14話 『ミツクニ君の王都散策 完』
どーもです!
今回は結構長いですのでよろしくお願いします!
王都の東通りの一本奥の道。そこから更に奥(王都の外壁の方)へ進むと、そこは住宅街になっている、それぞれ区画ごとに○横丁や○丁目など様々な名前がつけられている。
ちなみ西側の方が富裕層が多く、貴族の王都での住まいや、大商人などの邸宅はほとんどが西側に集中している。
そんな東側のとある横丁、レンガや木造の家々が乱立する中に、飲み食い所「犬まんま」という店がある。母娘二人で営み、周囲の住民のいこいの場としても人気のその店には、開店以来初めて王族が立ち寄っていた。
「いやーこの煮物美味しいなぁ」
満足顔で肉の煮物を頬張る隠れ王族のミツクニ君。
「本当に美味しいですね!」
隣には、そう言いながら肉を頬張る三毛猫ケットシーのケラ。これでも王国の貿易関係の重役だ。
「はっはっは!そうだろ!ここの肉煮はうめーよな!」
上機嫌で昼間っから酒をあおるサクラの顔は、名前の通りほんのりサクラ色になってきていた。
「お二人共、本当に気持ちよく食べてくださるわ、私も作ったかいがあったわ」
ニコニコと二人を見るのは、この店の女将でポップの母であるリップさん。
ウエーブがかかったショートヘアーでほっぺたのソバカスがチャーミングだ。とても一児の母に見えない若々しさは彼女が獣人だからだろう。
「お二人共、それにサクラちゃんも、今回はポップを助けて下さってありがとうございました」
娘を助けてくれた人たちへ深々と頭を下げるリップさん。
「ミツクニ兄ちゃんケラ姉ちゃんもありがと」
満面の笑みのポップだった。
「そんな気にしないで下さい。俺たちも最後はサクラさんに助けられたし。今回の功労賞はサクラさんですよ」
「まぁ、ヤクザもんの娘として堅気に手ぇ出すような同業者はほっとけないだけさ」
気恥ずかしそうに頭をかきながらサクラが言った。ミツクニ君はその言葉の中の、あまり日常では使わない単語が気になってしまったらしい。
「え?サクラさんの家ってヤクザなの?」
「あぁ、さっき言わなかったか?『白虎会』の会長の娘だって」
「そーいえば言ってた気が、でもその名前だけじゃ分からないって」
「白虎会は王都の東を裏で仕切ってるんだ。自分で言うのもなんだけど、でかい組さ、今までは特に問題もなくやってきたんだけどね、極龍会が出来てから街で会うたんびあんな感じさ、まぁ大概あいつらが悪いからアタイらは懲らしめてるだけだけどね」
「へー、極龍会ってさっきの黒サイのとこ?
「そうだよ、あいつはルチアーノって言って、あっちの組長の弟さ、図体ばっかでかくて頭はからっぽのバカなやつさ」
心底嫌そうに語るサクラ。
「極龍会って昔からあんななの?」
「いや、極龍会が出来たのはつい最近さ。あいつら元々街のチンピラ集団だったんだけどね、いつの間にかアホみたいに金を出してくれるパトロンがついたらしく、急成長してきたのさ。それまでアタイ達が仕切っていた娼館や賭博場なんかからのみかじめ料を、あいつらがくすねる様になってね、最初はうちの親父も『新しい奴が出るのは張り合いができていい』なんて言ってたんだがね、だんだんと奴らの行動もエスカエートしてきてな、最近じゃ地上げ屋みたいな真似まで始めたのさ」
最初はささいな喧嘩や、縄張り争いに無理やり介入してきた極龍会だったが、このところこの横丁一帯を買い占め、何かを計画しているらしい。
「お客さんから聞いた話だと、なんでも賭博場とか飲み屋とか娼館があつまった歓楽街を造る計画があるそうよ。貴族様も出資してかなり大きな計画らしいわ」
さすがの客商売だけあってリップさんの方が情報をつかんでるらしい。
「けっ。おおかたそこのみかじめ料を独り占めする代わりに、地上げに協力でもしてんだろうね。まったく!気にくわないね!」
怒りをあらわにしながら酒を飲み、スルメみたいのをぎちぎち噛み千切るサクラさん。
「サクラちゃん女の子がお行儀悪いわよ」
「けっ。アタイにはお行儀なんて言葉は似あわないって。そんなもんより喧嘩でもしてた方がよっぽど楽しいや」
サクラは正直、喧嘩で負けたことがない。自分の父以外限定のその無敗記録はすでに二百戦以上だそうだ。
「サクラちゃんも女の子なんだし、あんまり喧嘩ばっかってのもどうかと思うわよね」
いたずらっぽく笑い、ミツクニに「そう思わない?」と問いかけるリップさん。
「リップさんの言う通りかな。サクラさん綺麗なんだから、普通にしてれば彼氏くらいすぐできるんじゃない?」
「んなっ!!!」
思いもよらぬミツクニの発言のせいで顔を真っ赤にするサクラだった。
「ふふふ、サクラちゃんこれは脈ありよ。それに会長さんも言ってたわよ、サクラちゃんが結婚して跡取り産んでくれないと、白虎会の跡目がいないって」
「親父めぇ、そんな事言ってたのか……」
父親に対しての恨みをぶつぶつと言いながらも、ちらちらとミツクニが気になるサクラ。正直男に綺麗だなんて言われたのは初めてだった(ミツクニは見た目は良いんだ。それにそこそこ度胸もありそうだだし。アリっちゃありなのかな……)
「ん?どしたの?」
サクラの視線に気付いたミツクニが不思議そうに見つめてきたので急いで視線をそらして「いや、なんでもねぇよ」などとつぶやいた。
「ふふふ、なんだかいい雰囲気じゃないの。ミツクニさんもサクラちゃんの事どお?気に入った?」
