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異なる世界で見つけた○○!  作者: 珈琲に砂糖は二杯
第三章《ワカシとセイゴとメジマグロ》
31/69

第1話 『○○→再会!』

 

 加藤達は今日もいつも通り、防壁修復の仕事をしている。加藤はこういったモノが得意なのか、他のヒトに時折指示を出しているほどだ。


「ふぅ、あっついな……真夏! って感じだなぁ……」


「ふむ、確かにそうだな……急に日差しが強くなってきたように感じる」


 この世界は1年が730日、つまり地球の2倍だ。

 だが、季節の移り変わりは非常に緩やかだ。その時期であっても本当に夏、冬と言えるものは比較的短く、ほとんど春、秋と言える気候が続く。

 だが、そろそろ短い夏がやって来ているようだった。


「そういえば、先週あたりだったけど、一日中明るかったな? ……あれ?なんか前にもそんなのがあったような?」


「ん? あぁ、色移りという奴だな。簡単に言えば、季節の移り変わりだ。まぁ、夏と冬の場合は何度かあるために、一概にはそう言えない物でもあるんだが……。ともかく、その時は一日中明るい事が続くんだ、そして次の日は一日中薄暗くなる。まぁ暗いと言っても普通の日と大して変わらないんだがな?」


(良く分からんなぁ……、なんでそうなってんだ?)


「まぁ、そんな事はどうでもいいだろう?」


「いや、あー、うん。とにかく夏が来るって事だろう? 水分補給をこまめにしないとな」


 この現象、良く空を見ていれば気付く事があるだろう。そう、明るいとは言え太陽は既に落ちていると、月が出ているという事に。この惑星の空気構成になんらかの要素があるのだろう……。

 本来ならば夜となる時間帯であっても、それが季節が移り変わるまでに溜め込んでいた熱量を、色移りと呼ばれる時期に放出した発熱による発光のために夜であっても明るくなるのだ。加藤が以前、太陽と勘違いしたものは月だったのだろう。


「そうだな、まぁ今は仕事をする事に集中しようじゃないか?」


「はいはい、っと……あっ、そこのヒト! まだそこに支柱を立てちゃダメだってのっ!」


 そう言うと、加藤は他のヒトと共に今日も壁を育てるために走る。今の自分に出来る戦いの場所を、ようやく見つけられたかのように。

 自分自身では中型に敵わなくとも、この壁は耐える、耐え切ってくれる。そして自分がそれを支えている、そんなちっぽけな満足のため。しかし楽しそうに、時に真剣に、時に愚痴を零しながらも彼は汗を流す、その汗の分だけ壁が育つと信じているかのように。


 ――――

 ――――

 ――――



「ふぅ、いやーやっぱり風呂はいいよなっ!」


 仕事を終え、風呂屋に行き、汗を流した加藤達はこの街での我が家と言える場所、『砂漠の水亭』へと戻ってきていた。


「おや? おかえり、今日も風呂屋に行って来たのかい? まったく、カトーの坊やは本当に風呂が好きだねぇ……」


 いつものように、加藤達の帰りを迎えるのは、この宿屋の女将だ。娘のラルの一番の友人となってくれている加藤の事は彼女にとっても特別な存在となっているのだろう。ことある毎に彼女は加藤に優しい言葉を掛ける。


「まぁねー、なんというか習慣?まぁそんな感じなわけですよ」


「あっはっは、風呂が習慣だって? 生意気言って……、水浴びで十分だってのに、まぁまぁ」


 この世界では風呂、大量の水を張り、それを沸かすという事はそれなりに金が掛かるのだ。故に高価なもので、身体を清潔にするという面は勿論あるのだが、娯楽という面も強いものだった。


「えぇ……、まぁいいんだけどもさ。女将さん、今日の晩飯ってなんなの? 俺、腹がもうやばいんだよね……」


「そいつはいけないね! 待ってな?すぐに用意してあげるから、ちなみに今日はね……。あぁっ! あたしとした事がいけないね、エリアスールさんからあんた達宛てに手紙だよっ」


 そう言うと、女将は加藤に手紙を渡す。この世界にも紙というモノはある。

 だが風呂とは違い安価だ、理由は古くから獣人族がそれを作り上げて来たために、元の世界のモノには劣るもののそれなりに似た作りで以って量産を可能としているためだった。その紙で作られた手紙は、女性が送ってきたものだからだろうか。一見すると普通のものなのだが、どことなしに愛嬌を感じられる。


