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異なる世界で見つけた○○!  作者: 珈琲に砂糖は二杯
第一章《歩けば道となる》
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第5話 『○○→発見!』

 

「……ュッ!」


(……ん? なんだ?)


「キュッキュー!」


「っ痛て! ふぁー、うん……おはよう? 起こしてくれ~なんて言ったけど本当に起こしてくれてありがとう。ただね? 俺の腹はトランポリンじゃないんだ、そんなに飛び跳ねるなよ……。腹の中が空っぽなのを再認識してしまいましたよ? そもそもだね? 俺は色々と極限なわけで……」


 朝である。先日、就寝する時も明るいと感じられるものではあったが、やはり朝の明るさには敵わないのだろう。昨日の夜とは比べ物にならぬほどに、とても暖かく、眩しい。

 その眩しさに目を細めつつも、加藤は小動物せんぱいに向って挨拶のような、愚痴のようなものをつらつらと述べて行く。いつまでも続きそうだったそれに、小動物せんぱいが1度軽く鳴いた事で終わりが訪れる。


「……キュク?」


「……いいよもう。ありがとうございました!」


「キュッキュー」


(まったく、しかし本当に起こしてくれるとは……。これは、いよいよ古典小説で見かけた『超生物』の可能性がっ)


「ねーよ。だって羽ないし、火も吹かないし、ただの先輩だし?」


(ただの先輩ってなんだ? いやしかし…くぅ~、小さな女の子みたいな妖精? とかだったら後輩どころか俺が下僕でもっ)


「って俺にそんな趣味は無いだろ!?」


 加藤は首を傾げながら、何かを考えるような素振りをしていた。だがしばらく無言になったかと思えば、いきなり大きな声を出すというもの。流石に小動物せんぱいも驚き、一瞬身体を動かすことで表現するものの、やはり逃げる事はせずに軽く鳴き声を上げた。


「キュウ?」


「悪い悪い、よっと……、さって行きますか?」


「キュク~!」


 朝と呼べる時間帯になり、彼は小動物せんぱいを肩に乗せて、再び森の中を歩き出した。


 ――

 ――――

 ――――――

 ――――

 ――


「ふぅ……、やっぱり厳しい。昨日までは腹減ったー! やばいー! って感じだったけど、益々だな。足もなんか重いし、これはっ、今日が気合の入れ所だと見たっ!」


「キュキュ~」


(よしよし、良い感じ良い感じ。『足り無い食材は他の食材で補うべし!』隣のおじさんの教えは流石すぎるなっ! って、あの料理思い出したらまた腹が減った……)


「いや! まだまだ俺の闘志は消えない! 腹の中身が消えようとも、これだけは消えないぞ!」


 加藤が何かを言えば、小動物せんぱいもまた鳴き声を返す。出会ってまだそれほど時間も経っていないというのに最早お決まりの如くそれは行われている。


「キュッキュ」


「しかし腹が減ってるというかやばいのは事実! って事で探してるわけだが……」


(無いっ! ちぃ、この世界め……どこまでも俺に勝負を仕掛けてきやがる! だが残念ながらこっちの方が一歩リードしているんだぞ! なにせ非常食せんぱいがいるんだk)


「キュックー!!」


「あぃてっ! 引っ掻くなよ……ってか何故に分かった? 顔に出てたかな? いやすいません、これもジョークって奴ですよ。ね? 許して先輩」


「キュク」


 意味は通じていないはずだ。しかし頭を軽く下げて謝る加藤、対して加藤から視線を逸らすように首を横に向ける小動物せんぱい

 どこからどう見てもそれは通じていた。いや、やはり通じているのだろう。何故なら彼らは友人なのだから。


「ははっ、拗ねちゃったのか? 先輩もそういう所があるのな?」


 彼と小動物せんぱいはこんな状況であろうともこういう事をずっと繰り返していた。これは時間の無駄とも言えるし、何より何かを見逃してしまう危険性もあった。だが、同時に彼を支える大きな柱ともなっていたのだ。


「まぁそれは措いておいて……、やっぱりだ。さっきから変な感じだったんだよ、木に囲まれてる、森の中って感じは同じなのに、なんか違う。色が微妙に違うし……、分からないけど木の種類が変わってるのか?」


