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第70章 ホストは恋したことある?

 

 先ほど、レナによって両方の通信機ーは電源を落とされていた。もしそうでなければ、もし直人があの会話を聞いていたら……レナは思う、リオンは間違いなくボコボコにされていただろう、と。


 しかし、電源を落としたことは完全な切断を意味しなかった。それは単にマイクをオフにしただけで、相手側からの音声はまだ聞こえる状態なのだ。どうやら、このクエスト世界の通信機ーは完全にはオフにできないらしい。


 重大な情報を見逃すような操作ミスを防ぐため、そのように設計されているのかもしれない。


 そのため、しばらくしてから、団長たちはリオンの返答を聞くことになった。「こちらは無事だ。レナが幽霊の写真を撮った。直人、何か新たな発見はないか?」


 その声のトーンに、団長は違和感を覚えた。「いや、リオン、マジで大丈夫か? もしかして、憑依されたんじゃないのかよ?」


 リオンの口調は今、平静でありながらもどこか恐ろしいものがある。その奥には鋼のような決意さえ感じられ、まるで全世界がどうでも良くなったかのようだ……どう説明すればいいか……そう、犯罪者のように。


 リオンの言葉は、レナに自分が世界を混乱に陥れようとしている大悪党のように感じさせ、傲慢にも「破壊こそ、新たなる誕生である」と宣言し、最後の行動に移そうとしているかのようだった。


『これは明らかに異常だ。』


 他の者たちは知らないかもしれないが、リオンのことを隅々まで知っているレナはもちろん、高校時代3年間を一緒に過ごした団長も、この状況をとても奇妙だと感じていた。


 以前のリオンは、オンラインのホラーゲームでさえ怖がってプレイできなかった。なのに今、本物のホラーゲームに足を踏み入れながら、恐怖すら感じていない?


 団長がリオンが憑依されたと疑うのももっともなことだ。


「ああ、憑依されたよ」リオンの話すトーンは平板そのもの。「俺に憑いた女幽霊はドーSで、特に団長のようなデブ男が大好きなんだ。さあ、こいよ。後で独楽(こま)みたいに回してやるよ」


「………結構です」団長は軽く咳払いをした。「兄弟、言っとくけど、健康第一だぜ。無理して英雄ぶらなくていいからな」


「分かってる。お前もな」そう言うと、リオンは通信機ーの電源を切った。彼は傍らに立つレナを振り返り、微笑んだ。「奴のことは気にするな。あいつはちょっとどうかしてるからな……」


 レナ:「………」


 彼女もまた、リオンは本当に憑依されているのではないかと考えていた。


『この人、明らかにオカシイ。』

『なぜ急に怖がらなくなった?』

『さっきの抱擁に、鎮静効果でもあったのか?』


【無論です。サキュバスの特性の一つ——その抱擁は、素早く相手を平静な状態へと導き、次の愛し合う段階へ迅速に移行することを可能とします】


『………………黙れ。』


 そう言われても、レナは依然として彼の様子に違和感を拭えなかった。


 ふと、ある事実に気づく。いつの間にか、彼女はもうリオンを理解できなくなっているのだ。


 たとえ自分をリオンの立場に置いてみても、想像する反応は、今のリオンのそれとはまったく一致しない。


『これほどまでに、環境の違いは人を急速に変えるものなのか?』


【ホスト、システムは質問があります】


『なに?』


【ホストは前世で、恋をしたことがありますか?】


「……」


【つまり、ない、と】


 少し間を置き、レナが答える前にシズ(システム)は再び助言を加えた。


【システムの分析によれば、恋愛中の人間の思考様式は、基本的に恋愛未経験時の想像とは決して一致しません。過剰な思考は却ってホスト自身の感情を見誤らせる可能性がありますので、お勧めしません】


 レナはわずかに沈黙した。


 その時、ナオからの調査結果が届く。「もしも? 聞こえるか? 何か見つけたぞ」


「送られてきた写真に写っている幽霊は、生き人贄(いきにんえ)の犠牲者から発生したものと思われる。つまり、特定のカテゴリーに分類できる。幽霊には幾つかの種類がいる…」


「これで、検証方法も見えてきた。この屋敷で亡くなった者は複数いるが、そのうち一人が男そしても一人が女性だ。その二人の被害者が亡くなった場所を調べてみるといい。何か手がかりが見つかるかもしれない」