「ちょ!リップ姉さん!そ、そんな事聞かなくていいって!」
慌てるサクラ相手にミツクニより先に口を開いたのは、なんだか真っ赤になったケラだった。
「ちょいちょいちょーい。さっきから聞いてれば、好きかっへいっへますがね。こちらにおわすお方をどなたかご存なのれふか!?」
べろんべろんのケラ。
「こちらにおわすお方は、何を隠ほう!しん…」
「わーちょー!ケ、ケラどうしたのかな?って!酒くさっ!ケラお酒飲んだの?」
「お酒なんへのんへまへんよ!この美味しいジューフをのんだはけへすよ~」
「三毛猫ちゃん、それ思いっきり酒だよ」
呆れるサクラ。ケラの手元にはさっきまでサクラが飲んでいたのと同じ酒が置いてあった
「大体でふね!ミフクニはんは、他にもそれはそれはたくはんのお方から思われているのれすよ!」
「あらあら、ミツクニさんモテモテだったのね」
楽しそうなリップにミツクニは「そんな事ないですよあははは」と笑いながらケラの暴走を止めるので精一杯だった。
「んもう!はなしてくらはいよ~。レイラ様やクー様ミー様を始め、他のごひまいだってみんな貴方をひたっているのれすよ!」
姉妹&義母達の過剰で過保護な態度は何となくわかっていたので、彼女達の感情はそういった恋愛感情ではないと思っているミツクニは、ケラの発言を思いっきり聞き流していたが、目ざといリップさんにはその名前のラインナップが気になったらしい。
「ケラちゃんが今言ってたのってレイラ姫様と双子姫様?それにほかのご姉妹ってまさか王族の姫様方の事かしら?」
「へ?ま、まさか~王族の姫様達とただの商人の息子なんて、なんの接点もないですよ~あははは」
正直もう別にばれてもいいんだろうが、ばれた瞬間、みんなの態度が変わりそうで嫌だったミツクニは嘘をつきとおす事にしていた。
「なーんか怪しいね、ミツクニ、アンタなんか隠してないかい?大体、日本から来たんなら姫様達に一回くらい謁見しただろう?」
なかなか目ざといサクラさん、目をギラギラとさせミツクニを覗き込んできた。
「い、いやぁ~全然隠してなんてないですよ~。姫様達にも一度しかお会いした事ないしねぇ~あははは」
あからさまに怪しいミツクニの泳ぎまくる目をのぞきこんでいたサクラだったが、突然の来客でその追求は終わりをむかえた。店の扉を大きな音を立てて開けたのは先ほどサクラと一緒にいた手下の若者だった。
「はぁはぁ、あ、姉御!大変です!」
息も絶え絶えにサクラに訴えかける手下君。その形相からただ事では無い事だけは伝わってきた。
「どーしたサブ?何かあったのか?」
「家事です!い、家が突然燃えだしたんです!」
「な!なんだと!家ってうちの家か!」
「はい!親父さんはなんとか助けだしやしたが、火の勢いが強すぎて全然消せないんでさぁ!」
「なんてこった!わかったすぐに行くよ!」
そう言って席を立ちあがり、すごい勢いで走っていくサクラ。その後ろを当たり前のように走って追いかけるミツクニ君だった。
店から5分もかからない所にあったサクラ達白虎会の家は、古めかしい日本家屋だった。しかし、すでにその跡形もなく、見るからに立派だったであろう門も今にも焼き崩れそうだった。
「こりゃひどい……」
すさまじい勢いで燃え続ける家。不思議なのはその周囲の建物に一切火が飛んで無い事だ。
「親父!大丈夫だったか!」
サクラは燃え盛る家の前で呆然と立ち尽くす群衆の中に自分の父の姿を見つけ、安心したように駆け寄って行った。
「おぉサクラか、なんとか皆無事じゃ。しかし、ご先祖様が守ってきた家も組の看板もみんな燃えちまった……」
「そんなもんまた作ればいいだろう!でもどうして火なんて?誰か火の始末し忘れたのか?」
「それがの、よう分からんのじゃ。気づいたら庭が燃えとって、それからどんどん家のあっちこっちから火が上がってな。ワシはなんとかみんなに助けてもらったが、この腰だ、一人の時だったらダメじゃったろうな」
ちなみにサクラの父は数日前にぎっくり腰になり療養中だった。
「火の気がない所から出火。明らかに放火だね、しかもたぶん魔法で」
サクラの影から現れた見知らぬ青年にサクラ父の顔がゆがんだ。
「サクラ誰だこいつ?」
「あ、親父、こいつはミツクニって言ってな、日本からの留学生だそうだ。ミツクニ、こっちがアタイの親父でトラジロウってんだ」
「どうもミツクニです」
そう短く自己紹介した青年は、周囲の野次馬達に水を持って来てくださいだの、火を消すのを手伝ってくださいだのと叫んでいた。
「おいサクラ、あのボンどこで拾った?」
「ん?ポップがルチアーノに絡まれてるのを助けてくれたのさ。なんだ親父、そんなに気になるか?」
「いや、いいんだ。それよりあのボンを手伝ってやれ、よそモンにばっか働かせるのは白虎会として見過ごせん」
「わかってるって」
そう言ってサクラはミツクニの元へかけていき、二人で消火活動の陣頭指揮を取り始めた。
(あのボンの魔力の色、ありゃたしか闘技場で見た殿下の魔力だ。変装してるらしいから正体をバラしたくねぇのか?まぁ今のとこはほっといてやるか)
真一郎の独特な魔力の色は、魔力を視れる者ならばすぐに気付く特徴だ。本人は気にしてないらしいが、実は王都の街中でも何人かにはすでに気付かれてたりするのだ。
「ミツクニさぁぁぁぁぁぁぁん!」
白虎会邸を野次馬と消火し始めた矢先、犬まんまにおいてきたケラが血相かえて走ってきた。
「ケラ、もうお酒大丈夫なの?」
