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EightPrincessOneBoy  作者: ぽちょむ菌
第一部『真一郎と八人の姫』
21/38

19話 『中央砦への道 その三』

今回は短めです。





 とある洞窟の中。

 そこはまるで病院のような空間だった。

 清潔感ある白い壁が続き、磨きあげられた床が輝く様はそこが洞窟内であるなどと微塵も感じさせない。


「姫様、失礼します」

 長い廊下にある幾つかの扉。

 その一つをノックした西洋風の甲冑に身を包んだ青い顔の魚人は、中からの返答を聞く間もなくズカズカと部屋へ入って行った。



 その部屋には何も無かった。

 申し訳ない程度に置いてある家具や、本棚もからっぽの状態だ。

 そんな部屋のすみに置いてあるソファー、それに腰掛け、熱心に本を読む女性の前で、魚人は膝まずいた。

「姫様、至急お耳に入れて頂きたい事案が発生致しました」

「ん?」

 彼女は本から目を離す事無く答えた。

「部下より、侵入者ありとの報がございました」

「そう、殺したの?」

 本を読み続けながら、まったく興味ない風に聞き返した。

「いえ、実はその侵入者の処理について、姫様にお伺いするためにまいった次第で御座います」

「誰なの?」

「一人は赤髪の少女 、もう一人は黒髪で七色の魔力を持った少年です」

 その言葉を聞き、始めて本から視線を外し、魚人を見つめる女性。

「部下の報告を聞き先ほど私も見てきましたが、確かに七色でした」

「そう、貴方が視たのなら本物のようね。でも何故ここに?本隊からはだいぶ離れてるはずよね?」

 この場所は、彼女達が事前に入手していた騎士団の行軍予定からはだいぶ離れている。よって、大して警戒もしていなかった。

「おそらくですが、先ほど表の入口で騒いでいたディラノ達を探しに来たのでわないかと」

「次期国王がわざわざディラノを探しに?」

「はっ、そういう人物だと聞いておりますので」

「ずいぶんお優しい殿下だこと……」

 ソファーの上で腕を組み何かを考え始めた彼女だったが、すぐに何かを思い付いたようだった。

「フフフ、面白い事を思い付いたわ」

 先ほどまでの無表情が嘘の様に、楽しげに微笑む姿に魚人は息を飲んだ。彼女の面白い事は大抵ろくでもない事なのだ。

「確か廃棄処分する予定の子達が居たわよね?まだ生きてる?」

「はい、餌を与えなくなって四日ほど経ちますので、そろそろ空腹で共食いでも始める頃でしょう」

「そう、それは丁度いいわね。最後にあの子達にご馳走を上げましょうか」

 ニヤリと笑う彼女のそれは、微笑みとは程遠いモノになっていた。

「よろしいので?彼は重要な人材では?」

「フフフ、いいのよ。それにこれ位の事、乗り越えてもらわないと張り合いがないもの」

 ソファーから立ち上がり軽くのびをし、かけてあった白衣をはおる。

「貴方達は予定通り行ってちょうだい。お客様のお相手は私だけで十分よ」

「承知しました」そう言って退室しようとした魚人だったが、彼女の企みはまだあったようだ。

「ねぇ、確か、キメラが一体凍結したままだったわよね?」

「はぁ、廃棄予定の三式タイプがありますが、アレもお使いになるので?」

「ええ、どーせ廃棄するなら役に立ってもらわないとね。行く前にキメラを奥の広場に入れておいてちょうだい」

「はっ。でわ、すぐに作業に移ります」

 一度敬礼し、今度こそ部屋を後にした魚人。

「さ、私も支度しないと。フフフ楽しくなりそうだわ」

 つぶやきながら、実に楽しげに彼女も部屋を後にするのだった。







 少し時間はさかのぼり……




 真一郎とレイラは、滝を眺めたたずんでいた。

「さて、どーしよっか?」

 不審な魚人を追いかけてきたものの、たどり着いたのはそこそこな大きさの滝だった。

「真一郎、どお思う?」

「ん~滝の中もぱっと見、何も無かったし、どっかに秘密の入り口でもあるのかもね」

 滝に着いてまず二人がした事は滝の内側の確認だった。

 幸い内側を歩いて通れたため確認自体は苦労しなかったが、二人の予想に反して、内側には何もなかったのだ。

「魔法で入り口隠してるとか?」

