視えない世界
あるひとつの話をしよう。
ちっぽけで非力で、目に視えるものすべてが世界だと信じてやまなかったクソガキの話だ。
そのクソガキが死ぬまで、あと―…。
光学迷彩、という言葉を知っているだろうか。
ステルスと呼ばれるそれは、簡潔に言ってしまえば対象を何らかの形で視えなくする技術のことだ。
レーダーから感知されるのを防いだり、敵、あるいは他人から目視されないように施す技術である。
こう言うとどうも科学臭くなってしまうが、これはれっきとした自然界の産物で、最も有名なのはカメレオンだろう。
自らの体色を変色させて周囲の景色と同化し、敵からの目を逃れる。
こういった生物はイカやタコなど多く存在している。
人間はこの能力に目をつけた。
周囲の景色を撮影し、対象にリアルタイムで投影するという研究が行われていたが、移動すると周囲の景色と投影された景色にズレが生じてしまい、とても実用化できる技術ではなかった。
他にも様々な研究が行われているようだが、完全な光化学迷彩を作り出すことはできなかった。
そう、できなかったのだ。
その時代の技術では。
しかし、現代の科学はそれを可能にしてしまった。