第3話 『○○→疑問!』
「すまない、女将さん。
少し遅いが、晩飯を食べに行こうと思うんだ。ここらでオススメの店は無いかい?」
「おや、今からかい?そうだねぇ、今の時間だと大抵酒のある店くらいしかやっていないから……そこの子は飲めるのかい?」
「え?俺ですか?酒は……」
「あぁ、こいつは意外とイケる口でね?そこも含めてお願いしたいね」
「はっはっ、そうかい。いや悪いね……そうだねぇ、ここの通りを中心に歩いていくと大きな三角の看板が見えてくるんだよ。
お兄さんの方なら分かると思うが斡旋所を兼ねている酒場でね?
こういう街だからなのか、普通の店よりか料理の種類が豊富なんだよ、そこでなら、お兄さん達の好みに合うのもあるかもね?」
「なるほど、そういう事か……、まぁ初日だしそういう所でもいいかもな」
(てか、ルクータがお兄さんって……いやまぁ女将さんからしたら子供なのか?
いやでもなぁ……あれ?)
「えっと斡旋所って……?」
「おや?坊やは知らないのかい?お兄さんと一緒にそういうもんだと思ってたんだがねぇ」
「ははっ、こいつはまだまだ半人前。それにそういう事は今のところ教えようとは思ってないんだ」
「そうかい?ってことは学者様とか目指してるのかね?っとすまないね!あたしとした事がお客さんを詮索だなんてっ、いやー、気を悪くしちゃったかい?」
「いやいや、その程度の事で気を悪くするほど小さくは無いさ、オレもこいつもな。
そう言えばこの宿では飯は出ないのかい?
それなりに長い期間いるつもりなんでね、ここで食べられたら楽な時もあると思うんだが……」
「うちでかい?あぁ、言ってくれれば作れない事もないよ。
あたしらが食べるご飯をちょいと増やせばいいだけだからね?ただし、宿代に多少色を付けて貰うよ?」
「おや?そんなのでいいのかい?別に飯代としてもいいんだが」
「はっは、今回の事もあるしね?まぁ気にせんでおくれ、大した手間でもないからね」
――――
「なんていうか俺ってアレだよな、先輩」
「キュウ?」
「いや、やっぱ俺ってまだまだガキだなぁってさ?」
「キュッキュ」
~加藤と小動物は話し込みだした大人二人から少し距離を取って、小声でぶつぶつと言っている~
「てか酒はあんまり飲んでないんだよなぁ。祝い事とかで少しくらいだし。
いっぱい飲んだら酔っ払うんだよな?やっべ……面白そう……」
「へー、お客さんお酒飲んだことないんだ?アタシはもう飲んだことあるんだよ!ぶどうのお酒がおいしいんだっ!」
「…………」
「なに急に黙ってるの?アタシだよ、ラル。ラルだよ?
決して小娘だとか、お譲ちゃんって名前じゃないからね?分かる?お客さん」
「あーうん、分かるよ、お譲ちゃん?」
「…………」
「あれ?どうしたんだ、急に黙ったりして?俺だよ俺、加藤だ。加藤だぞ?
決してお客さんだなんて名前じゃない、分かる?お譲ちゃん」
「キュッキュ……」
「お客さんの名前なんて聞いてないもん!でもアタシは言ったもんね!
だからちゃんとラルって呼んで!ここに来る大人の人ならまだしも、そんなに年離れてないでしょ!」
「いやいやいや、どう見ても離れてるだろ!
俺は18歳、いいかい?18歳なんだよ?そして君、ラルはいいとこ10歳だろうがっ!」
「うそだぁ!18歳なの?なんか話し方も舌足らずだし、アタシより年下かと思ってたのに……」
「どこをどう見たら、君より年下に見えるってんだよ……」
「こーら、ラルッ!またお客さんに迷惑掛けてっ!……すいませんねぇ、この子はまだこの宿から出たりするのも少ないもんで」
(宿、まぁ家から出てないからって俺が年下に見えるのか?
いやまぁ、舌足らずってのはそうなんだけどさ……)
「ははっ、いや女将さん。そのお嬢さんの言っている事も間違いじゃないさ。
こいつ、カトーはある意味でまだ生まれたてだからな」
「は?生まれたて?どういう事だい?それって……」
(ちょ!おい!ルクータ、何言ってんだよ!)
〈安心しろ、別にそういう意味じゃないさ。これからも言葉に慣れるまで、この世界に慣れるまでそういった疑問は抱かれるかもしれんぞ?
これは練習と……ちょっとした保険だよ〉
~加藤とルクーツァ《ふたり》は顔を近づけて小声で話している~
「どうしたんだい?あんまり言えない事だったら、言わなくても……」
「いやなに、こいつ、緊張してるらしくてな?
