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第8章 自己愛?

 レナは本当に休みたかった。


「神域」が最終段階に入って以来、世界全体が重苦しい緊張に包まれていた。


 かつては多くの仲間がいたが、今や心の内を打ち明けられる者は誰一人としていない。

 カップルで寄り添う者たちを眺めていると、時々妬ましい感情が込み上げることがあった。彼らはおそらく自分ほど強くはなく、最後まで生き残れなかっただろう。

 それでもせめて、死にゆく直前の瞬間には互いに抱き合うことができたのだ。たった一人で最後まで戦い続けるのは、本当に疲れる。


 転生した今、この大きな変化の最中にあっても、彼女はまだ立ち止まれない。新生活の計画を練らねばならず、張り詰めた心の緊張を少しでも解く必要があった。


 彼女は靴を脱ぎ、川辺の大きな岩に腰を下ろして足を水に浸した。刺すような冷たさに、思わず小さな吐息が漏れた。

『こんな風にリラックスするなんて、本当に久しぶりだわ』


 後ろに立っていたリオンは困惑した様子で尋ねた。

「何してるんだ?」


 レナは彼を見上げ、優しく微笑んだ。

「試してみなよ、気持ちいいわよ」


 リオンは足を止め、少し躊躇いながら言った。

「今は物資を探すべきなんじゃ…?」

 彼の声には微かな戸惑いがにじんでいた。


「まあまあ、焦らないで。低難易度クエストなら危険な状況も少ないわ。準備時間もまだ1時間あるんだし」


 レナはゆっくりと足を動かし、指の間を流れる水の感触を味わいながら続けた。

「ゲームを楽しむには、クエストをこなすだけでなく、ゲームそのものの時間をちゃんと楽しむことも大事なのよ」


 リオンは一瞬考え込み、彼女の隣に座ったが、少し距離を置いていた。


「なんでそんなに離れて座るのよ?」

 レナはリオンの腕を引っ張り、無理やり自分に近づけると、すっと体を預けて頭を彼の肩に乗せた。その瞬間、リオンの身体がこわばった。


「こういう感覚、初めてでしょ?」


「ああ、もちろん初めてだ。女子の手すら握ったことがない」


『ちげーよ、オレが言いたいのはそういうことじゃないんだが』


 リオンはただ自分の考えを素直に口にしただけで、レナの心の内など全く理解していなかった。だがレナはそれ以上追求しないことに決めた。


「これからは何度も経験できるさ」


 レナはリオンの手を握りしめ、優しく囁いた。

「私が一番ふさわしい伴侶になる…君の彼女に」


『かつての自分を本当に愛せるか? まさか』

『今の自分を完全に女性だとも思っていない』

『今、女性的に振る舞えるのは、もう道徳なんて気にしなくなったからだ』

『一度死んだことで、多くの価値観が変わった』


 第二の人生でレナの目的は単純だった――終末の災いを生き延び、過去の後悔を償うこと。

『どう償う? もちろん、このバカのそばにいることだ』

『永遠に面倒を見るつもりはない。以前よりマシな男に鍛え上げるだけで十分』

『…そのうち彼も別の彼女を見つけるだろう…そういう計画だ』


 システムによれば、レナが全てを成し遂げれば、リオンの体に戻れるという。

 つまり三つの記憶が融合する――前世の記憶、レナとしての視点、そして今世のリオンの記憶が。

 そうなればリオンの記憶が彼(かつての自分)に影響を与えるだろう。

 少なくとも、システムはそう約束している。

 もしシステムが嘘をついたら…まあ、報復する手段はないが。


【ホストの思考は危険です。システムへの疑念はお控えください。システムが嘘をつくことは絶対にありません】

『ほんとか?』

【バグが発生する可能性はあります】

「…………」


 彼女は突然、そんな先のことを考える気が失せた。


 しばらくリオンに寄りかかり、眠ったふりをした後、レナは潤んだ目を開いて言った。

「そろそろ動き出す?」


