第7話 『○○→価値!』
~人間の領主が治めている街『サックル』、別名『無法の街』とも謂われる所以は最も国々から離れた地にあるために本来街にあるだろう差別などが無い事から来ている~
「いやぁ、昨日は色々聞いてて結局来れなかったからなぁ、観光!」
「ははっ、そうだな。
今日はこの街をグルっと回ってみるとしようか。そうだな、まずは……」
「おい先輩!見ろよアレ!武器だよ、武器!見にいこう!」
「キュッキュ」
「……やはり中央広場がいいだろうか?っておい!待て待てっ!」
~彼は武器を売っているらしい露天へ向け走ろうとした所を、ルクーツァに襟首を掴まれるという形で止められた~
「ぐふっ……、ちょっ、ルクータ!止めるにしてもやり方ってのがさぁ」
「あのなぁ、オレが色々と考えてるってのに無視して行くんじゃない。
……それで?あの武器を売ってる所へ行きたかったのか?」
「そうそう、だってさ武器だよ?やっぱり見てみたいじゃないか」
「ふむ、確かに武器の一つも持っておくべきか……。
よし、今日は武具を見て回るとしようか。なに、この街はそういうものの品揃えはかなりのモノだからな、あそこから始めるとしても露天を含めると今日一日で回りきれるかどうか……」
「やった!武器とか見て回るのか……やっべ、楽しみだなぁ。
それに一日掛かる?全然構わないね!少なくとも一日中説明聞くよりかは、ずっとマシだ!」
「色々と言ってくれるじゃないか、しかしそういうものかもしれないな?
さて、行こうか。だが走るなよ?広い道とは言え、ぶつかると危ないからな」
~確かにこの道は広い。この街はほぼ円形と言っていい防壁に囲まれた城塞都市と言える形だ。
というよりもこの世界で街とは即ちそれになるのだが。
そしてその四方、東西南北に大きな道が十字に走っており、そこがメインストリートと言えるもので、中心には大きな広場があるというものだった~
「っと、そうだな。別に武器屋は逃げないし、ゆっくり行こう」
「まぁ、オレも最初に武器を手にした時はそんな感じだったからな。
気持ちは分かってるつもりさ」
「へぇ、そういえばルクータってさ何歳なんだ?
俺より年上なのは分かってたけども……」
「ん?あぁ、オレの年か?今年で34になるよ」
「へぇ、34歳なのか……。ん?ルクータ、この世界って一年は何日なんだ?」
「一年は730日だな、ちなみに一日は24時間。それがどうしたんだ?」
「え……730日?マジデ?」
「? そうだが……」
(ちょっ!?嘘だろ!?別に一年が730日っていう地球の2倍だとか、寿命もきっと2倍っぽいのも、成長遅くね?とか、俺もそうなると?ってのは今どうだっていいんだ!
くっそ……なんてこった!?)
「おい……どうした?なんか問題があるのか?」
~急足を止めて俯き、身体を僅かに震わせながらも無言の彼を心配してか、ルクータは彼に近寄ろうとした~
「くそがっ!俺はラルより年下だったのか!?」
「うぉ!なんだなんだ?お前は18歳なんだろう?だったらラルより年上じゃないか、何を意味の分からない事を……」
「あ……ふむ、そうだな。確かに俺は18歳だ。これは事実。
そう!例えこの世界的に考えれば9歳で、ラルはあっちで考えれば20歳だとしてもっ!」
「…………跳びリス君、行こうか?」
「キュ……」
「って待って!ごめん!ちょっと気が動転してただけだって!
俺も武器見たいんだって!置いて行かないで!」
―――
―――
―――
「へぃらっしゃい!ウチにあんのはここらじゃ滅多にお目にかかれない武器!火の国の最新式のシロモノだ!
どーだい、見てくれこの槍をっ!長すぎず短すぎず、攻守一体!こいつぁ買わないと損!大損ってもんさぁ!