この街ほど大きな所は初めてなんだ。だからある意味生まれたて、初めての都会って感じだな?
なんで言葉とかは大目に見てくれると助かる」
「あー、そうかい。こういうトコは初めてってかい?
坊やも色々と大変だったんだね?だけど安心おし、ここは他の街とは違うからね?
他のヒトも変わらず見てくれるとこさね。
まぁ慣れるのが一番だね、この娘もそれまでは話下手どころか無口でねぇ、苦労したもんさ」
「ちょっと!母さん!アタシは無口じゃないよ!」
「よく言うよ、ちょこっと前まで怖い怖いってびーびー言ってたくせに。
この生意気娘がっ!まったくもう」
「うぅ……、でもこの街じゃアタシの方が年先輩だもん!
ほら、カトー、アタシのが偉いんだからね!」
(どうしてこうなった……)
「あー、うん。分かったよ、ラル?これで満足かい?」
「ふふん!そうだね、ちゃんと名前で呼んでくれるならそれで許してあげる!」
「ほらほら、ラルはそろそろ寝る時間だよ?部屋へ行ってなさい」
「はーい、母さん。それじゃね。カトー、おじさん、それに動物さん?おやすみなさーい」
「…………」
「いや、元気な娘さんですな?」
「はっは、悪いねお客さん。あの娘も小さい頃はあれで苦労してたらしくてね。
人間が多く住むところにいたもんだから、名前じゃなくて動物って言われててねぇ……よっぽど名前で呼んで欲しいんだろうさ。」
「動物って……てか、らしくて?」
「んんっ……!!……そうか、色々とあるからな。
まぁこの街ならそういう心配も少なくなるだろうし、あの娘さんも明るくなってきているようじゃないか、喜ぶべきことだろう?」
「……あぁ、そうさね。
だから坊や、いやカトーかい?あの娘が失礼な事を言ってたのは分かってる……。
この宿に来るのは大人ばかりで、カトーみたいに若いのはあまりいなかったんだ。だからあんな事をね?
……それでもあの娘と仲良くしてくれると、あたしとしても有難いんだが、どうだい?」
「へ?あぁ、別に気にしていませんよ。
それに俺としても妹みたいな感じでいけば、うん。全然問題ないし、寧ろ俺からお願いさせて欲しいくらいです。
それに別に坊やでもいいですよ、実際女将さんから見たらそうでしょうしね?」
「はっは、いやぁカトーの坊やは面白いね?
こういった事に疎そうだってだけで不思議なのに、人間のあんたが、それをアッサリと言いのけるとはね?この街でも珍しいよ。
いや、娘の事はよろしく頼むさね?っとすまないね。飯だろ?行っといで」
「あぁ、こいつは面白い奴だろう?
と。そうだな、それなりに時間が経ってしまったか、店は閉まることが無いだろうが良い席が無くなるかもしれない。
カトー、行こうか?」
「へ?あ、うん。それじゃ女将さん、行ってきますね?」
「キュッキュ」
「あぁ、行ってらっしゃい。気をつけて行くんだよ?」
――――
――
「しかし、ラルの事で動物ってどういう事?あの耳でかね?」
「ん、それは今は止めておこう。この街とは言え、軽く言っていいことではないからね?」
「むぅ、そういうモノなんかね?まぁ、それはいいや。
斡旋所ってこっちだっけか?」
「女将さんが言うにはこの道を行ったら三角の目立つ看板があるらしいから……っとアレじゃないか?」
「んー?あそこに見える小っこい奴?てか目いいんだな?ルクータって」
~彼らの前方をかなり行った所にある建物の横に、小さなものが微かに見える。それが恐らく看板なのだろう~
「仮にも冒険者だからな?その程度は出来るさ」
「へぇ、気になってたんだけど冒険者って?」
「冒険者ってのは基本、なんでも屋の事だね。基本的に定住をしない、流れの職人って感じかな?」
「職人なの?なんかルクータは剣持ってるし、身体つきも良いし、傭兵って感じじゃね?」
「まぁ、そういう面が無いとは言えないし、それ専門の奴もいる。
オレは専門ではないがな。まぁ、言ったろ?何でも屋だってさ」
「うん、そーいうもんだって感じで覚えておくかな」
「ほら、話してる内に飯屋……斡旋所に着いたぞ?」
「おぉ、確かに良い匂いがする……ナイスなスルメだ……」
「何を言ってるんだ?まぁいい、入るぞ」
「なんだろう、分かっていても、尚襲い来る、この寂しさは……」
「キュク?」
「やめてくれ先輩、心配されると尚更きつい……っと置いてかれてる!?待ってって!」
「キュッキュ!」
――――
――――
――――
「いらっしゃい!二人でいいのかぃ?っと跳びリスの小っこいのもか?」
「あぁ、ヒトは二人、この子もだね。
何分この街に来たのは今日が初めてでね、オススメを5つほど適当に頼むよ」
「5つもか?へへっ、そりゃ有難い。ついでだ、この小っこいのにはサービスしてやるよ」
「悪いね、有難く受けさせてもらう」
「それじゃちぃと待ってな、スグに持ってくるからよっ」
~注文を取りに着た店員らしき、獣人の大男は厨房へと足音煩く歩いていった~
「5つって食べ切れるの?それに適当にって……大丈夫なのか?」
「ははっ、こういう所で適当っていうと色々と違う種類を持ってきてくれるものなんだ。
それに今日が初めてって言えば、料理に力を入れてくれるんだ、数を頼めば更にな?
