16話 『旅立つ不安、待つ不安』
どーもです!
今回もちっと間空いてしまいました。
5日に1話投稿目標に頑張ります!
王都散策の翌朝、砦行きの準備をして迎えを待っていた真一郎の部屋にノックの音が響いた。
「殿下、準備はよろしいですか?」
そう言いながらゾーイが入ってきた。その姿はいつもと違い、体のあちこちに金属のプレートや鎖が付けられ、背中には丸い盾が、腰には大きなナタの様な武器がぶら下がっていた。
「うん、出来てるよ」
ヴィラントの横たわるベットのそばで椅子に腰掛けていた真一郎は、「それじゃ行ってくるね」と、未だ眠ったままの執事にしばしの別れを告げ彼の私室からリビングへと向かった。
「おぉ、ご立派ですぞ殿下」
真一郎の姿は制服姿。が、いつもと違うのは、それがブレザーではなく学ランだという事。更に黒い学ランの胸元には金の刺繍でフォレイティアス王家の家紋。裾や袖は金ぶちに装飾されていた。腰には刀を下げている。ぱっと見は一昔前の陸軍将校の様だった。
「その服は日本からですか?」
真一郎の服装に興味深々のゾーイ。
「そそ、何かこれ母さんが造って荷物に入れられてたらしいんだ。戦に行く時用だってさ」
ちなみにこの学ラン、某国で開発された特殊繊維でできており、並の鉄板なんかよりよっぽど強度がある。剣で斬りつけられてもびくともしないそれは、耐火耐水性能もずばぬけており、そのまま同じ素材のヘルメットをかぶれば宇宙空間にだって行ける代物だ。
学ランには母からの手紙も同封されており「とても強い素材よ、剣だってへっちゃら」とやんわりと説明されていた。
先ほど試しに裾の辺りを包丁で突っついて破こうとしてみたが、全く歯がたたず、逆に包丁が刃こぼれしたほどだった。
(母さん何処でこんなもん……)
真一郎の疑問はごもっともだが、今回の戦でこれほど頼もしいものもないので、とりあえず素直に感謝だけはしている。
「実にお似合いですよ」
満足気なミミットさんの声に「そうですな、よくお似合いです」
とゾーイが笑って答えてた。
「それじゃミミットさん、行ってくるね。ヴィラントの事よろしくね」
「はい、行ってらっしゃいませ。留守はお任せ下さい」
その場で綺麗に一礼したミミットさん。
「それじゃ行こうかゾーイ」
「はっ!!」
ゾーイが開けてくれた扉から戦への一歩を踏み出した真一郎だった。
「真一郎様、とても凛々しいお姿ですよ」
「そお?ありがとシノさん。それにしても凄い見送りだね、みんな仕事大丈夫なの?」
真一郎の部屋を出た廊下には、王宮内のメイドさんを始めとした使用人達が勢揃いしており、綺麗に壁に沿って並んでいた。
その先頭で、宮廷メイド長のシノは義理の孫の凛々しさに目を奪われていた。
「真一郎様の初陣ですからね。皆仕事どころではありませんよ」
ニッコリと微笑むシノさん。
真一郎は使用人達にも人気がある。他の家族も使用人達には好かれているが、その使用人のほとんどが女性の王宮内では、真一郎の『見た目がいい男子で次期国王』などという肩書きは人気が出て当たり前なのだ。王家の男子が使用人に手をだし、子供が産まれ王族の仲間入りなどという事はよくある事だ。実際、真一郎のまだ見ぬ姉の数人の母は、王宮のメイドや料理番などの使用人だった。ただ、グラインの場合だと、ジュリエッタやシルフォーネ、香織や亡くなったタエ以外は愛人扱いなので普通に使用人として今も働いている者もいる。
真一郎が父のプレイボーイっぷりを知ったのは王国へ来る前だった。母から腹違いの姉が、王族以外にも数人いる事は聞いていたが、実際に会った事はまだなかった。
「ご無事のご帰還を、使用人一同、心よりお祈りしております」
シノさんの言葉と共に使用人たちが一斉に礼をした。
「あはは、みんなありがとう。なんとか無事に帰って来れるようがんばりますよ」
