在になってしまったけど、この子の体も魂もクルワガ君からできたものよ」

 見れば子ザルの指は四本だった。さらに、三本の尻尾があり、一つはサソリの様な、残りの二つは細くしなやかな獣の尻尾だった。

「再構築って…………」

「要するに作り変えちゃったの。あのままだと呪いの力で自我を失い暴走しかねないからね。一度存在をばらして、呪いを無効化してから、無害な姿で再構築したのよ。どお?かわいいでしょ」

 再構築と簡単に言う香織だが、もちろん簡単な事ではない。それが真一郎よりも分かるレイラは思いっきり固まっていた。

「さ、この子はしんちゃんに預けるわね」

 そう言って子ザルを真一郎の手に預けた香織。

「ウキキ?」

 子ザルは真一郎を見上げ、その大きな目をパチクリさせながら小首をかしげていた。

「母さんすごいや……そっか……母さんならあの子達も助けられたかもしれないのに、俺は……」

 自分を見上げる子ザル。その子ザルのまっすぐな瞳が真一郎の自分で無理やり押さえつけていた感情をどんどんと溢れさせる。あの子を殺すしかなかったのは、自分の力の無さの結果だ。ちょっと特別な力があるだけで、それ以外は普通すぎる自分の無力さを今日ほど憎んだことはなかった……

「俺じゃなくて、母さんだったら……」


「しんちゃん……」

 香織が改めて見た息子の姿は、血で染まっていた。彼にケガはないように見えるので、おそらく戦った相手のものなのだろう。息子の表情を視て、クワルガの姿から想像すれば、おそらく彼が倒した相手も同じように不本意に体をいじられた者達だったのだろう。


「……俺、子供を殺したんだ……そうする事しか出来なかったんだ……」


 その場で泣き崩れる息子を、そっと抱き寄せた香織は、腕の中の息子に優しく語りかける。

「しんちゃん、辛かったら泣いていいのよ。」

「お、俺……ぅぅ」

 真一郎は泣いた。母の手の中で赤子の様に大声で……


「レイラちゃんもいらっしゃい」

 後ろで見ていたレイラの目にも涙が見え、香織はそんなレイラも懐に抱き寄せ、優しく頭をなで続けた。

「うぅぅ。ッグ。母様、私は……あんな大勢の子供をこの手で……」

「二人とも、泣きなさい。辛い時や悲しいときはおもいっきり泣くのよ。でもね、泣いていいのは今だけよ。思いっきり泣いたら、そのあとはその涙の分だけ強くなりなさい。きっと貴方たちのお父さんならこう言うわ『強くなれ!自分の仲間を、家族を、失いたくない者全部を守れるくらい強くなれ!』ってね。知ってる?お父さん昔は強くなかったんですってよ」


「……そ、そうなの?」

 涙で顔をぐちゃぐちゃにして真一郎は母の言葉を聞き返した。

「ええ。昔は喧嘩もできない弱虫だったんですって。でも、ちょっとした事件があって、それ以来必死に修行して強くなった。って教えてくれたわ。だから、貴方達だって、きっと自分の望むような強さを手に入れられるわ。ほら、しんちゃんの好きなアイドルが言ってたじゃない『努力は必ず報われる』ってね」

「別に、好きじゃないし……」

 真一郎的にはそれほど興味のないアイドルだったが、なぜか母は真一郎が熱狂的なファンだと勘違いしていた。

「母様、私も……強くなれますか?」

「レイラちゃんだって大丈夫よ。なんたってあのジュリちゃんの娘なんだもの。ジュリちゃんだって生まれた時から強かったわけじゃないんだしね」

 レイラの頭をなでながら優しく微笑む香織。

「でも。二人とも無理はしちゃダメよ。自分のできる事から始めなさいね。とりあえず今は少し休みなさい。二人ともボロボロじゃない」

 二人を抱きしめ、小さな声で何かをつぶやいた香織。

 そのせいなのか、戦いの疲れからなのか、二人は猛烈な睡魔に襲われた。

「母さん魔法つかった?俺には効かなぃ……」

「…………」


 その睡魔に耐えきれず、香織の腕の中でスース―と寝息をたてる二人。

「ふふ、アンチマジックにだって欠点はあるのよ」

 真一郎のアンチマジック能力は魔法を打ち消す能力。つまり魔法以外なら普通に効くのだ。

 眠りについた二人を床に寝かせ、香織はそっと二人の頬をなでた。

「いつの間にか大きくなっちゃうのね……」

 子供の成長は早い。親が少し目を離しただけで、どんどん成長していってしまう。


 香織が二人を見つめていると、部屋の上の方で何かが光るのが見えた。

「あら、あなた達、お別れを言いに来てくれたの?」

 キラキラかがやく光の群は、香織の頭上でクルクルと周ってピカピカと光り、何かを伝えていた。

「心配してくれてありがとう。大丈夫よ、眠ってるだけだから」


「…………」


「いいのよ。あなた達は何も悪くないんだもの。気にしちゃダメよ」


「…………」


「そんな事ないわ。それに、この子達ならきっと今回の事を乗り越えて、もっと大きな人間になってくれるわ。貴方達みたいな子をもう二度と造らないように、きっとしてくれるわ」


