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異なる世界で見つけた○○!  作者: 珈琲に砂糖は二杯
第四章《美味しい空気とその理由》
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第12話 『○○→始動!』

 

「っ!? ど、どうしたんですかっ!? ヒロ君っ、その顔の傷はっ、あざはっ!? まさか、モンスターにやられたんですかっ!?」


 加藤達は下調べという名の調査を終え、来た時よりも急ぐように街へと駆けた。街に着いた彼らを迎えたのはデイリー、アージェ、レイラとニーナ。そしてラルであった。

 そしてアージェが今、加藤を見て驚きの声を上げているのだ。


「まぁ、モンスターと言えばモンスターだった。あの形相はまさしくソレだったよ」


「何を言っているんですの? 当然の報いですわ」


 アージェが言うように、顔に少しばかりの傷。とも言えない小さなモノではあるが、それに加えてやはり痣と言えなくも無いが微妙なソレを受けている加藤がうんざりとしたように肩を落として言った。

 その加藤に対して、エイラがきつく睨み付けながらも素早く言い返す。エリアスールは若干頬を染めながらも苦笑いであり、マナに至っては目を泳がせていた。

 そんな様子だからだろうか、焦ったように心配していたアージェも急に白けたように、徐々に目を細めていくのだった。


「なに、小僧の事じゃ、なにかしらやらかしたんじゃろうて。のぅ?」


「別にやらかした訳じゃないんだけどなぁ……。いやさ、現地を離れる時にさ」


 なにやら難しい話が始まりそうな最中、無言で近寄って来たラルの頭を撫でながら加藤は語る、その時の事を。


 ――――

 ――――――――

 ――――――――――――


「それでは、少し時間を頂きますわね? まぁ、無いとは思いますが、万が一の時はよろしくお願いしますわ」


 加藤達、男性陣に向けてエイラはそう言い残すと、先に湖へ向けて歩いているエリアスール達に追いつこうと少しばかり駆け足で小屋から離れて行った。


「万が一ってモンスターが出た場合だろ? そんなん、どうやったら分かるのかね?」


「いや、坊主。そこは理解しとこうか? 普通の討伐系では何を使う? ……そう、笛だな? それと同じさ、音。つまりは声、大声だよ。まぁ、声の場合にはいくつか決まりがあってな? ……おい、聞いてるか? ったく、まぁいいか」


 そう言いつつも、彼らは彼らで帰り支度を急ぐ。女性陣は各自が独自に持って来たモノは既に準備が完了している。とは言え、隊としての荷物の方が比べ物にならぬくらいに多い。

 それらを男性陣のみで行うのだ。加藤は無意識にうらめしい目付きで彼女達が向かった、少しばかり離れた湖畔を見つめた。


 ――――

 ――――


「うわぁ! 来た時から思ってましたけど、綺麗な湖ですよねー」


「そうですわね? 飲み水にも出来るという事ですし、街が出来たらそうそう水浴びをここでするなんて出来ませんわよ?」


「かもしれませんね。ですから、今は思いっきり楽しみましょうか?」


 女性陣は、身に着けていた衣服を脱ぎ去り、それを地面に丁寧に畳んでから置くと、水の冷たさを確かめるようにゆっくりと湖の中に入っていく。

 そろそろ夏間近とは言え、湖の水は冷たいようだが、しかし徐々に慣れてくると嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。


「気持ちいいですー。お風呂とは違う感じですね! なんか、ふわふわします」


「ふふっ、そうですね。あぁ、そうだ。泳ぎを教えてあげましょう、少しですがね?」


 この湖、セノゾク湖は深い場所は中央部だけのようで、水辺からそれなりに進んでも湖としては浅いと言える水深であった。とは言え、巨大な湖ゆえ中央部が占める割合の方が大きいと言えるだろう。

 その浅いといえる場所で、胸元まで水に浸かりながら、エリアスールはマナに泳ぎを教えようとしているらしい。

 水に潜ったり出たりを繰り返し、ようやくと言った感じで泳いでいると呼べるだろう行為を始めた。


「わっ、わぁ! 凄いですよ、歩かないでスイーって! これが泳ぎ、水泳ですかっ!」


「ん、はぁ。えぇ、水泳です。これは基本的に、水の中にいる食料となる魚類などを採るために生み出されたものだそうですよ? ですが、湖が近くにある街では子供達の遊びでもあるそうです。私も昔、その子達と一緒になって遊んだんですよ」