それぞれに「どーもどーも」などと挨拶を交わしながら使用人達の列の中を進んでゆく真一郎。
「貴方の事、ちゃんと紹介しなくてもよろしかったの?ロロイだって今回は中央へ行くのでしょ?」
そう隣のウサ耳獣人に語りかけるシノさん。
「いえ、私はあくまでただのメイドですわ。ロロイも特に気にしていないようですし、真一郎様だってそのうち誰かから耳にするでしょうしね」
「貴方達がそれでよいならいいのですけどね」
「今はただ、真一郎様の無事だけをお祈りしてますわ。ロロイにもしっかりとお守りするようにと言っておきましたので」
「第一師団の副詞団長が気にかけて下さるなら、真一郎様も安心ですね。ヴィラント殿があの状態で、正直砦行きなんてやめていただきたかったけど、あの一度決めたら引かない性格はグラインそっくりだわ」
「確かに、グライン様は一度決めたら突き進みますからね。あの妃様達だって止める事ができないくらいですものね」
少しだけ昔を思い出すウサ耳メイドのヒロイ。彼女はグラインと過ごしたひと夏を決して忘れることは無かった。
「ヒロイ、貴方、正室になりたいと思った事はないの?」
「そうですね、正直、最初はありました。何と言っても王妃ですからね。ただ、フォレイティアス王国の王妃ともなれば、ただ着飾り社交界で輝くだけでは勤まりません。妃様達は王妃として立派に国を支えておいでです。私には荷が重すぎると気付いてからは、メイド長同様、影から支えると決めましたので」
フォレイティアスの王妃は他国に比べ国の内政や軍事に強い影響力を持っている。闇の軍勢との戦が常につきまとう王国では、たとえ王妃といえども王と共に戦の場へ赴かなくてはいけないのだ。メイドとしてのスキルは一級品のヒロイでも、戦や内政となるとさっぱりだ。それにくれべ正室達は文武両道を地で行っており、あの政治に関心なさそうなジュリエッタでさえもヒロイよりも政治に関しては詳しいのだ。
「貴方を後継者に選んで正解だったわ。私もいつお迎えが来るか分からない年になりましたしね。何かあったら頼みますよ」
「そんな、メイド長にはまだまだ元気で居ていただくなくては困りますわ。まだまだ教えて頂きたい事が山ほどありますし」
「ふふふ、あんまり老体をいじめないでちょうだいね」
二人は微笑みながら、今だに使用人達に挨拶を交わす真一郎を眺めていた。
「ふぅ。そろそろ先を急がせないと、時間に遅れてしまいますね」
「ふふふ。でもこんな穏やかな出発は初めてですわ」
「あののんびり屋は香織のせいかしらね。さて、ヒロイそろそろまいりましょう」
「はい」
そう言って二人はまだまだ挨拶中の真一郎へ、先を急がせるために追いつくのだった。
真一郎がゾーイを引き連れて集合場所になっている王城の裏門へ着くと、すでに今回の中央砦組の千人近い兵が集まっており、おのおの出発前の最終チェックなどをしていた。
「凄い人数だね」
「なかなか迫力のある眺めでございましょう?今回は砦に常駐している兵と合わせて千五百人ほどになりますからな。規模としては中くらいですかな」
目の前にいる兵の大軍団に圧倒されていた真一郎だったが、これでも多くない方らしい。
「いつも、これより多いの?」
「その時々の敵の数によって変わりますが、ワタシの参加した戦闘では、最高で三千人規模の兵での戦闘もございましたな。我々は基本篭城戦なので敵より数が少なくてもそれほど問題にはならないのですよ」
日本の一般常識として、篭城戦の場合、守る方より攻める方が3~5倍の人数が必要らしい。しかし、それはお互いの武装に大差がなく、大量破壊兵器など無かった大昔の話。現代で単純に攻めるなら、城ごとミサイルで吹き飛ばせば済む話だ。今回の戦では敵の数は王国側の10倍近い。人数だけ見れば攻め方の勝ちにも思えるが、これくらいの戦力差は何も問題にならないらしい。
