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異なる世界で見つけた○○!  作者: 珈琲に砂糖は二杯
第四章《美味しい空気とその理由》
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第17話 『○○→階段!』

 

 その日の昼、国軍と話し合いを持った会議場で、加藤とアージェは目を血走らせる勢いで自分達の意見を言っていた。その上で時折なにかを振り払うように勢い良く首を振り回し、無駄に腕に篭めて机を叩いたりと、なんとも言えない態度であったと言えよう。

 しかし、この場に赴いている国軍の上層部が今まで相手としていたレイラ達に比べ、余りに違い過ぎる加藤達、男性を見て、何処か感じるモノがあったようだ。


「へぇ、君達は若いんだね。羨ましい限りだよ、私なんて軍人なんてものをやってからというもの、どうしても決められたやり方というのに縛られていてね?」


 聞きようによっては、一応は代表者という身分とは言え相手への礼を逸している加藤達を皮肉るようにも取れる事を軽く言ったのは、ルクーツァと同年代だと思える人間の軍人だ。しかし、その顔から悪意の類を見て取る事は出来ない。思ったままの事を漏らした、そういった感じである。


「言いたい事を言える……。それは素晴らしい事だ、何かをしようと決めたならば、特にね。いいですよ、本来であれば従来通りが望ましいし、本国からもそう言われてはいます。が、現場での決定権は私が持っていますのでね」


 なんとも気だるそうに加藤達が先日話し合った結果の提案、それで良いと言ってのける軍人。

 加藤とアージェは寝不足ゆえに、熱くなっては抑えられずに言わなくても良い事まで口走り、冷静になれば言わなければならない事だけしか言えず、となんとも両極端であった。それが功を奏したということだろうか。2人も軍人とは少し毛色が違うものの、なんとも言えない顔である。


「えっと? 失礼ですが、レイラ様方との話し合いの際の事を聞いているんです。その聞いた限りでの貴方はそういった感じのヒトでは……」


 言い方はともかくとして、話し合いが始まった途端、ほぼ一方的に言いたい事だけを言っていた加藤とアージェ。しかしようやく会話らしい会話を持てたかと思えば、それは了承の言葉。流石に眠気は一時的にだろうが消え去ったようで、アージェは目を丸くして尋ねる。


「あぁ、彼女達ですか。なにやら勘違いしていたようですが、別段女性だから云々という訳じゃないんですよ? こういっては何ですが、私の助手……まぁ副官とでも言った方が軍らしいのかな? まぁそのヒトも女性ですしね」


 レイラ達が言うには、なんともお固いヒトというものだった。それは出来ない、それでは駄目だ、そういった返答のみだったというのに。そして、軍人は続けて言うのだ、そうではないと。


「女性云々ではない、問題は貴方達ですよ。いや、これも言い方が悪いかな? 我々、国軍。というよりもここに来ている国軍は一応、貴方達の下なんですよ。そこで、これでいいですか? 駄目ですか? などと言われても困るんだ」


 これをやれ、出来るか、と言え。お願いではなく、命令をしなさい。そう軍人は、否、大人は言う。それを言った後にこそ、先の言葉が必要になってくるのだと。

 軍にしろ、冒険者にしろ、職人にしろ、リーダーというモノは存在する。そして、この街造りにおいてのトップ、リーダーはレイラ達だと言うことだろう。その彼らがなんとも弱腰、低姿勢、これではいけないのだ。

 この現状だからこそ、許されているような失態であるとも言える。無論、この軍人がこうも簡単に了承したのも、同様に職人と冒険者などを纏められたのも、そうした姿勢があったからこそとも言えるが、これとそれは違う。本質を見せれば良いというモノではないのだ、リーダーという虚像は。

 虚像は強くなければならない、あらゆる意味で。そこを怪我の功名とも言える醜態を晒した事で突破できたのだろう。加藤達の言い方は、まさしく強いものだったのだから。こうするべきだ、こうしないといけない、こうするのが最良。子供の考えだ、穴などいくらでもある、机上の空論だ、理想論だ。でも、しかし、それがいい。


「そうしろ、と言われれば軍人として従いますよ。なにせ、お偉方からそうしろ、と言われていますのでね?」


 この言葉は簡単なモノではない。やれと言われれば何でもする、そう捉えても良いし、全く逆の意味と取っても良い。しかし、少なくともこの軍人の今の言葉は、そうした意味だろう。つまり、医療施設である病院、そして運動場なるモノを造る作業に軍が従事する事を認めたという事だ。


「ところで、カト君だったか? 君は病院よりも運動場について語りそうにしていたね? その運動場とやらはどういったモノなのかな? 練兵所のような感じと捉えているんだが」