「……手紙? いつもは伝言とかなのにな? ハッ!? まさか俺に惚れ……」


「安心しろ、それは無い」


「…………」


「そう睨むな。手紙でそういった事を伝える事など在り得ないと言いたかっただけだ」


「そうなの? 恋文とか、そういうのってありそうなもんだけど」


「恋文? なんだそれは、こういったものは直接言葉で伝えるものだぞ? そもそも、それは男から言うのが常識だろう? 例え女性がそう思っていても、男から言われるのを待つものなんだ」


(なんという事だっ! っていやまぁそうなんだろうけど。男から言わないといけないのか……、もし好きなヒトが出来たとき言えるかな?)


「あっはっは、まったく坊やは面白いねぇ? その年頃はそういうもんに憧れるもんさ、あたしの若い頃なんてそりゃーもぅ……」


「あー、女将さん? 飯出来たら呼んでね? 俺ら部屋に行ってるんで!」


 そう言い残すと、加藤、そして後ろにルクーツァも一緒になって逃げていった。


「そう、あれは丁度……冬から春への色移りで、明るい夜の時、ってこら! ヒトの話は最後までっ……まったく!」


 2人に逃げられた女将は愚痴を言いつつも、奥の扉の中に入っていく。夕飯の準備をするのだろう。


「ふぅ、危ない所だったな? ルクーツァ」


「あぁ、あれは危険だった……。また長話に付きあわされると思うと……」


「……キュウ?」


 彼らは以前にも同じような話を聞かされた事があった。延々と3時間、実に長いこと聞かされたのだ、逃げたくもなるだろう。

 部屋に入るなり疲れた様子を見せる、そんな2人に小動物せんぱいは首を傾げている、がすぐに興味を無くして横になった。


「それで? その手紙にはなんと書いてあるんだ?」


 ルクーツァにそう言われ、加藤は手紙を開け、それを読む。それはそう長い文では無かった、書いてある紙も1枚だけだったためにすぐさま読み終える。


「んー、なんか明日の夜にレイラとエリアスールさんが、斡旋所で一緒に飯食おうってさ」


「それだけか? わざわざ手紙を送ったというのに? ……他にはあるか?」


「いや? あぁ、その時に話したい事があるって書いてるね」


「ふむ、そこか……ん?」


 手紙の内容は本当に短いものだった。そしてその事に考えを巡らせようとした時、彼らの部屋に小鳥が木の幹を突くような軽い音が響き渡る。


「カト、ルクタ? それに動物さーん、ご飯だって~」


 そう扉と叩いて報せてきたのは、声からしてラルだろう。その言葉を受け取った2人と1匹は、そのまま扉を開けて、彼女と共に食事を取りにいった。


 ――――

 ――――

 ――――


「いや、食った食った……肉料理ってのが嬉しかったな!」


「キュッキュ~」


 どうやら食事は肉料理だったようで、彼らは満足そうな顔を見せる。そのまま眠ろうという格好だったが、その前にルクーツァが加藤に対して口を開く。


「それより明日はどうする? レイラ嬢達に呼ばれていたんだったか?」


「ん、会うってのは決定だろ? んでも夜からだから、それまでに工事の仕事請けれるし、どうするかね?」


「ここずっと請けていたからな、たまには一日中休むのもいいだろうと思うぞ?」


「そんじゃ、観光したいかな? なんだかんだで街は回ってるけど、観光って感じじゃなかっただろ?」


 この街に滞在してもう2ヶ月を越した事になる、それなりに街は見て回っていたのだ。

