第12話 『○○→強者!』
~足は大地を踏みしめて、助けを求める音の元へと駆ける。
そして強者たちは弱者が未だ持たない強さを滲み出させた~
「武器は大丈夫か!?」
「もちろんです、槍は万全ですよ!」
「わたしの弓も問題ないよ!いつでも撃てる!」
~どうやら、秘密の背袋の中身は弓だったようだ。
シンプルでいて、力強さを感じさせる大きな弓、しかし彼女はそれを軽く持つ。伊達に冒険者ではないという事だろう~
「……いいか最終確認だ、ロイオンで気をつけるべきなのは速度だ、攻撃力云々は中型の一言で分かるだろうが、いいのを食らったら終わりだぞ!」
「わかってるってば、安全に倒すのは今の装備じゃ無理。比較的軽い装備しかしてきてないからねっ!」
「ですが、幸いロイオンです!最もヒトと戦ってきた中型ですから対処法も多岐に渡ります!」
「今回取る方法は一つ……牙を折る!そうすれば倒せなくとも退かせる事が出来る!
ロイオンは牙を失えば逃げるからなっ!」
「それじゃ基本はルクとエリが、かく乱!わたしが重点的に足を狙う!少しでも動きが鈍ったら!」
「任せろ!オレが決める!」
「私はその際のフォローに回ります!」
~3人が確認をしながらも森を駆けていた時だ。
そう遠くない所から、金属音が聞こえてきた、そして~
「キィァオオオオオオオオオン」
「っ!?」
「いたなっ!」
~彼らの目の前、というわけでは無いが目に見える距離にソレはいた。
体長は6mほどだろうか、以前言っていた通り、見た目は大きな猫という感じだ。
しかしその体は鎧でも纏っているのではと思えるほどの鱗で覆われており、大きな牙、そして鋭利な爪、猫に似合わぬ太く大きな尻尾を持っていた~
「他の組はやはり居ないか、恐らく森の外だろう。
予想通りだな、お前達、さっき言った事を頼むぞ?」
~まだ彼らのいる場所からはモンスターしか目に移らないが、それに反撃する数が少ない、それによって他の組はこの近辺にはいないと確信したのだろう~
「それでは、レイラ。頼みますよ?」
「…………任せて」
「……おぉッ!」
「…………っ!」
~静かな覚悟の言葉を受け取った2人は一気にロイオンが暴れた事で作られた広場へと躍り出て、今までロイオンに圧されていた他の組の男達の前へと駆ける~
「…………来てくれたかっ」
「……はぁ、はぁ、すまない……」
「悪ぃが、一人重症なんだ!こいつを下げる!お前達、頼んだ!」
「了解した!……準備はいいか?急ぐぞ!」
「……よし、背負った!!」
~森に入るとき、先導は必須だ。逃げるときは言うに及ばないだろう。
故にここで中型と争っていた、いや逃げていた組から3人抜ける。
ここに残るのは組のリーダーと思われる竜人とルクーツァ達の4人になった~
「それでは御武運をっ!……!」
「すまないっすぐ戻る!……っ!」
~重症を負った者を背負ったヒトと先導役は言葉を残してその場から離れていく、それを見届けたルクーツァはロイオンだけに意識を向けた~
「お前は大丈夫なのか?もし無理ならば、お前も行け。
正直、ロイオン相手ではそう余力はない」
「いや、大丈夫だ。
それよりもすまねぇな、まさかロイオンが出るなんてよ……。
本来なら無視して逃げてくれと言いたい所なんだが、情けないわな……。
それと、おれっちはギョッセっつぅんだ、お前じゃわかりにくい、そう呼んでくれや」
~ギョッセと名乗った男は、見た目はほぼ人間でルクータよりも若く、加藤よりは年齢が高そうだ。
しかし眼が赤く、耳が尖っている。気のせいか犬歯が人間のソレよりも二周りほど大きく見える。
そして手には大きな剣、両手剣を持っているが、所々刃こぼれしていた、どうやら今まで主にこの男がロイオンと遣り合っていたようだ~
「そうか、ギョッセ……だな。
だがオレ達がする事は遺言を語る事じゃない。
気を逸らすな!来るぞ!」
~怪我人の撤退準備の間、ロイオンの相手はエリアスールのみで行っていた、攻撃などしない、出来ない、全神経を使って回避し続けていたのだ。
そして、彼らが去ったと見るや、攻勢に移るために距離を取った時、ロイオンは素早く動き回っていたエリアスールよりも倒し易いと見た、動きを止めているルクーツァ達へと向ったのだ~
「…っ!」
「ギィイアオン!」
~猫のよう、それは正しくそうだった。走る速度自体はそう恐れるものではない、しかし加速が凄い次元なのだ。
一気に、ではない、最初から最高速度で飛び掛ってくる。これが恐ろしい~
「っつぇぃ!」
~ギョッセはすぐさま横に回避、しかしルクーツァは前に進む。
そして剣を両手に持ち、ロイオンに向けて駆けた。
そして両者は交差する、だがルクーツァは無傷、いや脚に土がこびり付いていた~
「なんて野郎だっ、ロイオンの足元を滑りやがった!」
~簡単に言っているが、これは難しい。いやその技術自体は誰にでも習得できるものだ、なにせただ前へ滑り込むだけなのだから。
ロイオンはその加速故に飛び掛ってくる場合のそのほとんどは直線にしか進めない、だからその選択はある意味では安全と言えるかもしれない。
しかし、そこに飛び込める者はそうはいない、一歩間違えば防御もなにも関係なく即死するためだ~
「ギイイイイァオゥウウウン」
~ロイオンは怒りの雄叫びをあげる。
その理由は僅かに流れる赤い液体にあった。そう、ルクーツァが下を滑り抜けた時に斬り付けたものだ~
「ふむ、運がいい。こいつはまだ成体ではないのか?鱗が本来のソレより脆い!
