第2話 『○○→享受!』
「あー、やっと来たっ! カトっカトっ! 見て見て、凄いでしょ!」
加藤はエリアスールとエイラに連れられて、ギョッセの入院している病院から、そのまま領主の屋敷へと足を運んでいた。
来る途中、斡旋所へと立ち寄りルクーツァへと女将への伝言を頼んでからではあるが。
そして到着するなり、いつもの広間へと入ると何事かをしていたラルが彼に気付いたようで、手に紙を持って自慢気に言い出した。
「っと、なんだ? えーっと、算術か?」
その用紙には、なんとか解読できるまだまだ幼い字体で書かれた数式のようなものがあった。どうやらレイラとニーナが行っているものを彼女もやりたいと言ったらしく、簡単なものをアージェが与えたという事らしい。
アージェはレイラとニーナに疲れた眼差しを向ける一方で、ラルには褒める言葉を惜しげもなく捧げていた。
「いや、本当に驚いたよ。ラルちゃんは算術をあっという間に理解してね? 見てみなよ、これをっ! いやぁ、僕としては教え甲斐のある生徒をようやく見つけた気分だねっ!」
興奮気味に尚もアージェはラルを褒め称える。
事実、その紙に書かれているものは、加藤の知識からいけば難度が低いと言えるが、この世界でいけばかなりの難易度である乗法を用いたものだった。それを褒められているラルは照れたように、しかし加藤にだけはそれ以上の何かを求めるように見つめ続けている。
「ははっ、凄いじゃないか! こんなのが出来るなんて、俺も知らなかったぞ? これは今度お祝いしないといけないな?」
その言葉が聞きたかったのだろう。
その笑顔が見たかったのだろう。
少女は遂に大声を上げて、広間を駆け回って喜びを全身で表現する。一通り喜びを感じ終わったのか、最後には加藤の下へと戻りそして笑顔を見せた。
「えへへー、カトに簡単だけど教えて貰ってたからねっ! でもでも、アージェさんにもっと難しい問題を貰ったら面白くって、それでねっ!」
どうやら終わったのではなく、これが始まりだったようだ。しかし加藤は苦に感じないようで、全ての言葉に相槌を打ちながら嬉しそうに笑い合う。
仲の良い兄妹を見ていたレイラとニーナが不満そうに、しかし同じく笑みを加えて話に混ざる。
「ねー、アージェの説明は分かりにくいんだよ。ボクらにも分かり易く教えて貰えない?」
本気なのかは分からないが、しかしラルもそれを喜んでお願いするという事になったために、加藤としても断れない事になる。ラルに引き摺られるように今まで彼女達が向っていた机に行き、そこに備えられた椅子へと座り、用紙に簡単なものから書いていく。
「いいかー、加法……まぁ足し算ってのは分かるか? うん、そうだな。りんごが1個、それが2つあるわけだから……」
加藤はどうせやるならばとばかりに本腰をいれたようだ。
用紙にりんごの絵を2つ書く、そんな例えを交えながら加藤もまた楽しんで教えることとなった。レイラとニーナは流石にその程度は分かるらしく、早く次をと求める。しかしラルは理解しているはずの加法、しかし例えを交える手法に感嘆の息を漏らして、更に違う例を催促する。
ここがある種の分かれ目とも言えるだろう。
「いいか、レイラ達。この足し算、それと減法……引き算が基本なんだ。そもそもこういうのは色々と大切なんだぞ? ここは特にちゃんと抑えないとダメなんだからな?」
この世界には単位というモノがある。
最初の興りは日数である、色移りという分かり易い目安があったために、この概念は全てのヒト族に共通していた。そのおかげで今日の技術諸々があるとさえ言えるほどである。共通する知識を持っていたために、会話もある程度通じる部分、共感できる類があったために意思疎通の大きな助けにもなった。
それらを自らもルクーツァに教えられていたために、やけに自慢気に言ってみせる加藤。
