第15話 『○○→選択!』
~加藤の初めての仕事から、既に1ヶ月ほどの時間が流れていた~
「だりぃ……、なぁルクータ、そろそろ仕事でさ、討伐系行っても良くない?」
「アホが、まだ無理に決まっているだろう?
あの時はモンスターがどういうものかというのを見せるためだけに受けたんだぞ?」
~加藤達は、斡旋所で毎日のように防壁修復の仕事を請けていた。
防壁の修復と言っているが、強化という面が強いためにサックルのような周りを頼れない街に取っては至上問題なのだ。
この依頼が途切れることはそうはない~
「けど、毎日毎日、岩を運び、木材を運び、穴を掘り、トンカチ持ってひたすらにぃ……さすがにさぁ?」
「まったく、いいか? これをした事でお前は何を得られる?」
「ん? そりゃー、お金?」
「だからアホだと言っている。身体を鍛えられるだろうがっ!」
「いやさ、それは当然だけど……ぶっちゃけどのくらい鍛えればいいんだ?」
~加藤は鍛えたら鍛えた分だけ、それを自分のモノにしていた。
ある種の才能だろう、普通ここまで早く目に見えた成果が現れるとは思えない。
しかし現実として腕はそこまで太くはなっていないが、確かな力を宿し、足腰は彼の長所を多いに助けていた~
「どこまでもだな? 終わりなどない」
(うっへ、さすがルクータ、容赦ねぇな?)
~加藤は困った笑いを浮かべながら、ボサボサに伸びてきた若干クセのある黒髪を掻く~
「あ、そうだ。今日の仕事終わったら風呂いかね?」
「ん? 風呂か? お前は風呂が好きだな、水浴びで十分だろうに」
~この世界にも風呂、身体を清潔にするために湯に入る文化はある。
だが、それは少々お金が掛かるものなため、簡単に出来るものではなく、彼らのような冒険者にとって贅沢の一つだった~
「いや、そうだけどさぁ……、サッパリしたいんだよね、わかる?」
「わからんな? 女でもあるまいし……」
(これだからっ!てかなんでこの世界の男はそういう認識なんだっ!俺だって男だぞ!)
~そう言った軽口を叩きあいながら、彼らは仕事をこなす。
今ではすっかり、この仕事にも慣れた上、身体もそれなりになったおかげか、余裕を持って今日も働く~
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「ふぅ、ただいま~。ラル、いるかー?」
「あっ、おかえりー!どうだった?」
~仕事を終えて、夕方と言える頃に加藤達は『砂漠の水亭』へと帰ってきた。
少し、髪が湿っているところや、石鹸の香りからどうやら風呂場へ行けたようだった~
「はぁ、ダメダメ……まだ無理だってさぁ」
「まぁー、カトじゃ無理だよね、アタシは分かってたけど!」
(なんだかねぇ……)
~この宿に泊まり始めて、加藤とラルという獣人の少女は友達という関係になっていた。
そのおかげかどうかは分からないが、度々ここに加藤達に会いに来るほかの面々とならば、それなりに会話出来るようになっていた。
その時からか、加藤の事をカトという愛称で呼ぶようになった~
「ラル嬢は良く分かっている……カトー、見習うことだ」
(ルクータめ……ラルが調子に乗るのを分かってて言ってるな?)
「へっへーん! でしょ~? なんたってアタシはカトの先輩だもんね!」
「はいはい、そうですねー」
~そう三人で談笑していた時、ラルが出てきた扉を開いて、一人の年配の女性が姿を現す~
「おや?お帰り、坊や達。
どうだったい? 仕事は上手くできたかい?」
(女将さん……なんでいつもそれを聞くんだ?)
「はっは、ようやくこの手のなら1人でそれなりといった所ですかね?」
「そうかい!そいつぁいい事だね?カトーの坊や、今日は晩飯で食いたいのとかあるかい?
腕を振るっちゃうよ?」
(まぁ、なんだろ?嬉しいからいいんだけどもな?)
「本当か! それならば以前出た、あの魚料理を頂きたい!」
「っておいこら! なんでルクーツァがお願い出してるんだよ!