どうだい坊ちゃん!こいつを特別に金板3枚……いや!2枚で売ろうじゃーないかっ!」
「はぁ……えっと」
「悪いね、こいつが欲しいのは槍じゃなくて剣なんだよ。
すまんが今回は止めさせて貰うよ」
「っと、待ちな!そういう客も居るかと思って……」
「さ、行くぞカトー」
「え?あれ?あ、うん」
~二人は露天商が何やら探している間にその場を離れて、大通りを進み始めた~
「なんであんなハイテンションなんだ?あの人はさ……。
って、そうだ!ルクータ、聞きたい事があるんだけどさ」
「ん?あぁ、さっきの露天は止めておけ、あんなモノに金板を3つ、2つなどボッタクリにも程がある」
「そう!その金板ってのは通貨の単位なんだろうけど、それって?」
「お?はっはっは、すまんな。これも大事な事だったか、いいか?
まずは……」
―10分経過―
「……という事だな?覚えられたか?」
(つまり、銅貨が百円、銀貨が千円、金貨は一万円、金板が百万円って感じかね?)
「……うん、分かったよ。つまり金板が3枚とかはあり得ない値段ってことだろ?」
「そういう事。火の国だのなんだのをいきなり言う輩はそういうのが多い、気をつけるといいな」
「うんうん、でさ?火の国ってなに?」
「火の国は人間の国を簡単に言ったものだな。その他にも土、水、風がある。
これらは順に獣人、竜人、有翼人の国の簡易な表し方だな」
「簡易っていうと正式な名称があるのか?」
「勿論あるとも、人間の国はストロベルン、獣人の国はブリアロン、竜人の国はライアズール、有翼人の国はクラッセンと言うんだ。
それに人間の国が火と言われる理由は鍛冶職というか技術を開発するためのモノが多いので、大抵どこでもそういったモノが見られるため。
獣人の国は洞窟というか、山肌に穴を開けての家々が並び、城もそうだからだな。
竜人の国はそのまま、国というか街というか、ともかく水運が発達している。
有翼人の国はそれはもう大きな大木の上に暮らしていて、その国に行けば風をより強く感じられるからだな。
まぁ、この火とかで覚えておけば問題はあるまい」
「へぇ、まぁ確かに火とかなら覚えられるけど、その名前はイマイチ覚えられないな……」
「だが、どうでもいい訳では無いからな?その内ちゃんと覚えるんだぞ?」
「うん、まぁそっちも追々覚えるよ。
それでさ、武器!武器をちゃんとしたところで見たいな!」
「そうだな、露天には掘り出し物がある事もあるんだが、まずはちゃんとした所、店を構えている所がいいだろうな」
「いいねいいね、別に伝説の剣とかはいらんのですよ、俺が欲しいのは剣なんだから」
「伝説の剣?あぁ、英雄譚などに出てくるようなものか?
そういったのは流石に露天にもないだろうな。
精々が、英雄として称えられている人物が使っていたものが国にあるくらいだ。
それにそれは随分昔のだからな、今ではなまくらと言えるだろうし……」
「いや、だから別にそういうのはいらないんだって……。
っと、あれじゃない?なんかそれっぽい看板があるんだけど?」
~彼が指差す方向、東大通りを中央広場側へ行く途中に剣の形の看板が掛かっている店舗があった~
「お?そうだな、あそこが武器屋らしい、行ってみようか」
「うんうん、やっべ無駄に緊張しちゃうな」
「すまんが、店主はいるか!」
~店に入るなり、ルクーツァは大声で店の者を呼んだ。
すると奥の扉から、人間で長身の男がゆっくりと歩いてきた~
「あんだ?そんな大きな声で呼ばずとも聞こえるってのに……。
それで、会計でも?」
「すまんな、癖のようなもので、直そうにも直らなくてな……。
あぁ、今日はこいつの武器を見に来たんだが、剣を見せて欲しいんだ」
(随分と無用心なんだなぁ、盗まれはしないんだろうか?)
「へぇ……新人冒険者ってわけかい?
