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第三章-討伐任務-

誤字とかあったらごめんなさい



ようやく寮に返されたのはそれから一週間後だった。


なんか今回のことでBクラスに進級らしい。


嬉しいが、複雑である。


「えーっと……今日からお世話になる、クリフォ・ジュロドールです。よろしく。」


ぱちぱちぱちぱち。

目を輝かせているやつも入れば、ゴミを見るような視線を投げかけるやつもいる。



ここはB-1クラス。


噂ではAクラスにもっとも近い連中がここに多くいるらしい。


そして。


「……フィーテリーナ・カーリヴェル。」


俺の隣に立つ幼女が不機嫌そうに言う。

そう。

おおよそ一週間ぐらい前に俺を殺そうとした人物。

Dクラスの俺に負けたので、クラスを落とされたというわけだ。

とはいえ三日間ずっと抱きしめた上、クラスまで一緒。

もうね、やめてほしいね、こういうの。

さっきからずっと殺気が俺の隣から放たれていて一瞬も気を抜けない。肩に乗っている雪火もなんか殺気立っている。

もうやだこの空間。


「よろしくね、クリフォさん、フィーテリーナさん。私はミフォナ・シティルシア。

ミフォナ先生って呼んでね?」


とても大きなおpp……が魅力的なミフォナ先生。クーテシア先生といい勝負の美貌を持ってらっしゃる。


「それじゃ、二人ともあっちの空いた席に座ってね」






「ねぇねぇ、クリフォ君!」


SHRが終わるなり、前の席の人が話しかけてくる。

自己紹介の時にやたら目を輝かせていた人だな。


「……なんだ?」


「私、リリネル・スレリーズ!リリって呼んでくれると嬉しいな!」


「あ、ああ。よろしくリリ。」


「ふふふ、よろしく。それでさ!あの時の決闘の話なんだけど!」


「お、おう。」


「そんなに緊張しなくてもいいよ?

……あの時本当に死んじゃった!と思ったからびっくりしちゃってさ。

どうやって生き残ったの?!」


あの時、というのはきっとスーパーファイアーボール(仮名)の直撃を受けた時のことだろうか。

立ち上がっただけなんだよな。俺。


「あの時は……わからん。死ななかったのが不思議なくらいだ。」


「ふんっ!」


隣でフィーテリーナが不機嫌そうに鼻を鳴らした。

あいつも俺が生き残った理由を知りたいらしい。俺も知りたいわい。


「……うーん。その肩に乗ってる狐ちゃんに秘密があったりして?」


リリが手を伸ばして雪火の頭にちょんと触れる。


「雪火って名前なんだ。別に噛んだりしねーから、撫でてやってくれ。」


「えへへっ。それじゃ遠慮なく!うりゃー!」


嬉しそうにリリが雪火の頭をぐりぐり撫でまわし始める。


「もふもふーもふもふー♪」


気に入ってもらえたようだ。








「はい、じゃあさっそくだけど実習授業です!」


ミフォナ先生教卓の前でが宣言する。


……はい?


「ギルドから君たちに合いそうな仕事を貰ってきましたから!グループはこっちで勝手に決めました!発表しまーす!」


クラス全員が驚く。

まさか予告無しなのか…?


