第1話 『○○→開門!』
「さぁ、到着したぞ!ここが目的の街……、人間の街『サックル』だ!」
「着いたって……いや、確かにそうだろうけど。どうやって街に入るんだ?」
~確かに街には着いただろう、彼等の前には石を積み上げて出来ているだろう防壁が街を囲むようにグルリと立っており、門には番をしているだろう人が立っていた~
「どうやってって、そんなの普通に門からだ。」
「いやさ?そうなんだろうけど、俺が行っても大丈夫なのかな?って事をだね?」
「あぁ……、そういう事か?
俺がなんのために遠回りをしてでも、ここへ来たのか……。
それはここ以外はそれぞれ厳しく管理されている。とでも言えば難しい言葉よりも今のお前でも分かるかな?」
「管理?んーっと、あぁ……、法があるって事か?
んでそれがあるから困るって事は……あれ?」
(ま……まさかっ!?いやでも……そうだよ、ルクータがそんなっ……)
「何を勘違いしてるのか分からないでもないが、俺は別にお尋ね者じゃないぞ?
それと、法って言う言葉はそう言う意味だって教えたが、意味も分かるとは……さすがだな?カトー?」
「……へ?流石って、そんな照れるじゃないか……ってそうじゃなくてっ!」
「ふぅ、昨日にも言っただろう?色々と面倒な事なのさ。
これは言っても今まで一人、いや跳びリス君とだけで生きてた君には理解できないかもしれないからね?」
(あれ?そう言えば俺、話せるようになってから異世界から来たって言ったっけか?
ある意味この世界ではルクータの言う通りではあるんだが……)
「いや、ルクータっ!確かにそうかもしれないけどさ、実は……」
「っと、門の受付が空いたな。どうしたカトー、行くぞ?」
「……、いやまぁいいけどさ。いつでも言える事だし、ここで言う事でもないだろうし?」
「キュッキュ?」
「何をいきなり不機嫌になってるんだ?理解できないってのが馬鹿にしてるように聞こえたなら謝るよ。
そうだな、何か旨い物を食おう、そのためにもまずは街へ入ろうじゃないか」
「はいはいっと、てか本当に大丈夫なんだろうね?いきなりあの門番してる人が持ってる槍?でブッスリとか嫌だぞ?」
「だから、そんな事は無いから……、ここは無法の街とも言われているが、そういったモノが無いって言う意味なんかじゃないんだぞ?」
(なんだよソレ!?初耳なんですが!?無法って!?マジで怖いところなんじゃ!?)
~加藤が悶々と考えている内に、ルクーツァが門番と話を着け街に入れる流れになっていた~
「さて、行くぞ?っておいおい……初めての街だから緊張してるんだろうが、そこまで硬くなるな。
色々と不安もあるかもしれんが、オレがいるんだ、何も心配はないさ」
「あぁ、いや。ごめん……、ってもう入れるの?
もうちょっと身分は~とか、武器は預かります~とか、そういうのは?」
「ははっ、王城とかならまだしも、街に入るのでそこまではそうそうないぞ?
まぁ、この街以外では無いこともないがな……」
「キュウ~」
「はぁ……、先輩までそんな目で……分かったよ。行きますよ、入ればいいんでしょっ!」
「まったく……、跳びリス君の方がよっぽど度胸があるな?
跳びリス君、教育を間違えたんじゃないか?」
「キュウ……」
「ぐぁ!?俺の威厳がっ!」
~彼等は軽口を叩きながら、無法の街『サックル』へと足を踏み入れて行った~
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「さて、ようやくって感じだな……。うん、やはり聞いていた通り、良い……」
「へぇ……、これが街かぁ」
「キュッキュ~」
「お、先輩も驚いてるのか?だよなー、意外と綺麗だし、無法とか言われてビビったけど、そういう感じもしないし……」
「ははっ、無法ってのはそういう意味じゃないさ。
飯……の前に宿を取るとしようか。そうだな、そこか飯屋にでも行ったときにならスグ分かるさ」
「なんでそこだと分かるんだ?」
「まぁ、例えこの街とは言え、クセってのはそうそう抜けないって事だよ。
ここは普通の人間が多い地域だから尚更だろうな」
「……?前々から言ってたその『普通の』ってなんなんだ?」
「……、それは後でゆっくり教えるさ。さっ、宿屋を探そう」
(なーんかな?まぁ話してくれるって言う事だし、今はいいか……)
~この街、『サックル』は防壁に囲まれた街だ。
中心へ行くほど街並みは古いモノになり、防壁に近いほど新しいモノになっていた。
恐らく幾度か街を拡張したのだろう、そして彼等が向かっているのは比較的防壁に近い位置にある場所だった~
「ここかな?聞いていた宿屋というのは……」
「へぇ、結構綺麗なとこっぽいな」
「キュク~」
「さぁ、入ろうか?……すいません、部屋を借りたいんだがっ!」
「はいはい、そんな大声で言わなくとも聞こえとるよ~」
~ルクーツァが大声で呼ぶと、この宿の主だろう年配の女性が出てきた~
(あれ……?)