王国側は魔法を使える者も多いし、一人一人の戦闘能力も高い。それに対して闇の軍勢は魔法を使える者が少なく、見た目の通りの接近戦が大好きなヤツばかりなのだ。ろくな作戦もなく数にまかせて突っ込んでくるヤツらは、一度に広範囲を攻撃出来る魔法の、格好の餌食となるのだ。
「我々の篭城戦ではまず、砦からの魔法攻撃で敵の数を減らします。その後、砦の外での殲滅戦になります」
兵の間を歩きながら、王国の基本的な戦法などを聞いていた真一郎。
(闇の軍勢は力押しで考え無しって言うけど、王国側も十分力押しな気がするんだけど……)
真一郎の感想はごもっともだが、近年の闇の軍勢との戦では、この力押しで危なげなく勝ってきたのだ。相手が弱いので作戦などいらない。という結論に達するのも仕方ないのかもしれない。
「でもさ、今回は投石機とかあるんでしょ?その辺の対策は考えてあるんだよね」
「策としては発見次第各個撃破と聞いています。上はそこまで危険はないと判断しているようなのですが、殿下は投石機ご覧になった事があるのですか?」
「いや、流石に実物は無いかな。ただ、映画とかで観た限り、結構驚異になると思うんだけどな。まあ魔法で投石機自体を壊せるなら問題無いだろうけど、確か今回あっちで中心になってるインセクターって魔法に結構な耐性あるんでしょ?彼らが自分が盾になって魔法から護る、とかもありえると思うんだよね」
「なるほど、確か奴等にとって重要ならばそこまでする可能性もありますな。ちなみに、その場合殿下でしたらどおされますか?奴等の外骨格は魔法適性だけでなく物理攻撃にも強いので矢で射抜く事も至難の技ですぞ」
「そうだなぁ……」
考え込む真一郎を見ながらゾーイは段々楽しくなってきていた。千人隊長となり、新兵育成などに力を入れてきたゾーイは真一郎の知識や発想に素直に感心していた。
「例えばさ、もし投石機が木製なら火を付けるとかはどうかな?あーいう機械てどっか一つでもパーツ壊れればまともに動かないだろうしね」
「全壊でわなく破損させれば十分という事ですな」
「そうだね。まぁ場所にもよるかもだけどね~」
(殿下の発想は日本人ならでわなのか、ご自身のご性格からか。どちらにせよ、先が楽しみだな……)
「確かに素材や攻撃を加える場所が分かれば、後はそこを狙えばいいだけですからな。さすが殿下、良いところに目を付けられますな」
「そーかな?たまたま知ってただけだよ」
「いえいえ、知識は力ですぞ。それに敵を正確に分析する能力は、戦にはなくてはならない物ですからな」
「ははは褒められたでいいのかな?なんかゾーイ先生みたいだね」
「実際、新兵の教育などは私がうけもっていますのでね。どうです、殿下も遠征が終わったら授業を受けてみますか?特別に士官学校に編入でも大丈夫ですよ」
ゾーイ的には士官学校に入ってもらい、しっかりと学び、さらに周りにもいい影響を与えてくれるのを期待していた。
「学校か~……考えとくよ。王宮の方でも色々と勉強しないといけないしさ、何にせよ、今回の遠征を無事おわらせないとね」
「確かに、そうだ、先ほどの殿下のお言葉、他の団長殿にも教えておきましょう」
そう言って、近くにいた兵を数人呼び、今の話を聞かせたゾーイ。
「では皆、各部隊長へ報告の後、後続の遠征軍にもこの事を教えて来てくれ」
「「了解しました」」
元気よく散っていく兵たち
「さて、殿下そろそろジュリエッタ様の元にまいりますか」
「そーだね、俺は母さんとレイラと馬車に乗るんだっけ?」
「そうです。私は馬車の近にいるので何かあったらすぐ声をかけて下さいね」
「りょーかい。そんじゃ行こうか」
「はい。ではこちらですね」
ゾーイに案内してもらい、ジュリエッタの元へ向かう真一郎だった。
兵達の間を抜けて、王族専用馬車を見つけた真一郎とゾーイは、馬車の前のジュリエッタに挨拶を交わした。
「ジュリエッタ母さんおはよう」
「おお、来たか真一郎。その衣装、香織の手製か?似合ってるじゃないか」