「遊びかぁ、確かに気持ちいいし、そんなに泳げたら楽しいですよねぇ。んー、なんか泳ごうとしても、沈んでいっちゃって怖いです……」


 そんな、彼女達を見ながら、エイラはゆっくりと泳ぐ。彼女も最初は教えようとしたのだが、彼女はなんとなく出来たという形であり、上手く教えられないのだ。

 その事に気を落としつつも、気持ちの良い水浴びを心行くまで楽しもうと体の力を抜いて、水に浮かぼうとした時だった。


「いっ!?」


 突然、彼女らしくもない声を出したかと思えば、エイラの姿が一瞬消える。かと思えば水面を泡立てるかのように、手足が見え隠れした。

 その事に気がついたエリアスール、マナは思わず大声で叫んでしまう。いや、叫んで当然の出来事と言えるだろう。


「エイラ様っ!?」


 それは、水音と、周辺の木々を揺らす風音くらいだった湖畔に大きく響いた。

 しかし、そんな事には気を回す余裕もなく、エリアスールは急いで水の中で暴れているように見えるエイラの下へと泳いでいく。

 幸い、沈むと言っても1mと少し程度、エリアスールが辿り着いた後、すぐさま呼吸器官は水面上への帰還を果たし、嬉しそうに機能を回復させた。


「げほっ、げほっ! えっえほ、すいません……。足がなんか、痛くなってしまって」


「いえ、大事が無くて何よりでした。さぁ、ひとまず戻りましょう? 少し休んだ方が良いと思いますよ」


 そう言うと、エリアスールの肩を借りるようにして、彼女達は水中から陸地へと戻る。それに釣られるように、マナも戻ろうとするが、水中での動きには未だ慣れず、同じく泳ぐ事もままならないために、非常にゆっくりとした動きであった。


 そんな未だ水中に全身を隠しながら急ぐ少女を後ろに、エリアスールとエイラがようやく水辺まで辿り着き、腰を下そうとした時だった。


「おいっ、大丈夫かっ!?」


「え、え?」


「……あれ?」


 ――――――――――――

 ――――――――

 ――――


「っていう感じで、ボコボコにされましたが?」


 加藤は所々省きながらも、簡潔に説明をした。しかし、その拙い説明では周りには良く伝わらなかったようだ。が、要はデイリーが言った事だったと分かったので皆、やはりと言う顔で頷いていた。ラルまでも、である。


「だから言っただろ、坊主。声の場合は決まりがあるって、叫び声だけじゃ不十分なんだよ。三回以上、間を置かず叫びと言える大声の場合が合図なんだってよ?」


「聞いてないってのっ! ったく、てか!? そうなら止めてくれってあの時も言ったろ!」


「はっはっは、なに。例え1度だけでも、助けが必要な場面も多々あってな? これはあくまで基本でな。あの時も1度だけだったが、本当に大丈夫なのかは分からなかった。まぁ、お前なら良いだろうと」


 ルクーツァがそう言い、加藤がそれに反論を再度行おうとしていた。が、デイリーがいい加減にしろ、と言ったのだ。それを合図としたように、再開の挨拶のようなモノが終わり、ようやくと言った感じで領主の屋敷へとその場に居た皆で足を運ぶこととなった。

 しかしラルだけは先に家、『砂漠の水亭』へと途中近寄った時に戻っていき、帰りを待っていると笑って別れたのだった。


 ――――

 ――――


 領主の屋敷へと到着すると、元々ここに居住していたエイラとエリアスールは自分の部屋へとまずは戻った。同じく、ここには住んでいないものの、女性であるマナも今回の調査を機に急速に仲を縮めたエリアスールの部屋へと行った。