「ははっ、すまないな。それで部屋を取りたいんだが空いているか?」
「あぁ、旅の方かい?部屋ならあるよ、個室部屋を1室でいいかい?金が無いってんなら、大部屋になるんだろうが……生憎ウチにはそれが無いんでね。
もしそうなら他所の良いトコを紹介するけど、大丈夫かい?」
「あぁ、個室を1つ頼む。金なら心配いらんよ、それくらいはあるからな?」
「はっは、すまんねぇ。こういう街だから仕方無いかもしれんけど、文無しってのも少なくないもんでね?」
「いや……、それは仕方の無い事だろう。
っと、それより部屋は何処かな?」
「はっは、そうさね。んーっと?あぁ、6号室だね。ベットが2つあるし、丁度いいだろうさ」
「それはいい、そこで頼むよ」
「はいはい、ちょいと待っとくれ。
おーい!ラルー!お客さんだよっ!案内してさしあげなっ!」
~女将……と言って良いだろう宿の主に呼ばれたのは、加藤よりも幾分か若く見える女の子だった~
「はいぃ!っと、ようこそ!お客さん。アタシはここ『砂漠の水亭』の娘でラルって言います!」
「自己紹介しろなんて誰が言ったんだい!案内しなっ!案内!」
「うひぃ!ごめんなさい母さん!って……すいませんお客さん。
えっと、6号室ですね?こっちですよ」
「すまんね、お客人。こいつはこういう奴でねぇ」
「ははっ、いいさ、元気な娘さんじゃないか。
それじゃあ娘さん、案内を頼むよ」
「むぅ、おじさん……アタシはラルっていう名前が……」
「ラルっ!そんなのはいいから、さっさと行きなっ!」
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「ここが6号室ですね!この部屋はいいですよ!2階の部屋だから陽も良く当たりますし!それにですね!個室のベットはふっかふかなんです!ウチの自慢なんですよ!えっとですね、それに……」
「あぁ、いい。もう分かったから。
っと案内ありがとうな?お譲ちゃん、これはお駄賃だ、女将さんには内緒だぞ?」
「だからアタシはラルって名前……いえいえ~当然の事ですから!それじゃごゆっくり~」
~ラルという少女はお駄賃、チップを嬉しそうに受け取るとさっさと部屋から出て行った~
「ふぅ、本当に元気が……うん、元気のある娘さんだ」
「キュウ」
「でだ、カトー。さっきから何を黙ってるんだ?もしかして女を見るのは初めてだったか?」
「違うって!……そうじゃなくてさ」
「ほぉ?冗談のつもりは無かったんだが、そうか女性も知っていたか……」
「うん、ルクータには言っておくけど、俺はこの世界の人間じゃないからな」
「そうか、この世界の人間じゃなかったか。なるほどな」
「あぁ、そうなんだよ」
「…………」
「…………どうした?」
「いやっ、驚けよ!そこ大事なとこだろ!?
あっさり言った俺も俺だけど、普通驚くだろ?『ばっ、ばかな!?』とかさっ!」
「そう言われてもな?……そうだ、それを説明するためにも、それはひとまず措いておこう。
そして……何故さっきから黙っていた?具体的には女将さんを見てからだ」
「いや措くなよ!ってあー……、うん。
だってさ、あの女将さん?とあの子……耳があったぞ?」
「そりゃ耳はあるだろうさ、人間なんだから」
「おい、分かってて言ってるだろ……」
「ははっ、そうだな。その通り、彼女達には獣の耳があったな?
俺やカトーとは違う耳が……な?」
「そうだよ!何だあれ?
どう見たって、この世界は俺らの時代で言えば中世、それよりも下かもしれないってのにコスプレなんてのがあるのか?」
「コスプレってのが何かは分からないが、そういうカトーも分かってて言っているんじゃないか?」
「……分かってるって訳じゃないよ、ただもしかしてって」
「そのもしかして、それが正解だと言っておこうか。
彼女達は普通の人間じゃーない、そう……ここが無法の街と言われる理由でオレが驚かなかった理由でもある」
「獣の耳を持った人がいる事が、無法の理由?ってそれと俺の異世界って話とどう関係してるんだ?」
「焦るな焦るな……、そうだな。
飯時にはまだ時間があるし、話しておこうか……。
カトーの言うところのこの世界、異世界の事を簡単にね?」
「キュ?」
「この世界の事、ねぇ……?」
~加藤を驚かせた一つの事実、人間と同じなのに少し違うヒト達。
それこそがこの世界の問題であった~