第1話 『-切欠-』
唐突だけど、異世界ってどういう事なんだろう?
そもそも異世界という言葉の定義から気になるとは思わないか?
「異なる」、「世界」と書いて『異世界』なんだ、一つ一つ考えよう。
(1)<私達が住む「地球」という太陽系に属する惑星で主に「人間」が暮らす……。
この現状を世界と言うのだろうか?
(2)<いや、それは違うだろう、政治、経済、軍事、娯楽、恋愛という現状にして未来、そして歴史という過去。
これらをそれなりの人間が、それなりに認識し共有している事が世界だろう?
(3)<いやいや、「自分」という自我を認識できるトコロの事なのかもしれない。
これが「世界」の定義とすれば『異世界』という言葉が認識しやすいと思う。
(2)<なるほど、意味なく範囲を広げて限定する事もないか。
(1)<確かに、それに自分を認識できて、今までとは違う自分を認識できる場所
これを異世界と言えば間違いとは言えないだろう。
(3)<そうそう、TVとかでもよく言ってるだろう?
何処何処の神秘的な絶景を見てる人が「まるで異世界のようです……」とかさっ。
(2)<言ってないだろ?
(3)<はぁ?言ってるから!最近のそういうリポーターの語録の少なさを舐めるなよ!
(1)<アホな言い合いは止めておけ、そもそも論点がズレている。
―――――――――――――
―――――――――
――――――
――――
――
(アーアー、だーめだなぁ、全然分からないな)
いきなり脳内で俺の分身達が争っている様子を見せてすまないと思っている。
だけど脳内俺(3)は良い事を言ってくれたと自画自賛しようと思っているのが加藤 祐。
つまり俺だ。
なんでそんな頭も良くないと自他共に認めている俺が哲学っちゃったかと言うと、今の現状にその原因があるんだ。
あれはそう……、今から1億年前……ってわけではなく本当ちょっと前の事。
キキーッって音と共にトラックが自分に向かって突っ込んでくる……。
それが俺の地球で見た最期の光景。
そして目の前には白い服を着た老人が『ごめんw 間違っちゃったw』と悪びれた様子も無く『転生させてやっから、安心しろw すげー力もあげるってw マジマジw』とか言って気がついたら此処に居た。
こっ、これが俗に言う異世界転生っ!?
とかいう事ではない、そもそも俺そのままだし。
朝に玄関を開けたらいきなりピカーッって何かが光ったら知らない場所に居た!こっ、これはまさかっ!とかでもない……。
前者なら哲学ってなんかいないで無双ってどうやりゃいいんだろwとかアホな事を考えている事だろう。
何せ自称神様からの御力だ、きっと凄い、うん。
後者ならそもそも哲学る余裕は無い、ビビりまくっている事だろう。
俺チキンだし? 恐ろしいパニックになっていると思う、どれくらいかっていうと友人が他人のフリしたいのに何か犯罪を起こしそうだから殴ってくれるレベル?
いや、前者と後者、どっちか? と言われれば後者なのかな? いや前者なのかもしれない……。
あれ? どっちもなのか?
