月野家にて
月野家にて、
魔法使いは偉大だ。
昔、誰かがそう言ったらしい。
なぜ、偉大なのか……。それは訳の分からない化け物と戦う力があり、そして現に戦っているからだ。僕も一般的に子どもと言われるような頃から戦っている。でもだからといって自分が偉大だと思ったことなどただの一度も無い。僕は魔法はたいして使う事は出来ないし、この手で化け物を殺すなどしたことも無い。僕は単に人より多少優れた能力があるだけで、一般的にみんなが思っているような魔法使いではない。
――――魔法など使えなくても魔法使いは名乗れるのだ。
僕の横でつまらなそうにDVDの映画を見ている折橋響はその最たるものだ。
「はー……なんでミュージカルの映画なんて選んだの? 意味分かんないよ。なんかいきなり歌って踊りだすし。バカみたい」
僕が選んだ映画はどうやら響には不満だったらしい。ストーリーはアメリカの高校を舞台にしたミュージカルで、アメリカではとても人気のシリーズだと聞いている。
「僕は好きだけどなあ、ミュージカル。アメリカの映画なのに銃は出てこないし殺しも無い。健全で王道ってあたりが逆に斬新だよ。それともスポーツ系の映画がよかった?」
「ランボーがよかった」
また古い映画を注文したものだ。女の子が好んで見るような映画でもなかろうに。
「アト君さあ、まだ他のエリアの魔法使いをストーキングしてるの?」
映画に飽きたのかソファにぐったりと背中を預けて、ひどく失礼なことを聞いてくる。
「あのね、ストーキングって言わないで。それに他の魔法使いを調べるのはリーダーから言われてやってることなんだよ? 知ってるでしょ、響も。僕が調べる時は響に付き合ってもらってるわけだし」
「それは分かってる。でも何のためにそんなことやってるの? せこせこやってさ、卑怯な感じが否めないよ。それに魔法使いだってことも隠してるし」
「一回しか説明しないからちゃんと聞いてね。まず、僕たちの敵はあの化け物だけじゃない。他所の魔法使いだって敵みたいなもんだよ。エリア拡大に躍起だからね。だから攻めてこられた時のために他所の魔法使いの情報を集めてるの。それに魔法使いだって隠すのは、そっちの方が動きやすいからに決まってるよ。僕の高校には白銀先輩っていう有名な魔法使いの一族がいるんだから」
ふーん、と興味無さそうに僕の話を軽く流した。そして興味無さそうにミュージカルを見ている。もう帰ればいいのに……。
「アト君、そろそろお風呂に入りたいなー。ちょっとお湯、入れてきてよ。それでお風呂から出た時に、丁度ご飯が食べられると嬉しいな」
「帰らないの? てかシャワーで勘弁してよ」
「それはいいけど、めんどくちゃいから泊まるね。そういえば明日、アト君の高校って学園祭だよね。友達と行くからね。案内よろしくー」
重い腰を上げて響はそのまま風呂場に去って行った。あとでバスタオルと変えの下着を持って行ってあげないといけない。彼女は頻繁に泊まりに来るので、着替えやらなんやらは一通りそろっている。一人暮らしの彼女、そして母親と二人で暮らしている僕たちは、もはや家族みたいなものだ。
家族……か。正直それである必要は無かった。ただ敵になることを防げればそれでよかった。彼女が好きとか嫌いとか、そんな感情的なことじゃない。危険なのだ。僕にとって彼女の存在は。
―――だから僕はずっと彼女のそばにいよう。彼女がそばにいれば、大抵のことには対処できる。
もちろん、彼女の力も借りて。