「…………」


「ええ、だから心配しないでもう逝きなさい。向こうでお友達と仲良くね」


「…………」

 

 最後に光り、くるくると回りながら光の群は天井に消えていった。

「今度産まれてくるときは、幸せになるのよ……神様よろしくね」

 天井を見つめる香織はつぶやいた、その声が香織も知る存在に届くように小さくはっきりと。





 光の群れが消えて間もなく、今度は違う光の球が現れた。

「ふぅ。さて、次はあなた達?私モテモテね」

 頬に手をやり恥ずかしがる香織の周りを、突然現れた六色の光球が飛び交っていた。


「カオリ カオリ」

 先ほどの光とは違い、はっきりと周囲に響く声で代わる代わる香織の名を呼ぶ光球。


「オカエリ オカエリ」


「ただいま、みんな久しぶりね」


「アソボ アソボ」


「ごめんね。今日はすぐ帰らないといけないの。また今度遊びましょ」


「ザンネン ザンネン」

 香織の周りをクルクルと飛び回りながら、ガックリしたように光を陰らせる光球達。


「そんなに落ち込まないで。次に来た時は絶対みんなで遊びましょうね」


「ヤクソク ヤクソク」


「ええ、約束ね。そうだ、一つみんなにお願いがあるんだけどいい?」


「オネガイ オネガイ」


「この子達を外まで運ぶの手伝ってもらえるかしら?」

 床に眠る二人に目線を落とす香織。それに答えるように光球達は真一郎とレイラを覗き込むように二人の上で周っていた。


「シンイチロ イイニオイ」

「レイラ イイニオイ」


 楽しそうに笑いながら二人の上を周る光球達。


「そう、気に入って貰えて良かったわ。みんなこれからもこの子たちを見守ってね」


「ミマモル ミマモル」


「ふふ、ありがとう。さ、外に出ましょうか」

 香織の導きのより、光たちは香織達三人を囲むように飛び回り、ピカっと光り、次の瞬間、その場には誰も居なくなっていた。










---------


 場所は変わり……


 美しい日本庭園に、二人の老夫婦が午後の紅茶を楽しんでいた。

 その庭園に、突如光の魔法陣が現れ、そこから一人の女性が出現した。

 日本ではありえないはずのそのファンタジックな光景に、別段驚きもせず、老夫婦は現れた女性を迎え入れた。

「香織ちゃん、おかえりなさい。真一郎君は元気だった?」

 楽しげに笑いかける婦人に、香織も笑顔で答えた。

「叔父様、叔母様、突然行ってしまって申し訳ありませんでした。真一郎は元気でしたわ」

「気にしなくていいのよ。そう、元気だったのね、それはよかったわ。さ、お茶の続きをしましょう」

 そういって近くに控えていた使用人にお茶を頼む婦人。


「香織、真一郎は少しはたくましくなっていたかい?」

「ええ、少しだけですけどね。色々と悩む事の多い年頃ですからね、これからも大変でしょうけど、あの子ならきっと乗り越えてくれますわ」

 老紳士の問いにも、笑顔に答える香織。

「あんなに小さかった子が、もうそんな年頃なのね……私たちも年をとるはずですね」

「まったくだ。ついこないだまで子供だと思っていたがね。最後に会ったのは、君たちが日本に帰ってきた時だから、もう十二年も前か……。やはり会わないでいると、どんどんと成長してしまうものだね」

「まったくですね。できればもっと会いたいのだけど、なかなかそうもいきませんものね……」

  

 老婦人は、香織の母の兄夫婦だ。

 自分たちには、息子ばかりで娘が居なかった事もあり、昔から何かにつけて香織をかわいがってくれた。もちろんその愛情は香織の息子の真一郎にも注がれ、その身分から実際に会う事はなくても『母の叔父さん夫婦』として誕生日などにはプレゼントを贈ったりしていた。





「陛下、皇后様そろそろお時間です」

 三人で楽しく昔話に花を咲かせながらお茶をしていると、どこからか現れた黒服の男性がそう告げた。

「もうそんな時間かい?」

「はい、後三十分ほどでお客様がお見えになるそうです」

「むぅそれでは仕方ないか。香織、すまんが今日はこの辺で」

「叔父様、お気になさらないで下さい。今日はお招きいただいてありがとうございました」

「すまんな。また是非来てくれな」

「はい」

 香織に別れを告げ、黒服とともに庭を去る紳士。そのあとを追いながら、婦人は「香織ちゃん、また来てね」と軽くウインクをして去っていった。


「さ、私も仕事に戻らなきゃ。それじゃまた来ますね」

 そう言って、残っていた使用人に別れを告げた香織の足元には、先ほどとは違う魔法陣が現れた。

 その魔法陣の中へ消えていく香織。





「はぁ、毎度毎度、魔法なんて見て、なんでみんな普通にしていられるのかしら?」

 その場に残った使用人の疑問には、誰も答えてくれなかった。







今回もお読みいただきありがとうございます。


さて次回の「はちぷり」は!

いよいよ中央砦に到着!ここまで長かった!


次回もよろしくお願いします!

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