第3話 『-扉は開けるもの-』
「そうそう、そして宇宙に上がったんだったな。いや昔のスペースシャトルだっけか? あれから見たら当たり前だけど進歩してるよなぁ宇宙船って」
進歩していると言っているが彼のいた時代であってもあのタイプで宙へ昇るものはある。
それどころか最新型はそれを改めて研究しているものが多いという。
「ジェット機みたいに普通に空を飛んで、んで成層圏だっけか? 外気圏だっけ? 良く分からんけどもそこらまで行って、んでゴゴゴゴッって感じだもんなぁ。結局あの感じは慣れないままだったけども……」
彼はその時の事を、無駄に、長く、そう言っている。
何かを忘れようと、何かを認めたくないとばかりにそれらを語る。
「……って現実逃避もいい加減にしないとな。なにせ此処は何処だか分からないし、多分ここは地球じゃないだろうし? 地球だったとしても少なくとも俺の知らない場所だろうしな」
彼は忘れている、彼が此処へ来る前に居た場所はそもそも地球上ではないという事を。
「いやまぁ、それは置いて措こう、ってか此処に来る前の事を整理しないとどうもモヤモヤして気分が悪いや。んー、小型のコロニーというよりも大きめな宇宙船ってところへ行って……」
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「さぁ、着きましたよ、ここで皆さん、移住第三計画09班のこれから生活していただく場所です!」
――そう自信満々に言う40代くらいの白人男性、これも前々から思っていたが40代でその口調ってどうなんだろう?
なんというか……うん、まぁいいや個性は大事さ!
というか疲れたなぁ、何せ本当に小型宇宙船だったし、3日かかったからなぁ。
「ここでは第09班、つまり移住第三計画に参加している1000人を十に分けた内の一つが実験に協力して頂く訳ですね」
――今更そんな事になってたとか言われてもなぁ。
いやまぁ、なんで1000人だって乗れるような大型宇宙船もあるのに100人単位の小型なのかなぁ?
とか、あーやっぱりこの計画は重要視されてないんだなーとか、予算ないとか……。
だからきっと飯まずいんだろうなーとか思ってたけど、そういう事だったんだな!
「まぁ、大型の宇宙船なんですがね、実際の所は……。本当は小型コロニーを用いてやりたいところだったのですが、数が少ない上にこの計画はあまり……、その何て言いますか……ね?」
――……ね?じゃねーし、アホめバカめ!
くっそなんてこったい、つまり……飯が不味い可能性が高いっ!
いやもう、実験で一ヶ月以上生きられるか分からないのは吹っ切った。
いや、吹っ切ってないけどなんとか一ヶ月経つまでは無視できる!……と思いたい!
けど今日にも食べる飯は出来ない! 隣のおじさん! 嘘でも美味しかったって言っとけや!
何が『一回とか二回ならいいんだけど、それ以上はねぇ、味がどうしても単調になるんだよね、加工できる宇宙食って限られてるからね?』だっ!
「しかし安心して欲しい! ここの設備は完璧です! まぁ、そのために換装した船なわけだから当然なんですが、皆さん私が地球を出る前に言ったジョークを覚えていますか?」
――ジョークなんて言ったか? あぁ正に夢物語! だっけ?
「そう! 私の趣味ですよ! つまり料理なんですね! 研究者だからなんですかね? こう凝り始めたら歯止めが利かないといいますか? とにかく料理には期待して下さいね!」
――っ! なんだってっ!? 料理が上手いのかっ?
ふふっ、正直10個に班が分かれたのに、どうしてまたこのおっさんなのかと欝になりそうだったが、神は俺を見放さなかった!
「っといけませんね、どうしてもそういった事になると熱くなってしまいます。さて……それは置いておいて、いつまでもこの小型宇宙船にいるわけにはいきませんので、あちらの……これからの我々の家に行きましょうか。もう接舷して繋がっていますので、あぁ、走らずゆっくりお願いしますね? 無用な怪我は御免ですしねっ」
――ほぉーっ、船に着いたけど凄いな……。
換装とか言ってたけど、要はリニューアル? なんていうか綺麗だ、ピッカピカだよ。
「さて、まずは皆さん、小なりと言えども個人の荷物がありますよね?」
――ある。 カバン一つ分程度だが、確かにある。
「この船は大きい方ですが、小型コロニーとは比較になりませんから運動などはあまり出来ないんですよ。出来ても精々が機器を使った軽いもの、スポーツは不可能です。なので個室だけは確保しました、皆さんそれぞれに鍵をお渡ししますので受け取り次第その部屋へ行き、荷物を置いてきて下さい。あぁ、行き方は鍵と一緒に渡す用紙に書いてあります。それでも……」
――なるほど、個室が貰えるのかー、なんだろ?