「へ。あ、いや。それは違います。娯楽のための、と言った方が良いかな?」


 娯楽、と呟いて考え込む軍人。急に思案顔になり黙ってしまった軍人の変化に少しばかり不安気な顔をする加藤。その両者を見て、何故か焦っているアージェ。

 その沈黙を破ったのは軍人であった。真面目な顔をしたまま、疑問を口にする。


「娯楽と言うけれど、どういった娯楽なんだい? 運動なんだろう? やはり心身を鍛える場としか考えられない。なにせ、街としてこれほど大規模なモノなんだからね」


 軍人の疑問は加藤にはすんなり納得できるモノでは無かった。しかし今ならば理解できるモノでもある。それを知れたのはサックルから他の街へと移動した時、旅行というアイデアを出した時の周りの反応などを見た時、様々あるが、要はこの世界に慣れたと自覚できた頃である。

 この世界は前の世界とは別の意味で厳しい環境にあるのだ。無論、娯楽という考え自体は当然ながら在る。酒であったり、食事であったり、読書であったり、時と場所、場合によっては色事であったりと多種多様だ。

 しかし、娯楽というのはほぼ全て個人でどうにかして見出す類のモノ。街として提供するモノでは無いのだ。その街がこれほど大規模なモノを造り、身体を動かせる場所とくれば、鉄壁を始めとした幾重にもなる防壁陣を有する最前線の街というものと合わさり、娯楽のためではなく、練兵所という考えに辿り着くのはなんら不思議ではないだろう。


「…………娯楽ですよ。皆が、みんなが楽しめる場所を造ろうと考えています。そのための運動場です」


 加藤はゆっくりと、そう言った。

 軍人は、ほぅと相槌を打つように吐息を漏らす。それに含まれていたのは何なのか、それは軍人にしか分からない。だが、少なくともそこに嫌悪は含まれていない事だけは分かった。


「要領を得ない答えだね。だけども、存外に悪くない、悪くない。これから、その運動場とやらが出来上がり、いやこの街が街として成り立って少し経てば、分かる事なんだろう。ははっ、いやいや。楽しみで仕方が無いね」


 軍人はそう笑う。思いもしない所で、最高の娯楽を見つけた子供のように。笑い、笑う。それはそうだろう、軍人としては運動場とはなんなのか、そこでする娯楽とはなんなのかを聞いていたに過ぎない。

 加藤がスポーツと言い。そのスポーツはどういった競技なのかを語れば済んだ事。しかし加藤はあぁ言った。みんなが楽しめるなにか、であると。


「うん、これは国軍が総力を挙げて取り掛かるに相応しいと今、再度確信したよ。冒険者よりも、我々こそが取り掛かるべきだ。その礎にね」


「え? あぁ、っと。そうですよね、はい!」


 急に嬉しそうに言う軍人に、加藤は生返事のように返す。それを受けた軍人は一瞬、苦い笑みを見せたものの、うんうんと同意を示した。

 アージェだけは、やはり焦りに焦っていたが、何も言わず、いや言えずに、いややはり意図して言わないのだろう。ともかく、ただただ事の流れを静観するだけだ。


「ははっ、いや。うん、それではそういう事で。宜しく頼むよ」


「はい、それじゃあ…………」


 その後は、眠気を通り過ぎたために目が覚めたのか、はきはきと病院建設、及び運動場についての説明を行い。暫く加藤とアージェ、そして軍人とで話し合った所で国軍付の職人とも話しを持ち合い、ようやく話がひと段落したのは夕暮れ時の事であった。


 ――――

 ――――


「なんだか、色々あっという間だったなぁ。そう思わない? っていうか、最後に軍人さん……って言うのもアレだな。ジンさんと何か話してたけど、なんだったんだ?」


 加藤達と話し合いを持った、この街造りに協力するために赴いている国軍のトップ、その人の名はジンと言うらしかった。最初の方こそ、加藤とアージェ、そして軍人に補佐の4人だけであったが、話が進むにつれ、他の国軍のヒトが来たために、遅すぎる自己紹介をしたためだった。これには軍人、ジンも頬を掻いて恥を露にしていたものだ。


「んー、そうですね。ヒロ君には言っておきましょうか。ジンさんが最初の方に言っていましたよね? もう少し強気で、ってね。その事ですよ、ヒトを率いていくのであれば、傲慢さも必要って事ですね。他人の事を気にかけず、自分のしたい事をただただ命令するような傲慢さが。ですが……」


 それは本当のリーダーには必要ない。とジンは言ったのだ。本当のリーダー、つまりこの場ではレイラ達に当たる。彼女達はあのままで良いのだ、と。

 何故、あのままで良いと思っているのに、彼女達に対しては頑なに拒否の姿勢を示していたのか。それは加藤達を待っていただけだ。相手は国軍なのだ、当然ながらこの街の首脳陣についてはそれなりに調べられていたのだろう。そして、未だ確立された立場とは言いにくいとは言え、第二のリーダーである加藤が居るのを知っていた。それだけだ。