 女性には色々あるのだろう、冒険者としてならば体力的には余裕もあるが、それとこれとはまた違うのだ。


「やぁやぁ、元気そうで何より。あそこはどうだった? ……ははっ、そうかい。良い経験とその他を出来たようで何よりだ。いや、しかしレイラを行かせなくて良かった」


 そんな女性陣がいなくなった広間に、明朗な声を響かせるのはロレン。この街の領主である。

 加藤が調査の事を、それに加えてデイリーが小声で何かを言うとロレンはうんうんと頷きながら、そう言った。


「どういう意味だよ」


 加藤はアージェに驚かれた時と同じように、しかしそれ以上に肩を落としながら、分かっている答えを聞くためにそう言う。


「そういう意味だよ」


 にこにこと満面の笑みを浮かべながら、やはり想像通りの答えを返すロレン。そんな懐かしいやり取りを見ていたルクーツァが、軽く咳払いをした事で、ロレンが小さく頷いた。


「さて、冗談はさておき。実際のところはどうだったかな?」


「うむ、昔の頃とそう変化はなかったと言えるだろう。あぁ、頼まれていた木々の見本は後で見てくれ。……ただ、ほぼ周辺に変化は無かったが、ひとつ気になる事があってな」


 簡単な言葉でそう言い切るルクーツァ。しかし少し沈黙した後、真剣味を持たせた声色でゆっくりと語り出す。それは大型の死骸のことである。

 以前から、あそこ、セノゾク湖が貴重な水場という事でモンスターが大挙するという事は分かっていた。その事もあっての昔であっても存在した堅固な防壁を持つ街だったのだから。

 ただ、この時期。そろそろ繁殖期に入っていても何らおかしくは無い時期だというのに、小型でさえそう遭遇する事は無かった。更に湖に到着してからというものはただの1度たりとも。

 つまり、と一呼吸置いて、以前湖畔で考えた推測をルクーツァは朗々と語る。それにロレン、デイリーは昔の事を、対大型戦の時を思い起こしながら耳を傾け、レイラ、アージェなどは予想していなかった事態に目を丸くしていた。


「と、いう事を予想している。どう、思う?」


「うん、確かにあの戦。いつ倒れてもおかしくは無いと私も感じていたよ。だが、逃げて行った。とは言え、やはり死んだのだろう。それがセノゾク湖周辺という考えは、距離的に考えても妥当だと思う」


「そうじゃの、あやつは運が悪かった。丁度新型の対大型兵器が出来上がった頃じゃったからのぅ。どれほどの効果があるのか分からんと言う事で、撃てる限り撃ったからの……。達人級も多かった、兵器が無くとも勝てるのではと思える程の猛者がおったよ。ロレンの父君、先代などは筆頭じゃったのぅ」


 懐かしむように、思わず顔が綻ぶ思い出と、苦い思い出とを思い出したのだろう。嬉しそうな、悲しそうな顔が出たり引っ込んだり、それらが混ざり合って普通の顔というなんとも言えない変化をしながら語る大人達。

 反面、大型の死骸があるという可能性、いや事実と思える事柄に触れたレイラとアージェ、そして既に知っていた他の面々も複雑な顔であった。

 大型という恐怖を未だ知らない故の想像。それだけで自然と体の芯から冷えてくる思いなのだろう。そもそもモンスターというのが恐怖の権化なのであって、その中でもやはり大型は特別なものとされているのがこの世界なのだ。死骸であっても怖いものなのかもしれない、聞いただけでじわじわと恐怖が込み上げてくるのだろう。ただ1人、加藤を除いて。


「まぁ、大型の死骸があるってんで時間があるってのが分かったんだ。だからさ、ロレン。急ぐべきだと思う……ってルクータ達が言ってたよ?」


 大型を思い浮かべようとも、加藤は恐怖する事は無い。別に恐ろしくないと思っている訳では無いだろう。以前、小型相手の恐怖に負けたくらいなのだから。

 実際に大型を前にした時には何も出来なくなるほどに恐怖するのかもしれない。しかし今は居ない。ならば関係あるまい、想像に震えるなど無意味なのだから。幽霊は怖いが、恐怖の権化の想像は怖くないと、良くも悪くも加藤はこの世界の住民とは異なっており、以前の世界の若者だったのだ。


「君は、なんというのだろうかね。余韻、いや違うか。まぁいい、このような思いを抱いている暇は今は無いというのは確かだからね? ……うん、私もそう考えるよ、幸いとして石材という輸送で一番の問題はほぼ解決できている」


