第14話 『○○→酒宴!』
「はっはっはっはっは」
「飲め、飲め!」
「しかしさすがデイリー様だな!まさかロイオンをっ」
~あれから少し経った、街は常以上の賑わいをみせていた。
そこかしこで、笑い声が響いている~
「へぇ~、鎧のおっさん。そんなに強かったんだ?」
~ルクーツァとデイリーが最終的には二人で中型を倒すという偉業を成した後、加藤が呼んだ応援の部隊、総勢500名の冒険者、兵士達が駆けつけたのだ。
そして、地に倒れたロイオンを運んだり、怪我人を治療したりした後で、彼らは街に戻ってきていた~
「あぁ、この年齢であれほどとは……街を造った時の立役者というのは本当だな?」
「まぁデイリーは強いけど、ルクも凄かったんだよ?
こう、ズバッ!ってね?そしてヤァ!って感じで!」
~レイラは身振り手振りでその時の事を伝えようとしているようだった~
「いや、分からないって……てか、骨付き肉を持ったまま振り回すなよ!
肉汁が飛んでるっ!ってか、あっつ!?」
「ほら、カトーさん。こちらのパン包み焼きも美味しいですよ?」
「いや、それより……あぁはい、いただきます、ってレイラ!それやめっ……」
「ほっほ、小僧、傷の具合はどうじゃ?
痛む所はないかの?なかなかのヤラれ具合じゃったがの」
「あっついっての!……へ?
あぁ、別に大した事ないよ。俺よりもあのヒトの具合が心配だね」
~加藤が言っているのはロイオンに襲われた組の重傷者の事だろう、そしてそれに答える声があった~
「安心してくれや、あいつは大丈夫だった。
まぁ、暫く寝台の上だろうがな?命があっただけ儲けモノってもんだぜ?
それもこれもお前さんが応援を呼んでくれたおかげってもんよ」
~ギョッセがそう言う。事実、加藤が呼んだ大勢の応援の中には救護班がいた。
その存在がいた事で、早急な治療が可能となり一命を取り留められたのだ~
「いや、あれは俺がっていうか、あの短剣を持って言ったら、大急ぎであぁなったんだよ……。
俺は本当に街に走っただけでさ」
「はっは、カトー、暗い顔だな?
どうした、お前に出来る事を精一杯行ったおかげで、こうしてレイラやあの重傷者が助かったんだ。
それは誇っていいんだぞ?」
(ただ走っただけを誇るってのもなぁ、いや、うん。
ここは、乗っておくのが良いよな?)
「ヒロよぉ?お前さんは立派だぜ?
森の中を走っただけだって?馬鹿いっちゃいけねぇ、そいつぁとんでも無い事だぜ?
それどころか、カルガンにも襲われたそうじゃねぇか、それでも逃げずに街まで一目散に向うたぁ、大した野郎だ!」
「そうだよ!カルガンに襲われた時の事、ちゃんと言ってたでしょ!?やったの!?」
「やったっての!んでそうなったんだよ!てか二匹いたし!一匹じゃない時の対処法なんて聞いてない!」
「なんてこと、二匹もアレから逃げていたなんて……」
「それだぜ?普通、そうなったら街に向うってのよりも、カルガンから逃げる事を重視する、それが普通で常識だ。
だが、お前さんは街に向った、仲間のためにだ……。
森を抜けちまえば遮蔽物はねぇ、追いつかれる可能性はグンと上がるってのによ?」
「あぁ、なんでか二匹のうち、一匹は急に消えたんだよ。なんか凄い音がしてたなぁ。
だから行ける、って思えたからってのもあるね」
「そりゃぁ、多分他の組の連中が作ってた簡易な罠だろうな。
しかし、運が良いのか悪いのか……そいつらと合流できてりゃ、もっと安全に街に迎えてたのによ?」
~ルクーツァ達の組とギョッセ達の組以外の組は、逃げるにはいかず、かといって立ち向うにも技量が追いつかない。
なので、せめてもの足掻きとして罠を設置していたとは、後で分かったことだ。
万が一、ルクーツァ達が敗れ、街に向ったとしてもソレによって少しばかりの時間が稼げた事だろう。
そして加藤の呼ぶ応援が間に合うという訳だ、加藤がいなければ焼け石に水になっていたのだが……~
「まぁ、他の組も流石に動転していたらしいな?
