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異なる世界で見つけた○○!  作者: 珈琲に砂糖は二杯
第四章《美味しい空気とその理由》
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第10話 『○○→遅々!』


「ふぅ、食べた食べたっと。しっかし、流石に干し肉とかばっかりなのは飽きてくるなぁ」


「ふんっ、仕方がねぇだろうが。坊主やお嬢さん方が旨いもん食いたいってごねるもんだからよ? 本当は最初みたいな料理は間隔を空けてやるもんなんだがね?」


 この場を訪れ、既に早いもので1週間が経過していた。着いてからというもの、彼らは辺りを調べに調べた。しかし、分かった事はそう多くはなかった。

 大きな湖があり、それを囲うように木々がある。という事だけだ。ひとまずは湖の周りを調べたという形で1週間は過ぎていた。

 しかし、警戒を行いつつも大きな湖の周囲を調べるというものは意外と大変なもので、1週間でソレが終わった事は喜ぶべきことだろう。


「うっ、すいません……。美味しかったから」


 そんな事を言い合っていた加藤と店主に対して。干し肉を小さく口に含み、口内で柔らかくしながら食べていたマナが少し申し訳なさ気に言う。

 やはりこの環境で一番疲労しているのはマナであり、それを和らげるためか食事を誰よりも楽しみにしていたのだ。そのためにこういった場での豪華な食事、というものを連日続ける事となり、結果として最近では寂しい食事と化していた。


「ふふっ、いえ。私としても流石に緊張していましたから。マナさんには感謝しているんですよ? 最初にあれだけ日常を感じられる食事を出来たのは、本当に助かりましたから」


 日常を感じられるモノ。それがここでは食事だったのだろう、いつもと変わりないような暖かい食事、それは栄養面だけの効果に留まらないという事だろう。精神的に大きな助けとなる、最初期にソレを得られたことである種の自信も得られるかもしれない。そして、結果としてソレは成功していた。


「はっはっは、まったくだな。カトー、お前は別としてもエリ嬢、エイラ嬢やマナ嬢にとってはこの場は厳しいんだ。その程度は許してやれ」


「いや、あのさ? 俺は別にそういった意味で言ったわけじゃっ」


 こうした流れは夕食時では最早いつもの事となっていた。加藤を皆で責めるというものだ。全ての失敗と思えるモノ、それを加藤が悪いという流れを無理やりにでも作る。

 この流れで大きな役割を担っているのは当然であるが、全てを受け止める加藤。そして、それ以上に大きな役目を担うのがエイラである。

 食事の例から分かるように、どうしてもマナが失敗を犯す事が多い。それはどうしようも無い失敗ではない、しかし小さなソレが積み重なれば自然と、である。

 そんな時に加藤にソレを全て押し付けてマナを守るだけでは、隊としての平穏を維持する事は出来ない。そのためのエイラだ。


「いいえ、カトウ? 貴方はいつもそうですわ、言葉遣いというものを良く考えて使いなさい? そうっ、あの時もっ!!」


「あの時ってどの時だよっ!?」


 加藤に押し付けられる責任、それを周囲にとっては笑いとさせる能力である。そう、すなわち喧嘩である。これは諸刃の刃であるが、行使する両者によっては欠点が消えるものだ。

 切欠がなんであれ、喧嘩が始まれば周囲はソレを止めるために動く、切欠を解決させるのではなく、喧嘩を解決させるのだ。汚い言い方をするのであれば曖昧にしてしまうという事。

 このやり取りは甘く見れたものではない。規模が大きくなった時、このやり取りが行える事の重大性は恐ろしいものだ。そう、これもまた豪華な食事と同義なのだ。

 彼らはいつもの光景を時に諌め、時に笑いながら夜を越していく。


 ――――

 ――――


「っあー。なぁエイラ、これって意味あるの? なんでこう歩き回るだけなんだよ? 」


「何を言っていますの? こうして自ら歩いて辺りを調べる……、これが重要ですわ」


 翌日、加藤達は手分けして辺りを以前よりも丁寧に調べるという段階に上げた調査を行っていた。それは以前はただただ歩いて過ぎるだけだった場所で、時々立ち止まり、そして見回すというモノ。

 調査というよりは散歩と言うべきところだろう。事実として加藤はそう感じ、なんのためにココを訪れたのかが分からなくなってきているようだった。


「そうは言うけどさぁ。これって、意味あるの? なんか、地面を掘って地質がどうたら~とか、遠くから見て平らかな~とかさ?」


「なんですの、それは。地質という事でしたら、先程から調べています。それに平らかどうかなんて、見ていれば分かるでしょう?」


 加藤の問い、加藤自身としては正しいと思っている知識をなんとなく口に出したモノ。それにエイラはため息を吐きながらも丁寧に答えた。

 まずは足先、それで地面を突き刺すような素振りをしてみせる。ただそれだけだ。次いで辺りを見渡す真似をして、自信気に胸を張る。長期の滞在ゆえなのか、夏本番となりつつあるからなのか、彼女は薄着の上に防具を着用するという格好だった。その行動に顔を赤らめつつも加藤は言った。