いやまぁ、どちらにせよ俺が適度にパニクっているのには訳がある、それを言おうとしていたんだったな。
時計が無いから、というか起きた時に壊れたのか止まっちゃってるもんだから正確な時間は分からないけど。
あれは30分ほど前の事だと思うんだけど、まずは最初からだよな……。
――
――――
――――――
――――――――――
「えー、皆さんはTVでニュース等を頻繁に見ているかと思います。なので現在の我々の状況はなんとなく察している事でしょう、まず……」
――目の前、という程近くもないが遠くも無い所で、眼鏡をかけた白人の40歳くらいの男性が英語で話している。
「そもそも何故、このような現状になってしまったのか? これは簡単でしょう。人口の増加、これが一番ですね? そこへ来て北極、南極の氷が……」
――そう、人口の増加だ。
これは今から300年ほど前から懸念されていた問題だったと思う。
「そしてそれを解決するために宇宙ステーションを拡大拡張したコロニー。つまり大規模な居住空間を作りそこへ移住するという……」
――コロニー……。
この言葉は多くの人、いや世界中の人が忘れたくても忘れられない言葉だろう、何故なら……。
「ですが、その計画は失敗しました。何故か? これは説明すると長くなるので簡潔に言えば不幸な事故……、これが相応しいでしょう」
――確かにそうだろう、技術構想からなら60年という普通に考えれば長い年月を賭けて、しかし完成したものを鑑みるにありえないスピードで完成した。
世界各国の強国と言われる国々が手を取り合うどころか合体するかの如く協力して出来たモノだった。
食糧問題はどこどこが、治安維持はどこどこが重要な技術開発、そして施行はどこどこがと問題が問題だけに、60年という短期間とは言えども正に理想と言える世界に成っていたと思う。
おかげでその国々の人達は母国語に英語は確実、更に幼い頃からその環境だった俺を含めた子供達は何ヶ国語もという環境だった。
「そう……不幸な事故でした。何重にも及ぶテストも済み、更にランダムで選ばれた人達。そしてその家族を含む数百名が、実際に3ヶ月住むという最終テストも3回行いました」
――そうだった、父親が勤めている会社の同僚、というかお隣さんの家族が2回目のテストでソコに上がり、戻ってきてその様子を嬉しそうに話していたものだ。
ただ飯には困ったと言っていたな、なにせ包丁の類でさえ持ち込めないのだ、食料は創生時よりはマシになったとは言え宇宙食だけ。
それを開封してからの加熱、そこに別のものを混ぜてという料理なんだそうだ、まぁ包丁とかそういうのは危ないしな、犯罪でそれが使われないとも言えないし。
「そして移住が始まりました。何事もなく、これで少なくとも解決のための更なる技術、方法を見つけるための時間が……」
――俺は解決したと思っていた、なにせ自分達が行くのはいつになるのかと胸を躍らせていたくらいだ。
「そして問題が起こってしまう。簡単な事です、地球よりもコロニーの方が環境は良いのですから。そこへ行きたい、そう思う人々が出てくるのは当然と言えるでしょう、かく言う私でさえ……」
――そう、現在の地球環境はお世辞にも良いとは言えない。
昔から懸念されていた地球温暖化の影響で人が快適に住める大地は減ったし、空気汚染、これは医療等技術の向上で解決に至らないまでも対策は十分。
とは言え設備の整った施設内で無ければスポーツ始め、激しい運動は行えなかった。
「コロニーへの移住は完全なランダムです、これは皆さんご存知でしょう。これは地位も名誉も関係ない、世界各国で決められたものであり、有名な話では某国の大統領でさえ上がっていなかった事でしょうかね。そう公平なランダムだったのです……、ですが先にも言ったように人口が増えて……」
――確かにそうだった、そしてコロニーは合計で300機、一つにつき凡そ50000人が居住できるものだった、父親は『大好きな古典アニメの世界が現実になった!』とはしゃいでいたものだ。
俺としては父親は預言者か何かなのかと疑いたいし、それってフラグか!?と突っ込んでおけば良かったと後悔するくらいだ。