 森の中を歩けば同じような風景が続く。それでも当たり前だが移動しているのだ、なにかしらは変わっているのだろう。

 加藤はそれを強く感じたようで、ゆっくりと歩きながら思考に耽る。


「それに……おかしいな、風が強い? さっきまでは全然無かったのに……雨も、うん、降りそうって訳じゃない」


(いや……そもそも強いわけじゃない。 これは、そよ風? いや、それに吹いているって感じじゃない。そう、なんだろ漏れてくる? 流れてくる感じだ……)


「キュッキュ!」


 考え事をしながら歩いていたために、進行方向に気を向けていなかった。目の前には木々が立ち塞がるように並んでおり、少しの道すら塞ぐように背の高い葉が生い茂っていたのだ。小動物せんぱいの鳴き声によってそれに気付いたため、そこよりも通りやすい、違う道を探すように辺りを見渡す。


「ん? あぁ危ない危ない、こっちはちと通るのはきつそうだ……。んーっと、こっちに行ってみようか」


 先ほどの進行方向と大して変わらないように見えるが、それでも少しばかり歩きやすそうな細い道を見つけた加藤はそちらに足を向けた。己の声を聞き届けてくれた事が嬉しいのか、小動物せんぱいは加藤の肩で小さく喜びの声を上げる。


「キュク~」


「それにしても…先輩には助けてもらいっぱなしだな。食料になりそうなものを見つけたら、隣のおじさん直伝のニンジンスペシャルをご馳走してあげるよ!」


(ニンジンは無いだろうがなっ!)


「キュック~」


「ははっ、でもその前に最低限水をどうにかしないとな? なにせ、作る側の俺がやばいもんで!」


「キュウキュウ!」

 

「ん? ははっ、また弱気になったと思ってくれたのか? 違う違う、これもジョークさっ! 極限の自虐の中に笑いを入れる……俺は自分の才能が怖いね!」


「キュッキュ……」


(何故だっ!? 友人にも褒められた事があるんだぞ!? 『お前のソレは凄いよ。ある意味でな』ってよ!)


「しっかし、あいつ……あぁ、前のとこの友人な? 自分で言うのもアレだけどなんで俺なんかとずっと一緒にいてくれたんだろ? 確かに、俺のジョークというか笑いのセンスが素晴らしいものがあるかもだが……」


「キュウ~」


 彼は自分の長所という考え方を間違えていた。

 そも彼がダメだと思った先の実験に立ち向かう意思の在り方の事でさえ、見方を変えれば確かに人を魅せるの1つであったとも言える。事実として、どんな形であろうともその場所へと来た、来れた彼に、彼等に研究者は確かに魅せられていた。

 大きな切欠があったとは言え、己の夢でもある研究の歩みを遅める事になるかもしれずとも、それを中止する程度には。

 それとは直接関係はないだろう、しかしソレが出来る人間はそれ以外でも何かを持っているのかもしれない。


「んー……、風がさっきより強いっていうか、なんていうんだろ? 幅が広くなった? そんな感じがする……」


「キュウ~」


(やばいな……ここでも風が強いって事は上空も、雲も大きく動くはず。ってことは雨が降るかもしれない? でも、いや)


「仕方ないか……、探すのは一端やめて、テントを作って多少なりともそれに耐えれるようにするか」


「キュッキュ!」


 小動物せんぱいは足を止めて、テントを作ろうと腰を低くした加藤に鋭く声を上げる。それに面倒臭そうにしながらも返事をする加藤。


「嫌なのか? 肩に乗ったままとはいえ、歩くのが好きなのかね。でも仕方無いだろ? 雨が降るかもしれないんだからさ」


「キュウッキュ!」


 そんな加藤に、小動物せんぱいは尚も鋭い鳴き声を上げる。いや、更に強くなったと言えるだろう。

 なまじ肩の上に乗っているために、今の声量では小動物の鳴き声とはいえ、少しばかり煩い。それを注意しようとしたその時に、今までテントの材料を探すために下に向いていた顔を上に向けたのだ。そして見えたものは。


(そんなに言われても雨が降るし……って、どんだけ飛躍させてんだ俺は。雲はないし、あっても雨雲には見えない。どうも考えにも余裕が無くなって来てるな、最悪の事態をこうして行動に移して回避しようってのは良いことだけど……。自分で更にそれを進める事はダメだよなぁ、だって……)


「悪い、雨は降りそうにないな。危ない危ない、テントを作ろうってなったら今の体力じゃ多分作ったらもう本当にギリギリになってたなぁ。アレ作るのって意外と体力いるし、何より集中しないとダメだから……」