「え?あ、はい。って!そんな事より大変です!犬まんまが火事です!いきなり火が上がってすごい勢いで燃えてるんです!」
「なんだって!!サクラさん!」
「ああ聞こえたよ!お前等ここは任せたよ!」
そう言ってその場を立ち去るサクラとミツクニとケラ。残されたトラジロウは何かを考えていた。
「何かおかしいな。おいサブ!」
「へい!何ですか親父」
「お前ちっと詰所へ行って騎士団呼んで来い、不審火が連続してるってな。それとジルドの坊ちゃんにも連絡とってもらえ、あいつなら役に立つはずだからな」
「へい!」
そう言って走りさるサブ君。
「おい野郎ども!さっさとここの火消して犬まんまの火も消しに行くぞ!」
「「「「わかりやした!」」」」
ガタイのいい、いかつい集団が一斉に了解の意を叫び、次々におけの水をぶちまけていった。
「リップさん!ポップ!」
犬まんまの前に到着したミツクニ達は、店の前でたたずむ犬耳親子に駆け寄った。
「あ!ミツクニさん、それにサクラちゃんも」
「リップ姉さん何があったんだ!?」
到着するなり状況説明を求めるサクラ。彼女の前では慣れ親しんだ店ボウボウと音を立てて燃えていた。
「それが分からないの、二人が出てってからすぐに、いきなりお店の壁が燃えだして、あっと言う間に店中火の海になって……」
「サクラさんの家と一緒だね」
神妙な顔のミツクニ。状況は明らかに同一犯の放火だと語っていた。
「とにかく火を消そう、誰か水の魔法とか使えないの?」
「こんな横丁に魔法使えるやつなんているかよ!それより詰所に連絡して騎士団を呼ぼう!あいつらなら魔法使えるしな」
サクラの提案で周囲にいた野次馬の何人かが詰所へと駆けて行った。
「とにかく俺たちも出来る限りの事はしよう!」
そう言って近くの井戸から水をくみ上げると、野次馬も巻き込んでみんなで水をかけ始めた。しかし、事態はこれだけでは終わらなかった。
「おーい大変だ!あっちでも火事だぞ!」
必死に犬まんまの消火活動をしている所へ駆けてきた男が、大声で周囲の異変を知らせた。「こっちからもだ!」反対側から走ってきた男も、自分の家の隣が燃えていると叫んでいた。
気が付けば横丁のあっちこっちの家から火が上がっており、横丁全体が火の海になるのに時間はかからなそうだった。
「まずいぞこれ、なんなんだ一体、集団放火?でも誰が何のために……」
ここまで派手な事をするにはそれなりの理由があるはずだ。そう考えたミツクニは隣でうなるサクラの一言で最悪の想像が当たってしまった気がした。
「まさか、極龍会の奴ら……」
「サクラさん、極龍会ってここまでするの?」
「あいつらバカだが、ここまでやる度胸は無いはずだ。ただ、あいつらのパトロンからお目付け役に来てる気味悪い男がいるんだが、あいつは相当危険らしい。もしあいつの入れ知恵で極龍会がやったなら……」
「何が起きてるか分からないけど、とにかく今は出来る限り火を押さえよう」
そう言って水の入ったバケツを運ぼうとしたミツクニは、地面の小石に躓きせいだいにこけた。
「うわぁ!」
思いっきり転び、バケツの水を頭からかぶってしまった。
「何やってんだい!大丈夫かい?って!アンタその髪!」
見ればミツクニの髪は先ほどまでの輝く金髪ではなく、ところどころが黒くなっており、金髪の部分も随分とくすんできていた。
「え?あぁ水で染料とれちゃったか。そんな事より火を!」
さっきまで必死に隠そうとしていたはずなのに、全然お構いなしの様子で、ミツクニは消火活動に参加しに行こうとした。が、いきなり目の前に現れた人物によりその進路を遮られてしまった。
「ごきげんよう、真一郎殿下」
ミツクニの前に現れたのは、黒いコートを羽織り、顔に包帯をぐるぐる巻きにした男だった。
「貴方は?それに俺は真一郎殿下なんかじゃありませんよ?」
あからさまに怪しい包帯男。まったく表情は見えないが、たぶん笑っているのだろう。
「クックック、まさかそんな変装で本当に騙されるとでも?殿下、貴方の独特な魔力の色は一度視れば忘れませんよ。そんな色したヒトなんて他に居ませんからねぇ」
(まずい、思いっきり正体ばれてるじゃん……)
真一郎は焦った。正直魔力の色の事までは考えてなったのだから。
「ちょいとアンタ!アンタ確か極龍会のお目付け役だろ!この火事騒ぎアンタの仕業かい!」
「これはこれは、白虎会のお嬢さん。そうですよ、この火事は私の仕業です」
何か問題でも?みたいな感じで当たり前のように答える包帯男。
「な!そうもあっさり白状するとわね!こんな事してどうなるか分かってるのかい!」
「まぁ、たぶん死刑とかですかね。捕まればの話ですけどね」
彼の余裕は自分が捕まる事などあり得ないと語っていた。
「なぁ、もしかしてアンタここの土地を手に入れるために火事を?」
真一郎は自分の予想が外れていてほしい一心で包帯男に問いかけた。
「ん~半分は正解ですね。火事になって家がなくなれば住む場所がない。そこへ我々が金を出し、他で家を探すようにさせれば、この土地は我々が好き勝手させてもらう算段です」
「てめぇ!」
今にも殴りかかりそうなサクラを押さえ、真一郎は質問を続けた。
「半分か、じゃあ残りの半分の動機は?」
「そんな事聞かなくてもお分かりでは?真一郎殿下、貴方を手に入れるためですよ」
「やっぱりか……」
(この火事の原因は半分は俺にあるのか、俺がお忍びでなんか来たからここの人達は!)