「まだ少ししか休んでないのに?」リオンは呆然とした。「休みたかったんじゃないのか?」

 ゲームへの熱意はともかく、女の子に頼られると思うと、ただ座っているわけにはいかない気がした。


「ううん」レナはリオンの考えを読んでいたが、あえて突っ込まずに言った。「手伝って」


「えっ??」


 突然、彼女は川から濡れた足を上げ、そのままリオンの体に押しつけた。

「足、拭いてくれない~?」


 何の覆いもない裸足が露わになった。


 今のリオンはレナを怖がっているというより、完全に混乱していた。お腹に押しつけられた白く濡れた足を見て、手の置き場さえわからない。


 女の子との親密な接触経験などなく、これまで主導権は常にレナが握っていた。今度は足を拭けだって?


「やるのか…?」

「嫌なの?」レナは足をじたばたさせた。


『ちくしょう、マジでバカだなオイ!』

『足フェチを満たすチャンスをあげてるのに、なぜそんなに腰が引けてるんだ?』


 リオンには確かに足フェチがあった――それだけじゃない。理想の胸フェチ(昔は巨乳好きだった)、ストッキングフェチ、そして最終的に足フェチに目覚めた…これらは全て、とある老評論家の論文で学んだものだ。


 そしてレナは、まさに彼の理想の女性像にぴたりとはまっていた。彼女はリオンの全てのフェチを刺激できた。だがレナが挑発するほど、リオンは動けなくなってしまうのだった。


 あまりに完璧なものには、人は疑いを抱くものだ。偽物なんじゃないかって。

 まるで今朝見た夢のように。

 これも夢なんじゃないかと恐れた。せめて夢なら、失望も束の間で済むのに。


 レナは諦めた。

 リオンの頭の中がエッチな考えでいっぱいなのは分かっている。だが実行する度胸?ゼロだ。

 まさかここまで手こどるとは思わなかった。


『こいつ…新しい状況に慣れるにはもっと時間がかかりそうね…』


 レナは自分の服で足を拭くと、靴を履いて立ち上がった。「さあ、行きましょう。早めに物資を回収しに行くわ」


 ゲームの最初のバッチは通常、プレイヤーの出生地点となる。ゲーム設定であえて補給品を簡単な場所に置くのは、

 戦闘能力を持たない状態で危険に巻き込まれないための生存保障だ。


 小さな黒い箱の中には拳銃とマガジンが収まっていた。

 デザートイーグルを含む五種類のモデル。

 弾薬は乏しく――各拳銃につきマガジン二つだけ。

 箱の底には基本的なサバイバル装備:ダガーや火打ち石などが数点。


 弾薬が限られているとはいえ、これらの品々はリオンを熱狂させた。

 彼はすぐさまデザートイーグルを掴み取り、まるで二次元の嫁を見るような熱い眼差しで眺めた。「本物の拳銃?この質感と重さ…」


 球技、武器、車――男の三大浪漫。軍事オタクのリオンは実物には触れたことがなくとも銃器に詳しい。

 手にしたピストルを弄りながら得意げに腕前を披露する:マガジン外し、装填、コッキング、照準、安全装置解除――全てを一呼吸で流れるように行った。


 だが得意満面でレナに見せようと振り向いた時、彼の目はM1911を構えるレナの姿を捉えた。

 タン!タン!タン!

 三発の銃弾が川向こうの木になっているリンゴを完璧に貫く。リオンより遥かに正確だった。

(M1911:1911年から1985年まで米軍の制式拳銃)


 リオンの思考が停止した。


 レナは当然のように安全装置をかけ、銃を収めた。

 振り向いて薄く笑う。「高校の時、父が海外で実銃を体験させてくれたの。久しぶりだからちょっと不安だったわ」


「……………へえ」

 リオンは自尊心が粉々に打ち砕かれるのを感じた。


【お知らせ】

諸事情により、数日間更新が滞る可能性がございます。

再開の暁には、またレナとリオンの物語をお届けします。


 - 作者より -


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