 だが、それは仕事として、遊びとしてではなかったために見ていない場所も多々あるのだ。


「おぉ、そういえば観光を結局していなかったか。いや、すまんな……あの時からカトーを鍛えねばと思ってしまって、すっかり忘れていた」


「そんな事だろうと思ってたよ……」


 加藤は大げさに左右へと首を振り、飽きれたと言わんばかりの態度を取るが、その顔には不満の色は見て取れない。


「それでは、明日はいろいろ見て回るか……娯楽が飯と風呂だけというのもいささか勿体無かったしな。何処に行くか……やはり、演劇小屋辺りが定番か?」


「演劇かぁ、いいね! あ、そだ。本屋とかあるの? こっち来てそういうの読んでないからさ」


「本はある、だが本を売っている店というものは無いな。国に行けば図書館があるが、流石に遠いからな……」



「ふーん、そっか。まぁ、それはいいよ。演劇っての見に行こうよ」


「ふむ、まずはそこでいいか。その後はその時にでも考えれば良いしな……」


「うっし、そんじゃ寝るか。先輩、そろそろ……って」


「ふっ、それではオレ達も眠るとしよう。明かりを消すぞ……」


 小動物せんぱいは既に夢の世界に旅立っているようだった。

 その姿に笑みを浮かべつつ、加藤も眠りについた。


 ――――

 ――――

 ――――


「いや、良く分からなかったけど面白かったかな?」


「そうか、そいつは良かった……。まぁ、4つのヒトが協力して初めて大型を倒したというものだったから、展開が読めてしまっていただろうがな?」


 加藤達は、目を覚ますと女将が作ってくれた朝食を平らげ、街中へと繰り出していた。

 昨日言っていた通り、演劇を鑑賞し終わったようだ。


「まぁね?だけどやっぱり台詞があると面白いよ。特に意地を張り続けていた竜人が獣人の危機に現れたシーンは格好良かったな!」


「はっは、そうだな。あれは4つのヒトにそれぞれ一人づついる最初期の英雄の一人なんだ。彼は誰よりも強く、誰よりも傲慢だった、だから人間の武器も他のヒトの技にも興味は無かった。だが、彼だけで竜人を守りきる事は出来なかった、そして守り切れない仲間を助けてくれたのが他のヒト達……。その助けられた竜人が、彼に願うんだ……あのヒト達を助けてあげてください、とな?」


「そうそう。あそこは本当に良かった……他の所も良い所あったし、うん。観て良かったよ」


「そうだな、オレも久々だったが、やはり良いモノだな。ヒトとヒトは違うものだ、だが通じるモノというものがある……うん、やはりいい」


「んじゃ次だけどさ、俺武器屋いきてぇなー。あぁ、別に討伐に行く! って駄々こねる訳じゃないぞ? 見たいだけだからな?」


「はっは、別にいいさ。それじゃあ次は武器を見て回るか……、最後はあの武器屋に行って、お守りの礼も言わねばな」


「そうだなぁ、まっ、まずは行こうよ」


 ――――

 ――――

 2人は、武器を見て周り、あの武器屋の店主に礼を言いにいったりした後。甘味処で、この世界にもあった団子を味わったりと適当に街をねり歩いていた。そして陽も傾き始めた頃、約束のために斡旋所に向ったのだ。

 ――――

 ――――


「ふぅ、間に合ったかな? いや、今思うとなんだかアレな観光だった」


「アレとはなんだ?」


(言いたくねぇ、これで最後に夜景を見に行こうとかなったら……。本当に嫌だ、人生で始めてのソレがルクータとか死にたくなっちまう)