 この世界で街を造るというのは、そもそもが犠牲を織り込んでいるものだった。しかし、少しの期間、その犠牲を最小限に出来るかもしれないというのだ、急ぐべきだろう。

 街を造る上で最も重要な材料、それは石材、木材、最後に人材だ。石材はサックルに既に多くが届けられている、木材は以前に加藤が出した提案通り、石材と同じように最低限、必要な分は加工済みであり、後は運ばれるのを待つのみだ。

 この最低限というのは、街を造る職人、それらを守る冒険者のための仮住居のためのものだ。今の時期はまだしも、厳しい冬を耐えられる程度は必要になってくるのだから。加藤の言うような方法は結果的に無理だった、街全てを造るために必要な材料を加工させ、運ばせる。これは余計に金が掛かってしまうという欠点と、時間が掛かるという問題があったためだ。だが、必要最低限という限定であれば可能と判断され、このような流れとなっていた。

 ちなみに国軍は独自にそれらを行ってくれる。そのため、国軍が本格的に街造りに協力できるようになるまで少しばかりの時間を有する事となるが、これは今はどうでもいいことだ。

 そういった諸々の事を簡単に言った後、ロレンは一呼吸置いておから軽く言った。


「まぁ、そういう事だから君達はひとまず休みなさい。ちょっとしたお使い程度のつもりだったが、いやはや良い情報を貰えて嬉しい限りだね。さて、アージェ、君は休む必要などないだろう? 話を詰めようじゃないか」


 ロレンは早口にそう言い切ると、アージェ、デイリーを連れて広間から姿を消して行った。それを見つつ、加藤はため息を吐いた。


「ふぅ、なんだかね? 街を造るってのはどうも分からないや。下見にしても、このやり取りにしても、なんだろうなぁ」


 加藤はこの場にいるのがルクーツァだけというのを良い事に、そう本音を漏らす。ルクーツァもまた、部屋の中はもちろん、周辺にもヒトが居ない事を確認してから、苦く笑いながら答えるのだった。


「そう言うな。ここではこういうものなんだ。本当なら、国軍、冒険者が大勢で、大軍であの湖を占拠し、そして街を徐々に作り上げていくものだった。それが少しでも計画的になったのだから、充分というものだろう?」


「占拠ねぇ。いや、俺の考えはそういうのが必要の無いものだからさ。でも昔はそういうものだったのかも、うん。ってか冬もあそこに残るのか?」


 加藤はそこを気にしていたようだ。やはり自分で提案したものが関連している事柄だからだろう。

 それにルクーツァは少し頭を悩ませるようにしてから、小さく言う。


「いや、オレも詳しい訳ではないんだがな。別に冬の間も街造りをする訳ではない、というより出来ないだろうな。そのため、多くのヒトは近くの街へと移動するんだ、が。現場を管理というか、うむ……そこを見ておくとでも言うのか? そういった事をする者が必要なんだ」


 そのために最低限の家屋は必要なのだ。そう言い切ると少しばかり満足気にするルクーツァ。加藤はなるほど、と理解しているのかいないのか分からないような声を出して、うんうんと頷いていた。


「つまり、もうそろそろ街を造れるわけだなっ!」


「そうだと言っていただろう……。恐らくは手続きをして、いや。憶測とは言え状況が状況だ、明日にでも諸々の事が動き始めるやもしれんな?」


「そうか、緊張するなぁ」


 ようやく、ようやくと加藤達が言い続け、本当に動き出した。それは本当に急激に、心の準備どころか、そもそもの実力すらままならない状態で、それは動き出すのだ。

 しかし、急いで動き出す理由が理由。それは加藤達の経験を積むという時間を奪ったものだが、反面その計画自体の難易度を極端に下げるとも言えるのだ。

 最大の問題であったモンスターの襲撃は恐らく少ない、それも想像以上に。本来、職人などと比べて遥かに力仕事に向いている冒険者も作業に加われる可能性すら出て来た。より一層、作業を効率的に、素早く行える事だろう。それはつまり、多少のミスがあろうとも十二分に補えると言う事にも繋がり、心の余裕になるだろう。


 物事の全てには裏があり、それは全て悪い事とは限らないと言う事だ。

 若者に訪れた試練と、若者のための僥倖、それは1度にやって来た。これから加藤達は苦労する事となるのだ。冒険者として、ではなく大人として。

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