「おい、さっきから真一郎殿下って、ミツクニ、アンタまさか?」
「ゴメン、サクラさん。俺は本当はミツクニなんて名前じゃなくて、真一郎って言うんだ。おれがここに来たせいでこんな火事になったんだ……」
「アンタが誰だろうと関係ない、でもな、この火事がアンタのせいじゃ無いくらい誰だって分かるだろ!どう考えたって悪いのはあの包帯男だろ!」
弱気の真一郎へ一括し、包帯男を睨みつけるサクラ。
「やれやれ面倒ですね。悪いですが、お嬢さんには少し眠っておいてもらいますかね」
そう言ってパチンと指をならした包帯男。すると突然サクラの周囲にシャボン玉が現れた。
「こりゃスリープ魔法!くそぉ、み、ミツクニ逃げろぉ……」
そう言ってその場に倒れこむサクラ。
「サクラさん!」
「大丈夫、眠っているだけですよ。さて殿下、私と来てくださいますか?」
「嫌だと言ったら?」
「その場合、少々荒っぽい事をせねばなりませんね」
(こいつ絶対俺のアンチマジックは知ってる筈だ。魔法で眠らせないなら気絶でもさせる気かな?まずいなぁ逃げるに逃げられないし、でもこいつについて行けば黒幕に会えるかもしれないかな?)
「お考えはまとまりましたか?」
「一つ聞きたい」
「はい」
「俺がついてったら火を消してくれるか?」
「あぁ、なんとお優しい殿下でしょう!しかし残念ながら、それとこれとは別問題なので、私にはどうする事もできませんね」
芝居がかったポーズで真一郎へお辞儀しながら「さ、お手を」などといって真一郎の手を取ろうとしていた。
「だったら断る!こんな状況ほっていけないよ」
「仕方ありませんね」
そう言った包帯男は瞬時に真一郎の視界から消えた。
「なっ!」
気付いた時にはすでに目の前にいた包帯男。
「殿下、魔法だけが相手を眠らせる方法とは限りませんよ」
そう言って湿った布を真一郎の口元へと押し当てた。
「んぐ!んん!んんんん!」
「はいはい、お静かに。さ、ゆっくりお休みなさい」
包帯男に口を押えられた真一郎は、間もなく反応がなくなり静かな寝息を立てていた。
「ふぅ。しかし、ここまで主人が危険にさらされても姿を見せませんか。まぁ、いいでしょう、ここでやるよりはいい場所へ案内しますかね」
包帯男はその場にきっといるはずであろう男の視線を感じながら、野次馬の群れへと消えて行った。
「…クラさん!」
意識が朦朧とする中自分を呼ぶ声で目が覚めたサクラ。
「サクラさん!大丈夫ですか!何があったんですか!?」
目の前には三毛猫ケットシーがい居た。
「三毛猫ちゃん。は!ミツクニは!!」
ガバっと起き上がって周囲を確認したが自分の探す人物の姿はなかった。
「サクラさん!ミツクニさんがどうかされたんですか!?」
「極龍会のお目付け役にさらわれた……アタイが獣化でもなんでもして守っていれば……」
「そんな!あぁ!真一郎様にもしもの事があったら私わ!!」
その場で右往左往するケラ。
「やっぱり、本当に真一郎殿下だったのかい」
「え、あっ!そ、そのぉ」
「いいよ、別に怒っちゃいないって。それより今はあいつの足取りを」
そうは言ってもこの混乱の中探すのはかなり大変そうだった。
「ワン!」
いつのまにかサクラとケラの足元に来ていた子犬が吠えた。
「お前、ポップか?」
「ワン!!」
茶色の柴犬の様な子犬が元気よく返事をしていた。
「なんで獣化なんて?」
不思議そうなケラだったが、サクラはどうやらポップの意図に気付いたらしい。
「そうか!お前ミツクニのにおいを追えるのか!」
「ワン!!」
「本当!ポップちゃん!」
「ワンワン!」
「よし!行こう!すぐに追いかけるんだ!」
「ワン!」
気合の入った一声を上げてすぐに地面のにおいをかぎ始めるポップ。
(真一郎様!今行きますからね!)自分の危険なんて考えず真一郎の事だけを考えていたケラ。隣のサクラも同じ気持ちのようで、二人でポップの後に続いた。
ポップの嗅覚のお陰で、真一郎の足取りは思ったよりも早くつかめた。今、サクラとケラとポップは横丁の裏手にある倉庫街の中の一角におり、中の倉庫の様子をうかがっていた。
「なんとか見つけられたけど、どうします?」
ひそひそ声のケラ。あの包帯男の戦闘能力は分からないが、あの火事を自分魔法を使っておこしたのならば、相当な実力者だって事は分かっていた。
「アタイが獣化で突っ込む。三毛猫ちゃんとポップは騎士団にここの場所を」
「でも、サクラさん貴方だけを危険な目には」
「アタイなら大丈夫さ。それより、三毛猫ちゃんなら騎士団に顔が効くんじゃないのかい?思いっきり大勢来るように言ってきておくれよ」
騎士団に見知らぬ者がかけこんでも信じてもらえるか分からない。だったら真一郎と行動を共にしていたケラが知らせに行くのが一番確実な方法だった。
「分かりました。すぐに知らせてきますから、くれぐれも無茶はしないでくださいね!ポップちゃんも危ないから私と一緒に行こう!」
