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リアナの想い ~ emotion ~

 馬に揺られて3日目の今日、何事もなく隣国の領内に入ることができた。辺りを見渡せば一面に雑草ばかりが覆い茂っていた草原が広がっている。

 初めて訪れた隣国の景色はどこか穏やか過ぎるように感じてならない。ここに辿り着くまでの道中、民家を一つも見かけなかったからそう思ってしまったのだろうか。

「アステルベルクの領内に入って随分経ったというのに、小さな町どころか村一つすらないなんて」

 自然との調和を標榜とし、争いとは無縁の緑豊かな小国だという知識だけでは思い浮かべた風景とは随分と違うものだ。アステルベルク皇国は我が国のような強大な軍事力を持っていないというのも頷ける。

 だからこそ私達がこの国の皇女の護衛を仰せつかったのだろう。母国の次期王位後継者であらせられるカイン王子の妃となるお方を無事に招かねばならないのだ。

 とは言っても主からの勅命がなければ、このような任を受けたくなかったのだが……。

「イスマリア皇女、か……」

 まだ見ぬ姫君がどのようなお方なのかと考えている最中、視線を感じて振り向くと旅人らしき男女がじっとこちらを見ている姿があった。

 彼等からすれば、分厚い鎧兜で身を包む兵達を率いる私はどうやら異質に見えてしまうものらしい。物珍しげな好奇の眼差しが否応なしに突き刺さる。

 あと数日で17になる小娘が屈強な男達を率いて威風堂々と馬に跨っているのだ。しかも衣服の上に皮であしらえた胸当てと腰巻だけという軽装であれば、いくら帯刀していても目を疑いたくもなるだろう。あるいはどこぞの国の姫が騎士の真似事でもしながら兵を率いてこの国に訪れたとでも思ったのだろうか。

「それはないか。良いように考え過ぎだ」

 こういった好奇の目で見られるのはもう慣れている。深緑の瞳と同じ色の長い髪が必要以上に人目を引いてしまう。人間ではないかもしれないという陰口すら聞き飽きた。

 慣れというものは恐ろしいものだ。今はもう彼等の視線を浴びても動じるどころか何も感じなくなってしまっている。

――アステルベルクの王城まであと半日といったところか。

 隣国の王都はまだ見えずとも、中天を過ぎた太陽の傾き具合で到着がいつ頃になるのかはおおよその見当がつく。そして旅の者達が夜の山中で野宿をする破目になることも察しがついてしまう。

 馬を貸してやれば陽が沈むまでに国境を越えた町にまで辿り着けるだろうが、貸してやれない訳がある。我々は今日中にアステルベルク皇国の城に到着し、明日の朝には母国へと引き返さなければならないのだ。

 まして夫婦と思しき彼等に無粋な真似をしてやるわけにいかない。身なりからして誰からも祝福されずに安住の地を求めての旅だと一目で窺えては尚更だ。

 私を見ている目つきが変わり、連れ戻されることを恐れている。誰も信用していないといった類いの悲しい目つきだ。そっとしてあげるのが望ましいだろう。

「貴族の娘と農民の男が駆け落ちしたってところか。よき旅を、願わくば旅の果てに幸あらんことを……」

 馬上で彼等の旅が無事に終えるのを祈りつつ正面を見据える。そして我々も無事に母国ランガーナへと帰還できることを願った。

 此処までの平穏な道中と違って、明日からの3日間は過酷を極めることを予期していたからなのかもしれない。

――まさかカイン様から直接イスマリア皇女の護衛を仰せつかうことになるなんて……。

 愚痴をこぼしたところで今更どうにかなるわけでもない。母国の次期王位継承者とアステルベルク皇国の第一皇女の婚姻は規定事実なのだ。

 我が母国ランガーナ王国とアステルベルク皇国は同じ祖とした兄弟国であり、ランガーナ王国の王位後継者はアステルベルク皇家から妃を向かえねば王位を継ぐことが出来ない。

 そしてアステルベルク皇国もまた、次期皇王の妃をランガーナ王家の血筋を引く者から選ぶ掟がある。故に互いの血を交わらせながら絶やさず、その血脈は延々と護られてきた。

 両国が創世して約600年という古い歴史の中で、高貴なる血の交わりはかつて一度も違えたことがない。

 今回、私が少数の兵を連れてアステルベルクに訪れたのは、我が主ともいうべきカイン王子の妃になられるイスマリア皇女を母国の王都まで無事にお連れする為の護衛を命じられたからである。

