第74章 とりあえずここを離れよう
ナオの答えに、ほぼ30秒間、重い沈黙が立ち込めた。
最初に静寂を破ったのは、団長だった。
「マジで読み間違いじゃねえのか? 人間の小便だと!?」
「ああ、俺もビックリしたよ。でも、書いてあるんだからしょうがねえだろ?」
ナオは同じように困惑した様子だ。
ルイは呆れ混じりにぼやいた。
「だが、それが超常現象とどう関係するんだ?」
ナオはますます困惑を深める。
「資料に書いてあることをそのまま読むぜ――
グリーンゴースト。一般的に、淫乱で怒れる女性の変化したもの。男に対する恨みを持ち、男の魂を狩って楽しむことを好む。」
「弱点は、人間の尿、一般的には男性の尿。童貞の者の尿は、グリーンゴーストを焼き尽くすことができる。」
ルイは驚いた。
「まさか、それでも童貞じゃなきゃダメなのか?」
「なら、誰が知ってるって言うんだ? お前が試してみろよ」
ナオは調子よく勧めた。
「やめとけ」
ルイはそっけなく言い返した。
「小僧の小便に何の効果があるんだ? ゲームやめるか、幽霊をぶっ殺せないのか?」
「知らないよ、そこまでは書いてない」
ナオは無力に肩をすくめた。
団長は一瞬考え込み、そして顔を輝かせた。
「よし、試してみる価値はある――このゲーム、実際の身体状態がベースになってるんだったよな? なら……ここで誰がまだ童貞だ?」
空気が再び十秒間、沈黙に包まれた。
「……まさか」
団長の声のトーンがおかしくなった。
「ルイ、貴様!お前はもう『卒業』したのか?」
ルイは恥ずかしそうに咳払いした。
「話せば長いんだ、あれは高校時代の雨の夜のこと……」
団長は次に矛先を変えた。
「……ナオはどうだ?」
「彼女いるから」
ナオは間を置かずに答えた。
ルイが補足した。
「この前の週末、彼女と同棲始めたばっかりらしいぜ」
団長の表情はますます曇った。
「オーケー、オーケー、いいよ。じゃあリオンは……ああ、もう忘れてた、いいや。」
全過程を見ていたリオンは、ただ黙っているしかなかった。
実を言うと、彼もまだ『卒業』はしていなかった。
彼の視線は、涼しい顔をしているレナに向かったが、話す勇気は霧散してしまった。
何しろ、自慢できるようなことでもない。
「ってことは、俺だけがまだ卒業してないってのか?」
団長はゆっくりと現実を受け入れていった。
「ちくしょう、このゲーム、人の傷跡を無理矢理暴きやがって?」
ルイは苦笑いした。
「じゃあ、お前がやってみろよ?」
「なんでお前がやってやらないんだよ?」
団長はむっつりと言い返した。
ルイはそれ以上、追求するのをやめた。
リオンは軽く喉を鳴らして聞いた。
「で……今から始めるのか? それとも、まず瓶でも探すか?」
「……やめとく。別にそこら中におしっこしろって言われたわけじゃねえし。それに、周りに『新時代の三好青年』が三人もいると、こっちまでなんだか暑苦しくなってきた」
ますます居心地悪そうに、団長は反論した。
「それに、このゲーム、マジでそんなことまで再現できるのかよ?」
確かに、これまでのゲーム内では、食事や睡眠といった生理的な要求は存在した。しかし、排泄はその範疇に入っていなかった。実際、そのような衝動を感じたことも一度もない。
もっともな話だ。ゲーム内でそんな行為を行うのは、あらゆる面で気まずいことに違いない。
リオンが予想したように、多くのプレイヤーがこのゲームの没入度を疑っていた。しかしどうやら、彼らの想像力は、実際の「現実」にはまだ及んでいなかったらしい。
「試してみるか? わざわざ弱点として書いてあるんだから、きっと俺たちにもその能力はあるはずだ――でなきゃ、部屋の隅に童貞の『健康茶』が入った瓶でも隠されてるとでも思うのか?」
ナオは煽るように言った。
「どうせ他に手立てはないだろ。ここに閉じ込められて、殺されるのを待つだけだ。打開するために、何か試さなきゃな。」
団長はしばし沈黙し、激しい内心の葛藤を顔に浮かべた。
そして、重い決断を下したように、覚悟を決めて言った。
「わかった、やってやる。まったく、お前らはな!」
少し間を置き、再び尋ねた。
「でもマジで効くんだろうな? 直接幽霊の顔にかけないとダメか? 容器とかいるのか?」
「幽霊の周辺にかかれば、効果は同じなんじゃないか」
ナオの声はどこか変だった。
「なんだか、なんでだろうぜ……この流れ、どんどん歪んでいってる気がする……」
「もういい!諦める。お雨、見るなよ、背けていてくれ。」