俺! 俺に聞いてるの!」
「あっはっは、いいよいいよ。魚料理だね? 塩焼きに煮付け、色々あるからね。
楽しみにしときな?」
(いやまぁ、いいんだけどね? 魚好きだし?)
「いや、楽しみだな? カトー」
(だけど、なんだかなぁ?)
~その後、女将が出す料理を4人と一匹で楽しく食べた加藤は自分達の部屋へと戻った~
「ふぅ、食った食った……先輩も美味かったか?」
「キュウ? キュッキュ」
「流石は女将だ……また一段と腕を上げたか……」
「…………そうだねぇ」
「ふっ、そう睨むな。
いいじゃないか、この程度は、な?」
~ルクーツァは片目を瞑りながら、片手を挙げて頼み込む動作をする~
「ルクータ、分かったからその顔やめろ、頼むから」
~そして、その効果は抜群だったようだ。
その問題よりも動作の方が加藤にとっては苦痛だったようだ、見事に許される~
「ったくよ、まぁいいよ。
明日もまた同じ仕事をやるんだ、俺はもう寝るかな……っ!」
~加藤はそう言うと、腕を伸ばして、大きく口を開ける。声は無いがあくびのようだ~
「ふむ、そうだな。
それじゃあ、明かりを消すぞ?……おやすみ」
「ん、先輩も、ってもう寝てやがる、ったくよ。
まぁいいか、うし、おやすみー……」
~加藤はゆっくりと瞼を閉じて、眠りにつく。
小動物の事は言えない程に寝付きが良く、すぐに寝息を付き始めた~
「ふっ、疲れていたか……もう眠ってしまうとはな」
~加藤が寝息を立て始めてから少しして、ルクーツァは体を起こした~
「もうそろそろ、良い頃合かもしれんな……。
なんだかんだと言いつつも、こうして毎日のように退屈な仕事、いや鍛錬を続けていられる。
一番大事なものは、あの時に確かに見せて貰った……。
こいつは確かに逃げずに戦う選択をした、面と向っては言えないが……本当に良くやったよ、お前は」
~ルクーツァは加藤が寝ている寝台の方に顔を向け、静かに見つめる。
その横顔を、窓から差し込む月明かりが照らし出し、笑みが浮かび上がる~
「やはり、討伐を請けさせてもいいかもしれんな。
だが、その前にある程度は剣を慣らさねばならんか、いやまてやはりもう少し鍛えさせるべきか?
……罠の作り方を教えてみるのも一興かもしれん。
あぁ待て待て、馬にカトーは乗れたか?背に乗せた事はあるが、走らせた事は無かったはず、これが先か?
いや、もう少しこの世界の事を……」
~ルクーツァは加藤のこれからについて頭を悩ませ、そして結局今まで通りというのを、ここ最近ずっと繰り返していた。
翌日、ルクーツァは目に隈を作って、加藤やラルに驚かれるが、女将にだけは理由を見抜かれていたようだ~
「あんたは、変わったね? いや、ヒトの事言えた義理じゃないが、親馬鹿だねぇ」
~女将は苦笑い気味に、ルクーツァだけに聞こえる声でそう言った~
「……まぁ、そうなのかもしれんな」
~ルクーツァは、デイリーと同じ側だというのを認める事を選んだようだった。そして認めたからだろう、これまで以上に厳しく加藤を導いていこうと決意を新たにし、そして加藤はその変化に困惑する事となる~
「いやさ、なにこれ? 確かに強くなりたいって言ったけどさ?
まずは酒からってのが可笑しくないか?」
「なに、酒は1人で飲んでもつまらんからな。
カトーも飲めるようになれば、オレとしても嬉しい、さぁ!飲むが良い!」
~最前線の街、別名無法の街であるところの『サックル』は今日も平和だ~
章の名前ですが、色々な事を選択するという意味でした。
差別をどう思う?戦いの際の決断は?
それらを何も考えずに思ったまま声に出す、言われるままに従う、自分で考え抜いた上に決断するなどで、題名を決めました。