しかし、それらも交えて重要さを語ろうとしたが、今は関係ないと気が付いたのだろう、それを止めて問題を続ける。
「まぁ、それでだ。りんごが3個入った袋。これが6つあるわけだな? さて、全部で何個だと思う?」
加藤はやはり例えを用いて教える。ラルは遊びのように、しかしだからこそ真剣に取り組む。そんなラルの様子を見ているレイラ達も生来の負けず嫌いが疼いたのか、同じく真剣だ。
「……わかったっ! ふふんっ、ボクが一番早いねっ! 答えは18個っ!」
「おぉその通り、正解だっ! だけど一番早いニーナでも結構かかったな? ニーナ、どうやって計算をしたんだ?」
今までアージェ、そして加藤から褒めに褒められていたラルに勝てた、年下と言えどもこうとなれば関係ないのだろう。
喜びを隠さずにニーナは大きな声で解答を述べる。そして、加藤は大いにそれを褒めるが、続けて問うのだ。
それにニーナは自信あり気に加法を使った事を言う、当然だ。なぜなら今は加法の話なのだから、それを用いて取り組むべきであろう。
「そうだな? だけど、俺は今回わざわざ袋に入った、こう言ったよな? つまり3個入ってる袋が6つ、つまりパっと見では6つの袋しかない。 ……分からないかな? うん、簡単に言えばね。基本的な乗法ってのは足し算でしか無いんだ。もっと言えば、3個入った袋、これが6つの場合、合計は決まってるんだ。だから……」
その後も簡単な、しかし今後の彼女達の大きな力になり得る事を遊びとして教えて行く加藤。ラルは大いに楽しみ、レイラとニーナは今まで理解できなかった事がおぼろげでも分かった事に思わず黄色い声を上げてしまう。
「まったく、そんなに喜ぶことかね? レイラにしたって弓を撃つ時はこんなの比べ物にならないくらいに計算してるだろうにさ」
「計算とかしてないよ? なんとなく、このくらいの強さの風ならとか? そんな感じの慣れだよ、お父様だってそう言ってたくらいだよ?」
「そういうものなのか……、まぁ技っていうくらいだしなぁ。そういうのを超越してるからこそ、技って言うのかね?」
武の事になれば、強さは定かではないが、経験であればレイラに分があるのだろう。今度はレイラが嬉しそうに加藤へと講釈を垂れようとした時であった。
「ふふっ、それはいずれでいいでしょう? それよりも、夕食の用意が出来ました。こちらではなく、別室ですからね?」
そんな加藤達へとエリアスールが声を掛けてきた。
加藤達が遊びを楽しんでいた頃、エリアスールとエイラ、アージェはそれぞれに時間を潰していたのだ。
エリアスールは調理場へと赴いて、エイラ達は卓上遊戯で知恵を競う事に熱を上げていた。
しかし、どうやら料理が出来たようなので、そちらの部屋へと移動しようとの事だった。
それを告げた彼女は先導するように広間を後にし、加藤を含めた全員が移動を開始する。
「そういえば、俺って食堂? なんていうのか分からないけど……、ちゃんと飯食べるのって初めてじゃないか? っていうかなんでわざわざ移動してんだ?」
移動しつつも、加藤は思った事を絶え間なく言い続ける。別段質問という気は無かったのだろう、ただ本当に思った事を口に出してしまっただけ。しかし、それに答えを返す声が、レイラである。
「別に広間で食べれない訳じゃないんだよー? ただ面倒ってだけで」
広間で食べられない訳ではない、むしろ屋敷にヒトを招く場合は大勢なためと祝い事などある種の祭典のような形が多いために広間での食事が基本である。
しかし家族で、親しい友人と、日常での生活上の食事の場合はそれに当たらない事もあり、少なくともサックル家ではそうだった。そうこうしている間に、移動としては短いが、家の中でと考えれば長いと言えるものが終わる。
扉の前でエリアスールが待っていたためだ。
「さ、ロレン様と奥方様、デイリー様が既にお待ちですよ?」
そう言うと扉を開ける、最初にレイラ、次いでエイラ、ニーナ、アージェと入っていき、加藤を見上げた後にラルも入っていった。