「リリ、実習やるって話聞いてたのか?」


「聞いてないよ!どんなのやるんだろ……」


やっぱり聞いてないらしい。自分勝手な一面も素敵。


「えーっと、クリフォさん、フィーテリーナさん、バルソスさん、イーラムさんはこの仕事です!」


ミフォナ先生の手の中で依頼の内容を記した用紙が紙飛行機となって離陸。大きく円を描き、俺の机に着陸した。

なんで俺の所に……と思いつつ、開いてみる。


「……森の……ゴーレム!?」


隣のフィーテリーナに依頼書を奪われる。

ゴーレム。有名な巨人の一種だ。

環境に合った材質で体を成している。

今回の場合は森のゴーレム。木製である可能性が高いだろう。


「ふんっ!こんなの私一人で十分。」


その右隣に座っていたバルソスに依頼書を投げ渡し、不機嫌そうに顔を机に伏せる。


確かに木製の敵ならフィーテリーナの魔法で焼き尽くせるだろう。

見学だけで終わってしまいそうだ。


「それじゃ、さっそくお仕事に向かってください!あ、着替えとか取ってきた方がいいですよ!」


「そういうことは先に言ってよぉ~……」


前のリリがぼやく。


一度寮に戻って準備するか。





着替えとか食料とかを大き目のバックを詰め込んで、教室に戻った。

3人と合流し、魔法棟の転送室へ。

そこで転送室の前でミフォナ先生が待っていた。


「直接目的地に飛ばされます!……えーっとあなたたちは、"悠遠の森"ですね。

Bクラスの皆さんにはちょっと厳しいかもしれませんが……」


ちらっとフィーテリーナを見る。


「まぁ大丈夫でしょう!頑張ってきてくださいね!」


にっこり笑って転送室のドアを開けてくれる。

ぼんやりと紫色に光る大きな魔法陣が床に描かれており、壁には松明が灯されている。

中々雰囲気が出てるじゃないか。


「準備はいいかしら?」


「はい、万全です」


「オイちょっと待て、なんでいるんだ執事さん」


転送室に入る前は確かに4人だったんだが……


「別にいいだろ、執事の一人や二人。」


「お前、決闘に偶然勝ったからって調子に乗ってんじゃねーぞ!」


なんか男二人が凄んできた。

こいつらの名前なんだっけか……バルサミコスと淫乱だっけか?


「まぁ別にいいけどさ……」


「決まりね。行くわよ!」


フィーテリーナが魔法陣に魔力を流し込み、起動する。

ぼんやりとしか光っていなかった魔法陣が輝きを増し、部屋いっぱいに光が満ちる。


「……♪」


一瞬、フィーテリーナがこっちを見てにやりと笑った。

嫌な予感とともに、視界が真っ白になって――












「ふぅ。ここが"悠遠の森"ね。」


この森には多種多様な魔物が棲むことで有名である。

一般人にでも退治できるような弱い魔物から、一流の魔法使いでも退治が難しい魔物まで生息しており、

魔物が生まれ育つ地"魔界"に繋がっている、という噂もある。

しかしこの森は謎が多く、どこまで広がっているのかは今だにわかっていない。


「迎えは……三日後ね。ま、そんなにかからないでしょうけど」


一度入れば徒歩で帰還は難しい。

故に、この森に入る者はある程度の日数を決めて自動的に帰還できる魔法をかけられる。

今回は目的を達成するか、三日経過すると同時に帰還できる手筈だ。


「あれ、あいつがいませんが……どこに行ったんでしょう?」


「さぁ?この森のどこかにいるんじゃない?」


「お嬢様……まさか?」


「♪」















無数の葉が風でカサカサと音を立てて揺れ、眩しい光が差し込んでくる。

根っこだけで身長を越しているような巨木に囲まれた、少し開けた場所に俺は寝っころがっていた。


「やってくれたなあの幼女……」


起き上がって周りを見てみると、足元に持参した荷物、その上に雪火がいた。それだけだ。後はデカい樹がいっぱい。

ここは無数の魔物が生息している危険な森なのだ。

武器も魔法も無い俺が何時間生き残れるだろうか?


「とにかくここにいても仕方ない、か……あいつらを探さねーと」


荷物を背負い、とりあえず前へ歩き出す。











「いない人間の心配をしても仕方ないわ。執事」


「はい」


「森のゴーレムを見つけなさい」


「了解しました」


白い手袋を外し、執事が日光が当たらない冷たい地面に手を付ける。


大地に魔力を宿らせることで意のままに土で形を形成するというものが一般的な土魔法である。

この執事は大地に魔力を伝導させ、地面に足を付けているものがなんであるかを探る魔法"地覚"というものを使う。

方角、距離、魔力の大きさ、属性、それらを大地を介して知ることができるという、とても便利な魔法だ。

効果範囲は15km。伝導するのは大地限定なので、樹などに乗っていたり、浮いていたりするものは探知できない。


「東に……それらしい魔力を感じます。距離は10㎞といったところでしょうか?」


「10kmね。すぐに見つかってよかったわ」


「お待ちくださいお嬢様。その3kmほど手前にとてつもなく大きい魔力を感じます。回り道した方がいいでしょう」


「回り道?……その魔力の属性は?」


「火、のようです」


「だったら関係ないわ!そいつを蹴散らして進むわよ!」


声を張り上げて言う。

執事も、他の二人も驚いて一歩遠ざかる。


「何?何か文句があるっての?文句があるならかかってきなさいよ!」


少しウェーブがかかった、朱色の美しい髪が一気に炎上する。



「い、いえ!行きましょう!」


「フィーテリーナ様がいてくれるなら大丈夫です!」


二人がそう言う。


「はぁ……わかりました」


納得いかないようだったが、執事も承諾。


「(もう迷ってなんかいられないのよ……)」


「(絶対に……)」















「なぁ、雪火」


「……」


「ここ、どこだろうな」


「……」


「もうすぐ追いつくと思うか?」


「……」


うん、虚しい。


歩き始めてから何時間だろうか。いやまだ分なんだろうか?

