追憶 ~ Recollection ~ (プロローグ)
過酷な運命の波に翻弄されながらも、出会いと別れを通じて成長していく少女の生き様を描いたシリーズ第1章。
主人公リアナの心情が揺れ動く様を主体に物語前半は進んでまいりますが、後半は壮絶なバトルが繰り広げられます。
どうか最後までお付き合いの程、何卒宜しくお願いします。
*この物語は以前にFC2小説にてMS-Rの作者名で投稿したものを改正したものです。
*この物語には多少なりとも残酷な描写があり、敢えて『R15指定』としてます。
あらかじめご了承ください。
名前が刻まれていない小さな墓標――。
この下に眠る故人に一輪の花を手向け、そっと静かに祈りを捧げる。墓前で両膝をつき、生前の姿を思い描いて偲ぶ。
目の前にあるこの小さな墓はランガーナ王国領内でもっとも高い山の頂上にあり、ここまで訪れるには険しい獣道を登りきらねばならない。辿り着いても墓標の周囲には何もない殺風景な場所であるが故に、私を除けば誰も訪れることはないだろう。
だが国境に面するこの切り立った崖の上から眼下を見渡せば、安らかな眠りについた故人の故郷であるアステルベルク皇国を一望することが出来る。ここならば俗世のしがらみに縛られることもなく、母国の風を感じながら静かに眠ることが出来るだろう。
これが故人に対してせめてもの贖罪であり、また唯一の手向けでもあった。
「お久しぶりです。ずっとお独りにさせてすみません。今まで寂しくありませんでしたか?」
誰にも邪魔をされることなく故人との会話が続き、本来ならば聞こえる筈もない声が心の中へと染み込んでくる。
――リアナ様、とうとうこの日が訪れたのですね。
陽炎のように墓標と重なって浮かび上がった微笑む姿と穏やかな口調の声は、決して夢でなければ幻でもない。長い黒髪がとても似合うその少女は確かに存在していた。
僅かながらもあどけなさが残る優しい顔立ちは2年前と何一つ変わっていない。艶やかな長い黒髪が似合う生前の美しい姿のままだ。
そう、彼女は永遠の時間の中で今も生きているのだから――。
「はい。ですからこうして貴女とお話をするのも、もしかすると今日が最後になるかもしれません。ですが、必ず生きて帰ってきます。私にはまだやらねばならない事が残されていますから。だから、もう一度聞かせて下さい。あの時と同じ言葉を……」
長く続いた妖魔達との戦いは間もなく終わる。いや、この手でその決着をつける前に“私だけの姫君”と会わねばならなかった。
己に課せられた宿命に打ち勝つには、今生の別れの際に残してくれた言葉をもう一度この胸に刻み込んでおく必要があった。
ただ、ここへ来る度にあの日のことを思い出してしまうのが正直言って今も辛い。自分が如何に愚かであったかと、つくづく思い知らされてしまう。
しかし彼女との出会いがあったからこそ救われた。命だけでなく、心までもこのお方は救ってくださったのだ。
だから今しばしの時間だけあの出会いと別れを振り返ろう。妖魔との戦いから生きて帰ってくる為に――。