 そう、この場にそれを作ったとしても最初と同じく一夜限りのものとなる。なぜなら移動し続けたこの場でも食料などは目に見えないのだから。

 いや、あるのかもしれない。彼は先ほどから食料など探していないのだから。いつのまにか食べられそうなものを探すのではなく水場だけを探している。喉の渇きが酷い、それを癒したい、それが今の彼にとって第一なのだろう。


「キュッキュー」


「はいはい、歩きますよっと。けど風が強いってのは忘れないようにしないとな?」


「キュウ?」


「寝るときに体が冷えちまうだろ? だから時間ギリギリまでじゃなくて、ある程度余裕を取るんだ。そして風だけでも遮れるようなのを作らないと、寝てるt…」


 加藤は、考え事をしながら、ゆっくりと森を進む。そして、一瞬だけ強い風を感じたと思った時、それは広がった。


「…………」


「キュウ~」


「っ! はぁっ……はぁっ……!!!」


 彼のいた所からはキラキラと光を反射する何かが見えていたのだ。そして暫く走るとそこには大きな、湖と言えるだけの広さを誇る湖沼こしょうがあったのだった。

 しかもその対岸、湖の向こう側にはうっすらと、だが確かに山々が見えていた。


「はっははは! やった! これって湖っていうのか? 池っていうのか? いや、きっと大きいから湖だ!」


 彼は、そう言う。言葉に出した事で明確に把握したのだろう。

 そこでするべき事、できるだろう事を想像した事で思わず呼吸が荒くなっていく。


「湖か……、ってそうじゃない! 遂に飲み水を見つけた! それに、それにっ! きっと魚がいるぞ!」


「キュッキュウ!」


「ははっ、やっぱりな!俺は運が良いっ! なんとかなるもんだよ!」


(みっずうみーみっずうみ~、いいな! これが湖……やべ、水を思いっきり飲みたい!)


 先ほどまで歩みと違い、今のそれは疲れを感じさせるものではない。疲れを吹き飛ばすというものを正に体言していると言えよう。

 そんな彼は楽しげに、軽く跳躍すらしかねないほどに軽やかな足取りで、水面へと近づく。 


「良しっ! 水を飲むぞぉ! って生水はダメなんだっけ? あれ? どういうのが生水って言うんだ? いや沸騰させれば問題ないはず! 良し、沸騰させりゃーいいんだ! させよう!」


「キュウ?」


(……! そうだった!? どうやって水を汲むんだ? 入れ物になるような容器は無いし、そもそも火って……、どうやっておこすんだ?)


「んー、どうしよう。そこまで考えていなかった……。ここらに落ちてるもので容器を作れても、火を熾せたとしても。火に耐えられる容器って作れるのか? ここらにあるもので?」


(容器は大きめの木を石とかで削れば結構スグに作れない事もないし、火も確か木と木の葉でゴリゴリすれば熾るのがあったはず……。けど、やっぱりそれを沸騰ってのは厳しいか?)


「どうして俺は金属のコップとかを肌身離さず持っていなかったんだっ!」


(まぁ普通は持ってないよなぁ……。あっちの世界からこっちに持ってこれたのは服と靴だけ。あとは思い出とかか? 何か臭いな? 思い出って……やっべなんか恥ずかしいっ)


「キュー? キュキュ~」


「って先輩! ちょっといきなり何処行くんだよ!」


 小動物せんぱいは、突然彼の肩から飛び降りると俊敏な動きで楽しげに飛び跳ねながら、水辺にまで走っていった。


「はぁはぁっ…ったく、いきなり走るなよ。俺まじで今きっついんだってば……、聞いてる? って」


「キュク~」


「飲んでる!? 先輩、水そのまま飲んじゃったの!? おいおい、腹壊すぞ!?」


「キュッキュ!」


「…………、っく」


(やべぇ、まさしく『ゴクリ…』って感じだ。先輩が飲めるなら俺も大丈夫だよな? ……きっとそうだよな?)