時計を持ってきていないのでどのくらい歩いたか全然わからない。

巨大な樹の根と根の間をすり抜けるように歩き、時には登り、飛び下りを繰り返すこと何分?時間?

俺の腹時計によると数時間ぐらいだ。

あまりに暇なので肩に乗っている雪火に話しかけてはいるが、流石に返事もないのではつまらない。


「はぁ……まぁ魔物に遭遇しないだけマシか……」


そういう気配は一切感じない。鳥の囀り一つさえも聞こえない。

聞こえてくるのはたまに吹く風の音。葉擦れの音。自分の足音。


「良く考えたらまだ入学してまだ一カ月も経ってないんだよな……」


二日目で死にかけ、その一週間後に進級って結構すごくないか?

なんか賞状とか貰えないかな。がんばったで賞とか。

そんな他愛もないことを考えていると……


地の底から響いてくるような大きな振動。大きな大きな樹が激しく揺れ、上から無数の木の実や葉が落ちてくる。


「あだだだだだっ!いてぇ!」


また来た。たまらず木の根の隙間に身を隠す。


「なんなんだ一体……」


とても大きなものが衝突したような、そんな音が森を大きく揺らす。


「結構近いな……」


もしかしたらあいつらかもしれない。














「お嬢様!」


「!!」


地面から盛り上がってできた土の壁が、飛んできた巨大な火球を受け止める。


そのまま火球が爆発し、辺りに土の壁の破片が撒き散らされる。


「くっ……」


魔力を練り上げ、火傷でボロボロの手を"それ"に向ける。


業火が一直線に地面を走り、業火が蛇のように動き回り足元からあっという間に"それ"を縛り上げる。


が。


"それ"にまとわりついた業火は、あっという間に消えてしまう。


「あ……あ……」


もはや言葉も出ない。

自分の炎が通じない。

どんな敵も、どんな物も焼き尽くした、炎が。

カーリヴェル家の、伝統が。

誇りが、

強さが、

通じない。


絶望に打ちひしがれ、座り込む。


「っ!!お嬢様?!」


執事が駆け寄ってきた。


「立ってください!さぁ早く!」


なんとか腕を掴んで引き上げる。が、立たない。立とうとしない。


「ああもう!面倒なお嬢様だ!」


"それ"は立つのを待ってはくれない。

思い切り息を吸い込み、先ほどより強烈な業火が二人に向かって吐き出される。

業火はあっという間に二人を包み込む。

目を細め、満足げに吐き出すのをやめようと――


包み込んだはずの炎が逆流してきた。

押し返しているのは、フィーテリーナの炎。


「あたしは……あたしはぁぁぁ!!!」


執事の盾になるように、前に立ち。

押し込む。

自分の炎が最強である。

カーリヴェル家の炎こそ、世界で最も優れた魔法なのだ――


「あああああああああああああ!!!」


朱色の髪が限界を超え、先から燃え尽きていく。


「う……ううう!!!」


すべてを魔力へ変え。

両手に全身全霊の力を込め。

目の前の敵を焼き尽くす、それだけを考える。


立つこともままならない。

地べたに膝をついてなお、魔法を、炎を発し続ける。


「お、お嬢「逃げて!」


「逃げて、逃げて、逃げて!!お願い!お願いだからっ!!」


押し返される。


あたしの。

あたしの炎が。


「うおおおおおおおおおおおお!!!」


認めない。

そんなの絶対に――






















「あっつー……なんだこの熱気」


音がする方に歩いて行けば行くほど、熱気は増してくる。

さっきまで爽やかだった風も、なんだか生ぬるい。

まるで近くで火でも焚いているかのようだ。


「あの幼女、張り切りすぎなんじゃねーの?」


そうぼやくと同時に雪火が俺の方から飛び降りる。


「どうした?って、おい!雪火!」


飛び下りたかと思ったらすぐ走り去ってしまった。

俺も急いで追いかける。


木の根の間をすり抜け、熱気はさらに増し。

辿り着いた先には。



「派手にやりやがったな……」