そう言ってポップを連れて走り去るケラ。
「さーて、いっちょやりますかね!」
おそらくこれまでの喧嘩の中でも一番のモノになると、サクラは気合を入れなおした。
「殿下、お目覚め下さい」
そう言いながらぺちぺちと頬をたたかれ、真一郎の意識は覚醒しだした。
「ん……ここは?俺は確か……」
「お目覚めですか?ここはまぁどこだっていいでしょう。今あなたは私につかまっているんですよ」
捕まってると言われる割には縛られている訳でもなく、ただ床に寝ころばせられていただけだった。
「ここでアンタの主人と会うのかな?」
「ええ、その予定でしたが、少々変更がございましてね。到着が遅れていますので今しばらくお待ちを」
そう言って包帯男は暖かな湯気のあがるカップを差し出してきた。
「ただの紅茶ですよ」
今さっき薬で眠らされたばっかで、普通は警戒するが、真一郎は迷う事なく紅茶を口にした。
「うん、おいしい」
「それはよかった。さて殿下、どうやら私の主人が来るまでの間のヒマつぶしが到着したようですよ」
そう言って入り口を見た包帯男、それにつられて真一郎も入り口を見たが、そこにはその場に似つかわしくない獣がいた。
「あれって、虎?」
そこに居たのは怒りをあらわにして牙をむき唸る大きめの虎だった。
「がるるるるるる」
「あれは白虎会のお嬢さんですね。獣化して単騎で突入とは、なかなか胆が据わってらっしゃる」
「あれがサクラさんの獣化した姿……」
美しい金色に近い黄色の体色に黒い模様がとても栄えていた。
「殿下、獣化した獣人は基本的に本能のまま戦います。貴方に死なれると困るので、勝手に動かないでくださいね」
そう言って包帯男は虎へと向かっていった。
睨み合う包帯男と虎。最初に動いたのは虎の方だった。その場で跳躍し、倉庫の壁を蹴ってさらに跳躍、そのままのスピードで包帯男に襲いかかった。
「まぁ、所詮獣ですね」
思い切り噛みついてきた虎の牙を左腕をわざと前へ出し受けた包帯男。彼の左うでに噛みついた虎はその腕を食いちぎろうとしたが、まったく歯がたたなかった。
「私の体は少し特殊でね。その程度の牙では傷一つつきませんよ。さて次は私の番ですね」
そう言って自分の目の前の虎の脇腹に強烈な拳をめり込ませた包帯男。虎はその衝撃で倉庫の壁に激突し沈黙した。
「ふぅ。やはりこの程度ですか。持って生まれたちからを鍛える事もせず、ただの喧嘩に使った結果でしょうね」
虎へむかって軽蔑の眼差しを向けた包帯男は真一郎の元へと戻ってきた。
「サクラさん!」
「大丈夫、死んじゃいないでしょう。獣人は体力だけはありますからね」
「お前!」
殴りかかろうとする真一郎を止めたのは、沈黙したはずの虎の咆哮だった。
「グワァァァァァオオオオオ!!」
「おや、まだやりますか。いいでしょう」
楽しげに虎の元へ一瞬で移動していった包帯男。未だふらつく虎はその姿を捉えきれていないようだった。
「まったく、また殴られるために起きるとは、ご苦労な事ですね」
虎の前に現れた包帯男は、虎の頭の毛皮を片手でつかむと、もう一方の手で思いっきりその顔面を殴った。
「ほらほら、どうしましたか!」
最初の一撃で、また意識が飛んだであろう無抵抗な虎の顔面をなぐり続ける包帯男。
「やめろ!!!!!」
「おや、殿下はお優しいですね。こんな獣にもご慈悲を?」
心底楽しそうに殴り続ける包帯男
「お前の目的は俺だろう!お前の好きなように誰にでも会ってやる!それ以上サクラさんを痛めつけるな!」
先ほどの薬のせいか、まだ若干足元がおぼつかない真一郎は必死に叫んだ。
「クックック。殿下がそこまでおっしゃるのなら」
そう言って真一郎の方へ虎を投げた包帯男。そのまま真一郎の後ろの壁にぶつかった虎に、おぼつかない足取りで、なんとかたどり着いた真一郎。
「サクラさん!大丈夫!?」
「ん、ん……」
かすかに反応した虎は徐々にその体躯を縮めていき、サクラの姿に戻って行った。
「こんなにボロボロにされて……」
サクラに戻っても、なお体はボロボロだった。獣化が解け、全裸になってしまったサクラに自分の上着をかけ横たえた真一郎はまっすぐに包帯男を睨みつけた。
「俺はあんたを許さない!」
「クックック許してもらえなくて結構ですよ。どうせもうすぐお別れですからね。貴方を主に渡したら、私は私のために動けますしね」
「アンタの目的はなんだ?本当に主とやらに俺を渡す事だけなのか?」
自分を渡すだけならわざわざ起こす必要なんて無かったはずだ。眠ったまま渡せばいいのだから。自分を起こしたのには何か理由があるはずだった。
「クックック。殿下は賢いですね。そうですね、そろそろ頃合いですし、お教えしましょう。私が本当に用があるのは、貴方の執事殿なんですよ」
包帯男の言葉に困惑した真一郎だったが、これだけは分かった(ダメだ、どんな用だろうと、こいつをヴィラントに会せたらダメだ!)
