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学園祭 1

学園祭にて

「今日は待ちに待った学園祭です」


 誰がこの定型文を言うのだろうか。校長か、それとも生徒会長か。それとも子どものような定型文から脱却できるのか。


 答えは否だった。愚かな校長よ。まるで小学生の宣誓でも聞いているようだったぞ。親御さんに聞かれなくてよかったな。それともウケ狙いだったのだろうか。だとしたら優秀なつっこみを隣に配置しないとボケが理解できませんよ、校長。


 とまあ、そんな珍事から始まった学園祭だが、委員の僕たちを煩わすようなことも無く、今は昼休憩だ。といっても昼ご飯をゆっくり味わう事も出来ずに、見周りに行く必要がある。最近は物騒だから妙な人が入り込んでいるとも限らない。これからまた美藤さんと見周りだ。


「しかし……」


 空気が重い。なぜこの人と昼ご飯の時間が重なってしまったのだろうか。そもそも今、この部屋は外部の人間はもちろん、一般の生徒も立ち入りを禁止している。この人も学園祭に関わっていたのだろうか。


「あ、月野君……もう食べたの? ちょっと待っててね。急いで食べるから」


「あー、いいよいいよ。急いで食べてのどにつかえたら大変だから。だからもっと落ち着いて、ね? 一口に30回は咀嚼しないといけないって、保健室のポスターにも書いてあったでしょ?」


 僕は30回も咀嚼するのは御免だが、美藤さんに30回咀嚼してもらわないと休憩できない。


「もぐもぐ、なんで30回なの? もぐもぐ」


「え? えーっとねえ、確か唾液が分泌されてどうのこうの……」


「白銀先輩、なんで30回がいいか知ってますか?」


 もともと僕に聞く気など無かったようで、答えに迷いが出たとたんに白銀先輩に振りやがった。もう付き合いきれん!


「月野君の言った通り唾液が多く分泌されるからだ。唾液が多量に分泌されることにより口腔内の乾燥を防ぎ、そして歯周病予防にもなる。それに咀嚼運動により顔の血行が良くなり元気そうな顔つきになるんだ。だから月野君の言った通り、30回咀嚼したほうがいいぞ」


「さすがです! 白銀先輩も30回咀嚼してるから、美人でスタイルも良くて勉強が出来るんですね!」


 美藤さんの乱暴で強引な感想に、白銀先輩も若干引き気味だ。しかし、それにしてもパーフェクトな解答だった。勉強が出来るというのは本当らしい。


「………ん?」


 ちょっとした違和感。でも、この感じは今までに何度かあった。確か……すぐ近くで化け物が出た時と同じ感じだ。


「どうしたの? 月野君。難しい顔して」


「いや、少々まずい事になりそうかも。ちょっとこっちに来て、美藤さん」


 美藤さんと共に出現ポイントであろう中庭を見つめる。そこには大勢の人間が学園祭を楽しんでいた。容易に想像がつく。こんな場所に化け物が出たら、いかに優れた魔法使いが対処しようともパニックは避けられない。ある程度の被害は仕方が無いと考える他ないな。


 そろそろ一般の人にも見えるほどまでに感じる魔力が強くなった。


「美藤さん、あそこ。見えるでしょ、なんかやばそうなヤツが」


「んー……えっ!? あれって……」


 ぎりぎり人型をしている化け物。周囲の人間はその異様なモノに気付いて、はやくもパニックになっている。だがそれでいい。誰もが誰よりも早く逃げることを選択すれば、多分みんな生き残るだろう。


「美藤さん、化け物が出たって校内放送でみんなに知らせて。それでとりあえず、みんな学園の敷地から避難ね。その後、美藤さんも敷地外に避難。よろしくね」


「校内放送って……そんなの勝手に使えるわけないよ! 先生に許可を貰わないと……」


「大丈夫だよ。あの化け物が出た以上、その責任は全てここのエリアの魔法使いにあるからね。美藤さんがやったことも、魔法使いが来るのが遅いからこうしたんだって言えば何の問題も無い」


 彼女はすこし考えた後、走り去って行った。おそらく放送室に行ってくれたのだろう。


「随分と冷静な判断が出来るんだな。自分で動いた方が良かったんじゃないのか? 月野君」


 中庭はまだ完全に人がはけていない。この状況で僕が行ったら戦いが始まってしまいかねない。化け物はまだじっとしていることだし、少しここで待とう。


「白銀先輩も落ち着いてるんですね。さすが魔法使いです。でも化け物が出てますよ? 行かなくてもいいんですか?」


「この学園は霞エリアだ。来栖エリアの私は出が出せん。ちなみに私たちはその化け物のことをジュセと呼んでいる」


「そう……ならそこでじっとしていればいいさ。10年前と同じようにね」


 そう吐き捨てて部屋を出て行こうと、ドアに手をかけた瞬間、腕をぐっと掴まれる。


「なにを言っている。お前、あの時のことを知っているのか?」


「離せ、干渉する気か?」


 干渉という言葉に驚いたのか、掴まれていた腕はすぐに離された。だが先輩の視線は僕の目を捉えたまま離れない。


「ふう……仕方ないね。なら教えてあげるよ」


 一歩離れて、僕も彼女の瞳を見つめて言う。


「僕は霞エリアの魔法使い、月野アトだ。化け物が出た以上、これより魔法使いとして行動をする。これ以上僕を引きとめるというのなら、霞エリアへの干渉とみなす」


 そのまま部屋から格好よく出て行こうとしたが、バッグを忘れていた。戦うために必要な物は一通り通学用のバッグに入っているのだ。


 ショルダーバッグを肩から下げ、気合を入れなおす。敵は人型。一般的に人型に近くなればなるほど知能も高く、危険とされている。はてさて、どうしたものか。

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