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異なる世界で見つけた○○!  作者: 珈琲に砂糖は二杯
第四章《美味しい空気とその理由》
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第8話 『○○→到着!』


「ふぅ、ここに……、また来る事になるなんてなぁ」


 ここは加藤にとって思い出の場所、つまりはあの湖である。

 加藤の小さな準備を終えてから1週間ほど経って、いよいよとばかりに出発したのだ。そして到着したこの場所、特に湖にはどうやら正式な名称があったようで、セノゾク湖という名前。

 ここの付近のとある場所にて加藤はルクーツァと出会い、今日に至るのだ。

 数週間掛けて加藤達はここに辿り着いた。以前よりも早く到着できたのだが、その理由。それは1つに加藤の成長、2つに以前は遠回りであったという事であろう。

 そしてその一行、面子は加藤、ルクーツァ、店主、加えてエリアスール、エイラ、マナというものである。本来はもう少し大勢の冒険者を雇うはずであったが、店主という達人級を加えたというのは大きかった。衰えたとはいえ、その経験はそこらの冒険者の力とは比較できないものがある。

 そして加藤だ。籠手という武器を得た彼の動きは変わっており、見ていて何処か安心できるものとなっていた。それを見たロレン、デイリーが変に人数を増やすよりも少数精鋭の方が好ましいという判断を下したのだ。

 エリアスールは最初から決まっていた面子であるが、エイラとマナは余計なものといえよう。自分から着いて行くと言って聞かなかったのだ。

 エイラはまだしも、マナは実力も低すぎるため厳しいものであったが、ギョッセが加藤に一言頼んだために、加藤が折れたというものだ。


「うぅ、やっぱり怖いです……。で、でもっ! 師匠の代わりにわたしは頑張りますっ!」


「はぁ……、ギョッセに頼むって頭下げられなかったら許可なんてしなかったのに」


 加藤は今でも後悔しているようであった。足手まといが増えているという事実に対してではない、少女を危険に晒してしまうかもしれないという意味でだ。

 そんな加藤に何処かルクーツァと似てきている店主が、しかし真剣な表情で言う。


「ばっか、おめぇ。そこは坊主がどうにかするってぇもんよ。相棒だったか? そいつがおめぇに頼んだのは坊主、おめぇを信頼してっからよ。それを裏切るんじゃーねぇぞ!」


 ギョッセはなんだかんだ言いつつもマナの師匠となっている。身体を動かせないので暇つぶし、という軽いものが切欠だったのかもしれない。だが、今では真剣に少女のために考えている。

 こういった場での経験はマナの大きな財産となることだろう。

 それは加藤にも分かる、なにより自身にとってもそうなるだろうと感じられるのだから。マナにとってはそれ以上というのは考えるまでも無い。

 しかし、マナは残念ながら未熟である。

 冒険者として、というのは語弊があるだろう。ただただ非力なのだ、万が一の時にはまさしく弱点と言える。危険な場での行動の際には1人の失敗が全体への危険に繋がることなど普通の事で、だからこそ少数精鋭という判断だったのだ。そこに弱点マナである。

 しかし弱点というものは戦いにおいて全てにあると言えるだろう。冒険者として弱いという事だけではない、そも冒険者とは力無きヒトを守るための職なのだ。

 つまりは無力な大勢のヒト、これもまた戦いにおいては弱点と言えるのだ。それは新たな街を造るというのであれば避けては通れない、いやこの世界で生きていくのであれば決して逃れる事の出来ない道だ。

 特に加藤は守る側の筆頭として立っていく事になる。マナの1人も守れずしてヒトを守れるわけもない。それを立場からではなく歩んできた長い道のりで店主は分かっているのだろう。だからこそマナについては何も言わず、それについて悩んでいる加藤を叱咤するのだ。

 そこまで考えてギョッセが加藤に頼み込んだわけでは無いだろう。ただ、その時であっても同じように言うはずだ、ギョッセは必ず言うだろう。頼りにしている、と。

 そのように言われてしまえば、加藤としては相棒の頼みを断る事など出来はしない。結果、マナも同行する流れとなっていた。


「あらあら、カトウはわたくしとマナちゃんの護衛でもあるんですのよ? しっかりと働きなさい」


「エイラ、お前なぁ……。あぁ、もういいや」


 エイラはマナよりも遥かに強いだろう。

 しかしルクーツァ、店主、そしてエリアスールという武人と比べれば格段に劣る。その中に入れるのはこの場に残る他のヒトでは加藤だけなのだから。そういった意味では彼女もまたマナと同様に足手まといと言わざるを得ないヒトだろう。

 だがそれは武力という視点で見れば、である。他の視線で見れば彼女はある意味で今回の目的で一番重要と言える力量を持っているとも言えるだろう。本来であればアージェの予定であったが、彼では反対に武力が低すぎる。結果、武と智のバランスが取れている彼女になったのだ。