「なんかエリアスールさんがそうやると無駄に緊張するな。 いやアイラさんだけなんだけどさ? 緊張する相手ってのは」
何故かエリアスールに、入るのを躊躇した言い訳をしつつ、ゆっくりと加藤も部屋へと足を踏み入れた。
後ろから扉を閉めつつも、彼女は笑って加藤の後に続く。
「ははっ、皆揃ったようだね? それじゃあ食べるとしようかっ!」
「へぇ、今日は豪華ですわね? これなんて……」
屋敷の主たるロレンの声に各々が返事を返すと、食事が始まる。
エイラは早速メインの肉料理に目を着けて声を漏らす。
肉料理、別段不思議ではないが、この肉は半生、ミディアムレアであり、つまりは新鮮でなければいけないものなのだ。干物や塩漬け以外にも、この時期では氷などで冷やして保存する技術はあるものの、その場合はこうは肉汁溢れ食欲を誘いはしまい。
つまり、わざわざ狩りにいってきたものだと分かるものだった。
そうして彼女は領主ロレンへと目を向ける、気付いたロレンはにこやかに笑みを返した。
「まったく……、これだから過保護が過ぎるというのです。皆さんカトウを甘やかし過ぎだと思いますわ」
そう言いつつも、美味しそうに肉料理を食べて行く。
それを当然のようにニーナが指摘して、2人で何事かを言い争う。
ロレンが、アイラがいるというのに、だ。
初めて屋敷に来た時には考えられない所作であろう、しかしそれを嫌う素振りを見せる者はこの場には居なかった。その様子を微笑みながら眺めつつも、ロレンは加藤へと告げる。
「味のほうはどうだい? 気に入ってくれたかな、君の快気祝いという事で少々力を入れたんだがね?」
領主という身分上、来客に味を聞くというのは少々褒められた行いではないかもしれない。
しかし今の彼は加藤の友人である、それゆえに自慢するかのように聞くのだ。加藤もそれに気付いてか否か、当然のように肯定の、感謝の言葉を返す。
「いや、美味しいよ! 闘病生活? 怪我の場合なんていうのか知らないけど、女将さんがうるさくってさ、あんまり美味しいのは食べれなかったから……。いやぁ、美味しすぎるなっ!!」
そう言うと、ロレンを、周りを気にせずに豪快に食べ始める加藤。
その隣で丁寧に食べようと悪戦苦闘していたラルは、兄の食べ方を見て少しばかり悩んだ後でそれに倣った。
しかしアイラがそれに待ったをかけて、丁寧に切り分けながらそれを教える。驚き照れながらも、嬉しそうに切り分けられた料理を小さな口で食べて喜ぶ。
「こうですよ。あら……うふふっ、美味しい? そう、それじゃあ次はこっちのはね……」
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食事が済むと、ゆっくりとした時間を過ごし腹を休ませていた。
それぞれ下らなくも大切な話を交わして楽しんでいた。
「ははっ、そうか。やはり女将は医師を志していたというだけあって、うむ。正しい判断だと私は思うよ」
「あれ? 女将さんって医者じゃねーの? 色々とやってたって聞いたんだけどさ」
加藤とロレン、そしてデイリーは療養中の事で言葉を交わしていた。
「ほっほっほ、いやいや。そうではない、女将の言う医師と、お主の言う医師は少々異なるのじゃよ」
デイリーはそれを教えていく。
女将が目指していた医師とは国に認められた、ある種の地位なのだ。
それを有している場合ならば国は当然、街などでも領主などから歓待を受けられるほどの上流階級の仲間入りを果たせる冒険者以外での一般民の夢の1つであった。その他にも治療のための諸々を国、街に援助してもらえるというもの。
そして女将のような医師とは、それを有してはいないが、治療の心得を持つ者という事である。
だが、その地位を求める医師の殆どは国のお偉方に持て囃されるための地位などは眼中に無い。本当に欲しいのは副次的なものとされている援助である、そのために医師の誰もが欲するのだ。