「……? まぁいい、何処かに座って待つと……」


 ルクーツァが空いている席を探そうとした時、女性の明るい声が彼らに届けられた。


「おーい!こっちこっち、ヒロにルク~、ここだよー」


「お、もう来ていたのか。カトー、行くぞ?」


「はえーな、まだそんな時間じゃないと思ってたけど……。あっ、置いてくなっての!」


 加藤とルクーツァはレイラにエリアスール、そして何故かいるデイリー達の元に歩いていった。


「まったく、遅いぞ? これだから小僧は好かんのじゃ」


「うっせ爺ぃ! てかなんで爺さんがいんだよ? そもそもそんな遅くねぇって、レイラ達が早すぎるんだよ」


「すまんな、デイリー殿。こいつが街をもっと見て回りたいなどと、ごねるものでね」


「おいこら、何普通に言ってんだよ、しかも、ごねてたのはルクータだろうが? もっと他の料理を食べたいとか抜かしやがって」


「あははっ、ルクは相変わらず食べモノに目が無いんだね!」


「ふふっ、そうですね。それはそうとして、座ったらどうですか? 料理も、既にいくつか適当に頼んでいますので、そろそろ来ると思いますよ?」


 そう言われ、加藤達は席につく。

 加藤はデイリーとエリアスールに挟まれる形で、ルクーツァはレイラの隣でデイリーの前に来る形で座った。


「料理か、色々と軽いもの食べてきてたけど、まだまだいけるなっ。それで、どんなの頼んだんだ?」


「適当に、頼んだんですよ?」


「あぁ……、適当にね? 分かったよ」


 その適当に頼まれた料理は、すぐさまやって来た。

 やはり、大盛りで熱々の料理が各々自己主張しながら、押し合うようにテーブルに並ぶ。


「ほっほ、うまそうじゃのぉ……、どれまずはこの肉から……」


「やはり、料理と言えばこれだろうな……。むっ、昨日に続けてとは、いやしかしコレはコレで有りだな」


 そう言ってデイリーが手に取ったのは、なんらかの肉を一口大に切り揃え、鉄串に通されているモノ、焼き鳥のような形だ。

 対して、ルクーツァが食べているのは定番のパン包み焼き、どうやら中身は魚のようだ。


「んー、やっぱり美味しいね! こういうのがわたしは好きなんだよっ!」


「そうですね、作法を気にせず、思いのままに食べられる……。素晴らしいと思いますよ?」


 レイラはコメ料理だ。コメに野菜、肉を混ぜて炒め、それを丸めて油でサっと揚げたもののようだ。エリアスールはそう言いながらも焼き鳥のようなモノを丁寧に串から肉を外して食べている。


「ぐっ、まだだ……まだ負けないぞ」


「カトー……お前にソイツはまだ早いだろう?」


 加藤は酒と戦っていた。ルクーツァとの特訓のおかげかそれなり弱い酒ならば飲めるようにはなっていた。

 だが残念ながらこの酒は強い、既に劣勢に追い込まれている。ルクーツァはその様子に苦笑いを浮かべつつ、レイラ達に問いかけた。


「……それで? 会うだけなら『砂漠の水亭』にでも来ればいいものを、呼び出したんだ。……なにかあるのか?」


「んん? ……うん、わたしがっていうか…デイリーがある……らしいんだよね。ね? そう……な…んでしょ?」


 その問いかけに答えたのは、レイラだった。

 だが食べながら話すので、少々行儀が悪い上に途切れ途切れなものだった。


「レイラ……作法はこの際構いませんが、流石にそれはいけません。ちゃんと食べ終わってから話しましょうね?」


「うむ……そう…なのじゃっ。実は……お主らに…頼みたい事…が、あっての?」


 エリアスールはそう注意したが、彼女達の年長者が同じ事を行っているので、彼女はなんとも言えない顔をし、レイラもデイリーを見てから何やら言いたげな眼差しという方法で抗議をエリアスールへと送っていた。


「んんっ! デイリー様?」


「ん? はぁ……エリ嬢は堅いのぅ? まぁいい。お主らと言ったが、正確にはルクーツァ、お主になんじゃがの」


「なるほどな、内容によるが……まずは話を聞こうじゃないか」


「うむ、実は火の国からちょいと偉いヒトが来る事になっての? このサックルの前の街は、かなり遠い……なんでそこまで護衛を兼ねて迎えに行く事となったのじゃ」


「なんで爺さんがお偉いさんを迎えにいくんだ? そりゃ、凄く強いってのは知ってるけど、直接呼ばれるなんてよ?」


「小僧、気がついておらなんだか? ワシ、というよりはレイラお嬢様の事でいいのだが、そこに気が付いておれば分かりそうなものじゃがの?」


「レイラが? まぁ、お嬢様って爺さんが言うくらいだし。お偉いさんの娘ってのはなんとなく分かるけどよ、それがどうかしたのかよ」


「……お嬢様?」


 そう加藤から聞いたデイリーはレイラに問いかける、叱責しているような少々強い視線を投げる。


「えー、ちゃんとわたし名前言ったよ? あっ! そうだった、あの時エリが邪魔してきたから聞こえてなかったのかな?」


「え、あ。いえ、あまり言い触らすのもどうかと思いまして。何よりこの前国に行った折の事もありましたし……」


「まったく、ここは国ではないんじゃぞ? それにあの時は、……まぁいいじゃろ。小僧、この方は、最前線、無法の街がサックル領主、ロレン・サックル様が一人娘。レイラ・サックル様じゃ、分かったかの?」