こんな状況だけど新築?な家で自分だけの部屋っていうのは、こう……ね?ワクワクしちゃうな!
「それでは皆さん、荷物を置いた後は用紙に書いてある多目的室へ来てくださいね。そこで現状の健康状態のチェック、そして行き成りで着いて早々申し訳ありませんが問題の無い方から順次、実験に移行します。1時間ほどでしたら個室の方で暫く考えて下さって構いません。ですが、最終的には必ず受けていただきます、キツイ言い方ですがこれは絶対です」
――っそうか……実験かぁ、おっさんは1ヶ月は大丈夫だったって言うけど。
要は訳の分からない物質だかなんだかを作用させるわけだし、やっぱ怖いよな……。
――10分経過。
――30分経過。
――さて、行くかね?こういうのはある程度悩んで、ある程度解決して、ある程度やっぱり悩んでいくものだよな?
大学試験もそうだった……、少なくとも俺は……。
勉強しまくって、ある程度いける!って思って……。
けど3ヶ月前、そして1ヶ月、前日ってなる度に不安になってどうしようどうしようって言ってたからなぁ。
友人は『余裕でしょ?』とか言ってて、勇気を貰うどころか余計に不安になったのもいい思い出だ。
「あ、来ましたね、加藤さん……でよろしいですね? ……はい、それでは健康チェックを……」
――なんというかこれは昔から思うんだけど、このバーコードを読み取る機械みたいなのを軽~く要所要所に当ててるだけとかでも大丈夫なのかね?
昔は色々やったんだろ?てか本格的なのは今でもそうだよね?ねぇ?本当に大丈夫?
「ん? あぁ、これは健康チェックと言っても一般的なモノとは違うんですよ。コレは宇宙へ上がってから急激に体調が変化するという、なんていうんですかね? 高山病のようなものがありまして、それが起きていないか? 或いはその前兆はないか? それを調べるだけのものです」
――へぇ、っても前に宇宙旅行『さぁっ!月を歩こうぜ!』ツアーに行った時でさえそれは受けてなかったと思うんだけどなぁ。
……簡易の訓練なら一応受けたけどもさ?
「ははっこれは本当にそういうための機械ですよ? チェックと言いましたよね?そしてここへ移る時に無用な怪我はゴメンだ、ともね? 本来それは発症したらスグに分かるものなんです、自覚症状もそうですし、目に見えて具合が悪そうになるのでね? ですが稀に、本当に極稀に遅効性とでもいいましょうか、遅れてそれが出る人がいるんです。なので念には念をですね」
――まぁ、いいや、目の前のお医者さん?も問題ないって言ってくれてるし。
実験とやらに……、まぁ寝るだけらしいけども、行きますかね。
「……現在の所第09班100名の内37名が実験を施行中です。そして何ら人体に異常も、機器に問題も発生していません。研究者としては何ら反応がない事を残念がるべきですが、子がいる親としては、そして一人の人間としてはこの状況は嬉しいと感じてしまいますねぇ……。っと、健康チェックは大丈夫のようですのでその扉をくぐって、扉の上のランプが点いていない部屋へ入って、ゆっくりと長旅の疲れを癒して下さい。……っていうのもアレですかね?」
――やっぱり、この人のジョークはジョークに聴こえないって……。
――ふぅ、ここか。 47号室……。
なんとなくだけど、人がいる部屋の近くっていやなんだよねぇ、知り合いなら別なんだけどほぼ全員話した事ない人ばかりだし……。
――明かりは……暗照っていうのかね?
うっすらーと全体が見える程度だ、ベッドは~っとおぉ!凄いな!寝るのが実験の手段なだけあってか。
……これはっ良いものだっ!
――ん……、やっぱり疲れていたのかなぁ、眠くなって……。
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「ふむ、1時間は少し過ぎましたが……。予定の範囲内で100名、全ての皆さんが実験室という名の高級仮眠室で睡眠につきそうですね」
……。
「いや、実際そうでしょう? 確かにあそこは意図的に未知の物質が崩壊しないようにと特別な素材を用いて作られています。ですが、それ以外は普通なんですから、まぁ観測機器等は付いていますが……」
……?
「まぁ、分かっています、仮眠室などとはもう言いませんよ……。さて、それよりも未だ反応はありませんね。既に熟睡している人も大勢いるのに……、何故でしょう?」
……。
「まぁ、そうそう早く成果は出ませんよね。明晰夢を見せる可能性を高める装置を改良した夢を起きた時でも覚えていられるそれらがある事ですし、もし異世界の情報を受信したらそれなりに覚えているでしょう。ですから、それを期待しましょうかね? まぁ、現状それの反応は無いわけですから、やはり気長にいきましょう」
……?
「ん?今……微弱ですが、反応がありませんでしたか!? この部屋は……」
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