 リオンは頷いた。「了解。場所を教えてくれ」


「ちょうど一つは二階、もう一つは一階にある。チームを分けて同時に調べられるな。正確な場所は… ちょっと待て…」


 二階の目標である「寝室」は、リオンとレナの現在地から非常に近いことが判明した。


 移動中に超常現象は起こらず、部屋に入っても全て正常だった。寝室はかなり広く、特に怪しい点もなく、ごく普通に見えた。


「着いたようだな」リオンは懐中電灯で室内を一巡り照らしながら言った。「ここでは何も見つからないようだが」


「ベッドの上に新聞が?」レナはベッドに近づき、置いてあった新聞紙を手に取り、ざっと目を通した。


 紙面の大部分は時間の経過で黒ずみ、読めるのは一コラムの記事だけだった。それは睡眠中に心臓発作で亡くなった少女についての記事だった。


 リオンも近づいてしばらく眺め、推測を口にした。「心臓発作で亡くなった? なら、恨みはないんじゃないか?」


 レナは同意しなかった。「ゲーム内で提供される情報が必ずしも正しいとは限らない。わざと誤解を招くようにしている可能性もある。安易に信じるべきじゃないわ」


 それを聞いて、リオンは一瞬黙り、それから頷いた。「ああ、そうか」


『経験がまだ足りない』

『まだまだ不足している』

『早く学ばなければ…自分価値を証明するために』


 その思いが、リオンの脳裏で強くなった。


 気持ちを落ち着けようと、彼は通信機ーのスイッチを入れた。「団長、そっちはどうだ?」


「今着いたとこだ、心配するな」団長の声がすぐに返ってきた。「嘘じゃねーよ、この寝室でけーし豪華で…ぎゃああああああっ!」


 突然の叫び声に、通信全体が一瞬静まり返り、その後、団長とルイの慌てふためく声が聞こえてきた――


「やべえ!ドアが閉まった!開かねえ!ここの幽霊に決まってる!」

「この部屋で死んだ奴の名前はなんだ?!アイツだ!早く調べろ!」

「窓を壊せ!窓を壊して逃げるんだ!」

「バカめ!!さっき見たぞ!お前の後ろにいたんだ!」

「うわっ!びっくりさせるなよ!ちくしょう!」


 一方、その場で。


 リオンはすぐにレナの手を握った。「行こう!奴らを助けに!」


 レナは再び凍りついた。


 彼女は本当に、リオンの性質の変化を理解できなかった。


『彼がそんなに自然に私の手を握れるなんて?』

『それとも、クエストに没頭しすぎて、行動の細かい点まで気にしなくなったのか?』


 彼女は後者の可能性の方を信じていた――なぜなら、リオンの急激な変化は、確かに彼女に少し適応できないほどのものを感じさせていたからだ。


『私はずっと感じている…彼、少し図々しくなりすぎていないか?』


 しかし、彼女の思考はすぐに眼前の光景によって遮られた。


 リオンが彼女を寝室から連れ出そうとした時、ドアの外に広がっていたのは期待した廊下ではなく…それは厨房だった。


「どうした?」リオンは眉をひそめ、周囲を見回すと、通信機ーで連絡を取った。「ナオ、現在のこちらの位置は?」


 通信機ーにはGPS機能が搭載されている。外にいるナオはこれに頼って彼らの位置を把握し、指示を与えていた。今、ナオの声にも困惑が滲んでいた。「お前たち、寝室にいるんじゃないのか?なんで突然、位置が一階の厨房を示してるんだ?」


 リオンはレナを連れて再び部屋へ戻った。「今は?」


「……は?テレポートでもしたのか?」


「いや、ドアを開けたら厨房だった」リオンはそう答えながら、銅貨を取り出し、状況に備える姿勢を見せた。


 レナは一瞬考え、そして手を伸ばしてドアを閉めた。数秒待ち、再びそれを開ける。


 今度、外は食堂に変わっていた。


「幽霊が壁内の空間を操作している」レナは推測した。「どうやら、この別荘の間取りは今、完全に混乱しているようだ」


『どうやら、クエストは次の段階へと進んだようだ…』


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