「結界魔法か。あり得るけど、そうなると滝の内側には無いな。真一郎さっき触ってただろ?」

「あ、そっか、魔法で隠してあるなら、俺が触ればわかるね」

 先ほど内側に入った時、真一郎が内側の岩壁をペチペチ触っていた。アンチマジック能力のある彼が触れば魔法で入り口を隠してあってもその魔法を無効化してしまうはずだ。

「となると、滝つぼか?相手は魚人、考えられなくもないか……」

 レイラが考えこみながら、滝つぼを観察していると、不意に、後ろから「パリーン」というガラスが割れる様な音がした。

「ん?」

 振り返ったレイラの目に映ったのは、バツが悪そうに笑う真一郎と、さっきまで無かったはずの洞窟が口を開けていた。

「あはは、何か岩触ったらこんなん出てきました」

「……ま、まぁ入り口が見つかってよかった。うん」

 何か納得出来ない風のレイラ。

「ごめん、レイラが一生懸命考えてたのに」

「謝るな、なんか虚しくなる。さ、行くぞ!」


 かくして二人は、洞窟へ足をふみ入れたのだった。






 洞窟内は鍾乳洞の様だった。

 上下から白いツルツルの石がにょきにょきしており、そこから滴る水滴の音だけが、静かな洞窟にこだましていた。

 少し静か過ぎる気もするが、そんな事より、さっきから自分の服の裾を掴んで離さない姉の方がよっぽど気になった。


「レイラ、もしかして怖いの?」

「なっ!そ、そ、そんな事あるわけないだろ!?」

「そお?何か洞窟入ってからずっと服掴んでるからさ。てっきり暗いの怖いのかと」

 洞窟内は足元を照らす小さい光のみでかなり暗い。

 レイラは、明かりを灯す魔法も使えるが、それでは自分たちの存在を宣伝している様なもんだ。いちお潜入中という事で暗い中を歩く事になった。

「バ、バ、バカ言うな!王国騎士団員が暗いところなど、怖いわけないだろ!暗くて見えにくいし、お前とはぐれないためにわざわざ掴んでやってるんだぞ!」

 見え見えな理由を言いながらも、その手はしっかりと真一郎の服を掴んだままだ。



(なんか昔もこんな事あったなぁ……)珍しく子供の頃を思い出した真一郎は、後ろでうろたえるレイラにそっと手を差し出した。

「な、なんだ?」

「道広いんだし、手つないで歩けば怖くないよ」

「え?……」

「嫌なならいいよ」

「…………嫌じゃ……ない」

 恐る恐る真一郎の手を握るレイラ。その手をギュッと握り返し「昔もよくこーして手繋いだね」とこちらを向いて笑いかける真一郎。

 薄暗くて見えないはずの彼の笑顔がなぜかレイラにはハッキリと見えた。

「ふんっ。昔の事あんまり覚えてないんじゃなかったか?」

「ちょっと思い出してさ。確かレイラが夜中トイレ一人で行けないって言って、いつも俺が一緒に行ってたなぁってさ」

「そんな昔の話持ち出すな!」

 ぽかすかと真一郎を叩きながらもしっかり握った手は離さないレイラ。

 真一郎が思い出したのはまだ幼く「しんちゃんしんちゃん」と自分の後をついてまわってたレイラの姿だった。

「痛い痛い。はぁ、あの頃は素直で可愛いかったのにねぇ」

「ふんっ!可愛いくなくて悪かったな!」

「ははは、今でも十分可愛いよ」

「え?」

 真一郎の言葉に足が止まるレイラ。暗くてよく見えないその顔は、自慢の燃えるような赤髪よりも真っ赤になっていった。

「バババババカな事言ってるな!わわわわ私なんかより姉様達や母様達の方が可愛いだろ!」

(あぁ、何か母さん達がレイラからかうの、分かる気がしてきた)あわあわしてるレイラを見て思わず笑わずにはいられなくなった。

「はははは」

「なっなんで笑う!」

「あ、いやゴメンゴメン。でも本当、レイラだって姉さん達に負けないくらい綺麗なんだからさ、自信持っていいと思うよ」

「……本当か?あの姉様達だぞ?みんな見た目以外も凄いんだぞ!クレイル姉様は私なんかと比べ物にならないくらい頭いいし、キキ姉様には剣で一度も勝った事が無いし、魔法だってシャールイ姉様には敵わないし、それにジゼル姉様は完璧なんだ。同じ母様から生まれたのに、私なんかと全然違うんだ……」

 

 レイラの口から次々に出てくる姉の自慢とも、彼女達に対した嫉妬とも取れる言葉。

(まぁあの姉軍団の妹って時点でコンプレックスになるのも仕方ないのかな……)