「さぁ!出てきなさいヴィラント!貴方のご主人様のピンチですよ!」
「ダメだ!ヴィラント!居るなら出て来るな!」
ヴィラントはどこかから視ているのかもしれない、しかし、ここまで沈黙を守った彼が、今出てきては包帯男の思うつぼだ。
「殿下、少々黙ってくれませんかね!」
拳をにぎり、真一郎の顔面を殴ろうとした包帯男、真一郎へ拳があたる直前に、彼に猛烈な火球が被弾した。
「ぐっ!」
瞬間的に攻撃を察知した包帯男は、両手を体の前に掲げ火球を受け止めた。
「ふぅ、いきなり攻撃とは穏やかじゃありませんね」
火球をもろに腕で受けたのに、何食わぬかおで物陰に語りかける包帯男。
「これ以上真一郎様に危害を加えるようなら、次は消し炭にしますよ」
物陰から現れたのはイケメンメガネ執事。その周囲にはすでに、火球がいくつか浮遊しており、次の攻撃の準備が整っていることを物語っていた。
「ヴィラント!ダメだよでてきちゃ!あいつの狙い君だって!」
「真一郎様、申し訳ありませんでした。本当ならもっと早くお助けするべきなのですが、奴と奴の雇い主の正体を突き止めてからと思いまして。しかし、あちらのお嬢さんの怪我といい、これ以上は真一郎様に危険が及ぶと判断させて頂きました。ここからは私にお任せを」
いつもの様に綺麗にお辞儀をするヴィラント。今日ほど頼もしく思えた日は無いかもしれない。
「ふっふっふ。もうよろしいかな?そろそろ始めさせて頂きますよ」
王国最強クラスのヴィラントを前に、いまだ余裕を見せる包帯男だった。
「いつでもどうぞ」
そう言うと、ヴィラントの周りの火球が猛烈な勢いで彼の周りを回り始めた。
「真一郎様は下がっててください、すぐに終わりますので」
「うん、分かった」
その場から少し後ずさり、様子をうかがう真一郎。
「ヴィラント!どれほど貴方に会えるのを楽しみにしていたか!」
そう叫びながら勢いよくヴィラントに突撃してくる包帯男。
「チッ!」
その速さに一瞬反応が遅れたヴィラントは、すぐに自分の周囲の火球を包帯男へと放った。包帯男は火球が向かって来ることなどおかまいなしに、何か呪文をブツブツと唱えながらそのまま直進してきた。
「こんなもの!」
ヴィラントの火球が包帯男を捉えようとした時、包帯男の周囲に、突如現れた黄色く輝く玉から発せられた雷により、火球は跡形もなく消え去ってしまった。
「なかなか!」
自分の攻撃が無効化されたのを確認するとヴィラントも包帯男へ向かって突撃していった。二人はぶつかりあう直前でお互いの手をがっしりと掴み合った。
「どこの何方かは存じませんんが、中々の腕前。どうです?そのご主人とやらを裏切って王国側につきませんか?」
どこか楽しげに、ヴィラントは恐ろしい提案をしていた。
「ふっ。王国の管理下に置かれるのは、もう十分なんですよ!」
掴み合った手に力を入れるが、ヴィラントも負けておらず両者一歩もゆずらない形となっていた。
「元国民ですか?ならばなおさら!」
ヴィラントが力を強め包帯男を押し返し始めた。
「くっ、やはりヒトとしては貴方の方が上ですか、ではこんなのはどうですかね!」
そう言い放った包帯男の腰のあたりから何かが飛び出し、ヴィラントの両脇腹へと刺さった。
「ぐっ!こ、これは……」
よく見ればそれはまるで虫の足の様だった。外骨格が黒光りしており、節の関節があるその足がヴィラントの両脇腹につき刺さっていたのだ。
「ヴィラント!!」
「来てはなりません!!」
訳が分からない事態に陥り、ヴィラントの元へ行こうとした真一郎をヴィラント本人が止めた。
「クックック。いい気味ですよヴィラント、いえ、兄上……」
「なっ、まさか、お前……」
真一郎は困惑していた(今あの包帯男ヴィラントを兄上って……)
「殿下、貴方にもまだ自己紹介をしていませんでしたね。私の名は実験体[I‐37]今はイミナスと名乗っております」
その実験体と言う言葉で、ヴィラントの過去に何かしら関係ある者だとは分かったが、一体彼の目的はんなのだろう。
「ちなみに、こちらにいるヴィラントさんの本名は実験体[D‐249]私達は腹違いの兄弟なんですよ」
ヴィラントが何かしらの実験によりその力を持った事は知っていたが、その実験とやらの正体までは知らない真一郎。
「あ、あんたがヴィラントの弟だったらなんでこんな事!」
「クックック、私は兄上と違って、自由を楽しんだ訳ではないのですよ。兄上が暴走し、王国の敵となってから、私達は封印され、長い時を眠って過ごしたのです。私は運よく今のご主人様により封印を解かれましたが、私以外の兄弟たちは今頃どうしていることやら……」
王国が行っていた実験は、ドラゴンとヒトの融合だけにはとどまらなかった。
あらゆる種族の優秀な部分だけを移植する実験や、ドラゴンと同じような製法で作られた個体も数多く存在した。その中でイミナスのIシリーズとは、その名の通り、インセクターとヒトとの融合を目標としていた。
