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EightPrincessOneBoy  作者: ぽちょむ菌
第一部『真一郎と八人の姫』
20/38

18話 『中央砦への道 その二』

どーもです!

今回もちっと間空いてしまいました。

最低でも五日で一話投稿くらいにはしたいです。。



「真一郎大丈夫か!?」

 暴走するメータを追いかけていたレイラが、真一郎を見つけたのは、野営地から少し離れた川だった。

「あ~レイラ、来てくれたんだ。ありがとね」

 川のほとりで座り込んでいた真一郎。

「あ、大丈夫大丈夫。振り落とされたけど、怪我とかはないからさ」

 その場で立ち上がりピョンピョンして見せた。それを見て安心したレイラは、パプリカから降り、真一郎の頭を思いっきりはたいた。

「いてっ」

 レイラは少し顔を赤くし、そっぽをむきながら「心配させるな、バカ」と、つぶやいた。

「ごめん、ありがとね」

「ふんっ、礼なんていらん。さっさと帰るぞ」

「うん、でもメータ達が……」

「後で人をよこして探せばいいだろ。行軍の予定もあるから、戻って合流しないとな」

「それはそうだけどさ……」

 メータが走り去った川の上流を見つめた真一郎だったが、千人もの兵が自分のせいで足止めをくらうのも心苦しい。


「ほら、さっさと行くぞ。パプリカ行くぞ……パプリカ?」

「グルルルルルル」

「まずい、さっきのメータと同じだ!」

 パプリカは川の上流をじっと見据えながら、威嚇の声を上げていた。

「パ、パプリカ。落ち着け、大丈夫か?」

「グルルルルル……ギャォォォ!」

 一際大きな声で吠えると、川の上流に向かって勢いよく走り出した。

「パプリカ待て!」

 レイラの制止もむなしく、あっという間に見えなくなってしまった。

「あ~あ、いっちゃった……」

「あ~あじゃない!どーするんだ!」

「う~ん。とりあえず、戻るか後を追うかだね」

 メータと同じく、パプリカが走り去った上流を眺めながら考える真一郎。


「戻るにしても道が分からん」

「え……?だってさっき野営地に戻るって言ってたじゃん」

「お前を追いかけて夢中だったんだ、私が道を覚えてる訳ないだろ。パプリカが居れば匂いで野営地まで行けるんだがな」

「マジで?」

「マジだ」

 森の中で迷子になった二人。要するに遭難したんだ。

「下手に動くのは余りよくないな。ここで助けを待つのが得策だな」

「ん~。助け来るかな?」

「ロロイ姉さんが居るから、ディラノ達の暴れた理由も分かるだろうし、姉さんのキュービスなら、匂いで他のディラノを追えるだろうしな」

「ロロイ姉さん?」

 初めて聞く名前だった、なぜ姉さんと呼ぶのだろうかと疑問はあったが、何となく分かる気もする真一郎。

「あぁ、お前はまだ会った事が無かったな。いわゆる愛人の子ってやつだ。ただ、私達も母様もあまり気にせず接しているがな」

「マジか……」

 父に愛人が居るのは聞いていたが、さすがにその娘にこんなに早く会うとは思ってなかった。

(愛人って言うけどさ、嫁が四人いる時点であんまり気にならない気もするんだけどね……)

