0話 『プロローグ』
どーもです。この作品は「こんなアニメみたいなぁ」的なノリで執筆を始めました。まだまだ初心者なので至らぬ点ございますが、どうか温かく見守ってください。
大国フォレイティアス王国。八人の姫達が愛されるこの国において四年に一度の祭典である「オマツリ」が行われていた。街は賑わいあちらこちらに「デミセ」と言われる即席の商店が軒を連ねている。そんな街中の賑わいのせいか、普段は厳かな雰囲気に包まるれこの王宮中でも使用人たちが街の賑わいに心を浮かせていた。
「姫様、まもなくグレゴリウス伯がご出立なされるそうです」
心浮かせる使用人達の中でも凛とした雰囲気をただよわせた和服の王宮メイド長、シノ・ヤマシタの声である。
「そうか、もうそんな時間か」
それに答えるのは、燃えるような赤いストレートヘアーを腰まで伸ばし、目鼻立ちのはっきりとした女性だ。髪と同じ燃えるような瞳は見るもののほとんどを虜にするであろう瞳だった。
彼女こそこの国、フォレイティアス王国の現在の最高権力者である国王代理の姫、ジゼルハイン・バルドネア・フォレイティアスその人であった。
ここでこのフォレイティアス王国の現状を教えておこう。
この国には現在国王がいない。4年前に前国王であるグライン・バルドネア・フォレイティアスが病死してからは、彼の八人の娘の中の三女であるジゼルハインが国王代理として国を治めていた。
なぜ三女なのか?その理由としては彼女が一番国政に通じており、前国王の意思を継いでいると言うこともあるが、正直姉妹の中の上の二人が国政に対してまったくと言っていいほど興味が無いということが1番の理由だった。
長女であるシャールイは国の宗教であるレイズ教に身をささげており、現在は大司教の地位についている。ちなみに彼女は妹と違い金髪の緩いウェーブのかかったロングヘアーである。穏やかで常に笑顔をたやさないその人格は人を愛するためにのみ産まれてきたようだ。
どんな人間にも慈愛の精神で接する彼女を天使とたたえる人は少なくはない。彼女の優しさはすばらしいが、時として厳しい判断を余儀なくされる国王にはその優しさが仇となることもあるだろう。
次女であるクレイルは黒髪のウェーブロングヘアー、前髪が目を隠しており表情はあまり読み取れない。魔力や魔道機関に関する研究を行う王立魔術研究所で所長を務める彼女は自分の研究にのみ興味をしめし、一日のほとんどの時間を研究室と書かれた自室に閉じこもっている。
夕食は家族全員でという前国王の言葉があるため夕食にのみ顔を出すため、他の姉妹たちは引きこもりに対して不満は持ってないらしいが、人前に出ることを極度に嫌う性格もあり、国民に顔を出しての挨拶などはほとんど欠席しており、国民でさえ顔を知っている人間の方が少ないと言われるくらいだ。そんな彼女に国を任せようとは誰も思わないはずだ。
そんな二人の姉を持ったばっかりにジゼルハインは幼いころより自分こそが国を背負っていくのだという使命を胸にいだいていた。本来ならば彼女よりも7歳下にできた弟こそが、王位継承権第一位なのだが、彼は現在王国を離れており長らく平民の暮らしをしている。そんな弟に国をいきなり任せられるはずもなく、彼が成人し国王としての器をえるまでの間国王代理としての職務についているのである。
「シノ、叔父上は無事に真一郎を連れて来ることができるであろうか?」
もう12年も会っていない弟の面影を思いジゼルハインはシノに尋ねた。
「問題はないかと。日本側にもすでに打診はすませてありますし、真一郎様の母上である香織様もその為に今まで真一郎様をお育てになってきたのですから。」
あまり笑顔を見せないシノにしては珍しく微笑みかけるように答えた。