「そう、一部の国……というよりは地域と言ったほうが正しいかもしれませんが。その人々が言い出した事により、コロニーへ行ける人とそうでない者の格差意識が人々に生まれました。その差自体は差別的でも、また直後に生死に繋がる問題ではありませんし、未だ根強い問題である宗教も関係していませんでした。ですが、そういった事が起これば……」
――簡単に言えよ……そう、テロが起こった。
今の時代は宇宙旅行自体が一般的なのだ、宇宙に行くだけなら10万円ほどあればいける。
つまりそういう考えを持つ人間でもコロニーのある宇宙に行くことも十分に可能なのだ。
そして世界中でそのコロニーに未だ居住できないとは言え、それを一目見たいという人は大勢いた、そしてそのための旅行プランが大流行中だった。
宇宙へ行く手段を確保するのは可能、そしてその目的へ辿り着く道もある、そして管制は地球上のものとは違い、見る人が見れば未だスキだらけと事件後に専門家らしいのが言っていた。
「一部の国の出身者達がそういった主張のために一つのコロニーを武力制圧した。そしてそれを奪回しようと世界各国が特殊部隊を用いた作戦を立て、実行、そして悲劇が起こりました」
――確かに悲劇だ、コロニーの動力が核だったのだ。
いやこれ自体は何の問題も無いんだがテロを行った人間達が愚か過ぎたのが、或いは優秀過ぎたのが問題だった。
核での動力機構自体は何があっても人体に有害な放射能を漏らさないように出来ているらしい、昔のソレと違って……、そう何があってもだ、が。
「特殊部隊及び地上や他コロニーで見守っていた我々の認識では動力機構部は……」
――そう、テロリスト達は不可能を可能とした、間接的とは言え、だ。
その方法は本来メンテナンス時に使われているコマンドで動力部の一番分厚い防壁を開けるというものだったらしい。
これ自体そう簡単に、それこそスイッチ一つで開くものじゃない、何重ものプロテクト、パスワード、そしてキーが必要らしいなのだ。
テロリストはコロニー、この場合第98コロニーの動力部のキーを持つコロニーのお偉いさんを殺しそれを奪っていた、が。
このプロテクトはそんじょそこらの専門家程度では解けないのもの、当然部隊の人間も、そして当のテロリスト達も解けるとは思っていなかっただろう。
「しかし、何故だか第一防壁が開いていた。そしてそこで特殊部隊とテロリストが交戦し、何かしら……、そう何かしらとしか言い様がない事が……」
――特殊部隊、そしてテロリスト達ですら予想していなかった第一防壁が開いてしまった事。
そして不運は開き始めていた時、つまり視認では確認しづらい状況で交戦が始まった事だろう。
だが、40代の男性が言うように、第一防壁が開いていたとしても防壁は第三まであり、その数字が増えるほどに強固さは増すのだ、通常であればたとえ第一が開いていても問題はないはずなのに。
その交戦が始まり少しして……。
「結論から言えば第98コロニーは爆散しました。ここまでであれば言い方は最低ですが『第98コロニーの犠牲だけで済んだ』そう言えました。しかし、そうはならなかった……」
――そう、男性が言う『何かしら』はその爆散だけに留まらない。
なぜかコロニー群がある宙域で爆散が相次いだのだ、連鎖爆発装置でも仕込んでいたんじゃないのかと疑ってしまうくらいに。
これは世界を震撼させた、しかし『何かしら』はそれだけでは済ませてはくれなかった。
「その絶望だけでも十二分に過ぎると言うのに、その宙域では人が活動できない所と化してしまいました、残念ながら現状では……」
――コロニー自体、かなり巨大なものだ、言ってしまえば人工的な地球なわけだから当然と言えば当然だ。
そしてそれらを安定して設置と言って良いのか分からないが、出来る所というのは限られているのだ。
少なくとも現在の技術では……、そしてその出来る場所、宙域には274基あった、そして消えた問題はそれだけのコロニーを安定して置ける場所は他には無いという事だった。
「その宙域はまだまだコロニーが設置できる場所でした、なのに使えなくなってしまった、つまりは……」
――人間が移住できる、しなくてはならないコロニー。
残りの小型コロニーがあるのは地球と月の間にあるだけだ、新しく置けたとしてもそう数は置けないだろう。
つまり……。
「我々にはもう移住という選択肢を選べないのです。故にこのような未だ発展途上の技術の研究……いえ、実験を……」
――俺のような被験者が出てしまう訳だ。