 日本人にしてみれば、愛人と複数の嫁なんて同じようなもんだ。

「ちなみに、ロロイ姉さんの母親は副メイド長のヒロイさんだぞ」

「えぇ!そうなの!?」

 真一郎は、ウサ耳の金髪ショートカットのピシっとしたメイドさんを思い出した。

「へぇ……ヒロイさんがねぇ~、で、なんでロロイさんはディラノが暴れた理由が分かるの?」

「あぁ、ロロイ姉さんは獣の言葉が分かるらしい。もっとも断片的にらしいがな」

「おぉ~、すごいねそれ。だったら理由分かって追いかけてきてくれるかな?」

「たぶんな。だから下手に動かずここで待つ方がいいと思うぞ」

「そっかそっか。ゾーイも来てくれるかもだしね。んじゃ気長に待ちますか」

 川原にそろって腰かけた2人だった。




「なぁ真一郎、一つ聞きたいだんが」

「ん~何?」

 ボーっと2人で川を眺めて少したった頃、レイラが突然真一郎に問いかけた。

「あのサクラって娘の事だがな……」

「ん?サクラさんが何?」

 なんだか下を向きながらもじもじして、珍しく歯切れの悪いレイラ。

「……お前、あの娘も嫁にするつもりか?」



「……え?」



 レイラの言った言葉が以外過ぎて固まった真一郎。

「だから、私達と同じようにあのサクラって娘も嫁にするのかって聞いてるんだ」

「えーっとたぶんしないと思うけど……」

「なんだと!自分の身の危険もかえりみずお前を助けに来たのに、嫁にしないって言うのか!」

「いや、確かに感謝はしてるけど、大体サクラさんが俺の事どう思ってるかも分からないしさ」

「お前はとことんバカだな……いいか、普通女が好きでもない男のために命かけるか?」

「まぁ、そう言われればそんな気もするけど……って言うかレイラは俺とサクラさんに結婚して欲しいの欲しくないの?質問の意図がよくわからないんだけど」

「わ、私は別に嫌じゃないぞ!王として後継ぎを作るのは辺り前だし、数だって多い方がいい。それに男は色々な女と子供を作りたがるもんだって、母様達も言ってたしな」

(あの二人は何を娘に吹き込んでるんだ……)いつものレイラで遊ぶ二人の義母を思い出す真一郎。

「ただな、その、あの娘は見た目も良いし、いい体してるし、それに獣人だろ?長生きだし、私達が年老いてしまってもまだまだ若いままだ。そーなったらやはり若い娘を可愛がるだろ?ひいきするなとは言わないが、できるだけ平等に扱ってほしいと言うか……」

(えーっと。レイラはさっきから何を言ってるんだろうか……そもそもなぜ俺がレイラと結婚する事が前提で、話が進んでるんだろうか……)


「真一郎!聞いてるのか!?」

「え?あ、うん聞いてるよ。ま~結婚するかどうかは別にして、もしもそうなっても、レイラが言ったみたいな差別はしないようにするよ」

「本当か?私達姉妹もちゃんと平等に扱うんだぞ?」

「分かってるって。みんな平等公平ね」

「そうか、分かってくれたならいいんだ」

 そう言いながら、なんだか小声でブツブツ言っているレイラ。

(俺、本当にみんなと結婚するんだろか……)別に嫌ではないが、今の所、全くその気がない真一郎だった。

「し、真一郎が求めれば、私達姉妹はすぐにでも嫁ぐつもりだ。お前の覚悟次第なんだから、しっかりしてくれよ!」

 もはやレイラの言葉を聞き流し始めた真一郎は、ボーっと下流を眺めていた。

「あ、でもミーとクーやチャーリーには、まだ手を出すなよ!3人ともまだ子供だ。私くらいになるまでは待てよ!わ、私は別にいつでも構わないが、出来れば順番的に最初の方がいいと言うか……」


 もはや、自分でも何を言っているのか分からないくらい暴走し始めたレイラを止めたのは、ボーっとしていたはずの真一郎だった。


「レイラ、ちょっと動かないで」

「え?」

 レイラの肩を掴み、じっと見つめる真一郎

「なっ!ちょっとまて真一郎!」

 じーっと見つめる真一郎の視線に、レイラの心臓はばっくんばっくんしていた。

(こ、これはまさか……確かに心の準備はできてるつもりだけど、こんな急になんて!で、でも、しんちゃんがその気なら私はいつでも……あぁ、出来ればもっとムードのある場所でがよかったけど)