「心配するな、僕も見たくないからな。終わったら教えろ。」
一方、リオンは彼らの議論を聞きながら、複雑な表情を浮かべていた。
「このゲーム、そこまで細かく動作をサポートしてるってのか?」
レナは特に驚いていない様子だった。
「このゲームは『第二の現実』と宣伝されてるわ。現実でできることの全ては、ここでも再現されているはず……ただし普通、ゲームがここまで……奔放なクエストを設定することはないけどね」
彼女の心中では、すでに推測が立っていた。
しかし、それがどう見ても誰かの悪趣味なジョークに関わることだと気づいていたため、彼女は他の者に警告することを選ばなかった。万が一何か問題が起きても、団長たちにその結果を味わわせればいい。
どうせ団長にはあと1回命があるし、彼らにだって本当に試す機会は一度きりなのだから。
有益な情報が得られたり、クエストが進展したりするなら、やらせてみても損はない。
フットワークの軽い団長が、行動を起こした。
そして、その努力は実った。
リオンたちが最初に受け取った情報は、通信機からではなく、周囲の環境の劇的な変化――部屋全体が急激に寒くなり、懐中電灯がナイトクラブの照明のように激しく点滅し始めた――からだった。
続いてナオの声が聞こえる。
「反応がある! 活動レベルが10に達した! 活動痕跡は……ちっ、クソッ! マップ全体に活動痕跡が広がってる!? バグか!? ルイ! お前の方はどうなってる!? 状況は!?」
「もう小便は終わったぞ! 冷たい! 玉が縮み上がるぜ――女幽霊がここにいるってことか!? ってことは俺のやり方は正しかったんだな!? 本物のグリーンゴーストなのか!?」
団長の声は、ここ20年以上で一度もなかったほどの興奮に満ちていた。怒りと恐怖がもたらした激情は、確かに猛烈なものだった。
「来い! バーバラ・ジョンソン! 出て来い! 親父の童貞小便飲んでみろ!!」
「この……よくも……そんなことをしてくれたわね!! 殺してあげる!!」
それに応じたのは、超常現象の幽露たる霊の怒りに満ちた声だった。
そしてそれは団長の通信機だけではなく、彼の近くにいなかったリオン、レナ、ナオにも届き、あたかもマップ全体に放送され、全員に伝わったかのようだった。
それは、団長の高揚した気持ちをたちまち打ち砕いた。
「……これって、弱点への反応じゃないのか?」
「違う……」ナオの声のトーンは次第に陰鬱になっていった。
「どうやら……俺たちの推測は間違っていたようだ。」
その言葉とほぼ同時に、団長とルイの恐怖に震える叫び声が聞こえた。
「ちっ、クソッ! 奴がここに来た、来た! 逃げろ、逃げるんだ!」
すぐ後に団長の絶叫が続いた。
「くそったれ!! 推測が外れたら即殺されるってのか!? もう俺たちは詰んでるのか!?」
ついにリオンも呆れずにはいられなかった。
「理由もなく人の家で小便をするんだ、そりゃあ怒られても仕方ないだろ?」
団長の行動の結果、彼ら全員が今、致命的な危険に晒されていた。
先ほどの報せによれば、女幽霊は団長の近くに現れたようだった。だが……リオンが伝えたいのは、彼とレナの前に突然現れた白装束の幽霊は、単なる幻想ではないと。
『ちっ……』
ナオの絶叫も静寂を破った。
「あああああ!!!ママ、あいつが俺に来た、ああああ!!」
「助けて!ああ、ダメだ通行封鎖されてる、ああああ!!」
ほとんど同時に、リオンとレナの前にいた女幽霊が突然叫び声をあげ、彼らに向かって襲い掛かってきた。
レナは驚いた。彼女が用意していた銅貨を使って幽霊に対抗しようとしたその時、リオンが先に動いた。手に握った銅貨を掲げ、彼は前方へと躍り出た。
銅貨から金色の閃光が噴出した。しかし今回は残念ながら、女幽霊を撃退することはできなかった。むしろ、その存在はさらに狂暴化し、叫び声をますます激しくしてから、剣のように鋭い両手でリオンの胸を貫き、霧の中に消え去った。
レナは急いで駆け寄り、叫んだ。
「リオン!大丈夫!?」
リオンは眉をひそめ、一瞬沈黙した後、低声で呟いた。
「紙の護符を一枚燃やしただけのはずだ、多分あの銅貨は効果がなかったんだろう……」
「さあ、まずはここを離れよう。」
そう言いながら、彼は再びレナの手を強く握りしめた。
「必ず君を連れて出す。約束する。」
レナ:「……」
レナが今感じていることは……『リオン、本当にやる気に溢れてるんだね?』自分を納得する。
[絶対にない] システムが割り込んだ。




