表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い鳥が飛ぶ時空(そら)に  作者: sena
輝金光の反逆者
3/5

転校生と秘密

 蝶能力はランダムだ。

 学院ができた頃に「機械」に入れた基本的な蝶能力を、ある数式に基づいて「機械」の中で配合し続け、数え切れない種類の蝶能力が現在データとして存在する。

 まだデータだけの蝶能力もある。

 そんな蝶能力の中から、本当にランダムに、ガチャポンのような感覚で、その人に当てられる蝶能力が決まる。

 初期の頃に出来ていた「瞬間移動」や「発火能力」などから、もはや何が混ざってこうなったのかわからない「仮想介入」まで、実に数万の能力からテキトーに選び出す。だから、歴史上一回しか出てきていない能力なんかもある。

 ただ、歴史の長い蝶能力は、それだけ選ばれる可能性も高いようだ。

 そうすると珍しい能力を持っている人は、必然的に学校側も大切に扱う。

 そんな人達を集めたクラスが、特殊科だ。

 空もこのクラスの生徒だが、「高校1年生」の初日、転校生が来た。

 金の短髪の少女。見る人を呆然とさせる美貌と笑顔を持ちながら、笑顔に隠された感情を全く読むことのできない、不思議な転校生。

 でも、空は確かにその顔を知っていた。

(あれ……昨日の『黒い鳥』……!?)

あの不思議な少女とそっくりなのだ。

「では、名前と蝶能力をお願いします」

先生が促して、彼女は柔らかい笑みを浮かべる。

「相模橙香です」

(相模橙香…?)