インセクターは強固な外骨格を有しており、アンチマジックまではいかないが、各種魔法に強力な耐性を持っている。
ドラゴンよりはヒトに近いため比較的簡単に済んだその融合は、将来の兵隊像を変えたとも言われた。しかし、ヴィラントが敵に寝返った事により、実験体の危険性を感じた王国側は彼らをすぐに封印したのだ。中には胎児のまま封印された個体もいたらしい。
「私はね、兄上が羨ましくてたまらない!自由で、誰からも愛され、日の光の元で生活できる!私は封印を解かれても闇に生きた。もちろんご主人様には感謝してもしきれませんし、今の生活もそこまで苦じゃないですからね、しかし、貴方を見ていると無償に腹が立つんですよ!」
そう言いながらヴィラントに突き刺さった足をぐりぐりと回して痛めつける。
「がっ……はぁはぁ」
「おや兄上、ドラゴンの超回復が間に合ってませんね?あぁ、そうでしたそうでした、言い忘れましたが、私のこの足には毒が仕込まれていたんですよ。普通のヒトなら一滴でも体内に入れば即死ですが、さすが兄上まだ持ちこたえていますか!」
先ほどからヴィラントの顔色がどんどんと悪くなってきている。血も止まらずただ苦しみに顔をゆがめているだけだった。
「ヴィラント!!」
「いけません殿下!私は大丈夫ですから!」
走り出す真一郎にまたもヴィラントが静止の声を発した。
「強がりもほどほどに!ですよ」
イミナスがまたも足に力を入れた時、ヴィラントが何かつぶやき、その口を「カッ!」と大きく開けた。瞬間イミナスの顔面めがけて、ヴィンラントの口の中から火球が飛び出した。
「くっ!」
ヴィラントの口から出た火球を顔面にもろに喰らったイミナスは、顔を押さえながら後ろによろめき、ヴィラントの両脇腹の足も抜けでた。
「がぁぁぁぁ!!顔がぁぁぁぁ!………なんてね」
苦しむそぶりを見せたイミナスだったが、まったく問題無いようにその場に平然と立っていた。
「少し驚いて手を放してしまいましたよ」
そう言いながら焦げた包帯を外して己の顔をあらわにするイミナス。
「どうです殿下?これこそ王国のした忌々しき実験の姿です」
そう言うイミナスの顔は、鼻のあたりから下半分は普通のヒトだ。しかし上半分は正に虫だった。ゴツゴツとしたまるで鎧の様なマスクをしている様にも見えるそれは、目は巨大な複眼で、黒光りする体色を放っていた。
「クックック、この顔だけでも十分に、王国や兄上への恨みを理解していただけるでしょうね。いくら亜人や獣人がいても、こんな顔では表へ出れませんからね」
王国では虫の姿の亜人は一部を除いて闇の軍勢にしかいない。インセクターとひとくくりにまとめられるが、その外見は様々だ。そんな中でも彼の容姿は異質なものなのだろう。
「はぁはぁ、し、真一郎様。サクラさんを起こして、すぐにこの場を逃げてください」
「そんなの出来る訳ないじゃないか!」
脇腹から血を流してもなお、立ち上がり真一郎と、後ろに横たわるサクラを背にして、イミナスの前に立ちふさがるヴィラント。
「クックック、殿下、お気になさらずとも兄上の次は貴方の番です。主人の命令で殺す事はできませんが、ある程度なら遊んであげますのでね」
残忍な笑顔を浮かべ触角がぴこぴことするイミナス。
(こんな時主人公なら、力が覚醒して敵をどーん!とかなんだけどなぁ。ヴィラントもあのままじゃ危ないし、サクラさんだって早く医者に見せないと。ここはやっぱ俺が何とかしなきゃでしょ)
立つのがやっとのヴィラントの肩をささえ、イミナスを睨みつける真一郎。彼の眼に諦めなどこれっぽっちもなかった。
「いい目をしますね殿下。そんなに睨まれたら貴方を殺したくなって仕方ないですよ!」
笑いながら真一郎とヴィラントの前に歩み寄ってきたイミナス。
「し、しんいちろう…さま早く、お、お逃げを……」
「こんな状態のヴィラントほっとけないって!」
「ふんっ。お二人仲良く痛めつけて差し上げますよ!」
そう言って振り下ろした拳を体に受け、真一郎は悶絶した。
「がはっ……いってぇ……」
「そらもう一度!」
「くそぉ……」
さっきよりも強く突き出された拳から、真一郎をかばったヴィラントだったが、そのふらつく足ではイミナスの拳を耐える事が出来ず、真一郎と共に吹き飛ばされた。
「さぁ、これで終わりです」
じわじわと近づくイミナス。真一郎は一心に自分の力へ呼びかけた(頼む!なんでもいいから魔法でろ!)必死に自分の中へ呼びかけたが、それに答える声は全く別の方向から聞こえてきた。
「こぉぉぉぉぉぉのゴミムシがぁぁぁぁぁぁ!」
恐ろしい怒声と共にピンクの何かがイミナスを反対側の壁まで吹っ飛ばした。
「私の殿下には、これ以上指一本も触れさせないわよ!」
拳を突出しビシッと決まった登場の、ピンクのスマイルが似合いそうな服を着た、黒人マッチョなおじさん。ちなみに髪色もピンクの三つ編みだ。
「殿下ぁ、大丈夫だったぁ~?」
「え、えんじぇるちゃん……ナイスタイミング!」
思わずグーとしてしまった。このおっさんこんなにカッコよかったのか!