「まぁ、医師というか、治療をするための環境作りというのは恐ろしく金が掛かるんだ。そしてその地位は治療所の質が悪いと言われれば従わざるを得ないほどに強い。 例え私であっても、だ。だが、当事はそれでも……」
本当の医師がその地位を有してしまった場合、そういった事が多発してしまう。
それを嫌った者らが厳しい基準に上げに上げ続けた結果、誰も合格させないというものに成り果てている。
だが、所謂どの国、どの街であってもソレが許されるというものはそうなっているが、現状は国で、街で、それぞれ個別にある程度の権限を与え始めている。
「なるほど、つまり大型がやってきて医師っていうよりも怪我人とかが多すぎるから医師を増やしたいがための嘘って事か」
大型モンスター、それはほんの少し前というには少々遠いが記憶に新しい約20数年前に現れていた事をこの時、初めて加藤は知った。
その当時に滅びた、壊された街々、下がったヒトの生活圏を前に進めるために出来たのがこの街であり、活躍したのが彼らだった。
しかし当然ながら大型の被害は壮絶なもので、特に負傷する者が大勢いたのだ。主力たる熟練者の多くがそうなった上に、戦死者の多くもそれだった。
つまり、新しい街を造るために、壊れた街を守るために戦うのは当然ながら主力が新人ばかりなのだ、どうしても怪我人が増える。そのために治療できる者の数が絶対的に足りない、しかし医師というものは想像以上に困難な上、この世界ではそう稼ぎが良い職業でもないのだ。
そのための制度、地位であったが今はもう形骸となっているのが現状であり、本物の医師達の多くもそれに興味は無いのだと、領主は苦く言う。
「情けない事に、金や地位で医師を増やそうとしたんだがね。切欠はそうだったかもしれない、だが医師となった者達はすぐにその地位に興味を無くした、まったく。そんなものよりも、設備が酷いと怒られたものさ」
この時になり、医療施設の全てにおいて、石造りの床や、清潔な衣服、道具、床などが完備される風潮が広まった。
それ以前は医師の立場は低いものであり、それに耳を貸すという事が少なかったためだ。この世界での脅威とは病や怪我ではなくモンスターであり、そのために必要なものは医療ではなく冒険者という常識のためだった。
それ以前は基本的に冒険者のための医師であり、そのための医療のため、戦えるようになれば良いという大雑把なもの。
だが、この変化は大いに冒険者達に衝撃を与えた。怪我の治りが早い、今までであれば命を失っていたであろう傷を負った友が助かる、そういったモノが起きたためだ。
今まで全てに置いて発言力を有していた冒険者達が声を揃えて医師の重要性を訴えたのも、医師が国が言う地位などに興味を失った理由の1つであろう。医師もまた、冒険者と同じく脅威に立ち向かう戦士だと言われたからである。
事実、当時の医師の多くは危険な場所であろうとも治療するために赴いて、その多くが冒険者と共に命を落としていた。
「……とまぁ、そういう感じでね? 女将はその戦士の中でも存命では古参中の古参で、当時は多くの街を飛ぶように回って治療していた方さ。この街の専属とはなっていないが、この街の治療所の面々にも顔が効くおヒトなんだよ? そのヒトが言うんだ、多少の苦は耐えるべきさ、現になんら後遺症を残さずに復帰できたんだろう?」
話の中で、先ほどの事で不満を述べていた加藤に、そう笑ってロレンは言った。
女将が医者だった事にも驚きを覚えていたが、それほどのものだった事を知った加藤の心情はどれほどだったか。それは間抜けに口を開いたままに、頷きを返す表情から全て分かる。
医師という存在で何よりも安心できるのは、そのヒトの心であり、思いやりで。