「えぇい、飲んでやる!」


 そう言うと、小動物せんぱいと同じように水を飲むために水辺に寄る。そしてゆっくりと、恐る恐る手を水に差し入れてそれをすくい、口に運ぶのだ。

 1度それをしてからだろうか。彼はその動きを早めた。何度も何度もそれを繰り返す。


「………」


「キュウ~」


「ぷはっ…冷たいっ! うん! 水だな!」


 彼は本当に運が良かった。この湖は河から注がれた水が貯まった物ではないし、またここから河へと水が流れてもいなかった。そのために水源は雨、或いは雪解け水などがほとんどなのだろう、本当に澄み切った水だ。


「ははっ! ありがとう、先輩。わざわざ飲めるんだってのを行動で教えてくれるなんてな!」


 今回はたまたまそうだったが、人間は飲めなくとも、動物は飲める場合もある。そして彼は飲めなくとも、他の人間なら飲める水というものもある。それを含めても彼は運が良かったと言えるだろう。


「いやー、なら火はひとまずいいよな! んじゃテントを作るしかないだろ!」


(ふふっ、俺の新たなる趣味! テント作り……いつかは世界遺産的なテントを作ってみせる!)


「キュキュ?」


「ふむ、そこまでいくとそもそもテントじゃない気がするな……。家造りって事にしようかな! よっし、そうと決まれば造るのによさ気な場所は~っと……は?」


「……家がある?」


 それは家というよりは小屋らしきもの、それもかなり廃れている。だが変な建物でもあった。全体的に古いものではあるのだが、それぞれ使われている材木が異なるような感じである。おそらくは修復の跡なのだろう。それゆえに人の営みの痕跡が感じられるものだった。


 ――――

 ――――

 ――――


「え、えーっと……、誰かいますかー?」


 加藤は、小屋の入り口に立ちながら声を上げる。少しばかり声が震えているのは仕方の無いものかもしれない。しかし小屋の中からは声が返ってくる事はない。それどころか全体が見渡せるほど小屋はやはり小さなのものであり、見る事でもそれが確認できた。


「……キュウ?」


「いないな…そりゃまぁ、こんな廃墟? みたいな感じだし?」


(ここまで良い事が続いていいのか? ……ダメだっ! ここは使わない方がいい気がする)


「それに何より俺はテントを作りたいんだっ! 俺のっ、いろんな人が認めるような、世界遺産登録作品を作るまでの道のりは何者にも邪魔はさせないっ! 今に見てろよ廃墟っぽい家! 俺はお前を必ず超えたテンt」


 無駄に壮大な夢を語ったときだ。彼はようやく廃墟がある意味を、そしてその事から生まれるものを感じた。


「って!? これって人がいるって事じゃないかっ!?」


(そうだよ! さすがに先輩がコレを造ったって事は無いだろうし……やべぇ。最初は人がいる所を探すとかも考えてたけど、実際会ったらどうするんだ? そもそも言葉って通じるのか? 言葉は人間が生み出した最大の功績の一つで何よりソレがあるから人間なんだって誰かが言ってたような?)


「いや……、この問題は確かに大事だ。けどまずは今のことを考えよう」


(こんな廃墟でも他人が作ったものだ、ますます勝手には使えない。申し訳ないとかじゃなくて、もし人が来たら使ってた訳も言えないだろうし、何より怒らせるかもしれない理由を自分から作るのはヤバイだろ? 怖いし。まずはテント……まだ陽は高いけど、テントを作ってたら多分もう暮れる頃合になっちゃうからな)


「良し、今日はテントを作って……、そんで明日は食い物だ!魚を釣ってみs…どうやって釣るんだ? くそがっ! 次から次へと……」


「キュウ~!」


「そうだな先輩! 諦めない事こそが俺の信条! そうさっ魚を釣る? そんなのはっ……」


 力強い言葉と共にく握った拳。それを何故か開いたり握ったりを繰り返す加藤。次第に目が泳ぎだし、そして打って変わって弱弱しく声を発した。


「……そんなのは別に植物で代用したっていいのさ……。 うん、なにせ腹が膨れれば何の問題もないんだからっ!」


「キュウ……」


「止めろ! そんな眼で俺を見ないでっ!? 臨機応変になるべきなんだ、これは諦めだけど諦めじゃない! 戦略的撤退なんだっ、何故ならだっ……」


「キュッキュ」


 小動物せんぱいは自分が食べられる木の実でも探しているのか、彼の傍から離れた。慣れた様子で歩き回りながら地面にある葉を除けたり、軽く地面を掘ったりしているようだ。


「いや、待って! 俺の高度な考えという名の言い訳を最後まで聞いて!」 


 運が良いのか、小動物せんぱいの導きか。

 彼は飲料水を確保できた。そして何よりも異世界人がいる可能性をみたのだった。

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