ジュリエッタは戦闘用の露出の多いアマゾネススタイル。
「そそ、母さんが戦用にってさ。あ、レイラもおはよう」
ジュリエッタの隣に同い年の姉を見つけた真一郎。昨日の今日で気まずいが、平静をよそおってみた。
「フンっ」
当のレイラは真一郎を睨みつけ、さっさと馬車に乗ってしまった。
「あちゃー。あれ相当怒ってる?」
「だな。まぁ気にするな、そのうち普通にもどるさ。はっはっは」
豪快に笑い飛ばすジュリエッタ。レイラが昨日どんな目に合ったかは知ってるはずだが、全然気にしてなかった。逆に「その場に居たかった」と言われたくらいなのだ。
「はぁ、砦までの移動中、馬車でずっと睨まれるのだけは勘弁してもらいたいな……」
「ははは。ずっと馬車の中にいなくてもいいんだぞ、外で一緒に歩いたり、他の乗り物に乗るでもいいからな。砦に付くまでは自由にしてろ」
「他の乗り物ねぇ……」
真一郎は周囲にいる馬車以外の乗り物達へ目をやった。一番多いのはディラノと呼ばれる二足歩行の肉食恐竜の様な見た目の生き物だ。基本緑系の体色のディラン達は、それぞれ戦闘用と思われる鎖の様な装飾をつけていた。馬もいちおいるが、戦闘に参加する場合ディラノの方が好まれて乗られるらしい。
「ねぇゾーイ。ディラノって乗るの大変?」
「そうですなぁ、コツをつかめばさほど大変ではありませんよ。ヤツらはああ見えて普段は大人しい性格ですから、敵意を見せず世話などしていればすぐに懐いてくれますな」
「へぇ、馬とあんまり変わらないんだね」
「左様ですな。ただ馬は戦闘にはあまり参加できませんが、ディラノは怒ると狂暴になります。そのくせ一度懐いた主には、忠義をつくしますからね。傷ついた主を庇いながら戦い、砦に戻ってきたヤツもいたくらいですぞ」
「おぉーそれはすごいね。俺も機会があったら乗らしてもらおうかなぁ」
「殿下でしたら、すぐに懐かれるでしょうな」
「なんだ真一郎、ディラノが欲しいんだったら、もうすぐセキトが子供を産むからそいつをやろうか?」
そう話に割り込んできたジュリエッタ。セキトと言うのは彼女の愛ディラノで、珍しい赤い体色の大柄なディラノだ。今回はお産が近いため遠征には連れて来ていないが、その体格と気性の荒さは、王国一と言われるほどだった。
「ほぉ、ジュリエッタ様のセキトの子となれば殿下にぴったりですな」
「ジュリエッタ母さんがいいならそうしてもらおうかな。素朴な疑問なんだけど、ディラノって卵で産まれるの?」
「いや、ディラノは卵は産まんぞ」
「へぇ~そうなのか。爬虫類っぽいからてっきり卵かと思ったや」
「ちなみに我々も卵ではないですぞ」
予想外のゾーイの発言。しかしその内容は、真一郎が正直聞きたくても聞けない内容のものだった。
「そ、そうなんんだ~」
「殿下、別に我々が日本で言うところのハチュウルイとやらに似ているのは気にしてませんぞ。王国でもよくディラノやワニに似てると言われますしね」
ちなみにワニと言うのはそのまんまでっかいワニだ。小さいものでも3m近い体長があり、その背中に乗って川を渡ったり敵陣に突撃したりするらしい。王都の中では大人しいオスが交通手段として使われており、怒りっぽいメスは戦様に使われるのが一般的だ。
余談ではあるが、そのワニという名前。以前はもっとながったらしい名前があったが、香織が気に入り、勝手にワニと呼び始めたせいで、現在はワニが一般的な名称になってしまっている。
「それって嫌じゃないの?」
「全然ですね。実際我々以外でも、亜人は元々ヒト以外の生き物の姿をしているヒトに近い存在ですから、その元となっている生き物に似ていると言われても仕方ありませんしね。遠い遠いご先祖に似てると言われるようなものですな」
王国の亜人達はそれぞれの生き物が独自の進化をたどりヒトの様になったと言われている。一部では大昔の神の実験で造られた、などとも言われているが、前者の進化論の方が一般的な考えとなっている。