「へぇ、領主の娘だったのか、知らなかったよ。まぁ、だから領主の代わりにレイラか爺さんが国に行かなきゃいけなくなった、ってとこか?」


 加藤があっさりと認め、そして流した事にデイリーは驚きを表すが、それ以外の者はそこまで驚いてはいない。


「領主の娘なのじゃぞ? 分かっとるのか? ……なんだかアレじゃのぅ、まぁいいわい。そうじゃそれでワシら3人で行くのだが、一応の?」


「いいんじゃね? あ、いくら友達だからって給料安くするとか無しだからな?」


「あほが、簡単に受けるなど言うんじゃない……」


「なんでだよ、別にいいだろ? 知らない仲じゃないんだしさ」


「そう急くな。……その迎えに行く人物とは何者だ? そして何名なんだ?」


「なに、そう構えるほどのものではない。迎えに行く人物は国々のちょっとした人物達の娘らよ、人数も3人に供が1人づつの6人じゃよ。供の者も腕が立つそうじゃ、故に一応といった」


「……それで?」


 デイリーの肝心の事をはぐらかして語る言葉に、やや眉間を寄せながらもルクーツァは先を促す。

 そこに口を挟まない対応にデイリーは目尻を下げて、気持ちを表す。


「うむ、丁度1週間後に出立する予定じゃ。今は夏の色、飲料水などが少々多くなるが、それ以外は普段通りでいいじゃろう。行き方も街道を下るだけじゃしの、行程も1週間ほどを予定しておる。無論、馬でじゃがな?」


 その言葉は加藤へと向けて言ったように見えた。万が一の事を考えて、外す理由にしたかったのかもしれない。


「ふーん、馬ねぇ。俺持ってないけど、貸してくれるのか?」


 だが、加藤はあっさりとソレを了承する。

 可愛い孫のような少女から聞いていた限りでは、そういった事は出来なかったはずなのに、彼は出来ると言ってるも同然の言葉を返してきたのだ。


「うん、貸すよー、ね? デイリー」


「むっ、うむ……まったく、ルクーツァよ。今回は以前のような戦い方は選ばせてやれぬのだぞ? それを分かっておろうな?」


「無論だ、しかしあまり馬鹿にするものではないぞ。確かに経験は無いが、地力は着実に育っている……ふっ、そうだな。これもまた1つの訓練……そう考えれば受ける価値はある、か」


 先ほどまで、難しい顔をしていたというのに、加藤のために必要な事という点に気付くとあっさりと認めた。

 仕事として、ではなく訓練、鍛えるためという観点では好ましいと思ったのだろう。既に自分を認めたルクーツァはある種の馬鹿さ加減に磨きが掛かっていた。


「お主、変わったのぅ……。よもや自分からこちら側へ来るとは、驚いたわい」


「勘違いするな、オレは若い! ……だが、これとそれは別という事さ。これは良い、実に良い。最早、進む事が、先に行く事が出来ないと思っていたオレ自身も同時に成長していけるのだからな?」


「ほっほ、そこまで見えたか! ……ならば良かろう、小僧! 良いか、心して聞け……」


「え? ……あ、うん」


 大人2人の会話になっていたため、加藤はレイラ達と下らない事で盛り上がっていた。

 そして唐突に大きな声で呼ばれたため、若干戸惑いの色を含みながら弱弱しく、しかし最後はしっかりと返事を返す。


「うむ、良いか? 今回は逃げるという選択は出来ぬ、したとしても壁はないのだからな? これから1週間、出立までワシとルクーツァの2人でお主に簡易ながら剣を教える、せめて自分の身を守る術を見つけよ」


「えっと、剣? それは嬉し過ぎるけど、1週間で? ちょっと短くない? それはなぁ……」


「ほっほ、剣とはそういった意味では無いわ。小僧にはまだ早い、だがワシは庇いし盾を……、ルクーツァは遮る剣を教える。ふむ、盾はワシが用意するとしようかの」


「それの何処が違うのか分からないんだが、まぁ……いいか」


「盾か、まぁ持てない事もないだろうしな……。オレのやり方とは違うが、デイリー殿直々の伝授、うむ。いいな、オレからだけよりもより良い、あぁ、楽しみだ……」


(おいおい、ルクーツァがスパルタちっくな笑みを浮かべてやがる。これは覚悟が必要かもしれねぇな、酒といい馬の時といい、あんなのでさえ地獄だったんだ、そう……死ぬ覚悟をっ)