さきほどより大きく開けた地面には無数の焼き焦げ。

火そのものはすでに無くなっていたが、先ほどまで強烈な業火が発せられていたのだろう、周囲はまるで真夏のような暑さだ。


「っと、いたいた雪火。」


中央の大きな焼き焦げ跡にちょこんと座っていた。黒に白はよく目立つ。

雪火がこちらを向く。ん?どうも雪火が座っているところ、少し地面が盛り上がって――


「あ……まさか!!」


駆け寄る。

地面が盛り上がっているのではない。

真っ黒焦げに焼かれた"人"がそこに倒れているのだ!


「雪火どけ!……うっ」


ひどい臭いだ……どうも鼻が詰まっていたらしい。ここまで近寄らないとわからないが、凄まじい悪臭だ。

ごろんと転がしてみると。


「フィーテ……リーナ……」


地面と向かい合うように倒れていたので、顔は煤けている程度で済んでいるが背中部分は制服ごと皮膚まですっかり焼けてしまっている。

あの美しい長髪もすっかり焼けて短髪になってしまっている。


「っ!」


口に手を当てて呼吸をしているかどうか……ん、大丈夫だ。気を失ってるだけっぽい。


「よかった……生きてた……」


とにかく、背中部分の火傷がひどい。どこかに泉でもねーかな……
























「ぜっ……はっ……見つけたぞ……」


結構歩いた。日もすっかり暮れかかっている。

なんとか川を見つけた。近くの樹の根に寝かす……っと、やばいやばい。

学ランを脱いで敷布団代わりにする。レディには優しくするタイプなのだ。幼女だけど。


「雪火、すまんが薪になりそうなものを集めてきてくれないか?」


足元の雪火がコクリ、と頷いて森の中へ消えて行った。


「包帯……包帯……。あーあった。けど足りねーかな……大丈夫か」


フィーテリーナのすっかり焼き焦げてしまった制服やら下着を脱がせる。


「なんか悪いことしてるみたいだな……」


まぁ別に俺ロリコンじゃねーし、と濡らしたハンカチで触れるように拭く。

正しい対処方法なんて知らんので適当だ。しないよりいいだろ。


焦げた皮膚がペリペリと剥げ落ちるんだが。これ取っちゃって大丈夫なのか?いいや。

うん。後は包帯巻いちゃおう。







「雪火、サンクスな。よーし、んじゃさっそく……」


雪火がそれなりの量の薪を集めてくれたので、火を起こすことに。

フィーテリーナが元気だったら一発なんだが、なんて思いながら片手に力を込める。


「ふぐっ……ぬぅぅぅ……んんんっ!!っしゃ!」


掌に収まりきる大きさの火を適当に積んだ薪の中に放り込む。

パチパチと地味に広がっていき、薪が燃え始める。これで明かりは大丈夫かな。

フィーテリーナに持参してきた毛布を掛けてやり、背を向けて火に当たる。春とはいえ夜は冷える。


「そういえば執事と……ええと、バルサミコスと淫乱だっけ……忘れた……とかはどこ行ったんだ?」


倒れていたのはこいつだけだったし、何かに襲われたのか?

しかし、この幼女は元Aクラス。

それを越す魔物がいるなんて……そうそういないか。だが、現に幼女は黒焦げになってしまっている。


「となると……まだ近くにいるのか?フィーテリーナを倒すほど強い魔物が……」


背筋が凍りつく。

怖い。だが、帰れるのは三日後だ……


そういえば、こいつは俺を殺そうとしたのになんで俺助けてるんだろう?

文句の一つも言ってやりたかったはずなんだが。

……俺ってロリコンだったのかな?


「う……う……」


「! 目が覚めたか?」


フィーテリーナの細い右手が持ち上がり、何かを掴もうと伸ばす。


「あたしは……あたし……」


つー、と一筋の涙。

それを指で拭ってやる。


「今は休め。幼女の癖に頑張りすぎなんだよ、お前は」


伸ばされた腕を掴み、下ろさせる。


「あー……寒い寒い……」


また火に当たって日が昇るのを待つ作業に戻るとしますかね……。


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