 本来ならば名誉あることだ。

 しかし今の私にはこれほど辛い任務はない。

 ふと昔の記憶が鮮明に蘇ってくる。

 あの無邪気に戯れていた懐かしき日々に終焉が訪れた日のことを――。




 * * *




 稽古着とは思えぬ華やかな衣装を身に纏った少年が目の前で息を切らしながら木剣を正眼に構えている。利発そうに見えても顔立ちはまだ幼く、まだ10歳にも満たない当時の私より背が少し高いぐらいで年齢も然程変わらない。

 一見、ひ弱そうな美少年に見えても年齢に不釣合いな気高い雰囲気を漂わせ、闘志漲る意思を小さな双眸に宿している。

 その少年が美しいまでの容姿を形成しているのは、ひとえに金色をした髪が存分に惹きたてているからであろう。

「ハァ、ハァ……最後ぐらい1本取らなきゃ格好が悪いよな。年下の女の子に負けっぱなしだなんて、これじゃ恥ずかしくて城の外には出られないよ」

 全身を汗まみれにして少年が愚痴を零しながらも楽しそうに頬を緩める。そして両手で握り締めた木剣に力を込め、じりじりと間合いを詰めてきた。

 私からは決して動かない。肩の力を抜きながら彼と同じ高さに木剣を構え、相手の目の動きで次の一手を読みつつ待ち構える。

 広い敷地を誇るランガーナ城内にあるこの場所には、互いに木剣を構えながら対峙する私達二人しかいない。鉄製であしらえた両開きの門以外は城壁で固められ、外部からの侵入を頑なに拒んでいる。

 ここは庭園というには殺風景で修練場という言葉が相応しいだろう。

「でぃあああぁぁっ!!」

 少年が間合いを一気に詰めると気迫を込めて力強く打ち込んでくる。腕力では敵わずとも、振り下ろされたその木剣を受け止め、押し込んでくる力に逆らわずに受け流す。

 すると汗にまみれた少年が前のめりによろめき、無防備な姿を晒してしまう。こうなっては彼に私が繰り出す反撃の一刀を防ぐ手立ては何一つ残されていない。後は切先を流れのまま横に薙いでしまうだけで終わる。

 案の定、体制を整えようと少年が振り返った時、手にしていた木剣は彼の首筋に添えられて勝負が決まった。

「ま、参った。降参だ!」

 悔しそうな表情をしていた少年が晴れやかに笑う。負け惜しみのない屈託な笑顔はあまりにも清々しい。

 一歩下がりながら木剣を下ろして彼の表情を見つめていると、自分に向けられた笑顔に嬉しくなってしまう。

「リアナはまた一段と強くなったよなぁ。僕より3つ年下で魔法だって使える。大人になったら聖騎士になれるんじゃないかってみんな噂をしているし、ホント凄いや」

「ううん、私なんてまだまだです。だってお父様ったら、剣のお稽古はぜ~~んぶお師匠様任せにして、ちっとも教えてくれないんですよぉぉ! 魔法だって自分でお勉強しなさいって、私のこと全然見てくれないんですからぁ!」