「ただ、種族によっては怒る奴らもいるので気を付けてくださいね」
「そうなんだ。分かった、なるべくそっち系の話には触れないでおくよ」
そう言った真一郎だったが、近くに整列する兵にさっそく気になる見た目の兵がいた(あれはどう見てもカエル……)真一郎の目線の先には、でっぷりとしたカエルの亜人を中心に、彼よりも小さめのカエルの亜人集団が居た。種族名フロッグル。まんま二足歩行のカエルの彼らは、平均的に小柄な体に、見た目に似合わない強力な魔力が売りの魔法使い系種族だ。
「ねぇ、ゾーイ。あのカエル軍団も騎士団だよね?」
「殿下。さっそくですが、あのフロッグル族はカエルと同等とされるのをとても嫌っております。お気をつけくださいね」
「う……。さっそくか~。あの人達は第三師団なのかな?」
今回真一郎と同行する兵は、そのほとんどが第三師団の団員だ。そこに第一や第二の精鋭がまざる形になっている。
「いえ、彼らは第二師団の魔法部隊ですね。フロッグル族は高い魔法適性をもつ種族としても有名なので、彼らはその中でも指折りの精鋭たちですな」
(あの見た目で魔法得意って……ま、まあ恰好は魔法使いっぽいけどさ……」
カエル軍団はおそろいのマントを羽織り各々色々な長さの杖を持っていた。
「いい機会だな。真一郎も挨拶しとくといい。おーい!ベッベグ!ちょっとこーい」
そう言ってジュリエッタが呼んだのは一番体格のいいでっぷりカエルだった。
「むん。ジュリエッタ様、何だケロ?」
ジュリエッタへ呼ばれて近づいてきたベッベグ。それに続き、他のカエル軍団もぞろぞろとこちらへ来た。
(ケロって言った!ケロって言ったよ今!それでカエルに似てるって言っちゃいけないの!?)
真一郎の困惑もわからなくもないが。基本フロッグル族は語尾がケロなのだ。
「ベッベグ、これが真一郎だ。真一郎、フロッグル魔法部隊の部隊長のベッベグだ」
簡単なジュリエッタの紹介に真一郎は「よろしくお願いします」などと丁寧にあいさつしてみた。
「これはこれは殿下、ご丁寧にありがとうございますだケロ。自分はフロッグル魔法隊の指揮を任されております、ベッベグと申しますだケロ」
その場で跪くカエル。と、それに合わせて自分達も跪くカエル軍団。
「そんなかしこまらないで。よろしくね」
そう言って顔を上げさせた真一郎だったが、顔を上げたベッベグは真一郎に釘付けになった。
「殿下はお噂通りお優しいかたですなケロ。それにその魔力の美しい色……はぁついつい見とれてしまいますでケロ」
うっとりと真一郎を眺めるベッベグ(近い……やっぱカエルだ。そしてグロい……)目の前の巨大なカエルの顔は迫力満点だった。さらに、後ろのカエル軍団も同じような顔で真一郎にどんどんとせまっていた。
「あの、みんな大丈夫?」
自分の魔力が一部にとても魅力的だと分かってしまった真一郎だが、その心境は複雑すぎ(カエルに好かれてもなぁ……まぁ悪い人達じゃなさそうだしいっか)いつの間にか神を崇める民の様に、真一郎を中心に円になり、みんなで真一郎に見とれているカエル軍団。さらに、いつの間にか他の種族もまざってどんどん真一郎サークルがデカくなっていきそうだった。
「お、いたいた。おーい、ゾーイさーん!……ってこれなに?」
ゾーイを見つけて走ってきた若いリザードマンは、カエル軍団+いろんな種族と、彼らが崇める少年の姿に?の連発だった。
「なんだ、アフリィか、どーした?」
「あ、これグレー様から渡すように頼まれました。なんでも遠征が終わったらお見合いをするそうですね。頑張って下さい!」
そう言ってゾーイに何か封筒を渡して去って行ったアフリィ。彼女の発言で、真一郎サークルの全員の視線が一気にゾーイに向けられていた。
「ゾーイ、お見合いするの?」