「レイラ……」

「し、しんちゃん……」

 ゆっくりと目を閉じ、その時を待つと決心したレイラ。

(姉様達ごめんなさい!私が最初です!)心の中で意味不明な謝罪を姉達にするレイラだったが、待っていたのは甘いひと時とはいかなかった。



「あれ、何だろ?」



「……へ?」




 真一郎の反応に一瞬とまどい恐る恐る目を開けたレイラだったが、真一郎はレイラの後ろの川の下流を指さした。彼女がぎこちない動きで振り返り、下流に目をやると、何かがものすごい水しぶきを上げて川を逆走してきていた。

「……な、なんだあれ?」

 さっきまでの事なんて一気に吹っ飛び、その何かに目を凝らすレイラ。

「レイラも分からない?って事は騎士団じゃないの?」

「あ、当たり前だ!あんな芸当できるやつさすがの騎士団でもいないぞ!」

「って事は……」

「敵か?」

 二人は、顔を見合わせるとすぐに立ち上がり、川原の茂みの中に身をひそめた。




 二人が茂みから観察していると、その巨大な水しぶきを上げて来た何かが、先ほどまで二人がいた辺りで止まった。

 よく見ればそれは3匹の巨大な魚で、背中には誰かが乗っており、後ろには簡単な作りの船をつないでいた。

「ギギギギギ」

 歯ぎしりの様な声を上げて陸に上がってきたのは、巨大魚の背中に居た人物。よく見ればピラニアの様な顔をした魚人だった。


「あれは、イプピアーラか?」

「イプピアーラ?」

「あぁ、極めて狂暴な魚人で、確か大樹林の奥にしかいないはずだが……」

「って事は……」

「闇の軍勢だ。しかも戦闘能力もかなりあるはずだ」



 魚人とひとくくりにまとめられているが、様は見た目が魚っぽい亜人達の総称だ。

 彼らはそれは多くの部族に分かれており、鮮魚店のマニーロの様に王国になじんでいる者もいれば、外界とまったく接触せず、海底で暮らしている種族や、イプピアーラの様に闇の軍勢に属しているものもいる。



「オカシイナ、確カニ誰カ居タト思ッタンダガ……」

「本当ニ誰カ居タノカ?」

 巨大魚の背中から降り、川原をキョロキョロと見回しながら、何かを探しているイプピアーラ2人。

「ウーン。見間違イカ?」

「オイ!早ク行クゾ!ソレデナクトモ遅レテルンダ、コレ以上姫様を待タセルナ!」

「分カッテルッテ!仕方ナイ行クカ」

 とぼとぼと巨大魚の背中に戻る2匹。彼らは気付いていないが、もう後数メートル先に進んでいれば、真一郎達は見つかっていただろう。

 


 先ほどと同じように、すごい水しぶきを上げて上流へ去っていく魚達。

「ふぅ、危なかったね」

「あぁ、もう少しで見つかってたな」

 魚達が去ってから、茂みから出てきた真一郎とレイラは、先ほど彼らが去っていった上流を眺めていた。

「ねぇレイラ、やっぱ上流行ってみない?ディラノ達が向かったのも何か意味があるかもだしさ、それにさっきの魚人が言ってた姫様ってのも気になるし」

「あぁ、確かにあんなの見たら、騎士団として放ってはおけないな。しかし妙だな、奴らに姫なんかいたかな?」

 イプピアーラの部族長は、代々戦いで決められる。強き者こそが一族を率いるに値するのだ。つまり彼らに姫なんて存在はいないはずなのだ。

「とにかく、追いかければ何か分かるかも知れないね」

「そうだな、仕方ない行ってみるか」

 上流へ向けて歩くために、地面に置いてあった装備などをてきぱきと装着するレイラ。


「ところでレイラ、さっきさ、しんちゃんて言わなかった?」

「……なっ!言ってない!言ってないぞ!!」

 身支度をする手が止まって、どんどん顔が赤くなってくるレイラ。

「別にそんなに全力で否定しなくてもいいじゃん。昔はそう呼んでたんでしょ?別に好きに呼んでいいのに」

「う、うるさい!バカ!お前なんて呼び捨てで十分だ!ほら、さっさと行くぞ!」

 レイラは真一郎と顔を合わせないように、自分の支度だけさっさと整えて、どかどかと大股で上流へ向かってしまった。

「あ、ちょっと待ってよ~」

 それを小走りで追いかける真一郎だったが、彼らの事を川の中から何かが見張っていると、2人はまったく気が付かなかったのだった。





ぽっく

ぽっく

ぽっく

ちーん





 真一郎とレイラが川の上流へ向かってしばらく後、先ほど二人がいた川原には、巨大な黒い柴犬に乗ったロロイと、彼女の腰をがっしり掴みながらうたた寝をしているアリシアがいた。