「ちょーっと待っててね、すーぐあのゴミ虫野郎をけちょんけちょんにしてくるかねぇ」
お決まりのハートウインク投げキッスで戦場へ戻っていくえんじぇるちゃんだった。
「いやはやまったく、邪魔しないで下さいよ」
崩れた壁の下から現れたイミナスは無傷のようだった。
「黙れゴミが!愛に飢えた乙女の、愛するお方を傷つけようとする輩なんぞたたきつぶしてくれるわ!」
そう言うといきなり本気モードで拳を燃やすえんじぇるちゃん。
「おい、ジルド私にもちゃんとそいつを切らせろよ」
イミナスに向かっていこうとしたえんじぇるちゃんを止めたのは、怒りオーラ全開のキキだった。
「キキ姉さん……」
「真一郎、無事でなによりだ。少し待ってろ、あのゴミ虫をたたき切ってくるから」
腰の愛刀に手をかざし怒りオーラをどんどんと刀に注ぎ込む。刀は鞘ごと禍々しく光始めた。
「殿下!ご無事ですか!」
えんじぇるちゃんとキキがイミナスと睨み合っているとライオネルも駆けつけてきた。
「ら、ライオネル。俺は大丈夫、でもヴィラントが……」
真一郎が肩をかすヴィラントはすでに意識が朦朧としていた。
「ヴィラント殿がここまでやられるなんて、急いで王宮に戻りシャールイ様に手当をお願いしましょう」
王宮には国内最高の癒し手である姉のシャールイがいる。
「分かった。あと、そこのサクラさんも俺を庇ってひどい怪我してるんだ、一緒に手当を!」
「承知しました。誰か!あちらのお嬢さんとヴィラント殿を王宮へ!」
ライオネルの号令で外からぞろぞろと兵がタンカをもってやってきた。
「でも、どうやってここが?」
「ケラ殿が知らせに来てくれました。全速力で走ってこられたようで、門番に殿下の事を伝えると倒れてしまったそうですが、シャールイ様が診て下さっているので心配ないと思いますよ」
「そうかケラが知らせてくれたんだ」
その助っ人が王国騎士団の師団長三人ってのもすごい過保護な話だ。
「んーこれは少々分が悪いですね。残念ですが今回はこの辺でおいとましますよ」
えんじぇるちゃんとキキに睨まれたイミナスはすでに腰の足をしまっており、戦闘態勢を解除したようだった。
「ふっ、そう簡単に逃げれると思うなよ。お前は私の家族を傷つけたのだ、万死に値するぞ」
逃がす気なんてまったくないキキだったが
「クックック、姫様、貴方と戦うのも面白そうですが、また別の機会にいたしましょう。私もそれなりに忙しい身でしてね。でわ皆様ごきげんよう」
そう言うとイミナスは足元から自分の影へと溶け込んでいってしまった。
「なっ!まて!」
キキが急いで捕まえようとしたが、イミナスは笑い声を残して影へと完全に消えていってしまった。
「くそぉ!」
「影でのゲート魔法。普通の生き物じゃ体がもたないはずよねぇ。一体何者なのあれ?」
「あいつはイミナス、ヴィラントの腹違いの弟だって」
「真一郎、今なんて言った?」
「あいつがそう言ってた。自分は実験体でヴィラントの腹違いの弟だって。ずっと封印されてたけど、目覚めたって」
イミナスが消えたのでライオネルと共にキキ&えんじぇるの元へ来た真一郎はさっきイミナスから聞いた話を聞かせた。
「実験体か、まさかあんなのが生き残っていたとは」
「キキ様、この事急いでジュリエッタ様達にもご報告せねば、奴の話が本当なら他にも生き残った実験体がいてもおかしくありませんので」
「確かに、よし真一郎、疲れてるとは思うが、すぐに王宮へもどり皆に今の話をもう一度してくれ。ジルド、ここの後始末は任せていいな?」
「いいわよん。殿下、今回の一番乗りは私だった事忘れないでね。だれよりも殿下の役に立つ乙女は私なのよん」
「あはは、ありがとえんじぇるちゃん。じゃあここはまかせたね」
「はーい」
ハートを四方にまきちらかすえんじぇるちゃんを置き去りにして一行は王宮への帰路についた。
まいどご愛読ありがとうございます。
トラジロウとサクラはもちろん有名邦画より。
サイ兄弟はやっぱマフィアって言ったらこの名前かなぁってね。
イミナスの顔ってよく考えて見たらライダーマンだよね。。
さて次回の「はちぷり」は!
戦いで傷ついたヴィラント、彼とイミナスに隠された真実とは!
次回も是非読んでくださいね!