店としては、また俺たちに着てもらいたいからね」
「うへぇ、だからサービスとか言ってくれたのか」
「それもそうだな、まぁ、くれるっていうんだ、遠慮する事でもあるまい?」
「そうだね、先輩も楽しみにしとけよ?なんか気合入れてくれてるっぽいし」
「キュッ、キュウ~」
――――
~注文してから10分ほど経過した頃~
――――
「お待ちどぅ!熱々の料理のお出ましだっ!たんと食ってくれや!」
~先ほどの男が両手のお盆のようなものに、大皿をギリギリいっぱい載せてやってきた、どうして落ちないのか不思議なほどだ~
「おぉ、こいつは凄いな。全部旨そうだ。料金はどれくらいかね?」
「はははっ、そうだな。今日はサービスって事で銀貨3枚でいいぜ」
「おいおい、結構安いな?本当にいいんだな?遠慮はしないぞ?」
(銀貨?てか3枚ってのは安いのか?だめだ、さっぱり分からん。
機会があったら聞かないとダメだなぁ……)
「そいつぁいい、遠慮なんてされたらこっちも困っちまうからよ。
ま、食ってくれや。俺が言うのもなんだが、うまいぞ?
んじゃま、ごゆっくり?なんてな、はっはっは!」
~獣人の大男は、先ほどと同じく足音煩く厨房へと歩いていった~
「いやはや、ここまでサービスしてくれるとはな?
見てみろ、カトー。大盛りで熱々だぞ?どれもうまそうじゃないか」
(確かに大盛りだ。てか食えんの?この量……)
「キュクキュク……」
「飛びリス君も旨そうに食ってる事だし……俺達もまずは、これからだな!」
(なんかテンション高ぇし、最初のコレは……)
「……サラダ?」
「んぐ?ん……んぐ、そうだ。これは野菜を使ったサラダだな。
ハムとかも使われてるし、特にチーズが振り掛けてあるのがオレとしては嬉しいね」
「ん……へぇ、さっぱりとしてるんだな。
見た目はただ、レタスっぽいのとキュウリの千切りっぽいの、トマトのスライスか。
……んでハムが乗ってて粉チーズが結構乗ってるから。
それなりにクドイかと思えば……しょっぱい?」
「このチーズは風味のために振り掛けてあるんだよ、味は……塩だな。
ほらこのハム、軽く塩焼きにしてあるし、葉とか野菜は塩水か何かに軽く通しているんだな」
「……うん、美味しいや。
この店を紹介してもらって正解だったね、ルクータ」
「あぁ、最初のコレでここまでなんだ。ほら冷めないうちに他のモノも食べようじゃないか」
「次は、なんだろコレ?パイ?」
「これはパン包み焼きだな。中身は肉や魚肉、野菜とかを入れてあるものだ、どれどれ……。
お!中は肉だな!こいつは豪華だぞ、見ろ!肉汁が溢れてきてる!」
「いや本当にテンション高いな、ルクータ……けど、うん。確かに旨そうだ!
へぇ、なんだろ。コロッケみたいな感じなのかな?
中身は挽肉をハンバーグみたいにしたもので、それを表面がパリパリに焼いてあるパンで包んでるし……」
「コロッケってのが何かは知らんが、これは焼いていない肉とかをパン生地で包んで焼いたものだぞ?
だからパンにも中身の味が染み込んでいてだな、それがまた旨いんだ!
まぁ、この料理は難しいんだがな?
焼きが足りなければパンは中身の汁を吸ってベチャベチャ、中身も生焼け、焼き過ぎればパンは焦げ焦げ、中身はパサパサってな?
だが見てみろ?これは完璧だぞ!ほら食え!」
「んがっ、ちょっ……んぐ……はぁっ!いきなり口に突っ込むなよ!苦しかったわ!
……まぁ、旨かったから許す!」
「ははっ、だろう?次は……」
――――
――――――――
――――――――――――――
~加藤に取っては予想外に美味しかった料理を全て残さず食べた後、そのまま宿屋『砂漠の水亭』へと戻り、膨れた腹を摩りながら、そのまま眠りについた~