「いや、そのな? んんっ、こう木が一杯あっちゃ平らかどうかなんて分からないだろ? それに少し掘った程度で分かるのか?」


「ん? そうですわね、確かに木が邪魔かもしれませんわね。では、カトウ。……切りなさい」


「無茶を言うなっ! 1本、2本ならまだしも、何百本、何千本を切らせるつもりだっ!?」


 ついつい大声で言ってしまう加藤。それを聞きつけたのか、手分けをしていた他の面々が近寄って来た。手分けとは言え、声の届く距離を保っていたのだ。


「まったく、いきなり大声など上げてどうした? 何かあったのか?」


 最初に姿を現したのはルクーツァだ。やはりというか、加藤がそれなり以上の実力を得ている現在になっても過保護な面は消えていないようだった。その実力者のルクーツァが贔屓ひいきしているためか、デイリー、店主とした達人級もそれに近い見方であろう。最も、最近の加藤にはそれをしても咎める必要性を感じさせない程の重責を負わせているという面もあるのだろう。


「あぁ、いや。なんでもないよ、ちょっとな?」


 友人の目の前で親に過剰な心配をされる、という感じの羞恥に近いモノを感じたのだろうか。加藤は微妙に顔を赤らめながら、なんでもないと腕を振りながら繰り返す。


「いえ、カトウがこんなやり方でいいのか? などと言い出しまして。一理あるかと思いましたので……」


 エイラが加藤が先ほど言ったような事をつらつらと述べていく。その間にルクーツァ以外の面々もこの場に集まってきていた。


「ほー、そういうやり方もありかもなぁ。場所が場所ってのも有るかもしれねぇ」


 街は基本的に平原と呼べる場に作られてきたモノだ。サックルを始め、多くのものがそうと言える。

 そのため、加藤の疑問がそもそも必要ないものだったのだ。昔から使われて来た方法、それで全て確認できる。そうでなくとも、それを行えば一応の信頼性を多くのヒトが抱くというものだ。

 しかし、この場は木々が所狭しと並んでおり、草原でのソレを行う事は難しい。無論、このように地道に歩き回るだけでも不可能ではない。やり方さえ確立すれば出来ないものではないだろう。

 しかし、そのやり方は見て回るというものだけだ。測量というものすら使われていない。

 高低差などを測るのは己の感覚のみというものだ。加藤としてはこの方法に信頼があまり置けないのだろう。事実として、それはこの場にいる個々人によって差が生まれるものだった。

 だが、加藤はこのように技術を必要とする場面において、どうしても以前の世界での価値観、考え方などに捉われてしまう欠点がある。しかし、ヒトの感覚というものは決して甘くみれたものではない。

 環境によってヒトは大きく変わる。これは以前の加藤の世界でも立証されていることだろう。双眼鏡といった器具を必要とする程の距離でも、己の眼のみで視認する事の出来る視力を有するヒト。或いは生まれつき眼が見えないために、聴覚が異常に発達しているヒト。ソレは様々だ、しかし持たない何かを補うかのようにヒトはそれを新たに造り、時に普通のソレを遥かに凌駕する。

 これもまた同様なのかもしれない。そういった技術は無い、しかし街などを造るためにはそういったモノが必要。ならばヒトの感覚でそれを補うというものだ。


「まぁ、カトーの言う事も分からなくは無い。が、大体分かるだろう?」


 ルクーツァの言葉が全てを表しているだろう。それは極めて雑、しかしそれで十二分なのだ。

 何故か、それは街というよりも、何かを作り上げるそのやり方、その流れが異なるためであろう。

 以前の世界でのソレは線であると言えよう。全てが繋がっているものだ。ゆえにそれぞれでの正確さが求められる。加藤達が行っているソレでも、サックルに着々と集められ始めた材料もそうだ。それらが綺麗な線となっているのが以前のソレなのだ。

 しかし、この世界は違う。

 この世界でのソレらは点なのだ。1つ1つを作っていく。そのため、全体としてどうかという考えは然程重要視されてはいない。今、彼らが立っている場所に建物を作れるのか、立っている場所に防壁は造れるのか。この場でソレが作れるか否か、それが重要なのだ。それらを作っていく、点をいくつも、いくつも作っていく。

 勿論、大枠としての計画はある。そのために思い描く線に沿って点を打つ。そうしていくと、所々歪ながらも最終的には線になるというモノだった。


「んー、うん。いや、ちょっと思っただけなんだよ。気にしないで、さっ! なんか集めちゃったみたいで悪いな? お仕事をしましょうかねぇっと」


 加藤としては街を造るために、こうした方がいいのではないか。そういう疑問を抱いたに過ぎない。

 彼は街どころか、きちんとした建物すら建てた事は無いのだ。なんとなく、そうした方がいいような気がする。こう言えばソレっぽく聞こえるだろう。そういう部分も少なからずあったのかもしれない。少しばかり照れるようにしながら足早に皆の近くから離れていった。