「そうかい、そうなんだ。それで拗ねちゃうなんてリアナはまだまだ子供だよな。アハ、アハハ、アハハハハーーーーッ!」

「カイン様ったらひど~~い!! そんなに大声で笑うなんてあんまりですわっ!」

 まだ幼かった私が腕組みながら頬を膨らませて不満を訴える表情を見るなり、カイン王子は声を高らかにして笑いはじめた。

 それを抗議しても彼は可笑しくて堪らないと言わんばかりに笑い飛ばす。文句を重ねれば重ねる程にカイン王子には滑稽に思えたらしい。

 当時の私はそんな彼を兄のように慕い、そして幼友達のように接していた。

 傍から見れば小さな少年と少女が剣術の真似事をした後に戯れているだけのように見えるのかもしれない。無邪気なまでにおどけてみせる少年と頬を膨らませて不満を訴える少女の姿を、いったい誰が主従関係に見えるというのだろう。

 だが、まだ幼かった私達にはそれが当たり前だった。厳しい稽古の中でも、剣を教わっている師匠が傍にいない時はサボって雑談にふけてしまう。戻ってきた師匠の説教など、休憩中にまた話が弾めばもはや二人揃って覚えていない。

 そして次の稽古が終わると二人並んで座り込み、まるで兄妹きょうだいのように他愛のない話でまた盛り上がる。厳しい修行で泣くことがあっても、二人一緒なら辛いとはまったく感じなかった。

 大人になっても二人の関係が変わらず続くものだと思っていたのだが――ある日突然、少年が発した言葉が二人の関係を大きく変えていく。

「あ、あのさぁ……大人になっても、ずっと傍にいて欲しい。死ぬまで一緒にいたいんだ! だからさぁ、大きくなったら僕のお嫁さんになってくれないか?」

 頬を染める目の前の少年は、自分で言っておきながら恥ずかしそうに目をキョロキョロと泳がせて落ち着かない様子だ。

 とはいえ、その想いは強く感じられた。純粋な求愛だったからこそ心の中に言葉が染み込んでいく。

「――えっ!? そ、そんな……そんなこと、きゅ、急に言われても……わ、わたし……その……」

 真剣な眼差しで見つめられているうちに鼓動が激しくなって心が大きく揺らされ、顔がみるみると火照っていくのを自覚させられてしまう。前触れもなく突然なまでの告白だっただけに、カイン王子の顔を真っ直ぐに見ることが出来ない。

「僕はリアナが大好きなんだ。ずっと好きだったんだよ。だから大人になったら僕と結婚して欲しい。ダメか?」

「わ、私……私なんかで、本当にいいんですか? みんなから緑色をした髪の毛と目の色がヘンだって、人間じゃないみたいだっていつも言われているのに。そ、それにカイン様はお隣の国の皇女様と、け……結婚しなくちゃ……い、いけ……ないんでしょう?」

 瞳と髪の色が気味悪いと言わんばかりにいつも誰となく陰口を叩かれていた。艶のある深緑の色であるが故に、好奇な目で見られてしまうのは城の中だけではなく、街に出ても何ら変わらない。

 そんな私を嫁にしたいと言われても、物心がつく前から抱え込んでいた劣等感が拒絶させようと邪魔をする。カイン王子に何度も気にするなと言われてきたが、偏見に満ちた眼差しで散々なまでに指摘され続けられたのだ。まだ幼い心は十分に傷つき身近な人以外に心を開くことはなかった。