レイラ嬢!精度は気にするな!射って射って射ちまくれ!」
「……分かった、わたしも出る!」
~森の中からでは、その射線にロイオンが来なければ撃てないからだろう、レイラも広場へ躍り出た。
そして、ルクーツァや先のエリアスールの動きで力量が分かったのだろう、ギョッセはレイラの傍に駆け、守りの姿勢を取る~
「悪くない!だが、基本は動け!」
「っつぇえあぃ!」
~エリアスールが一気呵成に槍を構えて突進、いや風になる。
ルクーツァにつけられた傷の痛みによってだろうか、動きを止めていたロイオンの後方を槍を薙ぎながら駆け抜けた、勿論その風は敵とするモノに傷を負わせる~
「グゥィイイイイイオオオ!」
~ロイオンは己の獲物に好き勝手に動かれて苛立ちを隠せないでいる。
しかし、今まで獲物を痛めつけるのに執心していたツケで、この場はヒトにとってそれなりの場になってしまっていた~
「ぉおうっ!」
「てぁぇぃい!」
~そしてロイオンは認識を変える。この獲物は獲物ではないと。
先ほどまでの獲物と似ているが、これは敵だと認識する、そしてロイオンは中型の脅威を見せつけ始める~
「グァォオオッンンン!」
~それは先ほどまでの雄叫びと似ているようで全然違う。それには殺意があった。
ヒトという脆弱な存在にどうしようもなく恐怖を抱かせるソレが内包されていた~
「ちぃ!お遊びは終わりだっ!あいつらはもう森を抜けたのか!?」
「分かりません!ですがまだだめです!そう時間が経っていません!」
「くっ、いくら弱い部類のロイオンとは言え、そう簡単に貫けないよ!」
~彼らはもとよりこの場で勝てるとは思っていない、相手を疲労させ街の応援を待つ、或いは牙という最大の脅威であり弱点に逆転の望みを託しているのだ。
しかしそのどちらもこの場では難しい、狭いのだ。
こう狭くては、この勝負の鍵であるレイラがその力を発揮できずにいた~
「ギィイイアォオオン!」
~余所見をしている暇はない、先ほどと同じように、しかし明確な狙いを持って凶器を振るってくる脅威がいるのだから~
「くっぅ!」
「ふっつぇあ!」
~ルクーツァが狙われた、彼は全力で回避に移る、もはや先の小細工をしている余裕はない。
しかし反面、槍という間合いの長い得物の長所を生かしてエリアスールは、跳び下がりながらも風を薙ぐ~
「キギィォアアオオオオン!」
「っぇい!」
~ルクーツァは先ほどの攻撃からあまり攻撃は行っていない、エリアスールの死角をカバーする形で動いていた。
エリアスールはそれを受けて更に攻撃の手を強める~
「くっ、あまり良い流れではありませんねっ、このままではどちらも同じく疲弊していきますっ」
~ヒトとモンスター、両方が疲弊したとしたら、押されているヒトはモンスターに為すすべなく食らわれてしまうだろう~
「焦るな、今の流れでいいっ、最初言った事を忘れたのか!疲弊させれば勝機があるんだ」
「ですが、このままではっ」
「なに、万が一になったならばオレが出る……そうなったらお前達も退け、いいな?」
「……なにを?」
「そこっ!」
~エリアスールとツクーツァに気を取られていたロイオンに向けて、ギョッセに守られたレイラは矢を放つ、先の言葉通りにその勢いは凄まじく、精度を気にしていないはずのそれは脚の一部に集中して当たる~
「ギィアァオオオオン」
~ロイオンにしてみれば一番脅威なのはルクーツァ、次いでエリアスールだ。
しかし一番邪魔だと感じたのはレイラだったのだろう、殺意の方向をレイラに変える、今まで以上に強いものを~
「っ……!」
「…っ!?しっかりしろ!」
~レイラは気を強く持ちソレに耐えようとしたが、動きが止まってしまった。
何よりも不味かったのは、それに気を取られてロイオンから目を離してしまったギョッセだ~
「キィイイアオオオン!」
「しまっ!?」
~ロイオンは己の武器を振るった、一瞬でレイラ達の前に現れて、その鋭い爪を振るったのだ。
本来ならば、ギョッセが防御に回って時間を稼ぎ、レイラが攻撃を以って注意を逸らし、ルクーツァ達の援護で体勢を立て直すというはずなのだ。
しかしレイラは一瞬止まってしまった、ギョッセは目を逸らしてしまっていたのだ~
「いかんっ!」
「レイラっ!下がりなさい!!!」
~さしもの二人も急にレイラ達に向われては追いつけない、ただ声を上げる事しか出来なかった。
いや、ルクーツァは一瞬、更に動こうとしたが、それを止めていた~
「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「キィアオオオオオン!?」
~その刹那、間一髪の所で放たれた一発の砲弾、それは小男だった。
全身に鎧を纏った小柄な男が、ロイオンが振り上げた腕に突貫したのだ。
信じられない光景だ、そしてレイラの目の前に着地すると、小柄な男は槍、いやランスと盾を構えた~
「お嬢様、ご無事ですかな?」
~小柄な男は、さきほどの間延びした話し方ではなく、戦士として話しかけたのだった~