「何か分かりましたか?」

 遅れてきたゾーイとスキーリングは、くんくん匂いを嗅ぎまくってる巨大黒柴犬きゅーちゃんの主に聞いた。

「うん。メータちゃんの匂いはこの辺りで無くなってるみたい。たぶん川に入ったんじゃないかな?それとレイラちゃんとしんちゃんは上流の方に行ったみたい」

「ふむ。レイラ様がご一緒なら無茶はしないと思うが、なぜ上流に……」

 アゴを摩りながら川を見つめるゾーイ。

「この上流は滝しかないんだけどな~」

 そんなゾーイに並んで事前に自分が指揮をとり野営地周辺を探索したスキーリングが答えた。

「滝か……」

 ゾーイが考えこんでいると、さっきまで寝ていたはずのアリシアが、きゅーちゃんから突然飛び降りた。

「ねぇ、川の中になんか居るけど気付いてる?」

 辺りを警戒しながら他の3人に問いかけるアリシア。

 3人は各々目を凝らし川を見つめた。

「うへ、こりゃ結構な数だぞ」

「ここまで近付かれるまで気付かないとは、まだまだ修行不足か」

「グルルルルルル」

「きゅーちゃん大丈夫だよ」

 それぞれに警戒しながら、自分の武器を構える4人。



 彼らの見つめる川からゆっくりと上がって来たのは魚人の集団だった。

「おいおい、ありゃイプピアーラじゃねえか」

「何で奴等がこんな所に・・・」

 イプピアーラを知っている者だったら当たり前の疑問だ。普通奴等は大樹林の奥にある大河で暮らしており、戦以外ではまず出会わない種族なのだ。

 川から十数人のイプピアーラ全員が上がると、一番最後に上がった一人が「ギギギギギギ」と歯ぎしりのような声を発し始始めた。


「あのイプピアーラ、もしかしてマジシャン?」

 ロロイがマジシャンと呼んだイプピアーラは、自身の詠唱が終わると、一瞬こちらを睨みつけ、静かに告げた

「アイスニードル」

 その言葉とともに、イプピアーラ達の周りに無数の氷塊が現れ、それら全てがゾーイ達めがけて降りそそいだ。



「まずい!スキーリング!」

「わかってるって!」

 その光景を見たゾーイが叫んだのと同時に、スキーリングがすぐに魔法を発動させる。


「我は求める、汝は答えよ!ウッドブロック!」

 魔法が発動し、4人の前に巨大な積み木セットが現れた。

「オーダー!ウォール!」

 スキーリングの声に答え、積み木セットが次々に移動し、組あがり、瞬く間に巨大な木製の壁へと姿を変えた。


 積み木が壁になったとほぼ同時に、氷塊が次々と壁に突き刺さっていく。

「ふぅ、危ねっ。しっかしイプピアーラのマジシャンなんて初めて見たぞ」

「ワタシも初めてだぞ、しかしなんでこんな所に?戦場ならともかく、こんなところに貴重なマジシャンが居る意味がわからん・・・」


 ヒトや獣人と違い亜人は魔法を使えない種族が多い。

 その多くが、亜人のしかも原始的な種族で構成されている闇の軍勢は自然と魔法を使える者が少ない事になる。しかし、魔法が使えないと言われる種族の中にも稀に魔法を使える者が現れるのだ。王国側はそれらをマジシャンと呼称していた。