「それで、ここで何をすればいいんでしたか。カトーさん、言って貰えますか?」


 そう言うのはエリアスール。その表情は悩んでいる色ではなく、楽しんでいる色だ。

 この下見という目的のために集められた冒険者達、その隊長リーダーは名目上ではあるが加藤なのだ。だからであろうか、彼女を含めルクーツァにしろ、店主にしろ全て分かっているだろうに、ことある毎に加藤に指示を請う。

 この場での行動は加藤にとっても大事なものなのだろう。今は知った相手であるあからまだ良い。しかしいずれは多くのヒトにそれを出来なくてはならないような立場になるのだ。この程度、こなせなくてはどうしようもないと言うことだろう。


「うん、もう少し行った所に小屋があるはずなんだ。そこにまずは向おうと思う。うん……、湖の周りを歩けば着くから気楽に行こうか」


 加藤は最初こそ、それを拒むような素振りを見せていたものの今では見事にこなしていると言えるだろう。それは簡単な言葉だ、誰もが知っている知識だ。

 だが、それを言う。口に出して伝える。それは難しいことだ。戦闘であれば自身のみの重みであるが、これは大勢のヒトの命を背に乗せた重みだ。まさしく桁が違う。

 当然の考え、当然の選択、当然の決定。これらを言うだけでも酷く疲れるのだから。その中でも長としての心構えを忘れてはならない。特に今回はマナという少女がいるのだから、その心を無視してはいけない。なぜなら加藤は隊長だからだ。


「周りですかぁ……。へへっ、わたしこんなに大きな河を見た事ありませんよっ! 見ながら行けるのは嬉しいなぁ」


「……そうですわね。ここに街を造れば、何時でも見れるようになるんですもの。この景色を他の皆さんに見せるためにも頑張らないといけませんわね」


 エイラ、そしてエリアスールはラルの時もそうであったが世話好きのようである。こうしてマナと常に一緒におり、話し相手となる事で少女を大いに助けていた。それは、少女のためだけでなく、加藤のためにも大きな助けであろう。


「ふむ、小屋へ行くか。あそこを拠点にするというのは悪くないな。だが、そう多くは入れないぞ? 詰め込んで3人というところだろう」


「基本的にマナちゃんとか、女のヒトって事でいいんじゃないかな? 俺らは外で寝ればいいよ」


 少しばかり先を歩く女性陣の後ろを追うように歩く男性陣。

 右手にある湖を眺めながら、彼らは周囲に気を配りながらも同じく雑談を楽しむ。


「ふんっ、それがいいだろうな。なんだかんだ言いつつ、エイラってガキも緊張しっぱなしだった。口ではあぁ言ってるが、身体の動きで分かる。本質的に無意味とは言えよ、小屋の中では多少の安心もあるだろうさ」


「まぁ、野宿みたいなのは以前もしたんだけども。街道とここじゃ、やっぱり違うって事なんだろうなぁ」


 それは当然であろう。言うなればこの場はモンスターの縄張りであり、街道、つまりは街がある範囲はヒトの縄張りなのだから。

 外で寝るというのは同じ事であるが、その場がどういった場所かでその心持は大きく変わる。


「おめぇは……、いやまぁ。そういうこった」


「ふっ、それよりも。万が一の時のことを更に話し合おうではないか。エリ嬢はエイラ嬢、マナ嬢の護衛。オレと店主、そしてカトーで敵に当たるわけだな?」


「うん、基本は俺と店主さんが前衛を務める。ルクーツァは俺らとエリアスールさん達の両方の援護って感じで頼むよ」


 既に決めてあった事の確認作業。これらを繰り返している内にいつかの湖畔へと彼らは辿り着いていた。


 ――――

 ――――


「ふむ、陽が落ちる前に着けたのは僥倖だな。それで、カトー……、これからどうする?」


「あぁ、小屋を見てきたけど、少し壊れてた。まぁ当然なんだろうけど、少し直そうと思うんだ。その間、ルクーツァと店主さんは警戒しておいて貰えないかな?」


 夕暮れ時になり、この場へと到着した加藤一行。

 流石に調査とはいかないようで、今日はそのまま休む流れのようだが小屋の修繕を行いたいと加藤は言う。

 隊長かとうの言う事は基本的に決定事項である。ルクーツァも店主もそれに異議を唱えることはあまり無い。言われた通りに彼らは少しばかり小屋から離れて視線を巡らせ始める。

 それを確認してから加藤は女性陣に声を掛けるのだ。


「エイラとマナちゃんはここで少し休んでいてくれ。エリアスールさんっ、ちょっとっ!」


 加藤はエリアスールを呼ぶと身振り手振りで説明を始める。それに頷きを返すと、加藤と共に森の方へと歩いていった。森の方は夕暮れ時というのもあり、少し入ると薄暗くなっており、すぐに加藤達の姿は見えなくなった。


