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7:忍び寄る権力

慎二の心には、常に一つの不安がつきまとっていた。それは、国の動きだった。彼らがこれだけ大規模な開発を進めていることを、国がいつまでも黙って見ているはずがない。


ある日、慎二は、テレビのニュース番組を見ていた。彼らの「次世代型コミュニティ創設プロジェクト」が、地方創生の成功事例として取り上げられている。国会議員が、彼らの活動を賞賛し、視察に訪れることを検討していると発言していた。


「……まずい」


慎二は、思わず呟いた。隣に座っていた彩が、不安そうな顔で慎二を見た。


「何がまずいの? 注目されるのは良いことじゃない。これだけ多くの支持を得ているんだから」


「それはそう、だが……これは、俺たちの真の目的を悟られないための、最後の猶予期間だ。国が俺たちの活動を評価すればするほど、彼らは俺たちの本質を見誤る。そして、その間に、俺たちは着々と準備を進めなければならない」


慎二は、テレビ画面に映る、笑顔の国会議員を見つめた。彼の頭の中では、次の段階への計画が、すでに練られ始めていた。

彼らは、山林の開発と並行して、もう一つの重要な活動を進めていた。それは、全国各地に散らばる、彼らの理念に共鳴する若者たちとの連携だ。

オンライン上のコミュニティは、日に日に活発になり、それぞれの地域で、彼らの思想を広めるための草の根活動が始まっていた。


「全国で、私たちの仲間が増えているわ。彼らは、SNSだけでなく、実際に集まって勉強会を開いたり、地域の問題について話し合ったりしている。まるで、独立した国家の萌芽のようね」


彩は、その報告に、喜びと、そしてある種の畏敬の念を感じていた。彼女が蒔いた種は、今、確実に全国各地で芽吹き始めていた。

しかし、その萌芽は、同時に、国家の警戒心を刺激する可能性も秘めていた。


「慎二、俺たちの活動を監視している者たちがいる。最近、俺たちのオンラインコミュニティに、不審なアカウントがいくつか潜り込んでいる」


ある日の夜、聡が血相を変えて慎二と彩の前に現れた。彼の表情は、普段の冷静さとはかけ離れ、強い警戒心に満ちていた。


「国家の情報機関か?」


慎二の声が、わずかに震えた。


「可能性は高い。俺たちの活動が、国の安全保障に関わるレベルだと判断され始めているのかもしれない。早ければ早いほどいい。次の段階に進むべきだ」


聡の言葉に、慎二は深く頷いた。彼らがこの段階まで到達したことは、すでに奇跡に近い。しかし、真の困難は、これからなのだ。

彼らは、ついに、ある決断を下した。それは、山林での活動を本格化させ、さらに多くの人々を受け入れること。

そして、諸外国との関係を築き始めることだった。


「俺たちは、もう引き返せない。この南房総の地で、俺たちの『国家』を、そして、新しい日本の姿を創り出すんだ」


慎二の言葉は、夕焼けに染まる特別棟の教室に、力強く響き渡った。彼らの「国家」は、今、まさに胎動を始めていた。


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