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異なる世界で見つけた○○!  作者: 珈琲に砂糖は二杯
第一章《歩けば道となる》
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第10話 『○○→出発!』

 

 ――

 ――――

 ――――――――

 ―――――――――――――


『いいか?まずはマル……、これは「大丈夫」……とか「わかった」……だな。こう発音する、……やってみろ』


「えーっと……『たじょぶ』……どう?」


『ふむ、少々舌足らずな印象を受けるが……。まぁ、通じないこともないか……。最悪マルをそれと同時にやればなんとかなるだろう……マル……、と言えるな?』


 加藤は、ルクーツァと自分、お互いに共通した認識の行動。つまりはボディーランゲージで表している異世界の単語を少しでも覚えようとしていた。


(大丈夫……そしてちょっと悩む、かぁ。つまり微妙って事ね……)


「やっぱり、異世界語って難しいなんてもんじゃないな……」


(とは言え、ルクータさんは、なんでか楽しんでるっぽい。なら思う存分教えてもらうぞ! 思いっきり俺の得意分野だっ! 迷惑を掛けてやんよ! ふっふっふ)


 加藤の進歩具合に悩みながらも、ルクーツァはそれを苦には感じている表情ではなかった。

 この世界に来てからの加藤は、迷惑を掛ける事に戸惑いを覚えにくくなっていた。それだけであれば褒められたものではない。しかし同時にその表情から窺い知れるのだ、その分だけ成長してみせる、と。


『よし次は「歩く」だな。っておいおい、聞いているか?』


 以前の世界での事を思い出していたのかもしれない。少しばかり難しい顔をしていた加藤。それは言葉に悩んでいる色とは異なるものだった。

 謝罪の言葉を慌てて返す加藤に対し、ルクーツァは何故か優しく笑みを浮かべて何事かを返した。


「あっ!『こめん』……」


『気にするな、丁度いい時間だからな。ふむ、これも次の教える事に追加すべきだな……。んんっ。ごはんを……食べよう……か?』


(えっと? 木の実にアレはルクータさんの持っていた干し肉っぽいのに水の入った水筒。そしてそれを食べる振り……疑問。か……ってことは)


「あー、なるほど、そういえばもう昼時ですかね? 分かりました! あーっと『たじょぶ』です!」


『ふむ、そういえばさっきは大丈夫……としか。その一言しか繰り返して貰えてなかったな……後で、もう一度だな』


 ボディーランゲージ……肉体言語はただひとつの動作で様々な意味を生み出すのが利点であり、最大の欠点でもあった。似たような言葉でも微妙に意味が異なる、これを表現できることが言語の強みであろう。喜怒哀楽だけで済むような単純な世界ではないのだ、人間というものは。


「あれ? マルって意味の感じなんじゃなかったっけ? なんか悩んでるんだが……」


「キュ~」


『おっと、すまない。「大丈夫」だ。 さぁ、飯を食おうか?』


(お? やっぱり昼飯を食べる準備をしてるから、さっきので当ってたのか。じゃあなんで悩んだんだろ?)


「っと貰ってばかりじゃなんか嫌だからな! ルクータさん、この小さな玉葱っぽいのも美味しいですよ! ってあー、……コレも……食べると……美味しい……よ?」


『ん? おぉ、小玉葱じゃないか! これはイイぞ、こいつは良い酒のツマミになるんだ……といかんいかん』


(喜んでるっぽいし、伝わったって事でまぁいいのかな?)


 彼等は通じてるか通じていないか分からないが、恐らくは通じているだろう。

 そう思えるやり取りを続けながら昼食を摂った。


『食べた食べた……、やはり干し肉だけではなく、生野菜とかも食べるとより一層美味しく感じられるな』


 屈強な肉体を持つルクーツァ。それに似合う顔立ちをしている彼も食事時だけは子供のように無邪気に笑う。

 その笑顔は加藤と小動物せんぱいが彼を信じられると思えるものとして大きな働きをしていた。そのおかげか、加藤の口調も通じないと分かっているとは言え、彼を目の前にしても徐々に砕けてきていた。


「いやー、やっぱり干し肉? これ美味しいな。いつも同じ木の実とかばかりだったってのもあるけど……美味しかったなぁ」


「キュ~」


 加藤と小動物せんぱいが食べ終わった後、それを思い出して笑い合っていた時。ルクーツァが声を掛けてくる。当然ながら言葉の意味は分からない、しかし彼は体の動きでそれを伝えてきてくれていた。


『さて……カトー、腹も満たした事だし……そろそろ。出発の……準備は……できてるか?』


(俺を呼んで? 満足そうな顔をして……お腹を摩る。んで驚く? いや太陽を見て気づいた? ……んで歩く真似……大きな袋に干し肉とかを入れ込む真似……そして疑問、いや、この場合は提案か)


「『たじょぶ』……分かりました。そろそろ行くんですね? 手伝う……ことは……ありますか?」


『ふむ、いや。いらないな……オレが……後はする……から大丈夫だ。カトーが、渡したモノ以外にも持って行きたいのがあれば別だがな?』


(首を振っている……俺に特に何かして欲しいってわけじゃないのか。てことは心の準備的な何かかね?)