 虚像は加藤がなれば良い。強く、強く、善悪問わず、ただただ強い存在に。レイラがなるべきは偶像なのだから。そう言うのだ。


「良く分からないなぁ。なんだ、つまり俺には悪役になれって事?」


 加藤は確かに理解できていないのだろう。しかし、傲慢と言うモノのイメージはあまり良く無いものだったらしい。少なからず、不機嫌な色が声に現れていた。


「ははっ、それは僕と、ここにはいませんがギョッセさんの役目です。ヒロ君は大悪党って所ですかね? そんなもんじゃありませんよ」


「大悪党って……。そういうのに俺はならないといけないのか?」


 こういうのが大人というモノなのだろうか。そう顔に書いてあるようで、その通りの困惑気味の声色で尋ねる加藤。アージェは笑って首を振る。そうじゃない、そうではない、と。


「そう、思われるようになるって事です。別段、ヒロ君がそれになる必要は無い、いえ。なってはいけません。そう、多くのヒトに思わせるんです。思われるんですよ」


「同じじゃん……。『灯楼ひぃろう』ってそんなんじゃないと思うんだけどなぁ……」


 ヒーロー、つまりは加藤の憧れの大人達。それはそういったモノではない、そう言う。しかし、アージェはやはり首を振る。


「いいえ、それで良いんです。そうする事で、レイラ様が領主になれる。そうする事で多くのヒトが安心できる。多くのヒトはレイラ様という偶像を信じてそうなることでしょう。ですけど、忘れないで下さい。そのレイラ様の偶像は、ヒロ君の虚像があるからこそという事を」


 未だ、そうなっている訳では無い。むしろ、この現場においては加藤やアージェ達の動きのおかげで、職人、冒険者、軍人は安心して作業出来ているとすら言えるかもしれない、なくともそうなりつつある。だが、対外的にはどうか。レイラという領主が行った、そう伝わるのだ。

 ここへ移住しにくる多くのヒトは新たな街という新天地の意味でもそうだが、レイラという若きカリスマを有した領主がいるから、ここへ移住するのだ。それが理想なのだ。加藤という大悪党、目的のためならばヒトの意など歯牙にもかけない存在、それをすら駒と、いやそんな加藤ですら慕う領主がいる、そんな街だからこそ。

 そのために、加藤はこれから、強気で、傲慢で、横暴で、だけども優しい『灯楼』になるべきなのだと。


「灯りとは、明るい所ではその温かさに気がつかないもので、それが灯楼です。普段はむしろ暑苦しいと嫌われる存在、それがヒロ君なんです」


「なんだかね? いや、うん。あー、でもさ」


「ははっ、大変ですね。これから街が出来上がったとなれば、ヒトが大勢来るでしょう。そうなったら、僕やギョッセさんにヒロ君は言うんです。雑用をさせておけ、冒険者に面倒な仕事をさせろ。自治を乱すようなのがいればボッコボコにしろってね?」


 言わないよ、そう加藤は言うが、アージェは、言いますよと、そうすぐさま言い返した。言わなければならないのだと。

 レイラは街に住まうヒト達のために、それをより良くするために案を出し、ヒトのために生きていく。そういった姿をヒトらに見せていく事になる。

 反対に、加藤も基本は同じだ。ヒト達のために、生きていく。しかし、レイラの言う案を実行するために、嫌な事を、面倒な事を、疲れる事を、時には冒険者達に死ねと命令する立場になるのだ。そういった姿をヒトらに見せていかねばならないのだから。


「でも、大丈夫。灯りは灯りです。それは何1つ変わらない。そう信じていますよ?」


「良く分からないけど、変な期待をされているのだけは分かるよ……」


「はははっ、えぇ。変な期待をさせて貰います。レイラ様にも、ヒロ君にもね? いやでも、そうなるとレイラ様も大変だ」


 アージェは愉快と言わんばかりに笑う。加藤は乾いた声で笑う。とにもかくにも、男性陣は笑う。

 しかし、ついつい流れで関係の無い事でも話を楽しんでしまったために、レイラ達が待つ家屋へと戻った時には既に暗くなる時間であった。そう、何処であっても家の中では男は女には勝てないのだ。つまり、ボッコボコであった。特に、レイラとエイラからは一段と。

 その日以降、防壁陣と病院と運動場の建設は一層、その速度を上げられる事になる。理由は単純明快、本当のリーダーがいよいよとばかりにそれらの場で腕を振るい出したためである。そう、街の象徴たる人物がその姿を、その力を見せる場が整いだしたのである。

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