 だからこそカイン王子と二人だけの時間が私の心を満たしてくれる唯一の時間だった。いつまでも傍にいたい気持ちに何一つ偽りはない。

 それは王となる者を傍から離れず守護するというシェルフォート家の宿命というよりも、兄のように慕う少年の傍から離れたくないという強い想いがあった。

 しかし想いを告げてきた少年はいずれ王位を継承し、隣国の皇女を妃としてめとらねばならない。

 幼いながらも分かっていた。

 カイン王子の好意を受け取りたい反面、拒絶しようとする理性が強く働いてしまう。

「僕はヘンだとは思わないよ。まるで宝石のように輝いて、とても綺麗な瞳と髪の色だ。凄く似合ってるよ」

 優しい笑みを浮かべてカイン王子が私の髪に触れてきた。顔を寄せて愛しむかのように何度も撫でてくる。

 嬉しいけど、とても恥ずかしいのに、反論の言葉が浮かばない。汗ばんだ小さな手のなすがままに翻弄されてしまう。なのに妙に心地よくて堪らない。

「昔、地上を救った勇者に力を与えたっていう女神ウェスタリア様の髪って、宝石みたいに輝いていたんだってさ。瞳の色もそうだったらしいよ。だったら恥ずかしがるよりも胸張っていいじゃないか。リアナは可愛くて綺麗なんだから」

 兄のように慕っていた人の一途さに、ただ戸惑うばかりだ。心臓の鼓動がバクバクと激しく乱れ、手を払い除けたくても身体が思うように動いてくれない。まっすぐな眼差しから早く逃れたいのに、何故だか吸い込まれていくように感じてしまう。

「でも、カイン様はお隣の国の皇女様を妃様にしなくちゃいけないんでしょう。王様達はみんなそうしてきたからって、王族の掟だって!」

「そんなの古い大人達が勝手に決めた都合だ。血がどうのこうのなんて僕には関係ない。僕はリアナじゃなきゃダメなんだ! ずっと傍にいてくれると言ってよ!」

「私はシェルフォート家の娘だから、カイン様をお守りするだけに生まれてきたから……」

「だったら僕がリアナを守る。誰よりも強くなってみせるから」

 懇願する小さな眼差しに意識を絡め取られたまま、両肩にカイン王子の手の温もりが伝わってくる。

 辛く切ないと思う反面、不思議と嬉しさが込み上げてくるのに何も言えない。期待する言葉を待っている彼から火照る顔を背け、自分の感情を押し殺すしかなかった。




 * * *




 あの時の言葉はカイン王子がご自分の立場を理解せず、その場の感情に流されて吐き出しただけに過ぎないと何度も自分に言い聞かせた。彼が私に恋心を抱くなど、本来なら決してあってはならない。

 しかし告白されてからは意識するあまり、いつしか私まで彼に想いを馳せるようになってしまった。王族の掟は絶対だと何度も言い聞かせても、自分の中で想いが膨れ上がっていく。

 その後二人の関係に何も進展はなく、10年という月日は長いようで短くも感じた。

――カイン様、貴方はあの日の言葉をまだ覚えていますか?

 この言葉を、いったい何度繰り返したことだろう。カイン王子は不意に何かを言いたげな表情をするだけで何も言ってくれない。

 そして思いとどまった表情を浮かべると、私を避けるように顔を背けてしまう。周囲の目を気にするあまり、言いたくても言えない様子だった。

 カイン王子が何も言えないのであれば私から訊ねようと思っても、告白されたあの日以降からは誰かが絶えず彼の傍に居た為にそれも叶わない。

 結局、二人だけの時間を許される日が訪れることはなく、カイン王子がイスマリア皇女との婚姻が決まったのは今から半年ほど前のことだった。

 もはや想いが叶うことはない。なのに諦めようとしても、恋焦がれる想いだけが募っていく……。

「リアナ様、どうかなされたのですか? 何やら深刻にお考えになられているご様子ですが」

 物思いに耽ている馬上の私に、同行していた一人の兵がくつわを並べながら尋ねてきた。分厚い鎧兜で身を包み、一見厳つい顔立ちのように見えるその兵が心配そうな面持ちでずっと見つめている。

「い、いや……何でもない。少しばかり考え事をしていただけだ。ここまで妖魔と一度も遭遇しなかったのが、どうも腑に落ちなくてな。最近やけに活発な動きを見せている妖魔達がまったく姿を現さない。なのに一度は感じた奴等の気配が今は完全に消えてしまっている。妙だと思わないか?」