そいつぁいけないな?この街が何処にあるのか知らないわけじゃあるまい?」
「まぁ、確かにな。冒険者としての仕事をしていくなら、このサックルから始めるというのは自殺するようなものだろう。
だが、色々と訳有りでな?まぁ、頼むよ」
「ふんっ、まぁいい。そうだな……坊主、おめぇ人間だな?」
「はぇ!?あ、はい!人間で18歳です!」
「そうか、人間なら……」
(やっべ、こうやって面と向かうと怖えぇ……、人間なんだろうけど、なんだろ……威圧感?ひょろっちぃのに、こりゃ盗みなんて俺みたいに来たばかりのヒトしか考えられないわな……)
~伊達にこの街で武器屋を営んではいないという事だろう。店主の風格は彼が感じた通り、歴戦の戦士と言われても否定出来ないものだった~
「こいつなんかがいいだろう。
鉄の刃ではなく中型のモンスター、ロイオンの牙を加工した一品だ。
鉄の武器に比べ何より軽いのが特徴で、切れ味も悪くない。
だが、斬るという面ではかなり劣る、叩き切るとか突き刺すという使い方がいいだろう」
「えっと……ルクータ?」
「ふむ、ロイオンは頻繁に見かける中型のモンスターで大きな猫と言う感じのものなんだ、そして牙が長いんだが、そいつを加工したモノだな」
「いや、だからさ?」
「分かっている、これはカトーには合わないだろうな?
……店主、あまり冗談には付き合えないぞ?」
「へぇへぇ、高いモンなら喜んで買っていくんだがね?でけぇお守りが付いたヒヨッコさんだとね?」
「色々あるとはいったが、別にそういう事ではないさ。
……普通にこいつにオススメの武器を出してくれ」
「おいおい、睨んでくれるな、わぁった。
それじゃぁ……」
「ルクータ、なんであの武器は駄目なんだ?説明聞く限り悪くなさ気じゃない?」
「そうだな、強ち間違いという訳ではないんだが、あれは壊れやすいんだよ。そして手入れは非常に難しい。
カトーじゃスグにダメにするだろうな?」
「うぐ、まぁ壊れやすいってのはアレだよなぁ」
「まぁ、ある程度剣の扱いに慣れれば壊れるなんて事はないし、手入れも出来なくはないんだが……カトーというか、不慣れな者にはなぁ」
「へへっ、坊主。それに加えてこの武器はたっけぇのよ。
いくら他のよか多く狩る中型ってもそこは中型、貴重なわけよ」
「げっ、高かったのかよ!おっさん、あんま高くなくて、それでいて最高に使い易くて超格好良い武器をくれ!」
「無茶言いなさんな……この御仁といい坊主といい、なんだかねぇ。
だけども、ほら……これなんてどうだぃ?」
~店主が机に出したものはどちらかと言えば小振りの剣だった~
「これ?ルクータ、どうなの?」
「ふむ、悪くないな。鉄の剣だから重いんだが、小振りだからそこまでじゃないし、うん……刃も綺麗なものだ」
「へへっ、そうだろうよ?これは小剣の部類なんだがな?
これは素人にはオススメだし、ちゃんとした武人さんにも需要はあるってもんなんだ」
「あぁ、こいつは悪くない……予備に一つ、オレが欲しいくらいだ」
「普通のショートソードに見えるけども?」
「へへっ、そう見えるってだけで坊主が素人ってのが分からぁ。
いいか?普通のショートソードってぇのは、ロングソードを短くしたもんってとこだが、こいつぁ違う。
剣の幅が段違い、普通は5cm程度、だがこいつは倍はある、厚さはどちらかと言えば薄いモノが好まれるが、こいつは厚い……何よりも頑丈さを考慮した結果だ。
その分通常のショートよりも短いがな?ざっと60ってとこかね」
「そしてこれだけ厚ければ、ショートといえどもそれなりに重い攻撃が出来るし、重さもショート故に解決できる。
なのに、切れ味も悪くないと来ているんだぞ?