全ての組が合流していたというのに、街に報せるという考えが思い浮かばなかったのだから……。
罠を仕掛けても、それに対抗する術がなければ意味が薄くなるというのにな?」
「まぁ、仕方ねぇさ。
おれっち達も中型が来たなら、3人が足止めに、1人を伝令として逃がせば良かったんだ。
それを全員で交戦っていうのを選んじまったんだから、あいつらの事は言えねぇってのもあるんだけどよ?」
「まー、その罠のおかげで一匹からは逃げられたわけかー。
良かったね?ヒロが罠に掛からなくて!」
「本来なら、ヒトが見ればスグに分かる類なのですが……。
その状況で、そして罠を知らなかったカトーさんが気付けるはずもない、ですね。
本当に良かったです」
「ははっ、そうだねぇ……。
まぁ、それでも実際追いつかれそうだったけどね?
おっさんに助けてもらえたんだよ、いや、あの時は驚いた」
「ワシの方が驚いたわっ!まったく、お嬢様方に何かあったのかと冷や冷やしたものじゃ」
「あれ?俺が危ないってのに冷や冷やはしなかったの?」
「……さて、どうだかのぅ?
別にお主を心配してなかったと思うが、まぁ危ない所じゃったし、助けてやろうかと思っただけじゃ」
(しゃべり方はアレじゃなくなったけど、なんだコレ?おっさん、いや爺さんのツンデレ?
ぐふぅ、なんて威力だ……こいつは殺人級だぞ!)
「そーいえば、デイリー?もうあの喋り方は止めたの?」
「ほっほ、やはりコレが一番落ち着きますからのぅ……。
しかし、この前火の国に赴いた時に会うた、あの女の口調……真似してみるか?」
「止めてよ?どんなヒトかは知らないけど女のヒトでしょ?
デイリーはお爺ちゃんだからね?本当に止めてよ?」
「…………大きくなられたのぅ」
(おっさん、なんていうか……、いや言うまい)
「まぁ、中型を狩ったのは久々だっていうじゃねぇか?
色々あったが、万事綺麗に終わったわけだ、見ろよ、今の街をよ!
みんな嬉しそうじゃねぇの、へへっこれが冒険者を辞められない理由って奴だな!」
~デイリーの発言で何故か固まった場を解かすように、ギョッセが明るい口調で語る~
「お主は何もしておらぬだろうが、何をほざいておる?」
(うわぁ……ギョッセが沈んだ。こいつは酷い急所攻撃だ)
「うっせぇ!いいんだよ!その場で一応頑張ったんだからよ!」
「はっはっは、そう言うな。デイリー殿。
ギョッセはオレ達が来るまで、遊ばれていたとしてもロイオンから他の仲間達を守っていたんだ。
それは簡単な事ではないだろう?」
「それに、ギョッセさん……貴方はあの時、かなり疲労していましたね?」
「うげっ、やっぱ分かるか?
初っ端でカルガン達を見つけてよ、笛を鳴らした時までは良かったんだが、そこであいつが登場よ。
カルガンは逃げ道を塞いだ形でいたおれっち達に襲い掛かってくるから迎撃、その上でロイオンが、ってなるとな?
いくらロイオンが本気じゃないとは言え無理ってもんよ」
「それで怪我人を重症でも一人に抑えたの?ギョッセって実は結構凄い?」
「へへっ、おうとも!……って言いたいとこだけども、そこまでじゃねぇ。
さすがにルクーツァの旦那やデイリーの爺様みたいにゃ出来なかったからよ?」
(いやぁ、ルクーツァから大体聞いたけど、この二人が人外なだけだろ?
てか、ギョッセも十分その域にいる気がしてならねぇ……)
「ほっほ、生意気を言う!お前さんがそこまでとは誰も思わんよ!」
「いや、デイリーのおっさ、いや爺ちゃん。そこまで言わなくて……」
「カトー、あれはデイリー殿なりの喜びの表現だ。
オレとしてもギョッセは大した奴だと思っている、だからこそ駄目な所を言い続けているんだろう」
「だからこそ?普通、よく耐えた、とか言わない?」
~加藤とルクーツァは小声で話す~
「分かっちゃいないな?まぁ、お前もそんなもんか?」
「はぁ?」
「もー、何こそこそ話してるの?ほら!ルク、見て見て!この料理!美味しいんだよ!食べようよ!」
「おぉ!こいつは……まさかロイオンの焼肉かっ!?