 加藤がそう悲壮な決意をしているのには訳がある。

 理由はルクーツァが行った特訓、訓練にあった。酒はもう少しで、何処かの川を渡りそうになったほど。馬は小動物せんぱいの助けが無ければ、満足に歩けなくなっていたかもしれない。

 中々に荒い気性の馬だったのだ、暴れ馬と言うに相応しいじゃじゃ馬だった。動物同士で通じ合う何かがあったのか、小動物せんぱいと共に騎乗した際には何故か大人しくしてくれる時があったため、なんとか馬に乗るという技術を覚えられたと言っていいだろう。


「ふっ、カトー。楽しみだな?」


「そうだな、あぁ……実に楽しみだよ、俺がどうなるのかがな」


「はっは、そうか! いいぞ、その意気だ! なに、1週間とは言え、それなりに鍛えてやる。安心するがいい」


(違うわっ! そっちじゃねぇよ! くっそ、爺ぃは笑うだけで何も言わないしっ!)


 デイリーはルクーツァのその様子を見て楽しそうに笑みを浮かべ、レイラは何が楽しいのか分からないと言う表情だ。エリアスールは何故か感心した眼差しを送ってきている。


「んー、良く分からないけど……一緒に来るって事だよね?」


「貴女はそこで何を考えていたのですか? 話の流れでソコは理解して下さい。そしてそのために鍛錬をするという話ですよ?」


「えぇ! 本当!? 大変っ、わたしもお手伝いするよっ!」


「いや、流石にいいよ。 だってレイラって俺よりマシとは言え初心者だって言ってた……。あれ? 初心者なのに中型に立ち向かってたんだっけ?」


 加藤は会った時の口上を思い出し、それを断ろうとしたが、同時に疑問を抱く。

 その思いを解消するために周りのヒトを見渡す。


「あははっ、うん。そうだよ? わたしは冒険者としては初心者って言っていいと思う」


「ですが、レイラは領主の娘なのです。 女とは言え領主の子……。いざと言う時のために幼少の頃から鍛錬を積み重ねているのですよ」


「ワシとロレン様が鍛えたんじゃ、まぁ弓を好まれたせいで我流のものとなってはおるが、なかなか捨てたものではないじゃろう?」


 そう、娘、いや孫自慢をルクーツァに向って放つ。

 そして敗北したかのように悔しそうな顔をしつつも、ルクーツァは返す。


「むっ……、あぁそうだな。レイラ嬢の弓は馬鹿に出来ん、かなり助けになったものだよ」


「ふふっ、私も少々お手伝いするとしましょうか。あぁ、そうですね……どうせなら道中も鍛錬をしましょう、えぇそれがいい」


「おぉっ、それはいい! そうだな、デイリー殿もよろしいか?」


「ほっほ、ワシが育てると決めたのじゃ。ならばトコトンやるまでよ、今回しっかりとやるのは1週間と言ったが、それで終わるつもりは毛ほどもないぞ?」


(なんだかな、嬉しいけど、悲しい、これが弱さって奴か……。父さん、俺、頑張れるかな?)


 その後も大人と女性達は1人の青年の事で夜遅くまで盛り上がった。

 そして翌日から、加藤にとっての地獄が、ルクーツァにとっての天国が始まったのだった。

補足ですが、まずは季節から、春や秋が多いという点ですが。

春→春(!)→春→色移り→春(?)→夏(!)→秋(?)→色移り→秋→秋(!)→秋→色移り→秋(?)→冬(!)→春(?)→……という感じになります。


次に色移りの現象についてですが、第1章にて不用意に日が暮れない、白夜的な描写を入れてしまったためです。

異世界っぽいのを表現できるかなと当時は何も考えずに入れてしまいました……。

後付ですが、理由としては1年が2倍というこの世界がある惑星の軌道を適当に考えた結果です。

きっと恒星からの距離が遠くなったり、近くなったりと不安定というか歪な円を描いていそうだと考え、環境を維持するのが大変だろうな、と。


なので、熱量を留めておくものが、逆に吸収するものが空気の層だけでは足りないだろうと思いました。

それを蓄えて維持するものがあればいいのでは?という素人考えです。

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