 戦況を大きく変える可能性があるマジシャンは、戦時は大変貴重がられ、出てくるのはもっぱら最前線ばかりなのだ。



「つまり、ここにそれだけ大事な何かがあるって事でしょ」

 積み木の隙間からあちらをうかがっていたアリシアが言った言葉に、一同は素直に納得した。

「しかし、これから戦が始まるって時に、それより大事な何かってなんだろな?」

「さあ?皆目見当もつかんな」

「何にせよ、ヤバいぞ。あのマジシャンまた何か詠唱し始めてた」

 アリシアの言葉に、全員が積み木の隙間からあちらをうかがった。


「やっべ!皆散れ!」

 イプピアーラマジシャンが何をしようとしてるのか気付いたスキーリングは、すぐに皆にその場から離れるように指示をだした。



「コレデ終イダ」

 ゆっくりと詠唱を終えたイプピアーラマジシャンの上空に、先ほどの氷塊とは桁違いの大きさの氷の塊が浮かんでいた。

「アイスドラゴン!」

 イプピアーラマジシャンの声に答え、上空で砕け散る氷塊。そこに現れたのは、長い体躯で、氷の彫刻の様に透き通った龍だった。

「ユケ!」

 上空でゾーイ達を見据えた氷龍は、一直線に彼らの元へ突進していった。




「へっ!魚類の癖に生意気だぞ!」

 氷龍の突進する先で、拳を構えるアリシア。スキーリングの言葉で他の3人は散ったのに、彼女だけは積み木の壁の上にいた。

「お嬢!」

「大丈夫だって、よく見てみろ、見た目はすごいが、全然魔力が足りてない。当たっても大したダメージにならないって」

 魔法は発動時に魔力を使うが、それ以上に大事なのは、その発動した魔法にどうやって魔力を送り続けるかだ。強力な魔法を発動しても、その時点で自分の魔力が尽きてしまったら威力は半減してしまうのだ。

「我は求める、汝は答えよ!雷獣拳!」

 アリシアの詠唱と共に、彼女の両腕が眩い光を放ち、バリバリと音を立てて、雷の宿る拳へと変貌していった。

「どりゃぁぁぁぁ!」

 思いっきり立っていた積み木の壁を蹴って、氷龍に向かうアリシア。彼女の放った雷を帯びた渾身の右ストレートは迫りくる氷龍の鼻先に当たり、そのまま勢い衰えず、氷龍の体を貫き、粉々の氷へと変えてしまった。

「ふぅ。こんなもんかな」

 綺麗に地面に着地し、ジャージをパタパタとはたくレイラ。



「ソンナバカナ……」

 その状況を見ていたイプピアーラマジシャンは目の前の光景に絶句した。

「ワタシノ、神ヨリ与エラレタ力ヲ、イトモ簡単ニ……」

「ダカラ魔法ナンカニ頼ルナト言ッテイルンダ。誇リ高キイプピアーラ族ナラ、ソノ牙デヲ噛ミ砕ケレバ十分ナンダ」

 一団の中で一番体格のいい奴が後方のマジシャンに吐き捨てた。

「ヨシ、次ハ我々ノ番ダ。行クゾ!」

 リーダーらしい彼の言葉で、一斉に駆けだすイプピアーラの集団。


「やっぱりそう来なくっちゃ!」

 戦いが嬉しくてたまらないアリシアは、喜々として敵へ向かって行った。

「ったくお嬢ったら、あんなに楽しそうに」

「スキーリング、行かなくていいのか?」

「お嬢の戦いは下手したらこっちが巻き込まれるからな。ほっときゃいいさ」



「だったら某の相手を頼もうかの」

「ッ!!」

 不意に後ろからかかった声に3人は武器を構えながら振り向いた。が、その声の主を見た瞬間の驚きは隠しきれなかった。

「おいおいマジかよ……」

「まさか、ハイクラスだと……」


 そこに立っていたのは5人の亜人。そのうち4人は直立するカブト虫だが、問題は中央に立つ人物。みるからに屈強な体躯に、鎧武者の様な漆黒の甲冑をまとい、いかにも武将といった厳めしい顔。おでこのあたりから、あのカブトムシ独特の巨大な角が突き出している、周りの亜人とは明らかに違うヒトに近い者だった。 

