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異なる世界で見つけた○○!  作者: 珈琲に砂糖は二杯
第四章《美味しい空気とその理由》
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第13話 『○○→更地!』

 

 大地が大きく揺れる、それは幾度も、幾度も続けて。その騒音の原因、木々が倒れる音、そして衝撃だ。

 1つ1つではそう大したモノではない。しかしそれが百、千ともなれば計り知れないモノとなるのだ。


「ふぅ、なんか木を切り倒すコツってのが分かってきた、気がする」


「というか、坊主はやらなくていいんじゃねぇか? こんなんお前さんがする仕事じゃねぇだろうよ」


 加藤と店主は、大勢の冒険者と共に木々を切り倒す作業に従事していた。

 そう、加藤はサックルへと帰ったと思えば、すぐさまここ、セノゾク湖へとロレンを筆頭に加藤の見知った友と共に舞い戻って来ていたのだ。そんな事があったのも1週間ほど前になる。

 最初に、専門家に何処に造るのが良いのか。それを調べて貰ったのだが、それは加藤には良く分からないものであった。占いのような事をしているヒトもいれば、地面に耳を当てるのを繰り返すヒトもいた。

 結局、最も近い街、つまりはサックルへと繋がる街道のため、それが造りやすい場所を探したヒトの意見が通ることとなる。奇しくもソレはあの廃屋があった辺りであった。

 そこに広がる森、これが街を造るとなれば邪魔となるため、また街を造る上で必要な木材調達のためにこのような作業を彼らを始めとした冒険者達が行っているのが今であった。


「いやさ、俺って街が出来てから、街を守るって役職らしいんだよね? 正直今のところ、なんもする事が無いんだよ」


「あると思うんだがねぇ? まぁいい。そう言う事ならせっせと働くとするかぃ」


 作業しつつもそうした短い会話を終えると、加藤と店主は再度、斧を振りかざして木々を切り倒していく。この木を切り倒す作業は意外と難しいものだ、見ただけでは簡単そうには見えても。やみくもに振りかざしただけでは切り倒すどころか、木に斧が傷を付けるのさえ難しいだろう。

 どうやって振り下ろすのか、どこに振り下ろすのか、どの程度の力の入れ具合で充分なのか。それを加藤は何度か店主のやり方を見て、それに倣うことで覚えたらしい。素早く木の幹に斧を食い込ませ、しかしすぐに引き抜ける程度、実に見事な技を以って木々を切り倒していく。

 店主は、ほぅと感嘆の吐息を漏らして、その様子をゆっくりと眺めてから言った。


「なるほど、確かに坊主はこっちの方がいいかもしれねぇな? よし、2本同時にやってみようか、それがいい」


「ふぅ……、なんだよ? 俺は真面目に仕事してるつもりなんだけど、ってか2本同時にする意味無くない? 雑になっちゃうしさぁ」


「馬鹿、雑にしちゃ意味がねぇだろうが。見たところ、ある程度は出来ていたからな。それを普通以上に出来るようになるにゃ数をこなす事。それと普通よりも多少の無理をする事が手っ取り早いもんなんだよ」


「なんか良く分からないけど、それって店主さんが楽したいだけとかじゃないよな?」


 そう愚痴を零しながらも、加藤は言われた通りに木々を切り倒すために動き出す。最初はゆっくりと、斧を振りかざし、担ぎなおしては歩いて移動し、再度振りかざすを繰り返している。それを横目に見つつ暫くすると、店主は笑って言った。


「それもあるかもな? でもな、お前のためでもあるんだぞ? あれだ、坊主。うん、お前はここの所、移動以外じゃまともに身体を動かしていないだろう。なんだか大層な身分になるらしいが、どんな事にせよ、身体が丈夫なのは良い事だと、思うぞ?」


「ふぅ……。いやさ、俺がこうやって効率良くするために努力するのは良いんだけど、木は一杯あるんだ。店主さんもやってくれよ、流石にさぁ」


「一応、見ておいてくれって言われてたんでなぁ。あぁ、そうか。分かった、坊主。おれも一丁頑張らせて貰うとするが、どうせだ。賭けをしようじゃないか、これから1時間ほどでどちらが多くの木を倒せるか、っていうものをよ?」


「はぁ? って、おい! 勝負をするとも言っていないのにもう始めるのか!? くそっ、それは数に入れるなよなっ!」


 店主の物言いに加藤は軽く汗を拭い、そう言い返した。店主は小さく呟いた後、いきなりそう言う。すると次々と、加藤と同じように2本の木を切っていく。それは加藤と同じようで少し違う動きであった。

 木を切り倒す、ではなく、障害となるモノを切り倒すというのが相応しいだろう。

 徐々に開いていく数、いきなりとは言え勝負となれば負けたくは無いらしい加藤。どうしても店主の動きを追ってしまう。それを見ているせいで、余計に差が開いていくとも知らず。


 ――――

 ――――


「はぁ……、負けた」


「はんっ、おれに勝てるはずが無いだろう。っというのは良いとして、それなりに仕事は出来たようだな」


 1時間後、加藤達は肩で息をしながら会話をしていた。

 2本づつ切り倒すという荒業、これは非常に危険であり、作業とするならば非常識と言えるだろう。

 そのため、加藤達の周りには他の冒険者達の姿は無い。唐突に勢い良く木々を切り倒し始めた加藤達を見た冒険者達は、いそいそとその場を離れていた。彼らの最大の武器は強靭な肉体では無く、危険を察知する能力という事だろう。