「『たじょぶ』……ここは思い出はあるけど、そこまでじゃないから。あーけど、テントとは二度目の別れか……、別れを言わなきゃいけないな、作り手としてっ」


 加藤はボディーランゲージを介さずに言う。それはルクーツァには通じない。だが何かをしたいのだと、その程度を察せられる流れは出来上がっているのだ。


『そうか、多少はあるだろうが、そう時間は掛からない、か。……それではオレの準備が整い次第ゆっくりとだが、行くとしようか』


「さて、何か言ってるけど、俺に対して言ってるという感じじゃないからな……。先輩! テントのとこ行こう?」


「キュッキュ」


 加藤は小動物せんぱいと一緒にテントに向かって歩いていき、ルクーツァは旅支度のために予備の水筒に水を汲みに行っている。


「ふぅ、なんだかんだで、コイツともそれなりの付き合いだったな……。ありがとうテント! お前を作った経験は無駄にはしないさっ!」


(しかしなんだかな? テントってか自分が作ったモノに対して変な愛着を持つようになっちまった……)


「キュク~」


「先輩もここは嫌いじゃなかったのかね?いつかまた作るのもよさそうだ……」


『……ぃ! おーい! ……そろそろ行くぞっ』


 旅準備は水の補充だけだったのか、案外早くに整ったようだ。少しばかり離れた場所に馬を引いているルクーツァが手を振っている姿が見えた。


「……っと、呼んでるな。先輩、行こうか!」


「キュッキュ!」


『よし、そろそろ行くぞ? 「大丈夫」か?』


「『たじょぶ』です。ルクータさんから貰った水筒2つにもちゃんと水は入れてるし、うん」


『そうか、うむ。ちゃんと水筒に水を入れてあるな? 渡した袋にも木の実や小玉葱、干し肉も入ってる……と』


(確認してくれているのかな?)


『よし、これで万が一逸れてしまっても、オレが探す間くらいは保つだろう……』


(と、急に頷いてる……合格なのかね?ってなんだ合格って)


『カトー、出発……しようか?』


ルクーツァは首を動かし、前を向く。そして腕を回すようにして、少しばかり歩を進めた。


「あ、『たじょぶ』分かりました!」


「キュー!!」


『ははっ、すまないすまない。跳ねリス君も準備はいいかな?』


加藤とルクーツァがいよいよ進もうとした時、小動物せんぱいが鳴き声を上げる。それに気付いた加藤が手を差し伸べる。少しばかり気を害した風であったが、特等席かたのうえに乗った小動物せんぱいはすぐに上機嫌になくう。


「キュッキュ~」


『はっはっは、それでは……、改めて行くとしようか!』


(なんだろう、気のせいかルクータさんって、俺よりも先輩との方が意思疎通が出来てる感じがする……)


「ハッ! これが嫉妬!?」


『どうかしたのか? 急に何か言ってるが、忘れ物でもあったのか?』


「あ……『たじょぶ』『こめん』なんでもないです!」


『ふむ、それじゃあ……行こうか! しかし話せる言葉が2つってのもアレだな。道すがらにも教えてくとするか……』


(あ……今大きな声で言ったのって場面から考えて「出発」的な感じの掛け声かな? ……良し!)


「『行くー』!」


『おぉ!? 少しばかり違うが、やるじゃないかっ!』


「お? 喜んでるっぽい? 通じた? 当たった?」


『そんな感じでやっていけばいいだろう。何、旅は長いからな。ここから目的の街にいくための街道までは大体1週間ほどかかるし、そこからもまたそれなりだ。ゆっくりと覚えていってくれればいい。さ、「行こう」!』


「キュッキュ~!」


「よしっ『行く』!」


 加藤達2人と一匹はゆっくりと、テントから離れていく。

 これが異世界を巡る、加藤にしてみれば二回目の旅の始まりであり、加藤の新たなる道への一歩だった。

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