「お主ら、王国の騎士だろ?だったらあんな魚ではなく、某と戦った方が楽しいぞ」

 にんまりとするカブトムシ武将。背中には巨大な剣を背負っている。

「冗談きついぜ、あんたインセクターだろ?戦が始まるってのにこんなとこにいていいのか?」

「カッカッカ!某1人おらずとも、我らの勝利は変わらんさ」


 今の会話でスキーリングは最悪の事態を理解した。

(まずいな。今の話じゃインセクターのハイクラスは1人や2人じゃないぞ……)

「ふむ。いまいち乗る気にならんか。ならば仕方あるまい。おい!お前等はさっきの2人を追って上流へ行け。魚どもに恩を売っておくんだ」

「ショウチ!」

 カブトムシ武将の声で残りのカブトムシたちは上流へと走り始めた。

「まずい殿下が!」

 すぐに追いかけようとしたゾーイの前に、その体からは想像できないスピードでカブトムシ武将が現れた。

「そう簡単には行かせんさ」

「ちっ!」

 カブトムシ武将の振る大剣を間一髪でよけたゾーイ。


「ゾーイ君!こっちへ!」

 キューちゃんに乗って現れたロロイが伸ばした手につかまり、ゾーイはキューちゃんに飛び乗った。

「行かせんと言ったはずだ!」

 キューちゃん目がけて突進し様としたカブトムシ武将、しかし突然現れ、からみつくツルに足を取られ動きが取れなくなった。



「むぅ……行かせてしまったか」

「あんたの相手は俺だよ」

 カブトムシ武将に向き合うスキーリング。

「そのままじゃ可愛そうかな。ほらよ」

 スキーリングが魔法を解除すると、カブトムシ武将の足に絡みついていたツルが消えてなくなった。

「ほう、以外に真面目なんだな」

「うちの団長の教えでね。正々堂々ってやつさ」

 両者はゆっくりと武器を構えた。

「面白い!実に面白いぞ!某はアゲハ様の四本刀が一人、カブラギ!正々堂々お相手させてもらおう!」

「ご丁寧にどうも、ちなみに俺は第一師団副詞団長補佐、スキーリング・タリオカだ」

「ほう、タリオカか。噂の風魔とお手合せできるとは、魚達に感謝せねばな」

 にやりと笑うカブラギ。

「生憎その名は、次の代に任せてあるんでね。今はただの実況好きな騎士団員さ。さ、始めようか!」

 地面を蹴り素早くカブラギの懐へもぐりこむスキーリング。

「早いな!しかし!」

 カブラギは後方へジャンプすると同時に、大剣で地面をえぐり大量の土をスキーリングにあびせた。しかし、スキーリングはそれを横っ飛びでよけ、もう一度地面を蹴りまたもカブラギへと突進した。が、そのスキーリングをカブラギの大剣が襲った。

「もらった!」

 スキーリングに大剣が振り下ろされた瞬間、彼の姿がゆらゆらと消え失せた。

「なに!」

 一瞬の戸惑いを見せたカブラギだが、上空の気配にすぐに目を向けた。そこには魔法を詠唱するスキーリングの姿。

「カマイタチ!」

 スキーリングの詠唱により発生した無数の風の刃が、上空から一気にカブラギに襲いかかった。

「こんなもの!」

 それを大剣ではらい切り、そのまま上空へ飛ぶカブラギ。スキーリングはそれを確認すると、空中で体を回転させ、一気にカブラギにむかって滑空した。

「ちょこまかと!」

 体をねじりながら、勢いをつけけて、落ちてくるスキーリングにむかって大剣を振るカブラギ。スキーリングはその大剣の腹を自分の足で蹴り再度跳躍、そのまま空中でカブラギの背後に周りながら落ち、彼の両足をがっちりとつかんだ。

