第11話 『○○→脱却!』
(俺がなりたいものは大人だ、父さん……母さんみたいな、そんな大人だ)
「…………」
「……助けにいこうにも、いや……やはり」
(皆が言いたい事は分かってる。そして言えない理由も分かってる。
俺だ。俺が弱いから、ただ、それだけが理由。
中型モンスターってのは街単位、つまり大勢の戦えるヒトで対抗すれば狩れる相手、狩れる……つまり優位に立って行えるって事だ。
だけど優位じゃなくても劣勢だったとしても、対抗するのは少人数でやれない事はないはずだ。
事実、ルクータは悩んでる、中型をルクータならどうにか出来るんだ。
そして足止めじゃない、他の組を助けるためにはルクータだけでは厳しい、そうするにはレイラ達の協力が必要……。
俺を一人にしたくないから、ルクータは、皆は……、言えない)
「よし、カトーにエリアスール、レイラ嬢……てtt」
「……いや、俺が街に応援を求めに行くよ。
皆は他の組の救援に向ってくれ、それが最善だ」
~彼は、いつもと違う色の、燐とした声を出す。
もし元の世界で加藤の知り合いが聞いたのならば、誰かの声に似ていると思ったことだろう、そんな声だった~
「……何を言っている?
少しばかり森に慣れているからと言って、図に乗るんじゃないぞ?」
「ルクータこそ、少し黙ってろ。
俺の保護者として言ってくれているなら、尚更だ、黙ってくれ」
(そうだ、俺は弱い。こんな状況でも、いやこんなだからこそ、守ろうと思われるほどに……。
だけど、だからこそ言わないといけない、あの時は言えなかった。
自分の意思を伝えないといけない、こんな時にまで子供のままではいられない!)
~彼は、睨むでもなく、見つめるでもない。
ただ、瞳を向けた。これもまた、誰かのものに似ていた……~
「っ、カトー、いい加減にっ!?」
~ルクーツァが手を伸ばし、加藤の肩に触れようとした時だった。
その手を掴む二つの細い手があった~
「…………」
~彼女達は静かに首を振る、そして今は背を向けている加藤を見た~
「…………お前」
~そこにあったのは、弱者で敗者の背……、しかし同時に強い何かを宿し始めている背中だ~
「ルクータ……生意気言ってごめんな。偉そうなクチ聞いてごめんな。
正直、俺は死にたくない、他の組がどうの、暗黙のがどうの、どうだっていい……最低だな。
だけど、死にたくないけど、なんでかな?
ルクータ達のそんな顔は嫌なんだ、いつまでもこのままの自分が嫌なんだ」
「だが、カトー……万が一、街へ向う途中でロイオンに追われたカルガンにでも遭遇してしまったら!」
「そうだな、だけど、それ以上に、いやなんだ。
俺は弱い、だから俺が倒すって言えない。ヒーローにはなれない……。
今の俺じゃ、命を賭けたところでスパルタにすらなれやしない、命を賭けても中型には届かない」
「あの例え話か……だがっ」
「だけど、俺さ……走るのは得意なんだよ。
こんな役立たずな俺に役目をくれないか?ただ、守られて逃げるだけじゃない、応援を呼ぶっていう立派な役目をくれないか?」
「カトー、だがな?中型がいるとなったら普段は安全な場でも、そこにいる動物達は敏感になるんだ、大人しいヤツも襲い掛かる事だってあるんだ。
その上、さっきも言っただろう?カルガンが」
「俺は、走るのが得意だって、言っただろ?出てきたら逃げるさ。
頼む、任せてくれないか?」
「ルク~、もう駄目だってば、見たらわかるでしょ?
今のヒロ、なんだか凄い格好良いよ?」
「は?なんだ唐突に……それに、格好悪いだろ?ってそうじゃなくてっ!」
「いいえ、とても良いですよ。
貴方に取って、今のこの森を駆ける事は命懸けでしょう?
私達が中型に挑むのと同じくらい、いえ、心情も加えればそれ以上かもしれません」
~事実、加藤が脅威がいるとハッキリと認識して一人で森を歩くのは今回が初めてだった。
良く見れば、加藤の足は微かに震えていた、武者震いのソレではないだろう~
「いやいや、そんな良いモノじゃないって。
俺がいたら、助けにいくのも行けないって思ったから言ってるだけなんだって!」
「……だから生意気だと言うんだ。
まったく、いいか?駆けろ、今まで以上に早く、速く、疾く《はやく》だ」
「え?い、いいのかっ!俺がやってもいいのか!任せてもらえるのかっ!?」
「あぁ、任せる……いや、頼む。
俺達は中型モンスター、ロイオンの足止めに向かう。
カトーは街へ向い、ロイオンがいるという報告と応援を求めてくれ」
「あ、あぁ!分かった!」
~その声は先ほどの声とは少し違っていた。燐としたモノを残しつつも彼の声が混じり始めた、彼の声だ~
「いいですか?万が一、カルガンに遭遇してしまったら、最初から背を向けて逃げるのではなく、一度足を止めてカルガンを睨んでから、再度走ってください。
本当なら、私達の誰かも一緒に行きたいのですが、ロイオンとなればそれも厳しい……」
「カルガンとかの小型は群れていればお構いなしに襲ってくるんだけど、単体の場合は、やるならやるぞーって見せてやれば襲ってこない事があるんだよ?」
「へぇ……分かった!まぁ、そうならない事を祈るよ」
「ふふっ、そうですね。
もし、スグにでも遭遇してしまった場合は大声で知らせてください、私が向いましょう」
「いやいやいや、いらないって!てか声って……悲鳴?」
「うんうん!きゃあああって!もしそんな声出したならわたしが絶対助ける!
『大丈夫ですか、お姫さま』って言って助けてあげる!」
「…………」
「何を馬鹿な事を言っているんだ、お前達。
カトー、もしカルガンが出た場合はエリアスールが言っていた通りに。
いいか、駆けろ、お前なら出来る、絶対だ」
「っと、あぁ!任せてくれ!」
~そう言うと、加藤は走り出す。
段々と速くなる、先ほどの速度よりも速いかもしれない、それほどの速度だ~
「ひゃぁ~、やっぱりヒロって、足速いんだねぇ……」
「それにしても、他の組なんて、暗黙の了解なんてどうでもいい、でしたか」
「暗黙の了解……大抵の場合は命を守り守られるための掟の一言で終わるもの。だが、このサックルのような街の場合、ちょっとした種族間の諍いの火種が、正に命取りになりかねない、な」
「そうだねぇ、獣人だけの組だったから見捨てたんじゃないか?とかで街がぐちゃぐちゃになった所もあったみたいだしね」
「そうだな、それは今は措いておこうじゃないか。
行くぞ……オレが道をつくる、付いて来い……」
~ルクーツァ達は静かに頷き合うと、加藤とは違う方向へ足を向ける。
しかし、ルクーツァは一瞬、加藤が走り去った方向を見て、苦く笑った~
「暗黙の了解など、か……。
ふっ、だからカトーはまだまだなんだ。
しっかりと、やってみせたじゃないか……」
~何も、守るというものは命だけでは無いのだ。
時にはそれ以上に重いものがある、意思だ、信念だ。
加藤はルクーツァ達のそれを守るためにたった一人で森を駆けると言ったのだ。
正しく、ソレのために彼らは走る~