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異なる世界で見つけた○○!  作者: 珈琲に砂糖は二杯
第一章《歩けば道となる》
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第1話 『○○→実感!』

 

 何も無い、ただただ広大な草原で1人の青年が、あちらこちらを見渡しながらしばらくしてため息を吐いた。


(此処が異世界ってのは、この美味しすぎる空気で分かったとして……)


「あれだなぁ、やっぱり難しい事は考えるものじゃないや……」


(色々と最初から思い出して整理してみたつもりだけど、やっぱりごちゃごちゃしすぎてる感じだし、やっぱりあれだな……)


「実験があって、それを受けて、そしてなぜか此処に……」


(くっ!? 声に出して言ってみると、神様やらピカーッとかのがマシじゃなかったか!? てか神様が良かった! 貰った力で無双して『当たらなければどうということは…ない!』だっけ? そんな事言ってみたかった!)


 例え300年という歴史を刻もうとも、そういったものは廃れないものである。

 正直なところ、世界が纏まったのはそういうのを卒業できなかった漢達がそれなりの地位と発言力を持っていたからかもしれない。


(いや待てよ……そもそもだ。おっさんの話では来ること自体が奇跡的なわけで、つまり……神様!?)


 そんな彼をまるで小馬鹿にするような風が一筋吹き抜けていく。


「…………、ッ!」


(あーもうっ、馬鹿っそんな阿呆な事考えてる場合じゃないだろ? まず此処は何処なんだ!? って違うそれはもういい。ビークール、冷静になれ俺……隣のおじさんも言ってただろ? 『ニンジンは目にいいんだ』ってさ! ってどうでもいいわ!?)


「……いや、これだ!」


(んー、っと、やっぱり見渡す限り草原ってものらしいな。天気は良いからかなり遠くまで見えるけど、建物っぽいのは見えない……)


「となると…だ、『食べ物を分けて下さい』とかも言えないわけだ。どうする? 食べ物なんて持ってないし……でも幸い腹は減っていない、喉も渇いていない。あんな環境だったとは言え、いやだからこそ運動場では思いっきり遊ぶためなのに友人に引かれるくらい本気マジでやってたから……。それなりに体力諸々には自信がある……、隣のおじさんには負けるがなっ!」


(つまりだ、それなりの距離なら移動は出来るんだ、するべきか? でも確か遭難したらその場所を動いてはいけないってドキュメントムービーで言ってた気がするけど……。あれ? これは救助の見込みがある場合だっけか?)


 独り言を耳を澄まさない聴こえない程度でブツブツと言うのであればまだしも彼は時々大声で叫んだりしているのだ。街角で見かけたら目を合わせず、直ぐさまそこから距離を取りたくなる人物間違い無しだろう。

 幸か不幸か、この場に誰もいなくて良かったと彼が気付くのはもう少し後の事。


「よし、当面……、というか持って三日ってところか、それまでにまず水……これを探さないと。出来れば食べられる何かもあると嬉しいなぁ。あっ、水場があるってことは……、生き物がいる! ふふっ、ようやく母さんオススメドキュメントムービー大集全365巻(1巻で約24時間)の真価が発揮される時が着たみたいだな……! 待ってろよー、俺の飯っ! ……ははっ! 世界ってのにはまだ分からないけど、この状況には慣れたなぁ、俺」


 彼の予想はあながち間違いとは言えない。彼の時代の地球環境ならまだしも、普通であれば食べられるモノがあるという、その可能性は限りなく高いと言えるからだ。

 しかし彼は、その生き物は自分が狩れる獲物だと思い込んでしまっていた。

 自分を獲物とする強大な狩人の可能性をこの時の彼は想像すら出来なかったのだ。


「ふーっ、なんだろ? ……歩くのってこんなに楽しいものだったっけ? 景色はほとんど変わってないのに……、結構歩いて疲れてるはずなのに。あー、なんか気持ちいいなっ!」


(それはいいとしても…本当に何もないな。130分くらい歩いたから大体6~8kmくらいは移動してると思うんだけども……、山や川も見えないし)


「まぁ、まだ距離的にはまだまだだし、日も高い……。せめて暗くなる前に屋根代わりになりそうなのがある所に行きたいところだけど」


 彼の格好は実験の時に寝た格好そのままだ。幸い被験服の類ではないが、厚着でもないし、雨風を防げる類のものでも無かった。

 それは普通のグレー色のパーカーにジーンズというなんとも言えないものだ。

 こういった最先端の技術を駆使していない、昔ながらの生地を用いた服装は彼らの時代での中々廃れない流行だった。


「はぁはぁ……っふぅ、あれからどれくらいかな? 時計も壊れてるから分からないんだよなぁ。さっきまでは頭で数えるっていう、無駄な労力を使ったけども……。んー、この筋肉の疲れ具合から診て……、分かるわけが無いっ!」


(正確な時間は分からないけど3時間くらいは歩き詰めたはず……時々小休止はしていたのも合わせると、うん。その甲斐あってか風景が変わらないってのに慣れたけどな! ……慣れちゃだめじゃねーか、変われよ風景、山来い川来いってか人里来い!)


 彼の願いが届いたのか日が傾き始めた頃、それがようやく視界に入り込む。


「あれは……、森!? ……いや林? どっちでもいいか……、とにかく見つけた!」


(良かった……、かなり疲れた……。フルマラソンを1kmトラックでやった事があるけど比較にならないくらい疲れた。ゴールが有るのと無いとじゃこんなにも違うのか?)


 ――

 ――――

 ―――――――


 彼は発見から1時間ほどで、といっても少々飛ばし気味に駆け抜けたわけだが、森に辿りついた、そして手頃な場所を探していた。


 ―――――――

 ――――

 ――


「ふぅー、よしっ! ここを俺の住居にしよう! ふふっ、やっぱり昔の人は偉大だっ!! 見ろっ、この素晴らしき造形美! 感じろっ、この圧倒的なまでの機能美! そして味わうがいいっ、この完成された安心をっ!」


(ふぅ、ツイツイ熱いパトスを飛ばしすぎちゃったなぁ、てか俺一人になるとこんなにハッチャけちゃうのか? 普通思っても口には出さないだろうに、新たな自分を発見してしまったよ、恐るべし異世界……)


 陽がもう落ちそうになる頃に彼が完成させたのは、太い木の枝を組合わせて骨組みを作り細く長い枝を適当にそれに被せその上に葉っぱを、そしてまた重石として枝を乗せて出来たモノ。

 それは、どう見ても不恰好で今にも壊れそうな、しかしそれはテントだった。


「ふふっ、いけないいけない、ついつい笑みが……。だけど、嬉しいものだなぁ、テントっ! ははっ! 俺が作ったテントかぁ、今日はここで寝るわけだ……、やっべワクワクして眠れないかも!」


(良し、今は丁度歩き続けた上に俺の一生の記念な作業しちゃったから……。疲れまくってるし、きっと良く寝れる…。、流石に寝ないとまずいからな……良し、寝る!)


 

 彼は忘れていた。そう、テントよりも水や食料を探す事が、本来の目的だということを。

 しかし、これは怪我の功名と言えたのかもしれない。疲れに疲れたために、すぐに眠る事が出来たのだ。これは彼にとって僥倖であろう。もし、ここまで疲れていなければ不安で寝るに寝れなかったかもしれないのだから。

 そんな事は当然知るはずもない加藤は、静かな寝息を立てながら翌日まで気持ちよく眠るのだった。

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