「でも、ジゼル姉さんにだって欠点くらいあるでしょ?ほら、料理とか出来なそうだし」

 レイラは真一郎の言葉に「はぁー」とため息をこぼし、続けた。

「お前なぁ、ジゼル姉様の特技知らないのか?」

「特技?」

「裁縫と料理だよ。しかもどちらも職人なみだぞ」

「マジで?」

「ああ、チャーリーの普段着なんてほとんど姉様のお手製だぞ」

「そ、それは凄いな……」

 真一郎が覚えているチャーリーの普段着はフリフリの着いたドレス風からズボンスタイルまで様々だった。趣味の域を超えているそれらに勝てるのは本職の人くらいだろう。


「分かっただろ?姉様は完璧なんだ。それに比べて私は……」

 うじうじとネガティブモードに入ったレイラからは、キノコでも生えて来そうなオーラが漂っていた。

「ま、まぁそう気を落とさないで。お!そうだレイラいい言葉教えてあげる」

「なんだ?」

「『みんな違って、みんないい』日本の詩人の言葉。人それぞれ違って当たり前。違うからいいんだよ」

「なんだそれ?みんな違うなんて当たり前じゃないか」

「いや、まぁそうなんだけどさ。なんて言えば良いのかな……例えば、レイラがジゼル姉さんみたいになりたいと思って、色々努力して、料理が上手くなったりするのはいい事でしょ。でも、だからってジゼル姉さんのマネをする必要はないんだよ」

「マ、マネなんかしてないぞ」

「そお?俺、てきりレイラの話し方って、ジゼル姉さんの影響かと思ってたんだけど」

「う……」

 痛いところを突かれた。憧れ続けた姉に少しでも近づこうと、仕草や口調をマネてたら、いつの間にかこんなになったのだ。

「まぁ今更直せなんて言わないけど、レイラはレイラでジゼル姉さんにはなれないんだ。マネするより、姉さんを超えてやる!くらいの気持ちの方がいいと思うよ」

「随分簡単に言うな……」

 レイラだって分かってる。ジゼルに憧れ、マネをしても自分は到底彼女にはかなわないと。しかし、真一郎はその彼女を超えろと無理難題をふっかけてきたのだ。

「それぐらいの気持ちで、色々努力しようって話。努力は必ず報われるんだよ」

「努力しても足りなかったら?」

「そこは頑張り次第かな。それにレイラだって、姉さん達に勝ってる事あるんだよ」

「何?」



「俺の記憶に一番残ってるで賞」



「……は?」

「だから、俺の記憶に一番残ってるのはレイラだって事。まぁさっきの話しか思い出してないけど、はっきり言って、それ以外の記憶なんて全然ないしね。レイラとの思いでが、唯一記憶してる王国で暮らした証みたいなもんさ」

(なんか、ものすごく恥ずかしい事を口走ってる気もするけど、レイラを元気付けるためなら別にいいかな)真一郎は自分の言葉がどれだけレイラをテンパらせたか分かっていなかった。

「そ、それはつまり私が一番思い出に残って事か?」

「そーなるかな?ぶっちゃけ記憶全然ないしね」

 はははと笑う真一郎。彼の記憶があまりにもあいまいなのには理由があるが、その事を本人はまったく知らなかった。

「……そうか。うん、それは良い事だな。姉様達には悪いが、真一郎の記憶に残ってるのは私だけだったと……」

 真一郎が覚えていただけ。そんな些細な事でも、今確実にレイラは元気が出た。

「ちょっとは元気出た?」

「ふんっ!まぁちょっはな。ちょっとだけだぞ!」

「あ~はいはい。さ、さっさと先に行こう」

 すたすたと足を進める真一郎。レイラは小さな声で「ありがとう」とつぶやいた。


「ん?何か言った?」

「いや、別に。気のせいじゃないか?」

「そっか。あ!あっち、明かりが見える!」

 真一郎が指さした先にはかすかに光が見えた。

「やっと明るい所に付くか。真一郎、慎重に行くぞ」

「だね」

 二人は手を繋ぎながら、先にある光へと向かって行った。





 光が漏れていたのは大きな扉だった。

 周りの洞窟の感じとは少々違う、重厚な金属製の扉だ。

「さて、どーする?いきなり開けるのは危険だと思うが?」

「大丈夫じゃないか?」

 そう言って真一郎は扉に手をかけた。それがまた全然力を入れてないのにあっけなく開いてしまった。

「……お前なぁ。慎重にってさっき言ったばかりだったろ……」

「あははは、ごめん。ま、まあいいじゃん大丈夫だったんだから。さ、行こう行こう!」

 そう言って、レイラの手を引っ張りながら真一郎は扉の中へ消えて行った。







どーもです!

今回は2話一気投稿させてもらいます。

20話もよろしくお願いします!

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