「しかしだ、それはあくまで我々の都合であろう?彼がもし拒否などしたら無理に連れ帰る事もできないであろう。正直あちらの世界はこちらとは比べ物にならないほどに暮らしやすいと聞いた。技術的にもだが、戦争なども少なく魔獣などもいないのであろう?そんな世界からわざわざ危険があり暮らしも不便になるこちらに来たいと思うか?」
ジゼルハインの言うことは正しい。
人間だれしも楽をして暮らしたいであろうし、魔獣などという人を脅かす存在が闊歩しているこの世界にわざわざ足を踏み入れたい”日本人”など普通はいないはずだ。
「ほっほっほ。何をおっしゃいますか、現に私は日本からこちらに来ているのですよ?たしかに不便な事もございますが、私はこちらの世界を気に入っていますよ。何たっておとぎ話の中でしか知らない存在をこの目で見ることができたのですから、それだけでも十分楽しめましたわ」
シノはまるで少女のような笑顔をみせていた。
「むぅ。そういうモノなのか?しかし、自分の世界を捨ててこちらに来るのはそれなりの覚悟がいるであろう?」
「私は日本を捨てた事などこれまで一度もございませんよ。ただ、故郷と骨をうめたい場所がちがうだけでございます」
シノは王国に来てからの日々を決して後悔などしていない。むしろ喜びに満ちた日々と感じ自分の骨を埋めるのはこの地だともう何十年も前に決めていた。
「そうか、シノが言うならそうなのであろう。シノのように真一郎もここを気に入ってくれるといいんだがな。」
「ジゼル様、もしかしたら、真一郎様には幼いころに暮らしたこちらの方が故郷と感じられるかも知れませんし、大丈夫ですよ。なんたって日本人は適応能力が高いですから」
胸をはるようにしたシノを見てジゼルハインは弟も彼女のように王国を気に入ってくれることを願った。
王国の宮廷の庭には門があった。
パッと見はトンネルのようにアーチを描いているが、そのアーチは1メートルほどの厚さしかなかった。そのアーチの前にはスーツ姿の男たちが集合している。男たちは総勢30名ほど、衣服こそスーツ姿のサラリーマンのようだが、筋骨隆々な彼らの体躯はスーツに不釣り合いなパツパツ具合を出していた。 男達の中で比較的やせ形の中年の男性こそ前国王グラインの義理の兄であるグレゴリウス・ヲルラドラン伯爵であった。
「皆準備は問題ないか?」
グレゴリウス伯は周りの男達に問いかけた。
「問題ありませんぜグレー様。こちとらさっさと向こうのニホンを見たい連中ばかですから」
男達の中でも特に大柄な髭面の男がグレーに答えった。
「ビンゴ、それに他のモノ達も遊びで行くのではないのだぞ。他のモノもしっかりと気を引き締めて事にあたってくれよ」
グレゴリウスの呼びかけに周りの男達はピシリと背筋を伸ばし敬礼で答えた。
「叔父上、真一郎の事よろしくお願いいたします。」
庭まで出てきてジゼルハインはグレーに話しかけた。
「ん。ジゼルよ私に任せておけ、なーに、勝手知ったる他人の世界だ。あちらには知人も多いし問題ないさ。」
グレーは親指を立ててグーと答えた。
「そうだ、真一郎はたしかグルの肉煮が好物だったはずだ、たんまり用意しておくようにしてくれ」
「はは、叔父上もよくそんな昔の話覚えてますな。了解した調理長には私から伝えておこう。」
グレーに答えるように今度はジゼルハインが親指をたてた。
「では、いってまいります」
グレーのその言葉とともにその場にいたスーツ男達が全員で敬礼をした。
「姫様!いってまいります!」
「ん。皆よろしくたのむぞ!」
一団が門の中へ姿を消していくのを見つめていたジゼルハインに横から声がかかった
「でわ姫様、まだまだ公務が残っておりますのでまいりますよ。」
「シノ、たまには息抜きも必要だろ?ほら街はマツリ中だ、少しくらいいいだろう?」
「いけません、姫様は国あずかる身です。民との触れ合いも大事ですが今は公務の方が先でございます。ささ、まいりますよ」
「えーいシノ!離せぇぇぇぇぇ~」
ジゼルハインはずるずるとシノに引きずられるように王宮に消えていった。