跪く民の中心で、崇められていた少年からの質問の答えに、その場の全員が興味深々だった。
「な、え、えっとですな……あの殿下のご実家で、グレー様がお話ししていた件が固まったとかで、正式に遠征後にお会いする事になりまして……」
ドギマギゾーイのいつもは聞けない歯切れの悪い言葉に、一同からドッっと笑いが起きた。
「はははは!ついに旦那にも春が来たかケロ!で、お相手は誰だケロ?」
「そ、それはだな……」
「ふっふっふっふ。聞いて驚け!あのガルルートだ!!」
ババーンと本人そっちのけで発表したジュリッタ。
「「「「なにぃぃぃぃ!」」」」
一同の驚愕の声がその場に響いた。
「ガルルートって、あの第五師団の師団長のガルルートさんかケロ!こりゃとんだスクープだケロ!」
「あぁそう言えば言ってたねそんな事。よかったじゃんゾーイ!」
「あ、ありがとうございます殿下。しかしながら、お会いするだけですので、全然まだおめでたくわないかと……」
「そんな事無いぞ。今回の話、私も聞いていたが、ガルルートもまんざらでわないようで、ゾーイなら見合いしても良い、と言ったらしいからな」
「ジュリエッタ母さんそれ本当?」
「あぁ本当だとも。つまりもう決まってるようなもんだ!はっはっは」
「よかったじゃんゾーイ!……ゾーイ?大丈夫?」
真一郎の横に居るゾーイは、今のジュリエッタの話を聞いて完全に固まっていた。
「旦那、生きてるかケロ?」
ベッベグにツンツンされるも微動だにしないゾーイ。なんか小さいこえで「ぁぁぁぁぁぁ」って聞こえてくるくらいだ。
「旦那がこれじゃ仕方ない。よしここは前祝と行きますかケロ!」
ベッベグの号令の元、カエル軍団が何やら呪文を唱えた。
「お集まりの皆様!ここにいるゾーイ千人隊長殿が、今回の遠征無事ご帰還の折には何と!あの、第五師団長のガルルート嬢とのお見合いをするらしいですケロ!しかもあちらもまんざらでは無いご様子ケロ!これはいっちょフロッグル流に前祝と行かせていただきますケロ!」
魔法で出したのか、拡声器のような物でその場にいた千人の兵や、見送りに来ていたその家族にまでベッベグの声が響いた。もちろん、騒ぐのが大好きなフォレイティアス国民がこれを逃すはずがなかった。
「いいぞいいぞ!」「おめでとー!」などとあちこちから祝福の声が上がり、固まっていたゾーイもやっと我に返ったらし。
「ベッベグ、もういい、これ以上騒ぎを大きくしないでくれ!」
「ふふ、もう遅いだケロ。それに後ろの方々も楽しそうにしてるケロ」
ゾーイがふりかえると、わくわくの眼差しでベッベグ達の魔法を待つ真一郎とジュリエッタが居た。
「せっかくだから派手にいけ!」
ジュリエッタの号令と共に詠唱が完了したフロッグル達は、ベッベグの指示を待った。
「それではいくケロ!」
そう言ってフロッグル全員で両手を空へつきだした。その瞬間、彼らの頭上にいくつもの魔方陣が現れ、そこから光る球が次々に空へ飛び出していった。
「おぉ~。すごいね」
「ふふふ、殿下、これからですケロ」
いたずらっぽく笑うベッベグ。彼の放った最後の光球が空へ上がると、先に上がっていた光球とともに思いっきり爆発し、見事な花火を空に咲かせた。周囲からは歓声が聞こえ、一瞬にして皆に笑顔があふれて来ていた。
「さすがに昼間だとこんなもんですケロ」
「いやいや、十分綺麗だよ!すごいよベッベグ!」
「ふふふ。褒められたケロ」
(どうかこの騒ぎをガルルート嬢がこの騒ぎを知りません様に……)心の中で必死に願うゾーイだった。
「いやぁなかなかだったな!さて皆、そろそろ出発だ。おのおの持ち場にもどれ~!」
花火も咲き終わったため、ジュリエッタの号令と共に集まっていた兵達は、それぞれの行軍配置場所へと散っていった。
「では、殿下。我々もまいりますのでケロ」
「うん。今度は花火夜見せてね」
「喜んで!」
