第5話 『○○→軋轢!』
「まずは大戦争と言われている事を話そう」
~ルクーツァはゆっくりと語りだす、何かを思い出して、それを噛み締めるかのように~
「まぁ、戦争なんだし、昔は4つのヒトがドンパチしてたって感じなんでしょ?
それが差別に繋がる……まぁ、分からなくはないね」
「残念ながら、この大戦争というものは、ヒト同士での戦争とは言えないものなんだよ」
「はぁ?いやいや、さっき差別の原因となったとか言ってたじゃないか。
というかヒト同士での戦争じゃない?」
「そう、この大戦争は始め、ヒト同士でソレを行おうとしていた。
これは紛れもない事実だ。
が……、いざ戦争をしようと、それぞれのヒト達が戦いの場となる新たな大地へ足を踏み入れた時、ヒトは奴らに襲われた。そして奴らの脅威に気が付いた……」
(……新たな大地へ足を踏み入れた時?)
「そう、奴ら……モンスター達にな」
「あ、そういう事か。そうだよな、前に5つの大陸があってそれぞれにって言う話してたんだった」
「ははっ、忘れていたのか?
このモンスターという存在が良くも悪くもヒトが纏まっていられる理由なんだがな?」
「モンスターは恐ろしいって言ってたし、協力できるならその方がマシだよね」
「そうだ、今でこそヒト達が団結し立ち向かえば、モンスターに対抗するのは難しい事ではないと言えるだろうな」
「てか、最初の時に団結できてたなら何の問題もなくないか?」
「っと、そうだな。話を戻そう。
結果は今言ったとおり、大戦争はヒト同士の戦いからモンスターとヒトの戦いに替わり、そして一応の勝利を収める事に成功した。
ここまではいいかな?」
「うん」
「だが、問題はどうやって勝ったか?そして、その勝った後の状況にあるんだ。
まず、勝てた理由。これはだな……」
「長くなりそうだし、要点纏めて言ってくれ!」
「むっ、仕方ない……良いだろう。
1つ、人間の武器があったため。2つ、他のヒト達の身体能力が優れていたため。
大きく分けて言えば、この2つのおかげだ」
「つまり人間は弱いから武器を持ったとしてもモンスターには勝てない、けど他のヒトが武器を持てばモンスターには勝てた。
ってことか?」
「そうだな、そして差が明確になった時でもある。
人間は弱い。……が、だからこそ知恵や技術を磨いてきた歴史があった。
対して他のヒトは知恵はともかく、技術などは人間に比べて酷く貧弱なものだった。
……が、己の肉体を極限まで鍛え、それらに頼らずとも生き抜いてきた歴史があった」
「なるほどね。つまり人間からしてみたら『こいつらはアホ』って思っただろうし、他のヒトは『あいつはモヤシ』って感じたわけか。
ガリ勉とヤンキーの対立みたいなもんだな」
「その例えはイマイチ分からないが、まぁそういう事だな。
この時生まれたものが大戦争で生まれた要因の一つ。
二つ目は終わった時の事だが、これは1つ目をより強くしているモノと言った方が正しいな」
「終わった後、って言うと?」
「別に『モンスターは一応倒したから、今度こそヒト同士で』となった訳じゃない。
終わった後の問題、それは戦死者の数。つまり人口差なんだ」
「あぁ、主に戦ったのが人間以外のヒトだったから……」
「あぁ、別に人間も戦わなかったわけではない。
だが、人間の多くは武器を作る側だったのは事実で、その結果人間だけが他のヒトよりも多く生き残れた。
そう、戦士足り得る成人男性の多くがな?」
「そして、人間が他のヒトを支配してるのが今って事か……」
「言い方は悪いが、残念ながらそうはなっていない。
もしそうなら、まだマシだったのかもしれないな」
「してないのかよ?んじゃなんでなんだ?」
「大戦争終了同時の状況はさっき言ったとおり、人口に差が生まれていた。
だから人間が他のヒトを武力を持って支配する事も可能だったろうな?
だが、しなかった。
理由は見たからだ。他のヒトの戦士達がモンスターと力強く戦う姿を、同時に人間の弱弱しく戦う姿の違いをな」
「あぁ、つまり怖くなったわけか?こんな強いのに勝てるわけが無いって?」
「そう思った人間は多かっただろうな、だが人間の指導者達の考えは違った。
モンスターに対抗するには彼ら、他のヒトの力が必須だと。
人間も身体を鍛えていく事になるだろう、だがそれでもモンスターと直接戦う戦士の質は平均して考えれば他のヒトが勝っている、と。
最大の脅威であるモンスターがいる限り、他のヒトと争うのは得策では無いとな?
そして他のヒト達の指導者もそうだった。モンスターに勝つためには人間の助けが必要だ、とな?
だから人間は著しく弱体化した他のヒト族を支配ではなく、援助する方向を採ったんだ」
「つまり、支配じゃなくて共存をしようと?」
「そうらしい。当時のヒトの指導者達はな?