「なにしに行ったんですかね? 森の方に行っちゃいましたけど、大丈夫なんでしょうか?」


「えぇ、そうですわね? まぁ、あまり認めたくありませんが、今のカトウであれば問題はないでしょう。ですけど、一言何をしにいくかというのを言っていくべきですわっ。これは後で説教ですわねっ!」


 エイラが頬を膨らませながら声を上げて、マナはそれを鎮める。そのような他愛も無いやり取りを行って数十分。

 ようやく加藤達が森の中から姿を現した。その腕には木材が握られていた。そしてそれを持つ加藤の目は実に楽しそうなもの。加藤に対してなにかを言おうとしていたエイラはその表情を見て口を閉じた、が。


「ん、んんっ! 一体何をしに行っていたんですの? 隊長という立場で慢心しているのではないかしら? どのような事であろうとも報告、連絡、相談をして頂きたいものですわねっ!」


「え? なんかソレどっかで聞いた事があるような? いやまぁ、それはいいけどさ。言ってただろ? 小屋を修復するって、そのための材料を採りに行ってただけだよ」


「ふふっ、カトーさん。エイラ様が言いたいのはそうではないですよ? 小屋を修復する事は言っていましたが、そのために必要な材料を採りに森に行く事は言っていません」


 加藤の反論を、エイラではなくエリアスールが訂正させた。そうではないのだと。

 物事というものは難しいものだ。それは常に動いているのだから、色々と考える事は移ろう。直したいという事を伝えた後に、そのために必要なものが無いと気付く、そして行く。

 加藤の中ではそれらは一連した物事であり、伝えてある事だったのだろう。しかし他の者にはそれが分からない、いや察せたとしても確かかは分からないのだ。

 だからこそエイラは言ったのだろう、次からは気を付けて欲しいと。


「あぁ……、うん。それは悪かったよ、まぁ今度からは気を付けるから、な?」


「なんですの? その軽い返事は、本当に分かっているのか疑問ですわねっ!」


 加藤は尚も言ってくるエイラから逃げるように小屋へと足を向け、それを逃がすまいとエイラも後を追った。

 そんな2人を後ろから眺める2人の女性は笑いながらも、やはりそれに続く。

 加藤が小屋を修復し終わる頃には辺りが暗くなっており、焚き火の明かりが実に暖かい時間帯となっていた。


 ――――

 ――――


「ふむ、店主は料理が上手いのだなっ! これは良い、実にっ」


「ルクーツァの旦那は良く食うな? いやまぁ、野宿というよか冒険者の楽しみはコレっつっても過言じゃあるめぇよ。こんな場所で食う料理は、そりゃ美味くなくっちゃぁな」


 焚き火を囲うようにして彼らは夕食を摂っている。以前、デイリーが作ったモノと何処と無く似ている料理であり、パンに野菜などを挟んだモノだ。

 ルクーツァはやはりというか食事時は違う意味で真剣そのもの、実に楽しんでいた。そんなルクーツァの様子に驚きながらも店主もまた笑って食事を楽しむ。


「うぅ、わたしこの野菜は苦手で……。カトウさんっ、これあげますよっ!?」


「マナちゃん……、ちゃんと食べろよ?」


 加藤はマナの願いを一蹴した。あまりに素っ気無く言われたためか、それほど嫌いな野菜なためか、少女は涙目である。

 しかし加藤の言う事には一理ある。食べられるものは食べる、アレルギーなど食した事で身体に悪影響を起こすというのであれば別であろうが、少女の場合はただの好き嫌いである。


「ふふっ、マナさん。これはですね、食べると胸が大きくなるそうですよ?」


 何故かエリアスールはそう笑って言う。言われたマナは自然と彼女の胸元に視線を投げる。同じく、エイラも好き嫌いは良くない事だと言葉を重ね、やはりマナは同じ場所に視線を向ける。

 そして己を見て、涙が零れた。その涙を拭うかのように、一心不乱に嫌いな野菜が多量に入っているサンドウィッチを胃に収めていくのだった。


「いや、その野菜で胸がどうのこうのっておかしくね?」


 加藤は小声でエリアスールに言う。それに彼女は笑って頷く。この野菜にはそのような効用などありはしない、と。しかしこう言えばレイラは何でも食べたのだと自信あり気に言った。

 その通りになったのかは分からないが、しかしマナは嫌いなものを何かと戦うかの如く真剣に、必死に食べていた。


「まぁ、うん。いろいろ、いろいろあるよね」


 どのような場所であろうとも、彼らは彼らであった。それこそが何よりも大きな発見と言えるのかもしれない。

 ともかく、こうして加藤達は新たな街のために大きく足を踏み出したのだ。明日からはソレに続く道を更に大きくするために、また一歩踏み出すのだろう。

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