下手にロングを持つよりもこちらの方が……うむ、店主いくらだ?」
「ちょっ、え?これに決定?」
「へへっ、毎度。そうだな、こいつぁ……よし、金貨10枚で手を打とうじゃないか」
「おいおい、いいのか?これは良い、普通その3倍はしても可笑しくはないんだがな?」
「なに、ちぃと変な事しちまったし……それとヒヨッコへの贈り物ってぇやつさ。
嫌なら30枚って言ってもいいんだぜ?」
「ははっ、いや有難く10枚で買わせてもらう。こちらとしてもそう余裕はないんでな?
……カトー、一軒目なんだが、これでいいだろう?」
「えっと、ちょっと持ってみてもいいですか?」
「こいつはいけねぇ!試しもしてない内にこっちで決めちまうとはな!
おう、ほら坊主。気を付けてなら軽く振ってもいいぞ?」
~店主からの許しもあり、カトーは軽く剣を振るう。
彼らの話していた通り、まだまだ不恰好ではあったがそこまで重さを感じさせない振り方だった、~
「うん、良いね。なんていうか、うん……」
「ははっ、そうか。カトーも気に入ったようだし、それじゃ10枚……と」
「へへっ、確かに……坊主、ついでだ。これも持ってきな」
~そう店主が言って渡したものは、20cm程の短い棒だった~
「棒?なんですか、これ?」
「そのままだよ、棒さ。だが馬鹿にしたもんじゃねぇぞ?
小型の場合、慣れた奴ならそいつだけでも対抗できるって代物さ」
(いや、無理だろ……だって棒、それもこんな短いもので?)
「ははっ、こいつは棒は棒でも武器の一種さ。
ただ慣れた程度ではどうしようも無い、それを極めた位でないとな?」
「えぇっと?それじゃあコレって……」
「カトー、これは恐らく店主が昔使っていた武器だ。
そして、自分を長い間守ってくれた武器の一部なりを渡すことはお守りって意味なんだ」
「え?お守りって……あ、そのありがとうございます!」
「いいって事よ、こんな遠いとこで新人ってぇんだ。
意味はねぇだろうが、気休めでもそういうもんを持っておくに越したこたぁねぇ」
「うむ、だが安心してくれ。オレがいるからな?
そう易々と怪我などはさせんさ、だがオレからも礼を言う。ありがとう」
「へっへ、さぁ武器は買ったんだ。次は防具の一つも無けりゃ格好付くまい?
ほら、ここから中央広場へ向かう途中にソレがある。行って来な、坊主」
「ありがとうございました!それじゃあ!」
「それじゃあ店主、また来るよ……」
「毎度あり、怪我ぁさせんなよ!」
~始めて握り締めた武器という名の力の象徴は、思っていたよりも重く、冷たい印象を抱かせるものだった。
そして、武器を持つという事はそれを振るう理由も必要になるという事でもあった~
以下、補足ですが、長文になります、スルーして下さっても物語を理解する上ではそこまで重要では無いかも知れません。
通貨や国の名称などは簡単に終わらせました。こちらについては特にありません。
年月が地球の2倍なのは、地球とは違うんです!って感じを明確に出したかったため。浅はかですかね?
また、どういった感じで恒星の周りを回っているとか、それはどのくらいなのか、そしてその距離で地球と同程度の環境を維持できるのか、そこはすいません。適当です。
この世界の住民も地球の人間と体の造りがほぼ同じなのに、何故2倍近くの寿命を持っているのか?
これは最初の方で語られていた未知の物質、ここへ来てしまったモノとはまた違う物質の効果だとお思い下さい。
もう使わないと思っていましたが、都合の良い言い訳素材になっていますね……。
ちなみに、その未知の物質がある世界にいる主人公もまた、そうなります。
そこは今後に大なり小なり関係してきますが、物語としては、ほぼ蛇足ですかね。
2倍の月日があるのに、どうして10歳の子どもは地球の20歳前後の知識などを備えていないのか?
これについてはファンタジーのテンプレ存在であるエルフの設定を流用しています。
つまり、長生きなんだし、ゆっくり覚えていけば、それで良いのでは?って感じです。