「捕まえた!」

「なんだと!」

 空中でぶらさがる形になったスキーリングはそのまま落下していき、着地の瞬間思いっきりカブラギを地面にたたきつけた。

 ものすごい衝突音を上げ地面にたたきつけられたカブラギ。彼をたたきつけ飛びのいたスキーリングに喜びの色は無かった。

「ま、こんなのじゃ全然効いてないんだろうけどね」

 スキーリングの発言にのそりと立ち上がったカブラギが答える。

「いてて、なんちゅー事してくるんだ。大事な角が折れたらどーする」

 まったくダメージを負ってない風のカブラギは、土まみれになった体をパタパタとはらっていた。

「さすがにインセクターのハイクラスだな。傷ひとつないなんて」

 土をはらったカブラギの鎧には何の傷もついていなかった。

「当たり前だ!これしきで傷つくほど軟にはできとらんわ!」

「だよね。でも、中からの衝撃ならどうかな?」

「なんだと?」

 身構えるカブラギだったが、すでにスキーリングの準備は整っていた。

「発動、弾けろ!」

 スキーリングの言葉と共に、カブラギの右足の脛のあたりが爆発した。

「んぐぁっ!!!!」

 その場に倒れこむカブラギ、足に目をやれば、内部から爆破されたように肉が外にむかって飛び散っていた。

「な、何を……」

「ちょいとした小細工さ、あんたの足の中に魔法を入れさせてもらった。その鎧じゃ俺の火力じゃ破れそうにないしな。正々堂々とは言えないかもだが、勝つための手段ってやつさ」

「ふっ、これくらいの傷でどうにかなるものか!」

 膝から下がズタズタの状態で立ち上がるカブラギ。大剣を地面に付き刺し無理やり立つが、思うようにバランスが取れない。

「無理すんな。その傷じゃどーせまともに戦えないだろ?投降すれば命は助けるぞ」

「ふんっ、敵の情けにかけられるくらいなら、この場で戦って散る!」

 なんとかバランスを取り、ふらふらと大剣を構える。


「まったく、相変わらずえげつない事するなスキーリング」

 向き合う二人の前にアリシアが声をかけた。

「なんだお嬢、もう終わったんで?」

「あぁ、ほら」

 そう言って、アリシアがあごでさす方には無数のイプピアーラの死体が転がっていた。

「ほう、あの人数をこうも簡単に……」

「どうだおっさん、今度はウチと戦わないか?」

 拳を構え、カモンカモンと手招くアリシア。

「ふっ、さすがに分が悪いか……某にも色々とやるべき事があるのでな。今日はこの辺で引かせてもらう。風魔の、次に会ったら決着をつけさせてもらうぞ」

 そう言って足元にできた黒い影に消えていくカブラギ。

「な!まて!」

 スキーリングが追おうとしたが、すでにカブラギの姿はなく、影も消えてしまった。



「で、どーすんだ?」

 カブラギが消えたあたりを見つめながら、アリシアが聞いてきた。

「こりゃジュリエッタ様に報告だな。今回の戦、かなりめんどくさい事になりそうだし」

 ハイクラスが複数存在するだけでも厄介なのに、カブラギが報告にあったイミナスと同じ影の移動魔法を使った。偶然とは思えない事にスキーリングは嫌な予感しかしなかった。

「バカ殿下はあの2人に任せれば大丈夫っぽいしぃ。ウチ服も汚れちゃったし、さっさと戻るよ」

 戦の事なんて全然考えてないアリシアは返り血で汚れた服を早く洗いたいらしい。

「はぁ、お嬢、状況分かってます?ハイクラスが複数なんて今まで聞いたこと無いでしょ?」

「それはそーだけど、そーいう難しいの考えるのは上の仕事っしょ。ウチらは敵倒せばいいんだから。ほら、行かないの?おいてくよ~」

 さっさと歩きだすアリシア。スキーリングは深いため息を一つして、彼女の後を追って行った。






なんか知らないけど、レイラがかわいいよね!



さて次回の「はちぷり」は!

真一郎とレイラが向かった先にあるものと、そのに居た意外な人物とは!


次回もよろしくお願いします!



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