 何故危険なのか。木を切り倒す。これが全てだ。そう、木を切れば倒れる。倒れる木、これは非常に恐ろしい脅威だ。当たれば痛いでは済まされないだろう。1本2本ならともかく、次々と倒れるのだ。それはモンスターの猛攻に勝るとも劣らない。

 だからだろうか、自然と加藤はやることが無いので仕方なくといった体で行っていた木を切り倒す作業。これが今では冒険者の顔となっていた。それを見た店主は実に満足気に笑う。


「くそっ、あーもう。んだよ、賭けに勝ったのがそんなに嬉しいのか? まぁ、いいや。店主さんの言うように結構切り倒したし? っていうか、これの根とか取り除くのは考えたくないな」


「坊主、これも仕事だ。というより、切り倒したのは自分で取り除くって言われていただろう? おら、まだ陽は高い。次はそれで勝負でもするか?」


「やめておく……。っていうか、陽は高いけど少し休憩しない? 昼飯だって食べてないって、そういえば」


 加藤がそう言えば、店主もそういえばと返す。その後、簡単な昼食を摂り、また作業へと戻る。他の冒険者達と同様に、単純で、地味な、しかし辛い作業へと。

 それを幾日か続けると、辺りの景色は一変する事となるのだった。


 ――――

 ――――

 ――――


 ここに舞い戻り、早いもので1ヶ月が過ぎようとしていた。

 そこには何も無い、いや無くなった大地が広がっている。木々は切り倒され、その名残すらも取り除かれている。それらの作業を行ったせいで、地面は非常に凸凹とした状態であったが、それも大勢のヒトが大地をならした事で、一応の体裁を整えられていた。

 それを見つめていたロレンが加藤に軽く言う。


「いやぁ、冒険者を工事に動員すると、こうも早いとはねぇ。カトー君らが言っていたように、モンスターも現れないようだし。うん、悪くない」


「なんかこうやって見ると呆然としちゃうなぁ。綺麗な湖畔で、そこには森があったのに、今はないんだもんな」


 加藤にとって森、つまり緑は貴重なモノであり、守るべきモノと教えられて来た。とはいえ加藤自身、そこまで自然についての持論なりを持っている訳ではない。しかし生まれた環境が環境であり、その世界で求められていたのは緑であった。それをこうして切り倒し、薙ぎ倒し、何も無くなっている現状。なにかしら考えさせられる事でもあるのかもしれない。


「はははっ、確かに悲しいものだね。だけど、全部を切り倒した訳じゃない。見たまえ、対岸には鬱蒼と茂っているだろう? 何も好き好んで木々を切り倒した訳ではないんだ」


 この世界に自然、環境の保護という概念は基本的には無い。しかしそれらを美しいと感じられる心はあるのだ。それを自らの手で汚したという事実は認識できるのだろう。なんとも難しそうな顔をしつつも、そう言って笑うロレン。


「あぁ、別にそういう意味で言ったんじゃないんだ。ただ、なんて言うのかな。何かをするには、こういうのが必要なんだなぁって」


「……そうだね。これは全部、生きていくならば全てに言える事だと、私は思っているよ。例えば、私は今カトー君と話している。これは良い事だ、だけどそのせいで可愛い娘との会話の機会を失っている。なんとも罪深いとは思わないかね?」


 ロレンは実に真剣な眼差しを向けながら、加藤に同意を求める。が、加藤の顔は先ほどまでと打って変わり、実に白けたモノへと成り果てていた。

 暫し無言で表情は違えどお互いを見詰め合っていた男2人。そんな彼らに声を掛ける者が現れる。


「……なにをしているんだ? まぁ、いい。カトー、防壁について職人達との話し合いを行うそうだ。アージェ達がお前を探していたぞ」


 それはルクーツァであった。彼はアージェから頼まれていた伝言を伝えると、さっさと来いと言わんばかりに首を振る。

 土台は一応の完成を見せた、ならば後は上に造っていくという事なのだろう。

 この場に造られる新たな街。これは今までと造る順番、そして重視する点が異なるのだ。そしてそれらの多くの提案者は加藤であった、そのために呼ばれているのだろう。


「え? もう防壁を造り始めるのか? なんか色々準備があるとかレイラ達が言ってたけど……」


「その準備にお前が必要なんだ。どうして分からない? まったく相変わらず、変なところで抜けている奴だ」


「いや、あれー? 俺の考えは言ってあるし、紙にも書いてあるのに……。んー?」


 そう言いつつも、加藤はルクーツァと共にロレンに声を掛けるとその場を離れ、簡易的に作られている家屋、その中でも大きな建物へと足を運ぶのだった。

 その後姿を見ながらロレンはまたゆっくりと何も無くなった大地を見つめる。何かを思い出すかのように、そして。


 領主ロレンが見つめる場所、そこは何も無く、何でも造れる場所。ここまでは順調だ、基本的に昔ながらの手法で行えて来たのだから。しかしここからは少し違う。ほんの少し、だが確実に今までと違う。

 造って行く順番が異なる。大切なモノの順位が変わるなど。言葉にしてしまえば、たったそれだけ、だがそれが大きい。それが重要であって、それが肝なのだ。それはきっと何かに似ている。

 他の街と同様に、街と呼べるモノを造ろうとしているのは決して変わらない事実。その違い、それをどのように造り上げていくのか。それこそが、加藤達にとって一番大切ななにか、きっとそうだろう。

 ようやく、ほんの少しだけ違うなにか、それを造る段階にまで漕ぎ着けたのだ。ようやく、ほんの少しだけ違うなにか、それが姿を現す事となるのだ。それはつまり様々な意味で加藤の道が、この異世界に存在する大きな道に交わる事を意味しているのかもしれない。

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