続きを待って、皆がシンと静まる。

 ――が、一向に自分の蝶能力の説明は始まらなかった。

「あの…相模さん?」

「はい」

「私は名前と蝶能力、と言ったはずですが…」

「そうですね。…え?じゃあみんなその説明を待ってるんですか?」

彼女はあからさまに「なんで?」という表情を顔に載せた。

 表情をあまり崩さない、というわけではないようだ。

 「ここでは言いたくないです。変なレッテルを貼られたくないので。…まぁ、あとで模擬試合をやるでしょうし、バレてしまうんですが」

自分の手札を見せてから戦うのでは面白くないです、と彼女は言う。

 クラスで模擬試合をして、一番強い人がクラス代表となる。学校内で最高権力をもつ生徒機関は生徒会だが、生徒会会議に参加するクラスの代表が、今回決めるクラス代表だ。

 「……それもそうね」

「渡野さん?」

桜色の髪(染めるのは校則上禁止のはずなのだが)を揺らして、渡野、と呼ばれた少女が立ち上がる。

「いいわ。私たちだって、クラス全員の能力を把握しているわけじゃないもの。公表するのは不公平よ」

「……それでいいですか?みなさん」

先生の問いに、否定の声はあがらなかった。――肯定、とみていいだろう。

 「わかりました。では相模さん、神凪くんの隣で――」

かんなぎ、と聞いて、橙香の眉がぴくりとはねる。

「神凪空、ですか?」

「あら、知り合いですか?」

「……いえ、クラス名簿で、目についたものですから」

 橙香はスタスタと空の横まで歩いてゆき、こう囁いた。

「『犯罪者』神凪空――」

「――!?」


 その頃、<よくある能力>と評された人の集まる普通科にも、転校生がきた。

「日野黒夜です」

名前からしたら男だろう――が、男、と言い切る自信は誰にも無かった。

 黒くてさらさらの長い髪。

 透き通った白い肌。

 夜を溶かし込んだような瞳――。

 見た目は、どこからどう見ても(服を着ている間は)女にしか見えない。

 誰もが黒夜の性格を掴み倦ねていると

「女だ、とか言った奴は――こうです」

にっこりと笑みを浮かべた瞬間、教室の後ろの方に雷が落ちた。

「日野くん、校内での蝶能力の使用は禁止――」

「正当防衛です」

「……。じゃあ、君の席は、流離時斗くんの隣で」

どこが正当「防衛」なんだ、という視線を浴びながら、黒夜は席につくと、時斗にこう尋ねた。

「『情報基地(データベース)』…?」

「っ!!」



 「なあ時斗ー、俺のクラスに転校生がきたんだけどさぁ……」

 放課後、教室から出てきた時斗を空が捕まえて、下校を共にしていた。

 時斗とは寮代わりのマンションで隣同士だ。彼は普通科だが、実力で言うならトップクラスで、よく空と一緒に「仕事」をする。

 ちなみに美上学院の一学年は、特殊科2クラス、普通科2クラスで構成される。別に普通科と特殊科で校舎が分かれている訳ではない。

 「…こっちにも来た」

「あ、そうなの?なんか俺さ、ずばっと『犯罪者』って言い当てられちゃってさ――あ」

「同じく。――あ、あいつ」

「え?」

横を通り抜けて行った二人組を指差して、声を上げる。

「あ、そうそうあいつ!金髪のあの子」

「…隣の奴が、こっちの転校生」

「へえー。知り合いなのかな?」

「かもしれない。というか、こっちの素性を知ってる時点で、問い詰めたほうがいいのでは」

抑揚に欠ける声で言って、時斗が駆け出した。

「あ、ちょ…っ、全く、なんであの性格で行動力あるかなー……」



 「……日野黒夜」

「うおっ」

いきなり目の前に人が落ちてきたら、誰でも驚くだろう。

「何々?今純粋な身体能力で降ってきた?面白~い」

橙香が興味津々で覗き込む。

 時斗はそんなこと気にも止めず、用件だけを口にした。

 ――この美貌に覗き込まれて気にも止めず、というのも図太い精神だが。

 「何者だ」

そこに、追いついた空が口を挟む。

「ちょっと待てよ時斗。こいつら……、もしかして隠し玉……?」

「……え?」

 カクシダマ。

 彼らの身分を表す、的確な一言。

 それなら、橙香のコードネームが聞いたことのない名前でも納得がいく。隠し玉は、隠された存在なのだから。

 橙香は顔を僅かに歪め、皮肉で返してきた。

「流石は内通者、といったところ?……まぁいいや。説明めんどくさいけど、どうせ、『うんそうだよ』とわざわざ言った所で『あっそ』では済まないだろうし」

「済まさないね」

「済まして欲しいのも別に建前だけど。ここで話して聞かれると拙いから、場所を変えない?んー…あっそうだ。あそこ行こう」

あそこ、と言った後、橙香は黒夜に目配せして、「こっち」と黒夜が歩き出した。



 黒夜についていくと、「特捜部」の本部についた。

 蝶能力がはびこる学院世界では、蝶能力者の犯罪を一般人の手で捕まえるのは不可能だ。蝶能力者には蝶能力者を、というのがこの世界の掟である。

 それに対し、蝶能力を持っていて学院世界に留まっている大人は、かなり少ない。需要に供給が追いついていないのが蝶能力者の就職現状だから、出て行ってしまっても仕方がない。

 数少ない、学院世界の蝶能力を持った大人は、先生として、問題児や幼稚園児の制圧(?)に向かわなければならない。そうすると必然的に、「蝶能力者の育成」という大義名分の下、学院生が駆り出されるのだ。それが特捜部。

 なんの問題もなく黒夜は正門を突破し、特捜部の本部に入っていく。

「……特捜部メンバーなの?」

「いんや?それこそ隠し玉のコネでね」

空の問いに、ニヤリとわらって橙香は答える。

  中に入ると、空達もよく知る顔が出迎えてくれた。

「あれ?早々にばれたの橙香?」

「だから情報網掌握者を舐めるなって言ったのに」

パソコンの前の椅子に座ったツインテールの女の子と、その椅子に体重をかけて立っている長い金髪の女の子が、呆れるようなからかうような、微妙だけど明らかに面白がっている表情をのせていた。

「黙秘能力と鳥能力の助言は無視しちゃいけなかったか」

心にも思っていなさそうな台詞を笑いながら吐いて、橙香はふとまじめな顔になる。

 『黙秘能力』花乃=レミオラール、『鳥能力』鳥張美羽。空たちよろしく特別扱いを受けている仕事仲間だが、こちらは美上学院女子部生徒だ。

 美上学院は共学、女子校、男子校が併設されているというすごい学校だ。

 その内の女子校が「女子部」というわけである。

 「まあ改めて自己紹介するとして。地下室、入れてくれる?」

「いいよ。じゃあ私扉だけあけに…」

「なに言ってんの。美羽も花乃も来るのよ」

「え?…まあいいけど」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