「まったく、なんですの? こらっ、少しお待ちなさいっ! わたくしを置いていくつもりですのっ!? 今日はわたくしと一緒という事でしたでしょうっ、こらっ!」


 そう、怒声には聞こえない声色で、怒声で言うような文句を口にしながらエイラは加藤の後姿を追う。

 その彼女も木々の中に消えていった時、店主が頭を掻きながら軽く言った。


「いやはや、なんとも元気なもんだぜ。おれとしちゃ、こういうのは面倒で嫌いなんだがねぇ。ったく、ここらは坊主どもが見た事もあるが、大丈夫そうだ。おれらも他のところを見てくるとするかねぇ」


「うむ、ここらは大丈夫そうだ。そして……。ふっ、カトーはそういうのが嫌いではないらしいのでな。防壁修復工事を請けた時も、実に嬉々として働いていたものだ。こういう仕事がむしろ好きなのかもしれんな?」


「……あっ、凄いんですね。カトウさん、職人さんでもあるんですかっ!?」


「いえ、そうではありませんよ? ただ、そうですね……。なんと言えばいいのか、趣味のようなモノ、とでも言うのでしょうか。上手く言葉に出来ませんね」


 マナはこういった仕事に不慣れだ。店主やルクーツァは長年の経験で。エリアスールも生まれながらにしてこういった事に慣れ親しんでいる。どうしても仕事の間は専門的、用語ではなく体感ではあるが、そういった会話のソレばかりなのだ。

 彼女では、ソレが何を意味しているのか未だ理解出来ない。

 マナがこの場で会話を、いる意義を感じられるのは加藤の話題を出して猛者達に笑顔を与えた瞬間だけと言えよう。

 武の話題では自分では不十分、智でもそうだ。だが加藤の話題であれば自分だけが知っていることがある。それを話すと実に興味深げに耳を傾けてくれるのだ、特にルクーツァが。

 小さな、小さな貢献で猛者達に大きな安らぎを与えながら、マナは必死にこの場で生きていた。


 ――――

 ――――


「ふぅ、食べた食べたっと。しっかし、干し肉ばっかりってのもって……。なんか前も言った気がするな?」


「言った気がするな? ……ではないでしょうっ! それ以前に、食事の際にそれに文句を付けること自体が間違いですわっ。いいですか……、こういった生活の場合ですねっ」


「あー、良い。良いよ、ソレは覚えてるからさ、うん」


 今日の調査も終わった。そして何時も通りに夕食を摂っている時、加藤が最近での口癖とも思えるソレを口にした事で、やはり何時も通りにエイラと口論を起こす。

 加藤がエイラの文句を流すように言ったためのだが、覚えているのに何故言ったのかと、逆に火を点ける事になったため。何時もよりも盛大にそれは繰り広げられていた。


「うわー、エイラ様。なんていうか、元気ですねぇ? 調査が終わった後はわたしと一緒になってヘトヘトになってたのに」


「ふふっ、元気だったのではなくて、元気になったのですよ? そうですね、マナさん。冒険者として大事な事を教えてあげましょう。先ほどまでの疲れ果てていたエイラ様、それはモンスターと交戦し、傷ついた状態としましょうか。でも、今はあんなに笑顔です、疲れは取れていないのに……、何故でしょうね?」


 エリアスールはそう言うと、手に持つ木製の椀に入ったお茶をゆっくりと飲む。そして視線をマナに向けると少女はうんうんと唸りながらソレを考えていた。


「分かりませんか? きっと、マナさんも感じた事のあるモノのはずですよ? 話に聞いた限りでは、ですがね」


 そう言うエリアスールは、視線をマナからマナの腰元に丁寧に置かれている大剣へと移す。つられるようにそれを見ながらも少女は小さく漏らす。


「感じた事のあるもの? ……、うーん」


 大剣を撫でながら、マナは首を傾げてまた悩む。しかしエリアスールはその様子を見てから、笑みを浮かべて口を開いた。


「正解です。それですよ、それが正解なんです。ふふっ、理解できずとも、貴女は知っています。そういうことです」


「えっと、良く分からないんですけど……。教えて下さいよー」


「いいえ、その必要ありません。マナさんも感じているソレ、それに近いものをエイラ様が今感じているという事ですよ」


 エリアスールとマナの対面では、加藤がエイラに叱られたからか、少しばかりげんなりとした顔で、エイラの言う事に律儀に頷きを返している、させられていた。

 それを見ているエリアスール、その顔を見たマナ。少女が不意に見つめていた女性に声を掛けた。


「エリアスール様も、なんだか元気になっていますね?」


「……そうかもしれませんね?」


 ゆっくりと、調査が進んでいっていた。ゆっくりと、ゆっくりと。しかし確実に。

 明確に、詳細に、数字化出来なくとも、分かるものがあるということなのかもしれない。それは今回の下調べというモノだけではなく、他のモノでもそうなのかもしれない。

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