もう駄目かもしれない、そう思った時に手を強く握り締め言ってくれる、たった一言。その言葉でどれだけ心強いことだろう、その言葉を聞いたからこそ諦めずに意思を保てた結果生き残れたことだろう。
そして、そういった本物の医師がいるというだけで、たとえ多くが新人であり素人同然だろうとも冒険者達は冒険者として中型相手に剣を握れたのだ。
「はぁー……、そんな大変な時期があったんだな。知らなかったよ、女将さんもそういうのは教えてくれなかったからなぁ」
「ほっほっほ、女将に取っては当然の事に過ぎぬのじゃろう。まぁ……治療そのものでは、じゃがな。優秀になればなるほど、その傷に何かを見て取れるようになる事もあるじゃろうて」
デイリーはしみじみとそう語る。デイリー自身もまた立場は違えど古参中の古参であり、全てのヒトを守るために剣を取った戦士である。その中で、色々なモノを見てきたのだろう。
女将はそんな中でもラルだけでもと、己を惨めと感じようとも守るために道を去る事を選び新たな道を進み、デイリーはそんな中でも冒険者として何かを出来る事を信じて支える道を選び、そしてロレンは己の生まれながらの地位を用いて、ラルの英雄同様、何かを為すための足掻く道を選んだのだろう。
今はこの場に居ないルクーツァも、当時は新人であったのもあるだろうが戦う道を選びヒトのために何かを目指したに違いない。
いや、全ての大人は大小あれども様々な道を選び、今の世の中を作り上げて来たのだろう。
そして、その道を受け継ぎ、更に進める役目を担う事になる者の名。
それを若者と言う。
「そういうもんかねぇ。まっ、それは別にいいよ。あぁ、でも大型の話はちゃんと聞きたいかもな? うん、そこは教えてもらいたな」
何度も頷く加藤、一見すると生意気にも分かった気でいるようにも見える。しかしそれでいいのだ、それがいいのだ。少なくともデイリーはそう感じていた、仮にも小僧ではなく名を呼ぶに値する男なのだから。
そして、少なくともソレをこの男は知っているとデイリーは信じられるのだから。デイリーは目を一瞬閉じてから、その話題を変えるようにある事を切り出した。
ロレンはそれを両手を挙げて歓迎し、アージェへと何事かを伝えに行く。加藤はそれを微妙な顔で考え込んでいたが、首を縦に振ることで意思を伝えた。
「ほっほ、うむ。それではの、ラル嬢やっ。……うむ、どうじゃもう一晩泊まってはゆかぬか? ほっほっほ、そうかそうか。うむ、エリアスールに言っておくとするわい」
デイリーはラルを呼び、そう言うと何事かを言われて了承の返事を返す。そう言うとラルは喜んでレイラ達の中へと戻っていった。
「なに言ってたんだ? 俺はラルを送ってからって思ってたんだけどさ」
「なに、そう大した事ではない。 風呂に入りたいと言っていただけじゃよ、皆での?」
ここ、領主の屋敷には浴室、いや浴場があるのだ。とは言え普段は使われていない、あるだけであり湯が張られている事など少ないと言える。しかし、どうやら久々に本来の役目を果たすこととなるようであった。
そして少女はもう一晩、この屋敷で泊まる事になったようで兄としてはなんとも言えない表情を浮かべざるを得ない。
「少々の? 先にも言ったが、皆で話をしようかと思うたのよ。小僧も少しはやれるようになった訳じゃし、少し本格的にという奴じゃのぉ」
しかしデイリーの表情は反対に真剣そのものへと変化した。
それを見て取った加藤は同じく顔色を変える、しかしそれは悩む色であり、それが何を指しているのかがやはり分からないといったものだ。その加藤を見つつ、デイリーは苦く笑う。
「あれ? カトは帰っちゃうんだ? ……まぁ、いっか! 明日迎えに来てねっ?」
帰宅という訳ではないが、屋敷をデイリー、アージェ、そしてロレンと共に外へ出ようと言った流れを感じ取ったラルは軽く言う。
加藤も笑って頷き、その他の女性陣にも別れを告げて彼らと連れ立って屋敷を去るのだった。