 不意を衝かれた思わぬ問いに、心を見透かされまいと咄嗟に浮かんだ言葉を投げ返した。我ながら呆れるほど本音と違うことを言ったものだと感心してしまう。

 だが、それは事実だ。

 ランガーナ王国の国境を越える前日、一度だけ殺気に満ちた人ざらぬ者達の気配を感じた。

 いつもなら気配を感じた途端に魔物を従えた妖魔が襲い掛かってくる。ところが今回一度も襲撃を受けぬどころか姿すら見せてこない。

 故に訊ねてきた兵は眉間に皴を寄せて考え込み、咄嗟に浮かんだ言葉を信じたのであろう。

「近頃は辺境の町とはいえ、我が国の領内が次々と奴等の襲撃を受けています。なのに気配を漂わせて尚、襲い掛かるどころか姿を一度も現してこない。確かに、言われてみれば妙ですな。もしや何かを企んでいるのでは?」

「ああ、だから皆にはくれぐれも気を抜くなと伝えてくれ。イスマリア皇女をお連れする帰りの道中は、特にな……」

「はっ!!」

 一礼した兵が跨る馬を巧みに操って後方に下がったのは、アステルベルクの王都を目前にした頃だった。

 草原の彼方に多くの建物らしき影がぼんやりと見える。

――でも、嘘は言ってないよね。

 ふと、そう思いながらも安堵の溜め息が漏れた。兵達に気を抜くなと言った自分が滑稽でならず、口元が自然に緩んでしまう。

 そもそも自分を偽るこの振る舞いは堅苦しく、常々苦手だと思っていた。聖騎士としての立場上、兵達の前では素の自分を見せることが出来ないと分かっていても、ただ窮屈なだけで億劫にすら感じている。

――気を抜くな、か……。そうだ、今はイスマリア皇女を無事にランガーナへ送り届ける事だけに専念しなければ!

 今は感傷に浸っている場合ではないともう一度自分自身に言い聞かし、今度こそ気を引き締めなおそうと思っても、やはり想い人の姿が脳裏に浮かんでしまう。

 ランガーナの王位後継者はアステルベルク皇家の皇女を妃として娶らなければならないのが王族の掟。

 それに私はカイン王子と幼少の頃から共に育った仲。言わば兄妹きょうだいのような仲だと言ってもいい。

 ましてシェルフォート家の一人娘として生まれたからには、王位後継者が国王の座に就いた後も守護しなければならない宿命を背負っている。

 なのに聖騎士という重責までも与えられてしまえば尚更だ。人並みの幸せすら望むことも許されていない。

 もしかすれば、父はその為に私を今回の護衛に推挙したのではないだろうか。若輩の身分で聖騎士に選ばれたのも、あの幼き日の事を誰かが見ていたのではないだろうかと勘ぐってしまう。

――過ぎてしまった事をいつまで考えても……。

 打ち明けられぬこの秘めた想いは、いくら願っても叶うことはないのだ。ならばイスマリア皇女をランガーナまで無事にお連れし、婚礼の儀が滞りなく終えれば諦めもつくだろう。

 胸が張り裂けんばかりに苦しいのも、時間ときが経てばいつかは消える。もしも心の傷が癒えなければ、癒えるまで存分に泣けばいい。

 泣いてすべて洗い流せば、やがて現実を受け入れられる日が訪れ、シェルフォート家の宿命を素直に受け入れられる筈。その時には新国王と王妃となられたお二人を心から祝福する事だって出来るだろうし、家名と聖騎士としての責務を果たせると思う。

 そして夫として運命さだめられたひとを愛して子を産み、年老いて家族に看取られながら生涯を閉じれば、女として十分に幸せな一生と言えるのではないだろうか。

 そうでも思わなければこの先ずっと生きていくことが辛いと思った時、優しいまでの温かい風が吹き抜けていった。まるで土の香りが漂う空気の流れが私を慰めるかのように包み込んでくれる。

 自分の長い髪が頬に触れながら靡く先に、アステルベルク城とその城下町の輪郭がくっきりと見えてきた。

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