そう言って一斉にお辞儀をして去っていくベッベグ達。(最後ケロって言わなかった!ケロって言わなかったよ!)真一郎のツッコミは誰にも届かなかった。
真一郎がジュリエッタと共に乗り込んだ馬車には、すでにレイラが座っていた。二人に一瞬目を向けすぐに外を見てしまったレイラ。
(あちゃ~完璧怒ってるね……なんとか砦いくまでに機嫌なおしてくれるといいな)気まずい空気の中、馬車は動き始めた。
出発を知らせるファンファーレが鳴り響き、あちこちから「いってらっしゃい」「頑張って!」などと声が聞こえてきた。
真一郎達、中央砦遠征組は戦いの地へと進み始めたのだった。
「がるるん、出て行かなくてよかったの?」
「あんな場所恥ずかしくて出て行けません」
「えー、せっかくみんなお祝いしてくれたのに?」
花火騒ぎが終わり、真一郎達、中央砦遠征組が城を出て行く姿を、双子姫とガルルートは一緒に見送っていた。
「姫様達こそ、殿下にお言葉かけなくてもよかったのですか?」
「兄様どーせ無事に帰ってくるだろうし、心配してないからいいの」
「だね。心配したら逆に不安になっちゃうから、私たちは心配しない事にしてるの」
二人して左右からガルルートの耳飾りをいじる姫達。
「はぁ、そういう物ですか……」
「そ、そーゆーもん。それにジュリエッタ母様もレイラねぇも、それにロロイ姉ちゃんも居るらしいから問題ないよきっと」
「あと、ゾーイも頑張ってくれるだろうしね」
ミーの言葉に付け足したクーはニヤニヤしながらガルルートを覗き込んだ。
「わ、私は別にグレー様に頼まれたので、お受けしただけで、ゾーイ殿が好きとかではないですよ」
オレンジ色の顔を真っ赤にそめるガルルート。
「「がるるんきゃわいぃぃ」」
照れるガルルートを、左右からの抱きつき攻撃により、完全に抑え込んだ双子姫。
「ちょ、姫様達。皆が見てます」
「大丈夫大丈夫」
「そそ、問題ない。って言うか誰も見てない」
この光景は何時もの事のようで、ガルルート率いる第五師団の面々は、横目で覗いてはほほえましく笑い、てきぱきと自分達の出発の準備をしていた。
「こんなかわいいがるるんのためにも、ゾーイには無事帰ってもらわないとね」
「そうだね。それにゾーイが無事なら兄様も無事だろうからね。いいことづくめだといいね」
未だ抱きつきながらガルルートを離さない双子姫。正直彼女達だって不安じゃない訳ではない。しかし、いつも明るい彼女達だからこそ、こんな時に不安がっていてはいけない気がしていた。
「お二人とも、不安な時は不安がっていいんですよ」
二人の頭をなでながらガルルートは、自分よりも十以上年下の主達を慰めた。
「がるるんだって遠征行っちゃうんでしょ?戦いに行くのって不安じゃないの?」
「不安はありますよ。怖い時だってあります。でも私達騎士団は戦い、守るためにいるのです。入隊した時からそれは変わらぬ我々の使命ですから。それを成し遂げるためにはヤセ我慢しないといけないんですよ」
「ヤセ我慢がきかないときは?」
「そんな時は寝ますね」
「「寝るのかい!」」
「寝て起きれば、朝はスッキリします。それでもダメなら好きな物をお腹いっぱい食べてまた寝ますね」
「がるるんそれって太りそう……」
「だね、私達にはまねできないかも……」
「ははは、まぁ姫様達は自分流のなにかを探してみてください。私は必ず帰ってきますから、帰ってきたら自分流の不安の乗り切り方、教えてくださいね」
「うん、考えておくから、がるるんも無事に帰ってきてね」
「もちろんですよ」
にっこりとほほ笑むガルルート。双子の頭をなでながら、午前の暖かな日差しが彼女の夕日の肌を照らし、美しく輝いていた。
今回も読んでいただきありがとうございます!
なんだか中々砦に行ってくれません……
たぶん次回も……
さて次回の「はちぷり」は!
砦へ向かう真一郎たちに何かが起こる!
次回もよろしくお願いします!