こいつはいい、どれ貰うとするか」
~レイラが差し出す皿の上には、香ばしい匂いの肉があった。
一見すると、普通の牛肉などと変わらないように見えるが、脂が多いのだろう。
光を反射している程に脂を含んだ肉汁が溢れている~
「……大事な事言ってるんじゃなかったのか?
いつも思うけど、やっぱルクータって食いモノになるとコレだからなぁ……」
「カトーさん、今はそれは措いて置きましょう?
ほら、これも美味しいですよ、あとお酒もありますし」
「酒!?まじでか!やっべ、飲む飲む!俺は酒を飲むぞ!」
(くくくっ、お酒……大人の飲み物だっ!)
「あ、はい。どうぞ、これはそう強くないお酒ですから、軽く飲めていいんですよ?」
「どれどれ……ぐふっ!?」
「カトーさん!?」
(に、苦い……てかなんかヤバイ。これが軽いお酒なのか?
と、父さん、俺はやっぱりまだまだガキだったみたいだ……っ)
~エリアスールは弱い酒と言っているが、それは冒険者の認識では、だ。
通常で考えれば十分強い酒であり、ほぼ酒を飲んだことの無い加藤には強すぎたのだろう~
「ルクーツァさん!カトーさんがっ」
「んー?はっは、放っておけ!疲れもあったんだろう、眠らせてやるのもまた優しさ、はっはっは」
「ルクってば酔ってる?でもヒロも情けないねぇ、こんなお酒で倒れちゃうなんて……」
「まったく、レイラだって初めて飲んだ時は大騒ぎしたというのに……」
「ほっほ、なにそういうものさ。
直に飲めるようになる、そういうものじゃよ、……何事もな?
小僧が今回、ただ守られる事を良しとせず、一人で向かえたようにの」
「そうだな、カトーは選んだ。
選べた、そして言ってくれた、貫いてくれた……。
ちょっと前まではオレが傍を離れる時は色々と煩かったのになぁ……」
~ルクーツァは湖での出会いから、この街へくるまでの事を思い出しているのだろう~
「なにそれ、年寄りの感傷?」
「…………オレは年寄りか?」
「認めろ、お前さんも十分こっち側じゃよ」
「いや!オレはまだ若い!少なくともデイリー殿には言われたくないなっ!」
「はぁ、まったく……静かにして下さい、カトーさんが起きてしまいますよ?」
「まぁ、良く分からないけど、カトーは今回頑張ったよねぇ」
「ふふっ、そうですね。これからどうやって強くなるのか……楽しみです」
「ほっほ、こやつなど強くなった所でどうとも変わらんわっ!」
「あのなぁ、爺様よ。
そういう言い方は……」
「ギョッセ、あれはだな?……」
~加藤は自分を弱いと本当の意味で認められた。言葉だけではなく、命が掛かっている場面で行動として、それを表せたのだから。
そして弱いという事は、いくらでも強くなれるのだ。例え、それがモンスターに背を向けた答えだったとしても、それが強さに繋がる道だと信じられる限り。
彼はその選択を選んだ、本当の意味で強くなる事を彼は選んだのだった~
「まぁ、今回の仕事は色々大変だったけど、楽しかったね!」
「レイラ……貴女はどうしてそう……」
「ほっほ、中型が現れた上にそれを討伐したんじゃ、それなり以上に報酬を上乗せせねばなるまいよっ」
「うっは、本当か爺様よぉ!こいつぁおれっちも喜びを抑えきれねぇ!もっと料理を持ってきてくれ!おれっちは食うぞぉ!」
「さっきからお前は食っていただろうが、何を今更言っているんだ?」
「本当にねぇ?ってソレはわたしのだよ!なに取ってるの!?」
「レイラもギョッセさんの事をいえませんね……。
っ!待ちなさい、レイラ!それはカトーさんのですよ!?何を取っているんですか!」
「ほっほっほ、いやはや若いのぅ?」
「……そうですな、いいものです。
色々と思い出してしまいますよ、あの時もこういった……」
「ふむ、やはりお主はこっち側じゃったの」
「………………」
~なにはともあれ、こうして加藤の初めての仕事は幕を閉じたのだった~