だが、そうでない他のヒト達はそうは思えない、思えなかった。
当然だ、自分の家族が、想い人が死んだのに、人間はほとんど死んでいない……、だから嫌がらせを、時には暴力を以ってしていたという。
そして、人間達も快くは支援を出来ないし、思えなかった。
確かに自分達の多くは直接戦っていないかもしれない、だが武器を作ると簡単に言うが、これも中々に大変な事。
特にモンスターが蔓延る世界で材料を調達するのは正に命がけだった、それなのに嫌がらせを行ってくる他のヒト族を好きにはなれなかった」
「上手くはいかないもんなんだな……」
「まぁな、だがモンスターが死に絶えた訳ではない。
300年という歴史の中で11回、大型モンスターの襲来があり、その度にその認識は徐々にだが薄れていっている。
とは言え、未だ根強い問題。これが差別というわけだ。
モンスターがいるせいでヒトは互いにいがみ合い、いるお陰でヒトはお互いを認め合えるようになってきているのさ」
「なるほどねぇ、でも300年も経てば流石にもう無くなりそうだもんだけど……。
それとさ、11回?大型?ってなんだ?」
「逆だ、300年という年月の間、そういった一つは小さな嫌がらせでも、それが続いてるんだぞ?
別のヒト族という理由だけでだ、そんな簡単なもんじゃないさ」
「あ……そうか、難しいもんだな」
「難しいな……、それと大型というのだが、ヒト達の脅威はモンスターだ。これはもう分かっているな?
そのモンスターですら脅威としているモンスターの事だ。
モンスターは小型、中型、大型の3種ある。
小型は訓練を積んだ武人、まぁ兵士が1人程度いれば対処可能レベル。
だがコイツらは群れを成すのが殆どだ、侮れる相手ではないし、場合によっては中型よりも恐ろしい存在といえるだろうな。
中型が一般的にモンスターと云われる存在だな。
これは一体を街単位で対処しなければいけないレベルの存在で、基本群れる事は無い。
大型は一つの街程度ではどうしようもなく、国も連携しなければ対処できない存在、天災だな」
「なるほどね、てかさ?質問ばかりでアレなんだけど……。
なんで街と国が同レベルで語られてるんだ?」
「ん?あぁ、そう言えばカトーにはイマイチ分かりにくかったか……。
国というのは4つある。
4つという事で分かったと思うが、ヒト族それぞれで造られているもので、元々の世界の大陸、その近辺のモンスター世界の大陸辺りを指すものだ。」
「国は種族毎で出来てるもの、かな?」
「別に他のヒト族がいないわけではないが、まぁそうだ。
そして街はこの大陸で新たにヒト達が協力して造り上げたもので、国に近いほど差別が酷く、遠くなるほどそれは弱まる。」
「良く分からないな、その街ってのは国に属していないのか?国の街だろ、普通はさ」
「んー、属してるとも言えるし、していないとも言えるな。
属しているという理由は基本的に街造りは国の支援の下行われているからなんだ。
この場合は支援してもらった国に、その街は属している事になる。
していないという理由は、国の指示というものは大型モンスターが現れた時くらいのもので、基本的に街は独立して方針を決めていいからだな」
「ふーん、まぁなんとなく分かったよ」
「そうか?
それにしても良い時に良い具合の質問だったぞ。
この差別が酷いのはある意味で、この街にあると言っても良いくらいなんだ」
「この街?サックルにあるのか?」
「あぁ、違う違う。街というものに、という意味でだ。
さっきも言ったが街というものは領主の一存で大きく変わるものなんだよ。
国は他の国との関係もあってそこまで差別は酷くない、少なくとも表立ってはな?」
「あれ?でも国に近いほど酷いって……」
「それは国に近いほど、街という単位の中でのヒト同士の協力が無くても、どうにかなる事が多いからだ。
近ければ、最悪、国の軍に援軍を頼めば、モンスターを倒してくれるからな」
「なんというか……」
「そしてこの無法の街、サックルを代表とした国から離れた地域の街ではそう易々と国に援軍を頼めないし、頼めても来るまで時間が掛かる……。
必然的に、そういった事は許さないし、行わないように注意するって寸法さ」
「なるほど、だからこの街は差別が無いわけか」
「そうだな、そして国は地位や生まれの良いヒト達の住む場所なんだ。
そうでないヒトは生きるために、このモンスターの大地へと行くしかない。
そして最初は国に近い街の弊害に合い、苦しむ。
自分の種族の街に行った後では逆にそれを行ってしまうという悪循環だな」
「うーん、なんとも言えないな。
そこを国がどうにかすべきなんだろうけど、さっき表面的には……って言ってたし、難しい所だな」
「まぁ、大戦争の時に起きた問題の発端はそんな所だな。
色々と蛇足が付いてしまったが、カトーには必要な知識だったみたいだし、それはいいんだがね」
「大型とか、国と街の違いとかはもっと最初に教えてもらいたかったけどなぁ」
「ははっ、まぁそう言うな。
オレは当然そうだと知っているから、大事な事では無いと思ってしまってたんだ。
さて、次は終わって共存していく過程で見つかった事だな?」
「……?人口差がどうのってのじゃないのか?」
「それは一つ目の感情をより強くするモノの面が強いと言っただろう?
まぁ、次のものもそうなんだが、これはモンスターと戦う事で薄れていくモノじゃないんだよ。
だから分けて話してるんだ、まぁ……聞けば分かる。
カトーにとっては、そう大した話では無いかも知れないがな?」
「俺にとっては大した事じゃない?」
「多分、な?
今朝もそんな感じの事を言っていた事だし、そうなんだろう」
「今朝?なんだろ?」
「いいか?もう一つの事とは……」
~大きな違いとは何も命に関わる事だけではない。
だがヒトによっては大問題という事があることを彼は知ることになる~